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第93話 甘い甘いファーストバイト
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クラリスの感動的な涙のスピーチによって、会場の雰囲気は最高潮に達していた。
招待客たちの目にはまだうっすらと涙の跡が残っている。だが、その表情はどこまでも温かく、そして幸せに満ちていた。
披露宴はいよいよクライマックスへと向かおうとしていた。
司会者の明るい声が響き渡る。
「さあ皆様! 感動の涙の後は、甘い甘い共同作業のお時間でございます! 新郎新婦によりますウェディングケーキへのご入刀です!」
その言葉と共に、楽団が軽快で楽しげな音楽を奏で始めた。
会場の中央へと、数人の給仕たちによって巨大な銀のワゴンが運ばれてくる。
その上に鎮座していたのは。
「「「おおおおお…!」」」
会場中の全ての招待客がどよめき、そして目を見開いた。
そこにあったのは、もはや「ケーキ」という言葉では表現しきれないほどの巨大な芸術品だった。
高さは俺の背丈ほどもあろうか。
何層にも何層にも重ねられた純白のスポンジ。
その間には色とりどりの宝石のようなフルーツがぎっしりと挟まれている。
そして、その巨大なケーキの表面をまるで滝のように流れ落ちているのは、艶やかなチョコレートのソース。
その頂上には砂糖菓子で作られた、俺とルナのそっくりな人形が寄り添うように立っていた。
「…これ、ウェディングパイじゃなかったのか?」
俺が、隣で同じように呆然としているルナに小声で尋ねる。
「え、ええ…。わたくし、確かにアップルパイをとお願いしたはずなのですが…」
その時、俺たちの背後から得意げな声がした。
「ふっふっふ。サプライズだ、我が息子よ、娘よ!」
アルフォンス公爵だった。
彼はいつの間にか号泣から復活し、満足そうな顔で腕を組んでいた。
「二人のささやかな願いはもちろろん叶えてやったとも。だが、それだけで終わらせるこの父ではない! 見よ! このケーキは土台が全て最高級のアップルパイでできているのだ!」
彼の言葉に、俺たちはもう一度その巨大な塔を見上げた。
つまりこれは、巨大なウェディング・アップルパイ・ケーキということか。
彼の親バカのスケールは、常に俺の想像の斜め上を行く。
俺たちは給仕から銀色に輝く長いナイフを受け取った。
その柄には白いリボンが美しく結ばれている。
「さあ、ユキ」
ルナが少しだけ頬を赤らめながら俺を見上げてくる。
俺は頷き返すと、彼女の小さな手に自分の手をそっと重ねた。
二人で一本のナイフを握りしめる。
「新郎新婦、ケーキご入刀!」
司会者の高らかな声に合わせて、俺たちはゆっくりとその巨大なケーキにナイフを入れた。
サクッ、という心地よい感触。
甘く香ばしいリンゴとシナモンの香りがふわりと立ち上る。
その瞬間、会場は割れんばかりの拍手と無数のフラッシュの光に包まれた。
だが、本当のメインイベントはここからだった。
ファーストバイトだ。
新郎新婦がお互いにケーキを食べさせ合う、あの甘い儀式。
まずは俺からルナへ。
給仕が切り分けたケーキの一切れを、小さな銀のフォークに乗せて俺に渡してくれた。
俺はそれを少しだけ照れながら、ルナの桜色の唇へと運んでいく。
「はい、ルナ。あーん」
彼女は恥ずかしそうにはにかみながら、その小さな口を開けた。
そして、ぱくりと可愛らしくケーキを頬張る。
そのあまりにも愛らしい光景に、会場からは「おお…!」とため息のような歓声が漏れた。
「…美味しいですわ、ユキ」
彼女がもぐもぐと幸せそうに微笑む。
その笑顔だけで俺も胸がいっぱいになった。
「さて! 続きましては新婦から新郎へのファーストバイトでございます!」
司会者の声がどこか悪戯っぽく弾んだ。
