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第28話:王国の影と新たな決意
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「風鳴りの丘」の遺跡でのバルカスとの遭遇、そして王国騎士団との接触は、リオたちの心に重い影を落としていた。フロンティアへの帰り道、三人の口数はさらに少なくなり、それぞれの胸中には様々な思いが渦巻いていた。
リオは、バルカスの剥き出しの敵意と、隊長騎士の意味深な反応を反芻していた。追放されたとはいえ、自分はまだ王国の人間であり、その過去から完全に自由になれるわけではないのかもしれない。そして、王国の権力構造の中で、自分や古代魔法の力がどのように認識され、扱われようとしているのか、全く見当がつかない。不安が胸をよぎる。
リリアナは、遺跡の異常活性化と、そこに現れたバルカスたち宮廷魔術師団の動きを結びつけて考えていた。
「王国も、古代遺跡の異変に気づき、調査に乗り出しているのね……。でも、彼らの目的は何なのかしら? 単なる調査なのか、それとも……古代魔法の力を、独占しようとしているのか……」
彼女の懸念は、リオも共有するところだった。もし王国、特にバルカスのような野心的な魔術師たちが古代魔法の力を手に入れようとしているなら、それは非常に危険な事態を招く可能性がある。
グレイは、終始無言だったが、その表情はいつにも増して険しかった。彼が対峙した宮廷魔術師や騎士たちの姿に、自身の過去――騎士団を追われた理由――を重ね合わせていたのかもしれない。あるいは、王国の動きそのものに、何か不審な点を感じ取っているのか。彼の沈黙は、多くの憶測を呼ぶものだった。
フロンティアに戻り、ギルドへの報告を済ませた後、三人はリリアナの研究室で改めて状況を整理した。
「バルカスがここにいるということは、王都でも俺の噂……『賢者』の噂が広まっている可能性が高いですね」リオが切り出した。「そして、それを快く思わない連中が、俺を潰そうとしているのかもしれない」
「あるいは、あなたの力を利用しようとしている可能性もあるわ」リリアナが付け加えた。「【言語魔法】による古代文字の解読能力は、彼らにとっても魅力的なはずよ」
「どちらにせよ、警戒が必要だ」グレイが断言した。「奴らは、目的のためなら手段を選ばん。次は、もっと卑劣な手を使ってくるかもしれんぞ」
チンピラをけしかけてきたように、あるいはもっと巧妙な罠を仕掛けてくる可能性もある。リオは改めて、自分の身の回りの危険を認識した。
「遺跡の異常活性化も気になります。あれが、本当に災厄の前兆なのだとしたら、フロンティアも、いずれ大きな脅威に晒されることになる……」
「ええ……。巫女様の警告を、軽視すべきではないわ。『星降りの夜』まで、あと三ヶ月弱……。それまでに、できる限りの準備をしなければ」
三人の結論は同じだった。王国の影がちらつく中で、自分たちの目的――アストライオスの復活と、災厄への備え――を、より一層急がなければならない。
「まずは、各自のレベルアップが急務だな」グレイが言った。「リオ、お前は魔法の習熟はもちろん、もう少し実戦的な戦闘技術も身につけるべきだ。いつまでも俺やリリアナの援護を当てにはできんぞ」
「……はい。分かっています」リオは頷いた。「何か、良い訓練方法はありますか?」
「そうね……ギルドの訓練場を借りて、模擬戦を行うのが一番かしら。グレイさんに相手をしてもらえれば、これ以上ない訓練になると思うけれど……」リリアナが提案する。
「……まあ、たまになら付き合ってやらんでもない」グレイは少し面倒くさそうに、しかし否定はしなかった。
「ありがとうございます、グレイさん!」
リオにとって、グレイとの手合わせは願ってもない機会だった。彼の圧倒的な剣技を肌で感じ、それに対応する術を学ぶことは、リオの戦闘能力を飛躍的に向上させる可能性がある。
