92 / 100
第92話 親友からの涙のスピーチ
しおりを挟む
クラリスがマイクの前に立った。
その凛とした佇まいはいつも通りだったが、その手はスピーチの原稿を握りしめ、微かに震えていた。
会場中の視線が彼女一人に注がれる。
しんと静まり返ったホールに、彼女の少しだけ上擦った、しかし芯の通った声が響き始めた。
「…ただ今ご紹介にあずかりました、新婦ルナリアの生涯の親友を自負しております、クラリス・フォン・ヴァレンシュタインです」
彼女はそこで一度言葉を切った。
そして、俺たちのいる高砂をまっすぐに見つめてきた。
その翠色の瞳は、すでに涙で潤んでいた。
「…ルナ。貴女と初めて会った日のことを、今でも覚えていますわ。病のため屋敷の奥で静かに本を読んでいた、小さな銀色の髪の女の子。その瞳には光はなかったけれど、誰よりも優しく、そして強い光が宿っていました」
彼女の声は震えていた。
だが、それは緊張からではなかった。
込み上げてくる万感の想いを必死にこらえているからだった。
「わたくしは、貴女のその心の強さに惹かれました。そして誓ったのです。このか弱く、しかし気高き魂を持つ少女を、生涯をかけて守り支えていく一番の友人になろう、と」
会場のあちこちから鼻をすする音が聞こえ始めた。
アルフォンス公爵は、もはや号泣の向こう側へと旅立ってしまっている。
俺の隣でルナもまた、その瞳から大粒の涙をぽろぽろとこぼしていた。
「ですが、わたくしは無力でした」
クラリスの声に悔しさが滲んだ。
「貴女の病を癒やすことも、貴女の心の闇を完全に晴らしてあげることもできなかった。…わたくしにできたのは、ただその手を握り、隣で物語を読んであげることだけ…」
彼女はそこで一度顔を伏せた。
その肩が小さく震えている。
もう涙をこらえきれずにいるのだ。
だが、彼女はすぐに顔を上げた。
その涙で濡れた顔には、一点の曇りもない美しい笑顔が浮かんでいた。
「――そこに、彼が現れました」
彼女の視線が俺を射抜いた。
「最初は本当に腹立たしい男でしたわ。どこの馬の骨とも知れぬ平民が、私の大切なルナを誑かしているのだと本気で思っていました」
その言葉に、会場から温かい笑いが起こる。
「ですが、彼はわたくしのちっぽけな想像などいともたやすく超えていきました。彼は、わたくしが決して成し得なかった奇跡を起こしてくれた。ルナに光を、そして本当の笑顔を取り戻してくれたのです」
彼女は俺に向かって深々と、そして美しく頭を下げた。
「ユキ様。…いいえ、ユキ。本当にありがとう。私の大切な親友を見つけ出し、救ってくれて。心から感謝しています」
その思いがけない真っ直ぐな感謝の言葉。
俺の胸もまた、熱いものでいっぱいになった。
そして、クラリスは最後にもう一度ルナへと向き直った。
その顔は涙と笑顔でぐしゃぐしゃだった。
だが、それは世界で一番美しい顔だった。
「ルナ! 聞こえていますか!」
彼女はマイクがあるのも忘れ、ありったけの声で叫んだ。
「貴女はもう一人じゃありませんわ! 貴女には、貴女を生涯をかけて愛し守り抜いてくれる最高の殿方が隣にいるのです!」
「だから、もう何も恐れることはありません! ただひたすらに幸せになりなさい! 誰よりも、何よりも幸せに!」
彼女はそこで一度息を吸い込んだ。
そして、そのスピーチを締めくくる最後の、最高のはなむけの言葉を叫んだ。
「私の親友を…! 世界で一番幸せにしてあげてちょうだいっ! ユキッ!」
その魂からの絶叫。
それはもはやスピーチではなかった。
親友の幸せを心から願う、一人の少女の祈りそのものだった。
しんと静まり返っていた会場は、次の瞬間、今日一番の嵐のような拍手と歓声に包まれた。
誰もが、そのあまりにも美しく、そして尊い友情の形に涙を流し、そして心からの祝福を送っていた。
壇上から降りてきたクラリスは、涙で化粧もぼろぼろだった。
そんな彼女を、ルナが何も言わずに強く強く抱きしめた。
「ありがとう、クラリス…! ありがとう…!」
「当たり前ですわ…! 親友ですもの…!」
二人の美しい友情が、その抱擁の中で一つの完璧な結晶となった。