「新婦が食べさせるケーキの大きさは、旦那様への愛情の大きさに比例すると言われておりますが…さあ、ルナリア様、いかがなさいますか!?」
その無茶苦茶な煽り文句。
会場がどっと沸いた。
俺は嫌な予感がして、顔が引き攣るのを感じた。
ルナはくすりと悪戯っぽく笑った。
そして給仕が差し出した小さな銀のフォークを丁重に断った。
代わりに彼女が手に取ったのは。
テーブルの飾り付けに使われていた、巨大なスコップのようなサービングスプーンだった。
「「「おおおおおおおおおおおおおおおお!」」」
会場のボルテージは最高潮に達した。
「ま、待て、ルナ! それはいくらなんでも…!」
俺の悲痛な叫びは、彼女の満面の笑みの前にかき消された。
彼女はその巨大なスプーンで、ウェディングケーキをごっそりとえげつない量すくい上げた。
もはや一切れというレベルではない。
ホールケーキの四分の一くらいあるのではないか。
その愛情の塊(という名の暴力)を、彼女は満面の笑みで俺の目の前に突きつけてきた。
「はい、ユキ」
その声はとろけるように甘かった。
「わたくしのありったけの愛ですわ。全部、受け止めてくださいましね?」
そのキラキラとした瞳。
その有無を言わせぬ笑顔。
俺に逃げ場はなかった。
俺は観念した。
そして覚悟を決めた。
「…ああ。喜んで」
俺は男らしくそう言うと、大きく大きく口を開けた。
次の瞬間。
俺の顔面は大量の生クリームとアップルパイとフルーツで完全に埋め尽くされた。
甘い、甘い、幸せな窒息。
会場はこの日一番の爆笑と拍手の渦に包まれた。
俺の顔中がクリームだらけになっているのを、ルナは楽しそうにハンカチで拭ってくれた。
そのハンカチをぺろりと舐めて、「甘いですわ」と微笑む彼女の姿。
そのあまりのあざと可愛さに、俺は完全にノックアウトされた。
甘い甘いファーストバイト。
それは俺たちの甘すぎる未来を象徴するかのような、忘れられない共同作業となった。
俺は口の中に広がる過剰なまでの甘さと、そしてそれ以上の幸福感を噛み締めながら。
この愛おしすぎる俺の妻を一生甘やかし続けることを、心に固く誓うのだった。
招待客たちの目にはまだうっすらと涙の跡が残っている。だが、その表情はどこまでも温かく、そして幸せに満ちていた。
披露宴はいよいよクライマックスへと向かおうとしていた。
司会者の明るい声が響き渡る。
「さあ皆様! 感動の涙の後は、甘い甘い共同作業のお時間でございます! 新郎新婦によりますウェディングケーキへのご入刀です!」
その言葉と共に、楽団が軽快で楽しげな音楽を奏で始めた。
会場の中央へと、数人の給仕たちによって巨大な銀のワゴンが運ばれてくる。
その上に鎮座していたのは。
「「「おおおおお…!」」」
会場中の全ての招待客がどよめき、そして目を見開いた。
そこにあったのは、もはや「ケーキ」という言葉では表現しきれないほどの巨大な芸術品だった。
高さは俺の背丈ほどもあろうか。
何層にも何層にも重ねられた純白のスポンジ。
その間には色とりどりの宝石のようなフルーツがぎっしりと挟まれている。
そして、その巨大なケーキの表面をまるで滝のように流れ落ちているのは、艶やかなチョコレートのソース。
その頂上には砂糖菓子で作られた、俺とルナのそっくりな人形が寄り添うように立っていた。
「…これ、ウェディングパイじゃなかったのか?」
俺が、隣で同じように呆然としているルナに小声で尋ねる。
「え、ええ…。わたくし、確かにアップルパイをとお願いしたはずなのですが…」
その時、俺たちの背後から得意げな声がした。
「ふっふっふ。サプライズだ、我が息子よ、娘よ!」
アルフォンス公爵だった。
彼はいつの間にか号泣から復活し、満足そうな顔で腕を組んでいた。
「二人のささやかな願いはもちろろん叶えてやったとも。だが、それだけで終わらせるこの父ではない! 見よ! このケーキは土台が全て最高級のアップルパイでできているのだ!」
彼の言葉に、俺たちはもう一度その巨大な塔を見上げた。