「リリアナさんは、引き続き『星見の水晶』の解析と、儀式に関する調査をお願いします。俺も、文献解読は手伝います」
「ええ、任せて。それと、フロンティアの学者ギルドにも接触してみるわ。彼らの中にも、古代の知識に詳しい人がいるかもしれないし、何か情報を持っているかもしれない」
「学者ギルドか……。あまり信用できる連中とは思えんがな」グレイは少し懐疑的な表情を見せた。
「もちろん、慎重に進めるわ。でも、情報源は多い方がいいでしょう?」
リリアナの言うことにも一理ある。ただし、どこまで情報を開示するかは慎重に判断する必要があるだろう。
「俺は、引き続き情報収集と、お前たちの護衛も兼ねて動く。バルカスのような輩が、またちょっかいを出してくるかもしれんからな」
グレイは、ぶっきらぼうながらも、仲間としての自覚を持ってくれているようだった。そのことが、リオとリリアナにとっては心強かった。
こうして、三人はそれぞれの役割を再確認し、新たな決意を胸に、再び日々の活動へと戻っていった。リオは、ギルドの依頼をこなしながら、時間を見つけてはグレイとの模擬戦に励んだ。
グレイとの模擬戦は、リオにとって想像以上に過酷なものだった。グレイは一切手加減をせず、リオの防御魔法の隙を突き、的確な攻撃(もちろん峰打ちだが)を叩き込んでくる。リオは【プロテクト・ウォール】を駆使し、【言語魔法】でグレイの動きを読もうとするが、グレイの動きはあまりにも速く、そして予測不能だった。思考を読む間もなく、剣が迫ってくる。
「遅い! 守るだけでは勝てんぞ!」
「動きが直線的すぎる! もっと周りを見ろ!」
グレイの容赦ない檄が飛ぶ。リオは何度も打ちのめされ、泥まみれになった。しかし、その度に立ち上がり、食らいついていった。悔しさと、もっと強くなりたいという渇望が、彼を突き動かしていた。
模擬戦を繰り返すうちに、リオは少しずつだが、グレイの動きに対応できるようになっていった。【プロテクト・ウォール】を展開するタイミング、回避行動、そして、わずかな隙を見て魔法で反撃する(あるいは妨害する)術。それは、実戦の中でしか学べない、貴重な経験だった。
リリアナも、研究室で着実に成果を上げていた。「星見の水晶」は、リオの協力も得て、特定の星の配置や月の満ち欠けと連動して活性化することが判明した。そして、文献調査の結果、「星降りの夜」は、特定の周期で訪れる、空に無数の流星群が現れる夜のことである可能性が高いことが分かった。次回の「星降りの夜」の正確な日時も、古代の暦と現代の天文学を照らし合わせることで、ほぼ特定できた。残された時間は、やはり三ヶ月を切っていた。
グレイは、フロンティア内外で情報収集を続け、いくつかの気になる噂を掴んでいた。王都から派遣された調査隊(バルカスたちとは別の部隊)が、フロンティア周辺の他の遺跡にも出入りしていること。そして、街の裏社会で、リオの「特別な力」に関する情報が高値で取引され始めていること。
「……やはり、王国は何かを探っている。そして、お前の力に目をつけた連中も動き出しているようだ」
グレイの報告は、リオたちに改めて警戒を促すものだった。
そんな中、リオの元に、一人の意外な人物が訪ねてきた。それは、以前「風鳴りの丘」で遭遇した、王国騎士団の隊長だった。彼は非番の日に、私服姿で、リオが滞在している宿屋を訪ねてきたのだ。
「……少し、話がある。二人だけで」
隊長は、低い声でそう言った。その表情は硬く、真剣そのものだった。リオは戸惑いながらも、彼を部屋へと招き入れた。一体、何の用なのだろうか? 王国の命令か、それとも……。
部屋に入り、扉を閉めると、隊長はまっすぐにリオを見据えた。
「リオ・アシュトン君……だったな。単刀直入に聞こう。君は、本当にただの冒険者なのか?」
