お前のような地味な女は不要だと婚約破棄されたので、持て余していた聖女の力で隣国のクールな皇子様を救ったら、ベタ惚れされました

夏見ナイ

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第91話:甘い看病の日々

リリアーナの静養生活は穏やかで、そして驚くほど甘やかなものだった。
アシュレイは戦後の処理や山積みの公務に追われる多忙な日々を送りながらも、その合間を縫って必ず一日に何度もリリアーナの部屋を訪れた。

朝、彼女が目を覚ます頃には彼はすでにそこにいた。
ベッドサイドの椅子に静かに腰掛け、彼女が眠る姿をただじっと見つめている。リリアーナがその視線に気づいて目を覚ますと、彼は何事もなかったかのように「体調はどうだ」と低い声で尋ねるのが常だった。
「マーサ。リリアーナの朝食だ。滋養のあるものを」
「昨夜はよく眠れたか。悪夢は見なかったか」
その問いかけはぶっきらぼうだが、奥にある深い愛情と心配をリリアーナは痛いほど感じていた。

昼間、彼女が本を読んでいると、彼は執務室から抜け出してきては黙って彼女の隣に座った。そして、自分が読んでいた難しい政務の書類を、彼女の読んでいる恋愛小説の隣に広げる。
言葉を交わすわけではない。ただ同じ空間で同じ時間を共有する。その静かで穏やかなひとときが、二人にとっては何よりの癒やしだった。

そして夜。
リリアーナが眠りにつくまで、彼は決して部屋を出て行こうとはしなかった。
マーサが薬湯を運んでくると、彼はそれを自らの手で受け取り、リリアーナが飲みやすいようにスプーンで少しずつ彼女の口元へと運んだ。
「……あ、あの、自分で飲めます、アシュレイ様」
リリアーナが恥ずかしさに顔を真っ赤にして言うと、彼は氷の表情を崩さないまま、しかし有無を言わせぬ口調で答える。
「黙って飲め。お前は病人だ。これは未来の皇帝からの命令だ」
その子供じみた独占欲と不器用な優しさに、リリアー-ナは抗うことなどできず、されるがままになってしまうのだった。

その甘やかな看病は城の者たちの間では、微笑ましい噂となって広がっていた。
「また殿下がリリアーナ様の部屋へ……。あれでは公務が滞ってしまいますな」
宰相がわざとらしく溜息をつくと、レオナルドが真面目な顔で答える。
「いえ、むしろ逆です。殿下はリリアーナ様にお会いになった後の方が、明らかに集中力が増し、倍の速さで書類を片付けておられます」
「ふむ。それもまた愛の力、ですかな」
老臣たちは顔を見合わせて、楽しそうに笑うのだった。

リリアーナの体はアシュレイの献身的な看病と、侍医長の作る特製の薬のおかげで日に日に回復していった。
魂のレベルで生まれ変わった彼女の体は聖なる力を驚くべき速さで取り戻し、以前よりもさらに清浄で力強いものになっていた。

ある晴れた日の午後。
リリアー-ナがようやくベッドから出て、部屋の中を歩けるようになった時だった。
アシュレイがいつものように部屋を訪れた。
「……顔色が良くなったな」
彼はリリアーナの顔をまじまじと見つめ、安堵したように言った。
「はい。もうすっかり。お見舞い、ありがとうございました」
リリアー-ナがはにかみながら礼を言うと、彼はふいと視線をそらした。
「礼を言う必要はない。当然のことをしたまでだ」
その耳がほんのりと赤く染まっているのを、リリアーナは見逃さなかった。

彼は窓際に歩いていくと、外の景色を眺めた。
「……庭を歩きたくないか」
ぽつりと彼が言った。
「え?」
「もうずっと部屋に閉じこもっているだろう。気分転換も必要だ」
それは紛れもないデートの誘いだった。
リリアーナの心臓が大きく跳ねた。
「……はい! ぜひ!」
彼女は子供のように嬉しそうな顔で、力強く頷いた。

その笑顔を見たアシュレイの表情が、ほんのわずかに、しかし確かに和らいだ。
氷の皇子が見せる稀有な微笑み。
その笑顔を自分だけが引き出せる。その事実が、リリアー-ナの心をこの上ない幸福感で満たした。

戦いの喧騒は遠い昔のことのようだった。
後に残されたのは、ただ愛する人と共に過ごす甘く穏やかな時間。
二人の心は、この静かな看病の日々の中で戦場で結ばれた絆とはまた違う、より深く、そして日常に根差した温かい愛情で満たされていくのだった。
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