曲がり角でぶつかった少女に回復魔法を使ったら不治の病と盲目なのを治してしまってめちゃくちゃ懐かれてた

夏見ナイ

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第92話 親友からの涙のスピーチ

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クラリスがマイクの前に立った。
その凛とした佇まいはいつも通りだったが、その手はスピーチの原稿を握りしめ、微かに震えていた。
会場中の視線が彼女一人に注がれる。
しんと静まり返ったホールに、彼女の少しだけ上擦った、しかし芯の通った声が響き始めた。

「…ただ今ご紹介にあずかりました、新婦ルナリアの生涯の親友を自負しております、クラリス・フォン・ヴァレンシュタインです」

彼女はそこで一度言葉を切った。
そして、俺たちのいる高砂をまっすぐに見つめてきた。
その翠色の瞳は、すでに涙で潤んでいた。

「…ルナ。貴女と初めて会った日のことを、今でも覚えていますわ。病のため屋敷の奥で静かに本を読んでいた、小さな銀色の髪の女の子。その瞳には光はなかったけれど、誰よりも優しく、そして強い光が宿っていました」

彼女の声は震えていた。
だが、それは緊張からではなかった。
込み上げてくる万感の想いを必死にこらえているからだった。

「わたくしは、貴女のその心の強さに惹かれました。そして誓ったのです。このか弱く、しかし気高き魂を持つ少女を、生涯をかけて守り支えていく一番の友人になろう、と」

会場のあちこちから鼻をすする音が聞こえ始めた。
アルフォンス公爵は、もはや号泣の向こう側へと旅立ってしまっている。
俺の隣でルナもまた、その瞳から大粒の涙をぽろぽろとこぼしていた。

「ですが、わたくしは無力でした」
クラリスの声に悔しさが滲んだ。
「貴女の病を癒やすことも、貴女の心の闇を完全に晴らしてあげることもできなかった。…わたくしにできたのは、ただその手を握り、隣で物語を読んであげることだけ…」

彼女はそこで一度顔を伏せた。
その肩が小さく震えている。
もう涙をこらえきれずにいるのだ。
だが、彼女はすぐに顔を上げた。
その涙で濡れた顔には、一点の曇りもない美しい笑顔が浮かんでいた。

「――そこに、彼が現れました」

彼女の視線が俺を射抜いた。
「最初は本当に腹立たしい男でしたわ。どこの馬の骨とも知れぬ平民が、私の大切なルナを誑かしているのだと本気で思っていました」
その言葉に、会場から温かい笑いが起こる。

「ですが、彼はわたくしのちっぽけな想像などいともたやすく超えていきました。彼は、わたくしが決して成し得なかった奇跡を起こしてくれた。ルナに光を、そして本当の笑顔を取り戻してくれたのです」
彼女は俺に向かって深々と、そして美しく頭を下げた。
「ユキ様。…いいえ、ユキ。本当にありがとう。私の大切な親友を見つけ出し、救ってくれて。心から感謝しています」

その思いがけない真っ直ぐな感謝の言葉。
俺の胸もまた、熱いものでいっぱいになった。

そして、クラリスは最後にもう一度ルナへと向き直った。
その顔は涙と笑顔でぐしゃぐしゃだった。
だが、それは世界で一番美しい顔だった。

「ルナ! 聞こえていますか!」
彼女はマイクがあるのも忘れ、ありったけの声で叫んだ。
「貴女はもう一人じゃありませんわ! 貴女には、貴女を生涯をかけて愛し守り抜いてくれる最高の殿方が隣にいるのです!」

「だから、もう何も恐れることはありません! ただひたすらに幸せになりなさい! 誰よりも、何よりも幸せに!」

彼女はそこで一度息を吸い込んだ。
そして、そのスピーチを締めくくる最後の、最高のはなむけの言葉を叫んだ。

「私の親友を…! 世界で一番幸せにしてあげてちょうだいっ! ユキッ!」

その魂からの絶叫。
それはもはやスピーチではなかった。
親友の幸せを心から願う、一人の少女の祈りそのものだった。

しんと静まり返っていた会場は、次の瞬間、今日一番の嵐のような拍手と歓声に包まれた。
誰もが、そのあまりにも美しく、そして尊い友情の形に涙を流し、そして心からの祝福を送っていた。

壇上から降りてきたクラリスは、涙で化粧もぼろぼろだった。
そんな彼女を、ルナが何も言わずに強く強く抱きしめた。
「ありがとう、クラリス…! ありがとう…!」
「当たり前ですわ…! 親友ですもの…!」
二人の美しい友情が、その抱擁の中で一つの完璧な結晶となった。

俺は、その光景をただ黙って見つめていた。
そして心に固く誓った。
この親友の熱い想いも、俺が一緒に背負っていくのだ、と。
ルナを幸せにすること。
それはもう俺一人の願いではない。
俺たちを愛する全ての人々の共通の願いなのだから。

親友からの涙のスピーチ。
それは披露宴の中で最も感動的で、そして最も温かい最高の瞬間となった。
俺たちの結婚という物語は、こんなにもたくさんの愛に支えられている。
その当たり前のようで奇跡のような事実に、俺は改めて感謝せずにはいられなかった。
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