その問いは、リオの核心に迫るものだった。彼の心臓が、ドクンと大きく跳ねた。王国の騎士団長は、一体何を知っているのだろうか? そして、その問いの先に、何が待っているのだろうか? リオは、返答に窮しながら、目の前の騎士の真意を探ろうと、その厳しい瞳を見つめ返すしかなかった。
リオは、バルカスの剥き出しの敵意と、隊長騎士の意味深な反応を反芻していた。追放されたとはいえ、自分はまだ王国の人間であり、その過去から完全に自由になれるわけではないのかもしれない。そして、王国の権力構造の中で、自分や古代魔法の力がどのように認識され、扱われようとしているのか、全く見当がつかない。不安が胸をよぎる。
リリアナは、遺跡の異常活性化と、そこに現れたバルカスたち宮廷魔術師団の動きを結びつけて考えていた。
「王国も、古代遺跡の異変に気づき、調査に乗り出しているのね……。でも、彼らの目的は何なのかしら? 単なる調査なのか、それとも……古代魔法の力を、独占しようとしているのか……」
彼女の懸念は、リオも共有するところだった。もし王国、特にバルカスのような野心的な魔術師たちが古代魔法の力を手に入れようとしているなら、それは非常に危険な事態を招く可能性がある。
グレイは、終始無言だったが、その表情はいつにも増して険しかった。彼が対峙した宮廷魔術師や騎士たちの姿に、自身の過去――騎士団を追われた理由――を重ね合わせていたのかもしれない。あるいは、王国の動きそのものに、何か不審な点を感じ取っているのか。彼の沈黙は、多くの憶測を呼ぶものだった。
フロンティアに戻り、ギルドへの報告を済ませた後、三人はリリアナの研究室で改めて状況を整理した。
「バルカスがここにいるということは、王都でも俺の噂……『賢者』の噂が広まっている可能性が高いですね」リオが切り出した。「そして、それを快く思わない連中が、俺を潰そうとしているのかもしれない」
「あるいは、あなたの力を利用しようとしている可能性もあるわ」リリアナが付け加えた。「【言語魔法】による古代文字の解読能力は、彼らにとっても魅力的なはずよ」
「どちらにせよ、警戒が必要だ」グレイが断言した。「奴らは、目的のためなら手段を選ばん。次は、もっと卑劣な手を使ってくるかもしれんぞ」
チンピラをけしかけてきたように、あるいはもっと巧妙な罠を仕掛けてくる可能性もある。リオは改めて、自分の身の回りの危険を認識した。
「遺跡の異常活性化も気になります。あれが、本当に災厄の前兆なのだとしたら、フロンティアも、いずれ大きな脅威に晒されることになる……」
「ええ……。巫女様の警告を、軽視すべきではないわ。『星降りの夜』まで、あと三ヶ月弱……。それまでに、できる限りの準備をしなければ」
三人の結論は同じだった。王国の影がちらつく中で、自分たちの目的――アストライオスの復活と、災厄への備え――を、より一層急がなければならない。
「まずは、各自のレベルアップが急務だな」グレイが言った。「リオ、お前は魔法の習熟はもちろん、もう少し実戦的な戦闘技術も身につけるべきだ。いつまでも俺やリリアナの援護を当てにはできんぞ」
「……はい。分かっています」リオは頷いた。「何か、良い訓練方法はありますか?」
「そうね……ギルドの訓練場を借りて、模擬戦を行うのが一番かしら。グレイさんに相手をしてもらえれば、これ以上ない訓練になると思うけれど……」リリアナが提案する。
「……まあ、たまになら付き合ってやらんでもない」グレイは少し面倒くさそうに、しかし否定はしなかった。
「ありがとうございます、グレイさん!」
リオにとって、グレイとの手合わせは願ってもない機会だった。彼の圧倒的な剣技を肌で感じ、それに対応する術を学ぶことは、リオの戦闘能力を飛躍的に向上させる可能性がある。
「リリアナさんは、引き続き『星見の水晶』の解析と、儀式に関する調査をお願いします。俺も、文献解読は手伝います」
「ええ、任せて。それと、フロンティアの学者ギルドにも接触してみるわ。彼らの中にも、古代の知識に詳しい人がいるかもしれないし、何か情報を持っているかもしれない」
