無能と罵られ追放された落ちこぼれ魔術師、実は世界で唯一【言語魔法】を使える最強賢者だった〜古代魔法と失われた知識で成り上がり見返してやる!~

夏見ナイ

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第21話:目覚める古代の巨人、言葉による契約

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フロンティアの東門に、奇妙な一行が帰還したのは昼過ぎのことだった。先頭を歩くのはリオ、リリアナ、そしてグレイの三人。そしてその後ろには、まるで魂の抜けた人形のように、十数匹のゴブリンたちがふらふらとついてきている。門番たちは最初、ゴブリンの襲撃かと身構えたが、ゴブリンたちが完全に無抵抗で、リオたちの後を従順についてきている様子を見て、唖然とするしかなかった。

「な、なんだこりゃ……? ゴブリンが、人間についてきてるだと……?」
「おい、あれは噂の賢者様じゃねえか? 一体どんな魔法を使ったんだ……」

門番たちの困惑と、周囲の人々の好奇の視線を受けながら、一行は冒険者ギルドへと向かった。ギルド内も、ゴブリンを引き連れた彼らの登場に騒然となった。冒険者たちが驚きと疑いの目で遠巻きに見守る中、リオは受付のサラに依頼完了を告げた。

「ゴブリン討伐依頼、完了しました。こちらが、捕縛したゴブリンたちです」
「ひゃあっ!? ほ、本当に捕まえてきたんですか!? しかも、こんな大人しく……」

サラは悲鳴に近い声を上げながらも、プロとして対応しようと努める。すぐにギルドの職員たちが駆けつけ、まだ意識が朦朧としているゴブリンたちを拘束し、地下の牢へと連行していった。ゴブリンの処遇は、今後ギルドと街の衛兵隊で協議されることになるだろう。

「推奨ランクF級の依頼を、これほど完璧に……しかもゴブリンを生け捕りにしてくるなんて……。リオさん、リリアナ様、そしてグレイさんも、本当に素晴らしいです!」

サラは興奮気味に三人を称賛した。特に、ゴブリンを従わせた(ように見えた)リオの力には、改めて驚きと畏敬の念を抱いているようだった。リオは【言語魔法】の詳細を伏せ、「少し特殊な催眠系の魔法を使った」とだけ説明しておいた。

依頼の報酬である銀貨5枚と、ゴブリン捕縛のボーナスとして追加の銀貨2枚を受け取り、三人はギルドを後にした。道中、他の冒険者たちからの羨望や嫉妬、あるいは探るような視線を感じたが、三人はそれに構わず、リリアナの研究室へと向かった。

研究室の扉を閉め、ようやく人目を気にせず話せる状況になると、リリアナが興奮した様子で切り出した。

「アストライオス……! 古代のゴーレム……! まさか、本当に存在したなんて! しかも、言葉で制御できる可能性があるなんて……信じられないわ!」

彼女の目は、未知の古代技術への探求心で爛々と輝いていた。

「だが、危険すぎる」グレイが冷静に水を差した。「起動させて、もし暴走でもしたら、フロンティアの街ごと吹き飛びかねんぞ。古代の兵器というのは、そういうものだ」
「それは……そうかもしれないけれど……」リリアナは少しだけ口ごもったが、すぐに反論した。「でも、あの石碑には『主の声に従う』とあったわ! きちんと契約を結べば、制御できる可能性があるはずよ! それに、あのゴーレムが持つ力や知識は、計り知れない価値があるかもしれない!」

二人の意見は対立していた。危険性を重んじるグレイと、可能性に賭けたいリリアナ。リオはその間で、静かに考えを巡らせていた。

アストライオス。あの圧倒的な存在感。そして、封印に込められた「星詠みの民」の想い。あれは単なる破壊兵器ではない、何か特別な役割を与えられた存在なのではないか? そして、その制御の鍵となるのが「言葉」であるなら、それは【言語魔法】を持つ自分にしか扱えないのではないか?

「……俺は、アストライオスを起動させてみたいと思います」

リオは、意を決して言った。

「リオさん!?」
「おい、正気か!?」

リリアナは期待の表情を浮かべ、グレイは険しい顔つきになった。

「危険なのは分かっています。ですが、あのゴーレムは、ただ眠らせておくにはあまりにも……何か、重要な意味を持っている気がするんです。それに、もし制御できれば、これから起こるかもしれない『災厄』に対抗するための、大きな力になるかもしれない」

リオは、エルナの病や、「星詠みの民」の予言を思い浮かべながら語った。

「それに、制御の鍵が『言葉』であるなら、それは俺の【言語魔法】の力が最も活かせる場面のはずです。俺が、『主』としてアストライオスと契約を結ぶ。試してみる価値はあると思います」

リオの決意は固かった。彼の瞳には、危険への覚悟と、未知への挑戦心が宿っていた。

グレイはしばらく黙ってリオを見つめていたが、やがて深いため息をついた。

「……お前がそう決めたのなら、俺は止めん。だが、万が一の時は……俺が奴を破壊する。いいな?」
「……はい。お願いします」

リオは頷いた。グレイの言葉は、彼の覚悟を試すものであり、同時に、最悪の事態を想定した上での、彼なりの協力の意思表示でもあった。

「ありがとう、グレイさん。そして、リオさん、信じているわ!」

リリアナは嬉しそうに言った。

三人の意見は再び一致した。アストライオスを起動させ、リオが主従契約を結ぶ。そのために、彼らは再び、あのゴブリンの集落跡――古代遺跡へと向かうことになった。

***

翌日、三人は再び東の森の奥深く、アストライオスが眠る広間へとたどり着いた。ゴブリンたちの気配はもうなく、森は静まり返っている。

リオは「クゥイエス」と唱え、封印の扉を再び開けた。広間の中央には、昨日と変わらず、黒曜石の巨人アストライオスが静かに佇んでいた。その姿は、何度見ても荘厳で、神秘的だ。

