モブモンスターですが何か? ~VRMMOで魔物ロールプレイを満喫していたら、いつの間にか災害級になっていた件~

夏見ナイ

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エピソード7:獲物と略奪者

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プレイヤーたちの喧騒が完全に遠ざかり、森には再び静寂が戻った。しかし、ゼロの心は静かではなかった。先ほどの遭遇は、多くのことをゼロに突きつけていた。

プレイヤーという存在。彼らはこの世界の『正規の住人』であり、システムに守られ、仲間と共に成長していく。対して自分は、システムエラーが生み出したイレギュラーな存在。孤独で、常に狩られる危険に晒されている。

『もっと……もっと強くならなければ、話にならない』

あの初心者レベルのパーティですら、連携すれば森ウルフを容易く狩っていた。今の自分では、正面から戦えば勝ち目はないだろう。擬態と奇襲、そして捕食。それがゼロの生命線だ。そして、そのためには、より強力なスキルと高いステータスが必要不可欠となる。

特に攻撃力。物理攻撃力『0』、【酸液(弱)】Lv.1。これでは、亀のように内部から喰らうといったトリッキーな戦法を取るか、ウサギのように完全に不意を打つしか、まともなダメージを与えられない。

『酸液を強化するか、あるいは別の攻撃手段を……』

ゼロは、新たな捕食対象を求めて移動を再開した。目指すは、より強力なモンスターが生息していそうな、森の奥深く。

しばらく進むと、木の幹に張り付いている、カブトムシに似た大きな甲虫を見つけた。体長は30センチほどもあり、巨大な角を持っている。見るからに硬そうだ。

『試してみるか、【酸液(弱)】』

ゼロは距離を取り、甲虫に向かって酸液を飛ばした。シュッ、と音を立てて命中するが、甲虫は気にする様子もなく、硬い翅をわずかに動かすだけだ。酸液は、その分厚いキチン質の装甲の前には、ほとんど無力だった。

(やはり、この程度か……)

酸液での突破は無理そうだ。ならば、とゼロは【粘液分泌】で甲虫の足元を固め、動きを封じようとした。しかし、甲虫は強力な脚力で粘液を引き剥がし、こちらに向かって威嚇するように角を向けてくる。

『直接戦闘は不利だな』

ゼロは一旦距離を取り、周囲の状況を確認する。甲虫は木の幹にしがみついている。あの幹ごと倒せれば……いや、物理攻撃力0のゼロには無理だ。

ふと、ゼロは甲虫が張り付いている木の、さらに上方に目をやった。そこには、枯れかかった太い枝が、今にも落ちそうな状態で引っかかっている。

(あれを使えないか?)

ゼロは、木の幹を【粘液分泌】を補助に使いながら、ゆっくりと登り始めた。ゲル状の体は、壁面移動には適している。甲虫に気づかれないように慎重に、枯れ枝のある場所まで到達する。

そして、おもむろに体当たりするように、枯れ枝に衝撃を与えた。ミシミシ、と嫌な音を立てて、枯れ枝がぐらつく。何度か繰り返すと、ついに枝は根本から折れ、甲虫がいた場所を目掛けて落下していった!

ドゴォン! という鈍い音と共に、甲虫は枯れ枝の下敷きになった。衝撃で動けなくなっているようだ。

『よし!』

ゼロは素早く木から降り、動かなくなった甲虫に覆いかぶさる。【捕食】開始。硬い装甲を内側から溶かし、分解していく。強靭な筋肉、発達した角。それらを全て吸収していく。

【能力値】
体力: 7 → 9 (+2)
魔力容量: 3
物理攻撃力: 0
物理防御力: 6 → 8 (+2)
魔法攻撃力: 0
魔法防御力: 2
素早さ: 3

【スキル】
・捕食 Lv.1
・自己修復 Lv.2
・擬態 Lv.1
・微光 Lv.2
・粘液分泌 Lv.1
・酸液(弱) Lv.1
・**硬化 Lv.1 (New!)**

物理防御力がさらに上昇し、新たなスキル【硬化】を獲得した! 試しに発動してみると、ゼロのゲル状の体の一部が、カチカチとした硬い質感に変化した。防御力を一時的に高めるスキルだろう。これはかなり有用そうだ。攻撃力こそ上がらなかったものの、大きな収穫と言える。

『次は……空を飛ぶものを狙ってみるか?』

飛行能力があれば、移動範囲も格段に広がり、危険からの離脱も容易になるはずだ。そんなことを考えながら、さらに森を進んでいくと、不意に遠くから鋭い金属音と、短い悲鳴のようなものが聞こえてきた。

