異世界転移した俺のスキルは【身体魔改造】でした ~腕をドリルに、脚はキャタピラ、脳はスパコン。 追放された機械技師は、神をも超える魔導機兵~

夏見ナイ

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第四十五話 ゴーレムの心臓

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レリックハンターとの一件から数週間。
アストリアには、再び、嵐の前の静けさが訪れていた。
カケルの脳が「演算ユニット」へと変貌しているという衝撃の事実。そして、その果てに待つかもしれない、人間性の喪失という、新たな恐怖。
だが、リゼットとティリアの変わらぬ信頼と支えは、カケルの心に、確かな錨を下ろしていた。彼は、一人ではない。その事実が、彼を、ただの冷たい計算機械へと堕ちることから、かろうじて、繋ぎ止めていた。

その間、カケルは、次なる脅威――世界の『システム』そのものと、その番人であるソレイユ王国――に対抗するための、さらなる自己強化に、没頭していた。
「……やはり、出力が、まだ足りない」
工房で、カケルは、新たな設計図を描きながら、唸っていた。
重力制御能力は、確かに、彼の戦闘能力を飛躍的に向上させた。だが、それは、あくまで「機動力」と「防御力」の話。
敵を、確実に、そして効率的に、殲滅するための、絶対的な「攻撃力」が、今の彼には、欠けていたのだ。
パイルバンカーは、強力だが、一撃必殺の切り札であり、連発はできない。
右腕の機関砲は、牽制にはなっても、決定打にはなり得ない。
ギルベルトのような、あるいは、それ以上の強敵が現れた場合、今の武装では、ジリ貧になる可能性が高い。
「……根本的な、エネルギーソースの、出力不足だ。俺のグラビティ・コアは、重力制御に、そのエネルギーの大半を割かれている。攻撃に回せるだけの、余剰エネルギーが、ない」
それは、彼のハイブリッドな体の、構造的な欠陥だった。
「何か、別の……強力な、外部動力源を、取り込む必要がある」
彼は、ナナに、尋ねた。
「ナナ。古代遺跡のデータベースに、何か、使える動力源の情報はないか? 小型で、高出力。そして、俺の体に、組み込めるような代物が」
ナナは、その青い瞳を、数秒間、閉じた。彼女の脳内AIが、サンクチュアリの、膨大なデータベースに、アクセスしているのだ。
やがて、彼女は、目を開いた。
『……一つ、該当する可能性のあるものが、存在します』
「なんだ?」
『サンクチュアリの、さらに深部。未探索エリアである、第七セクターに、一体の、巨大な、戦闘ゴーレムが、封印されています』
「ゴーレム?」
ティリアが、怪訝な顔で聞き返した。
「ゴーレムなんて、今のカケルなら、重力制御で、一捻りなんじゃ……」
『通常の、ゴーレムとは、違います』
ナナは、静かに、首を横に振った。
『それは、創造主たちが、自らの技術の粋を集めて作り上げた、究極の自律防衛兵器。『ガーディアン・コロッサス』。その体は、星辰鋼をも凌駕する、未知の超合金でできており、あらゆる物理攻撃、魔法攻撃を、無効化します』
「そんな、無敵の化け物が……」
リゼットが、息を呑んだ。
『そして、そのゴーレムを動かしているのが、貴方が求める、動力源です』
ナナは、カケルを、真っ直ぐに見つめた。
『『アーティフィシャル・ゼロポイント・リアクター』。創造主のテクノロジーの中でも、最高機密に位置する、人工の、永久機関です。空間そのものから、無限に、エネルギーを取り出すことができる、と言われています。その出力は、理論上、このサンクチュアリの主動力炉をも、上回るでしょう』
「……無限の、エネルギー……」
その言葉に、カケルの目が、ギラリと光った。
もし、それが手に入るなら。彼の出力不足という、根本的な問題は、全て、解決する。
彼は、神の力を、完全に、その手に収めることができるかもしれない。
「……よし。決まりだな」
カケルは、立ち上がった。
「その、ガーディアン・コロッサスとやらを、ぶっ壊して、心臓を、いただく」
「待ちなさい、カケル!」
ティリアが、慌てて、彼を止めた。
「ナナも、言っているじゃない! あらゆる攻撃が、通用しないって! そんなの、無謀すぎるわ!」
「無謀かどうかは、やってみなきゃ分からん」
カケルの決意は、固かった。
「それに、どんなに完璧に見える機械にも、必ず、設計上の『欠陥』や、『弱点』が存在する。それを見つけ出して、突くのが、俺のやり方だ」
それは、彼の、技師としての、絶対的な自信だった。