広間の空気は張り詰め、三人の間に緊張が走る。リオはゆっくりとアストライオスの正面に立ち、深呼吸を一つした。

「……始めます」

彼は覚悟を決め、石碑に記されていた起動の真言を思い起こす。それは、星々の目覚めを促す、力強い響きを持つ古代語だった。リオは体内のマナを練り上げ、【言語魔法】の力を最大限に引き出しながら、その言葉を紡ぎ出した。

「**――アウェイクン・ステラ!**」(目覚めよ、星よ!)

リオの声が、静かな広間に朗々と響き渡った。その瞬間、広間全体に満ちていた古代の魔力が脈動し始めるのを感じた。そして、アストライオスの両目――光を失っていたはずの青い宝石――が、内側から眩い光を放ち始めたのだ!

ゴゴゴゴゴ……!!

地響きと共に、巨大な石の体がゆっくりと動き始める。何千年もの眠りから覚めるように、関節がきしみ、重々しい音を立てる。アストライオスは、ゆっくりと頭部を動かし、その輝く青い瞳で、目の前に立つ小さな人間――リオを見下ろした。

圧倒的な威圧感。古代兵器としての、底知れぬパワー。リオは思わず後ずさりしそうになるのを、必死で堪えた。グレイがいつでも剣を抜けるように身構え、リリアナが息を呑んで見守っているのが気配で分かる。

(ここからだ……! 契約を結ばなければ……!)

リオは恐怖心を振り払い、アストライオスに向かって、再び【言語魔法】で語りかけた。それは、命令ではなく、問いかけであり、そして自己紹介だった。

『目覚めよ、アストライオス。我はリオ・アシュトン。汝に語りかける者』

リオの思念波が、アストライオスに届いたのか。ゴーレムの青い瞳の輝きが、わずかに揺らめいたように見えた。そして、リオの頭の中に、直接、重々しく、そしてどこか機械的な声が響いてきた。

『……認識……言語魔法……使用者……。……契約……資格……確認……』

アストライオスは、言葉を発したわけではない。だが、その意思が、明確な情報としてリオの脳に伝わってきたのだ。【言語魔法】による、ゴーレムとの直接的なコミュニケーション。

『資格確認……? どうやって……』
『汝の……真名(マナ)……魂(タマシイ)……示せ……。……我……主(アルジ)……認める……値するか……判断……』

真名、魂を示せ、と。リオは戸惑った。それは一体、どういう意味なのか?

(俺の真名……魂……? 俺の本質……?)

彼は自分自身を見つめ直した。宮廷で無能と罵られ、追放された魔術師。しかし、辺境で【言語魔法】の真価に目覚め、古代魔法の力を手に入れた。人々を助けたいと願い、仲間と共に未知の謎に挑もうとしている。それが、今の自分だ。

リオは、ありのままの自分を、自分の意志を、隠すことなくアストライオスに伝えようと決めた。

『我はリオ・アシュトン。かつては力を認められず、捨てられた者。しかし、今は【言語魔法】を以て、失われた知識を探求し、この力で守るべきものを守りたいと願っている。汝の力が必要だ、アストライオス。我と共に、来るべき脅威に立ち向かってほしい』

リオの真摯な想いが、思念波となってアストライオスに伝わる。ゴーレムはしばらくの間、沈黙していた。その青い瞳は、まるでリオの魂の奥底まで見透かそうとするかのように、深く、静かに輝き続けている。

長い、永遠にも感じられるような沈黙の後、アストライオスの声が再び響いた。

『……認識……。汝の魂……揺らぎ……未熟……。……しかし……可能性……秘める……。……契約……受諾……。リオ・アシュトン……汝を……我が主と……認める……』

契約、受諾。その言葉を聞いた瞬間、リオは全身の力が抜けるような安堵感を覚えた。成功したのだ。

アストライオスは、ゆっくりと片膝をつき、巨大な石の拳を胸に当てた。それは、古代の騎士が行う臣下の礼のようにも見えた。

「……やった……!」

リオは思わず声を上げた。背後から、リリアナの歓声と、グレイの安堵のため息のような音が聞こえる。

『アストライオス……これから、よろしく頼む』
『……主の……仰せのままに……』

アストライオスは、主と認めたリオに対し、絶対的な忠誠を示すかのように、静かに応えた。

古代の巨人ゴーレム、アストライオス。その目覚めは、リオたちの旅に、計り知れないほどの力と、同時に新たな責任をもたらすことになるだろう。眠れる巨人を従えたリオは、これからその力をどのように使い、どんな未来を切り拓いていくのか。

広間に差し込む光の中で、主従の契約を結んだ人間とゴーレムは、静かに互いを見つめ合っていた。それは、新たな時代の幕開けを予感させる、荘厳な光景だった。
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