(戦闘……? いや、何か違う)

先ほどのプレイヤーたちの戦闘とは、明らかに雰囲気が異なっていた。もっと一方的で、殺伐とした気配。

好奇心が頭をもたげる。危険だとは分かっている。だが、何が起こっているのか知りたい。情報を得ることは、この世界で生き残るために不可欠だ。

ゼロは、音のした方向へ、最大限の警戒をしながら近づいていった。木々の影から影へと【擬態】を繰り返しながら、慎重に距離を詰める。

やがて、少し開けた場所が見えてきた。そして、ゼロはその光景に息をのんだ。

二人のプレイヤーが、地面に倒れている。装備は剥ぎ取られ、体は既に光の粒子となって消えかかっている。その傍らには、黒っぽい装備に身を包んだ三人のプレイヤーが立っていた。彼らの武器には、まだ血糊のようなものが付着しているように見える。

『PK……プレイヤーキラーか!』

EFOにも、やはりそういった連中が存在するのか。彼らは倒したプレイヤーが落としたアイテムを手際よく回収している。その動きには一切の躊躇いも、罪悪感も感じられない。ただ淡々と『作業』をこなしているかのようだ。

「チッ、こいつら大したもん持ってねえな」
「まあ、初心者狩りだし、こんなもんだろ」
「さっさと次行くぞ。この辺り、最近ギルドの連中が巡回してるらしいからな」

PKerたちは、そう言葉を交わすと、足早にその場を立ち去っていった。

後に残されたのは、消えゆく光の粒子と、わずかに散らばった価値の低いドロップアイテムだけ。

ゼロは、しばらくその場から動けなかった。プレイヤー同士が殺し合うという現実。それは、モンスター対プレイヤーという構図とはまた違う、生々しい暴力の形だった。

同時に、ゼロの心には別の感情も芽生えていた。

(あの光の粒子……捕食したら、どうなる?)

プレイヤーの死体が消える際に発生する光。あれは、経験値やドロップアイテムにならなかった『残滓』のようなものだろうか? あるいは、プレイヤーの『データ』そのものの一部?

もし、あれを【捕食】できたら?

それは、禁断の果実への誘惑だった。プレイヤーを直接襲うことには、まだ強い抵抗感がある。だが、既に死んだプレイヤーの残りカスなら? これは『略奪』ではあるが、直接的な『殺害』ではない。

ゼロは、周囲に他の気配がないことを確認すると、意を決して消えかかっている光の粒子に近づいた。そして、【捕食】を発動する。

粒子は、まるで水が砂に染み込むように、ゼロの体に吸い込まれていった。特別な『味』はない。だが、これまでのモンスターや自然物を捕食した時とは明らかに異なる、複雑で、膨大な『情報』が流れ込んでくるような感覚があった。それは経験値のような純粋なエネルギーとも、スキル情報とも違う、もっと断片的で、混沌とした何か。

ステータスに目立った変化はない。スキルが増えたわけでもない。だが、ゼロは確信した。これは、『何か』を得たと。それはまだ形になっていない、潜在的な可能性のようなものかもしれない。

プレイヤーを捕食すること。それは、飛躍的な進化をもたらす可能性がある一方で、計り知れないリスクも伴うだろう。他のプレイヤーからの敵意は決定的になり、運営からも危険因子としてマークされるかもしれない。

『……今はまだ、深入りすべきじゃない』

ゼロは、その場に残っていた価値のなさそうなドロップ品(破れた布きれや、欠けた矢尻など)もついでに捕食し、吸収した。ほんのわずかに体力と防御力が回復した程度だったが、無駄にする理由はない。

PKerという存在、プレイヤー由来の捕食の可能性。新たな情報と課題を得て、ゼロの心は揺れていた。この森は、もはや安全な狩り場とは言えないかもしれない。もっと人目につかず、それでいて豊かな捕食対象が存在する場所へ。

ゼロは、森のさらに奥、あるいは、まだ見ぬ別のエリア――沼地や山岳地帯など――への移動を決意した。孤独な捕食者の旅は、危険と隣り合わせの、新たなステージへと向かおうとしていた。

---

名前: ゼロ
種族: 名無し
称号: なし
所属: 未定義

【能力値】
体力: 9
魔力容量: 3
物理攻撃力: 0
物理防御力: 8
魔法攻撃力: 0
魔法防御力: 2
素早さ: 3

【スキル】
・捕食 Lv.1
・自己修復 Lv.2
・擬態 Lv.1
・微光 Lv.2
・粘液分泌 Lv.1
・酸液(弱) Lv.1
・硬化 Lv.1
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