数日後。
カケル、ティリア、そしてナナの三人は、再び、古代遺跡サンクチュアリの、深部へと、足を踏み入れていた。
リゼットは、彼らの帰りを、アストリアで待つ。それが、彼女の、君主としての、役目だった。
第七セクターは、これまで探索してきたエリアとは、全く、雰囲気が異なっていた。
そこは、巨大な、ドーム状の、闘技場(アリーナ)のような空間だった。
壁も、床も、全てが、滑らかな、黒い金属で覆われている。
そして、その中央に。
それは、鎮座していた。
全高、三十メートルはあろうかという、巨大な、人型の像。
ガーディアン・コロッサス。
その体は、液体金属のように、滑らかで、継ぎ目一つない、美しい曲線を描いている。だが、その姿から放たれる威圧感は、ギルベルトのそれをも、遥かに、凌駕していた。
それは、もはや、兵器ではない。
一つの、完璧な、芸術品であり、そして、絶対的な、破壊の象徴だった。

三人が、闘技場の中心に、足を踏み入れた、その瞬間。
ゴーレムの、頭部と思しき部分に、赤い、単眼のカメラアイが、スッ、と光を灯した。
『――侵入者を、検知』
地響きのような、重々しい、合成音声が、響き渡った。
『――カテゴリー、不明。脅威レベル、測定不能。……これより、対象の、完全排除を、開始する』
ゴーレムは、ゆっくりと、その巨体を、起こし始めた。
その動きには、一切の、無駄がない。
ギチギチ、という、金属の軋む音すら、しない。ただ、滑らかに、静かに、絶対的な破壊者が、その長い眠りから、目覚めていく。
「……来るぞ」
カケルは、重力制御で、ティリアとナナと共に、宙に浮き上がった。
そして、彼は、試すように、自分の周囲に浮かべた、鉄塊の一つを、ゴーレムに向かって、高速で、射出した。
だが。
鉄塊は、ゴーレムの体に、触れることすら、できなかった。
ゴーレムの周囲に展開された、目に見えない、エネルギーの障壁が、いともたやすく、それを弾き返したのだ。
「……ATフィールドみたいなもんか。厄介だな」
カケルは、舌打ちした。
『マスター。あれは、『空間断層シールド』。周囲の空間そのものを、位相をずらすことで、断絶させています。いかなる物理攻撃も、魔法攻撃も、あのシールドを、突破することは、できません』
ナナが、冷静に、分析結果を告げる。

「なら、どうするんだ!」
ティリアが、叫ぶ。
その時、ゴーレムが、動いた。
その巨大な腕が、カケルたちに向かって、振り上げられる。
そして、その掌から、眩い、純白の光線が、放たれた。
それは、熱線でも、ビームでもない。
空間そのものを、消滅させる、対消滅エネルギー砲だった。
「……ヤバい!」
カケルは、咄嗟に、重力制御で、その場から、高速で離脱した。
光線は、カケルたちがいた空間を、通り過ぎる。
そして、その背後にあった、闘技場の壁に、着弾した。
音は、なかった。
ただ、壁が、まるで、巨大な消しゴムで消されたかのように、直径数十メートルの範囲で、完全に、綺麗に、「消滅」していた。
「…………」
三人とも、言葉を失った。
あれを、食らえば、終わりだ。対魔法障壁も、重力レンズ・フィールドも、意味をなさない。存在そのものが、この宇宙から、消し去られる。
「……どう、すりゃいいんだよ……」
ティリアの声が、震える。
無敵の防御。そして、絶対的な攻撃。
もはや、打つ手がないように、思えた。
だが、カケルは、諦めていなかった。
彼の、演算ユニットと化した脳が、この絶望的な状況を、打開するための、ただ一つの、可能性を、探し続けていた。
(……攻撃も、防御も、奴の、あの『空間断層シールド』が、基点になっている。ならば……)
(……シールドそのものを、破壊する? いや、無理だ。空間を断絶させている以上、こちらからの干渉は、届かない)
(……ならば、発想を変えろ。シールドを、突破するんじゃない。シールドが、機能しない場所から、攻撃すればいい)
(……シールドが、機能しない場所……? そんな場所が、あるのか?)
(……いや、あるはずだ。どんな、完璧なシステムにも、必ず、『例外』や、『抜け穴』は、存在する。それを見つけろ。見つけ出すんだ、俺の脳……!)
カケルは、目を閉じ、その思考の全てを、一点に、集中させた。
彼の脳内で、無数の、シミュレーションが、繰り返される。
そして。
数秒後。
彼は、目を見開いた。
その蒼い瞳に、狂気と、そして、確信の光が、宿っていた。
「……見つけたぜ。お前の、たった一つの、致命的な、『欠陥』をな」
彼は、ニヤリ、と笑うと、ティリアとナナに向かって、誰もが、予想し得なかった、作戦を、告げた。
それは、あまりに、無謀で、そして、あまりに、クレイジーな、作戦だった。
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