つまりこれは、巨大なウェディング・アップルパイ・ケーキということか。
彼の親バカのスケールは、常に俺の想像の斜め上を行く。
俺たちは給仕から銀色に輝く長いナイフを受け取った。
その柄には白いリボンが美しく結ばれている。
「さあ、ユキ」
ルナが少しだけ頬を赤らめながら俺を見上げてくる。
俺は頷き返すと、彼女の小さな手に自分の手をそっと重ねた。
二人で一本のナイフを握りしめる。
「新郎新婦、ケーキご入刀!」
司会者の高らかな声に合わせて、俺たちはゆっくりとその巨大なケーキにナイフを入れた。
サクッ、という心地よい感触。
甘く香ばしいリンゴとシナモンの香りがふわりと立ち上る。
その瞬間、会場は割れんばかりの拍手と無数のフラッシュの光に包まれた。
だが、本当のメインイベントはここからだった。
ファーストバイトだ。
新郎新婦がお互いにケーキを食べさせ合う、あの甘い儀式。
まずは俺からルナへ。
給仕が切り分けたケーキの一切れを、小さな銀のフォークに乗せて俺に渡してくれた。
俺はそれを少しだけ照れながら、ルナの桜色の唇へと運んでいく。
「はい、ルナ。あーん」
彼女は恥ずかしそうにはにかみながら、その小さな口を開けた。
そして、ぱくりと可愛らしくケーキを頬張る。
そのあまりにも愛らしい光景に、会場からは「おお…!」とため息のような歓声が漏れた。
「…美味しいですわ、ユキ」
彼女がもぐもぐと幸せそうに微笑む。
その笑顔だけで俺も胸がいっぱいになった。
「さて! 続きましては新婦から新郎へのファーストバイトでございます!」
司会者の声がどこか悪戯っぽく弾んだ。
「新婦が食べさせるケーキの大きさは、旦那様への愛情の大きさに比例すると言われておりますが…さあ、ルナリア様、いかがなさいますか!?」
その無茶苦茶な煽り文句。
会場がどっと沸いた。
俺は嫌な予感がして、顔が引き攣るのを感じた。
ルナはくすりと悪戯っぽく笑った。
そして給仕が差し出した小さな銀のフォークを丁重に断った。
代わりに彼女が手に取ったのは。
テーブルの飾り付けに使われていた、巨大なスコップのようなサービングスプーンだった。
「「「おおおおおおおおおおおおおおおお!」」」
会場のボルテージは最高潮に達した。
「ま、待て、ルナ! それはいくらなんでも…!」
俺の悲痛な叫びは、彼女の満面の笑みの前にかき消された。
彼女はその巨大なスプーンで、ウェディングケーキをごっそりとえげつない量すくい上げた。
もはや一切れというレベルではない。
ホールケーキの四分の一くらいあるのではないか。
その愛情の塊(という名の暴力)を、彼女は満面の笑みで俺の目の前に突きつけてきた。
「はい、ユキ」
その声はとろけるように甘かった。
「わたくしのありったけの愛ですわ。全部、受け止めてくださいましね?」
そのキラキラとした瞳。
その有無を言わせぬ笑顔。
俺に逃げ場はなかった。
俺は観念した。
そして覚悟を決めた。
「…ああ。喜んで」
俺は男らしくそう言うと、大きく大きく口を開けた。
次の瞬間。
俺の顔面は大量の生クリームとアップルパイとフルーツで完全に埋め尽くされた。
甘い、甘い、幸せな窒息。
会場はこの日一番の爆笑と拍手の渦に包まれた。
俺の顔中がクリームだらけになっているのを、ルナは楽しそうにハンカチで拭ってくれた。
そのハンカチをぺろりと舐めて、「甘いですわ」と微笑む彼女の姿。
そのあまりのあざと可愛さに、俺は完全にノックアウトされた。
甘い甘いファーストバイト。
それは俺たちの甘すぎる未来を象徴するかのような、忘れられない共同作業となった。
俺は口の中に広がる過剰なまでの甘さと、そしてそれ以上の幸福感を噛み締めながら。
この愛おしすぎる俺の妻を一生甘やかし続けることを、心に固く誓うのだった。
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