俺は、その光景をただ黙って見つめていた。
そして心に固く誓った。
この親友の熱い想いも、俺が一緒に背負っていくのだ、と。
ルナを幸せにすること。
それはもう俺一人の願いではない。
俺たちを愛する全ての人々の共通の願いなのだから。
親友からの涙のスピーチ。
それは披露宴の中で最も感動的で、そして最も温かい最高の瞬間となった。
俺たちの結婚という物語は、こんなにもたくさんの愛に支えられている。
その当たり前のようで奇跡のような事実に、俺は改めて感謝せずにはいられなかった。
その凛とした佇まいはいつも通りだったが、その手はスピーチの原稿を握りしめ、微かに震えていた。
会場中の視線が彼女一人に注がれる。
しんと静まり返ったホールに、彼女の少しだけ上擦った、しかし芯の通った声が響き始めた。
「…ただ今ご紹介にあずかりました、新婦ルナリアの生涯の親友を自負しております、クラリス・フォン・ヴァレンシュタインです」
彼女はそこで一度言葉を切った。
そして、俺たちのいる高砂をまっすぐに見つめてきた。
その翠色の瞳は、すでに涙で潤んでいた。
「…ルナ。貴女と初めて会った日のことを、今でも覚えていますわ。病のため屋敷の奥で静かに本を読んでいた、小さな銀色の髪の女の子。その瞳には光はなかったけれど、誰よりも優しく、そして強い光が宿っていました」
彼女の声は震えていた。
だが、それは緊張からではなかった。
込み上げてくる万感の想いを必死にこらえているからだった。
「わたくしは、貴女のその心の強さに惹かれました。そして誓ったのです。このか弱く、しかし気高き魂を持つ少女を、生涯をかけて守り支えていく一番の友人になろう、と」
会場のあちこちから鼻をすする音が聞こえ始めた。
アルフォンス公爵は、もはや号泣の向こう側へと旅立ってしまっている。
俺の隣でルナもまた、その瞳から大粒の涙をぽろぽろとこぼしていた。
「ですが、わたくしは無力でした」
クラリスの声に悔しさが滲んだ。
「貴女の病を癒やすことも、貴女の心の闇を完全に晴らしてあげることもできなかった。…わたくしにできたのは、ただその手を握り、隣で物語を読んであげることだけ…」
彼女はそこで一度顔を伏せた。
その肩が小さく震えている。
もう涙をこらえきれずにいるのだ。
だが、彼女はすぐに顔を上げた。
その涙で濡れた顔には、一点の曇りもない美しい笑顔が浮かんでいた。
「――そこに、彼が現れました」
彼女の視線が俺を射抜いた。
「最初は本当に腹立たしい男でしたわ。どこの馬の骨とも知れぬ平民が、私の大切なルナを誑かしているのだと本気で思っていました」
その言葉に、会場から温かい笑いが起こる。
「ですが、彼はわたくしのちっぽけな想像などいともたやすく超えていきました。彼は、わたくしが決して成し得なかった奇跡を起こしてくれた。ルナに光を、そして本当の笑顔を取り戻してくれたのです」
彼女は俺に向かって深々と、そして美しく頭を下げた。
「ユキ様。…いいえ、ユキ。本当にありがとう。私の大切な親友を見つけ出し、救ってくれて。心から感謝しています」
その思いがけない真っ直ぐな感謝の言葉。
俺の胸もまた、熱いものでいっぱいになった。
そして、クラリスは最後にもう一度ルナへと向き直った。
その顔は涙と笑顔でぐしゃぐしゃだった。
だが、それは世界で一番美しい顔だった。
「ルナ! 聞こえていますか!」
彼女はマイクがあるのも忘れ、ありったけの声で叫んだ。
「貴女はもう一人じゃありませんわ! 貴女には、貴女を生涯をかけて愛し守り抜いてくれる最高の殿方が隣にいるのです!」
「だから、もう何も恐れることはありません! ただひたすらに幸せになりなさい! 誰よりも、何よりも幸せに!」
彼女はそこで一度息を吸い込んだ。
そして、そのスピーチを締めくくる最後の、最高のはなむけの言葉を叫んだ。
「私の親友を…! 世界で一番幸せにしてあげてちょうだいっ! ユキッ!」
その魂からの絶叫。
それはもはやスピーチではなかった。
親友の幸せを心から願う、一人の少女の祈りそのものだった。
しんと静まり返っていた会場は、次の瞬間、今日一番の嵐のような拍手と歓声に包まれた。