「学者ギルドか……。あまり信用できる連中とは思えんがな」グレイは少し懐疑的な表情を見せた。
「もちろん、慎重に進めるわ。でも、情報源は多い方がいいでしょう?」
リリアナの言うことにも一理ある。ただし、どこまで情報を開示するかは慎重に判断する必要があるだろう。
「俺は、引き続き情報収集と、お前たちの護衛も兼ねて動く。バルカスのような輩が、またちょっかいを出してくるかもしれんからな」
グレイは、ぶっきらぼうながらも、仲間としての自覚を持ってくれているようだった。そのことが、リオとリリアナにとっては心強かった。
こうして、三人はそれぞれの役割を再確認し、新たな決意を胸に、再び日々の活動へと戻っていった。リオは、ギルドの依頼をこなしながら、時間を見つけてはグレイとの模擬戦に励んだ。
グレイとの模擬戦は、リオにとって想像以上に過酷なものだった。グレイは一切手加減をせず、リオの防御魔法の隙を突き、的確な攻撃(もちろん峰打ちだが)を叩き込んでくる。リオは【プロテクト・ウォール】を駆使し、【言語魔法】でグレイの動きを読もうとするが、グレイの動きはあまりにも速く、そして予測不能だった。思考を読む間もなく、剣が迫ってくる。
「遅い! 守るだけでは勝てんぞ!」
「動きが直線的すぎる! もっと周りを見ろ!」
グレイの容赦ない檄が飛ぶ。リオは何度も打ちのめされ、泥まみれになった。しかし、その度に立ち上がり、食らいついていった。悔しさと、もっと強くなりたいという渇望が、彼を突き動かしていた。
模擬戦を繰り返すうちに、リオは少しずつだが、グレイの動きに対応できるようになっていった。【プロテクト・ウォール】を展開するタイミング、回避行動、そして、わずかな隙を見て魔法で反撃する(あるいは妨害する)術。それは、実戦の中でしか学べない、貴重な経験だった。
リリアナも、研究室で着実に成果を上げていた。「星見の水晶」は、リオの協力も得て、特定の星の配置や月の満ち欠けと連動して活性化することが判明した。そして、文献調査の結果、「星降りの夜」は、特定の周期で訪れる、空に無数の流星群が現れる夜のことである可能性が高いことが分かった。次回の「星降りの夜」の正確な日時も、古代の暦と現代の天文学を照らし合わせることで、ほぼ特定できた。残された時間は、やはり三ヶ月を切っていた。
グレイは、フロンティア内外で情報収集を続け、いくつかの気になる噂を掴んでいた。王都から派遣された調査隊(バルカスたちとは別の部隊)が、フロンティア周辺の他の遺跡にも出入りしていること。そして、街の裏社会で、リオの「特別な力」に関する情報が高値で取引され始めていること。
「……やはり、王国は何かを探っている。そして、お前の力に目をつけた連中も動き出しているようだ」
グレイの報告は、リオたちに改めて警戒を促すものだった。
そんな中、リオの元に、一人の意外な人物が訪ねてきた。それは、以前「風鳴りの丘」で遭遇した、王国騎士団の隊長だった。彼は非番の日に、私服姿で、リオが滞在している宿屋を訪ねてきたのだ。
「……少し、話がある。二人だけで」
隊長は、低い声でそう言った。その表情は硬く、真剣そのものだった。リオは戸惑いながらも、彼を部屋へと招き入れた。一体、何の用なのだろうか? 王国の命令か、それとも……。
部屋に入り、扉を閉めると、隊長はまっすぐにリオを見据えた。
「リオ・アシュトン君……だったな。単刀直入に聞こう。君は、本当にただの冒険者なのか?」
その問いは、リオの核心に迫るものだった。彼の心臓が、ドクンと大きく跳ねた。王国の騎士団長は、一体何を知っているのだろうか? そして、その問いの先に、何が待っているのだろうか? リオは、返答に窮しながら、目の前の騎士の真意を探ろうと、その厳しい瞳を見つめ返すしかなかった。
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