お前のような地味な女は不要だと婚約破棄されたので、持て余していた聖女の力で隣国のクールな皇子様を救ったら、ベタ惚れされました

夏見ナイ

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第68話:確信する想い

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アシュレイの不器用な嫉妬は、リリアーナの心に確信をもたらした。
彼はただ自分を「有用な癒やし手」として見ているのではない。一人の女性として特別な感情を抱いてくれている。その事実が、彼女の心をこれ以上ないほどの幸福感で満たした。

翌日からのリリアーナは、どこか浮き足立っていた。
マーサに刺繍を教わっている時も、ふとアシュレイの拗ねた顔を思い出してはくすくすと笑い出してしまう。
「まあ、リリアーナ様。何か良いことでもおありで?」
マーサが穏やかな笑みを浮かべて尋ねる。
「い、いえ! 何でもありません!」
リリアーナは慌てて首を振るが、その顔は耳まで真っ赤に染まっていた。その初々しい反応に、マーサは全てを察して優しく目を細めるだけだった。

侍医長のゲルトナーと薬草の話をしていても、心は上の空だ。
「……して、この古代薬草の効能についてですが……リリアーナ様? 聞いておられますかな?」
「はっ! も、申し訳ございません!」
ゲルトナーはそんな彼女の様子に呆れるでもなく、むしろ楽しそうに髭を撫でた。
「ふむ。恋はどんな薬よりも人を健やかにするものですな」
その言葉に、リリアーナはさらに顔を赤らめ俯いてしまった。

城の誰もがリリアーナの幸せそうな雰囲気に気づいていた。そして、その原因があの氷の皇子にあることも。
彼らの関係はもはや公然の秘密となっていた。そして、その関係を今や誰もが温かく見守っていた。二人が結ばれることは、この帝国にとって最も喜ばしい未来であると誰もが信じていたからだ。

リリアーナの心の中では、アシュレイへの愛がもはや抑えきれないほどに大きく育っていた。
彼のことを考えると、胸が甘く締め付けられる。
彼の声を聞くだけで、世界が輝いて見える。
彼に触れられるだけで、全身が溶けてしまいそうになる。
この想いは紛れもなく「愛」なのだと、彼女ははっきりと自覚した。

その想いは彼女の聖なる力にも良い影響を与えていた。
アシュレイを治療する際、彼女から放たれる光は以前にも増して温かく、そして力強いものになっていた。慈愛の心。愛する人を守りたいという想いは、彼女の力を最大限に引き出す最高の触媒となったのだ。
アシュレイもまた、その力の変化を感じ取っていた。彼女の愛に満たた光に包まれるたび、呪いの痛みだけでなく、十七年間彼の心を苛んできた孤独さえもが癒やされていくのを感じた。

彼はもう彼女なしでは生きていけない。
その事実を、彼ははっきりと認めていた。
彼女の存在そのものが彼の生きる糧であり、希望の光だった。

しかし、その想いをどう伝えればいいのか。
十七年間、感情を殺して生きてきた彼にとって「愛している」という言葉は、あまりにも重く、そして未知の領域だった。
不器用な贈り物をしたり、子供じみた嫉妬を見せたりすることはできても、その先の一歩をどうしても踏み出すことができない。
そのもどかしさが、彼の心を焦らせていた。

ある日の治療の後。
アシュレイは、いつものように下がろうとするリリアーナを呼び止めた。
「……リリアーナ」
「はい、殿下」
振り向いた彼女の、きらきらと輝くヘーゼル色の瞳。その瞳に見つめられると、用意していた言葉が喉の奥に詰まってしまう。
彼はしばらく逡巡した後、結局全く違うことを口にした。
「……もうすぐ、建国祭だ」
「建国祭、ですか」
「ああ。年に一度の帝国で最も大きな祭りだ。その夜には、王城で夜会が開かれる」
彼はそこで一度言葉を切った。そして、まるで自分に言い聞かせるように、決意を固めた声で言った。
「……その夜会に、俺と共に出てほしい」

それは命令ではなかった。
不器用な、しかし真摯な響きを持った紛れもない「誘い」だった。
リリアーナは息をのんだ。
夜会。
彼女にとってその言葉は、屈辱と絶望の記憶と結びついていた。
しかし、彼と共に出席する夜会はきっと全く違うものになるだろう。

リリアーナの胸は期待と、そして少しの不安で大きく高鳴った。
「……はい」
彼女は夢見るような表情で、しかしはっきりと頷いた。
「喜んで。あなた様とご一緒させてください」

その返事を聞いたアシュレイの瞳に、深い安堵の色が浮かんだ。
建国祭の夜。
その特別な夜に自分の本当の気持ちを彼女に伝えよう。
氷の皇子は静かに、しかし固く心に誓った。
二人の想いが交差する運命の夜は、もうすぐそこまで迫っていた。
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