誰もが、そのあまりにも美しく、そして尊い友情の形に涙を流し、そして心からの祝福を送っていた。
壇上から降りてきたクラリスは、涙で化粧もぼろぼろだった。
そんな彼女を、ルナが何も言わずに強く強く抱きしめた。
「ありがとう、クラリス…! ありがとう…!」
「当たり前ですわ…! 親友ですもの…!」
二人の美しい友情が、その抱擁の中で一つの完璧な結晶となった。
俺は、その光景をただ黙って見つめていた。
そして心に固く誓った。
この親友の熱い想いも、俺が一緒に背負っていくのだ、と。
ルナを幸せにすること。
それはもう俺一人の願いではない。
俺たちを愛する全ての人々の共通の願いなのだから。
親友からの涙のスピーチ。
それは披露宴の中で最も感動的で、そして最も温かい最高の瞬間となった。
俺たちの結婚という物語は、こんなにもたくさんの愛に支えられている。
その当たり前のようで奇跡のような事実に、俺は改めて感謝せずにはいられなかった。
19
あなたにおすすめの小説
優の異世界ごはん日記
風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。
ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。
未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。
彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。
モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
【完結】不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。
日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。
フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ!
フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。
美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。
しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。
最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
異世界転移したら、神の力と無敵の天使軍団を授かったんだが。
猫正宗
ファンタジー
白羽明星は気付けば異世界転移しており、背に純白の六翼を生やした熾天使となっていた。
もともと現世に未練などなかった明星は、大喜びで異世界の大空を飛び回る。
すると遥か空の彼方、誰も到達できないほどの高度に存在する、巨大な空獣に守られた天空城にたどり着く。
主人不在らしきその城に入ると頭の中にダイレクトに声が流れてきた。
――霊子力パターン、熾天使《セラフ》と認識。天界の座マスター登録します。……ああ、お帰りなさいルシフェル様。お戻りをお待ち申し上げておりました――
風景が目まぐるしく移り変わる。
天空城に封じられていた七つの天国が解放されていく。
移り変わる景色こそは、
第一天 ヴィロン。
第二天 ラキア。
第三天 シャハクィム。
第四天 ゼブル。
第五天 マオン。
第六天 マコン。
それらはかつて天界を構成していた七つの天国を再現したものだ。
気付けば明星は、玉座に座っていた。
そこは天の最高位。
第七天 アラボト。
そして玉座の前には、明星に絶対の忠誠を誓う超常なる存在《七元徳の守護天使たち》が膝をついていたのだった。
――これは異世界で神なる権能と無敵の天使軍団を手にした明星が、調子に乗ったエセ強者を相手に無双したり、のんびりスローライフを満喫したりする物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる