鑑定スキルで万物を見抜く俺、実は女の子の好感度も丸見えです

夏見ナイ

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第17話:ルナの才能

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薬草採取の成功で得た銀貨は、俺たちの当面の生活費となった。その日の夜、俺たちはいつもより少しだけ良い食事をするために、賑やかな食堂を訪れた。

香ばしいソースのかかった鳥の丸焼きを、ルナは目を輝かせながら夢中で頬張っている。その姿は歳相応の少女のものであり、見ているだけで俺の心も和んだ。

「美味しいか?」

「はいっ! とっても美味しいです!」

満面の笑みで答える彼女を見ながら、俺はこれからのことを考えていた。薬草採取のような安全な依頼だけをこなしていれば、細々とだが生計は立てられるだろう。だが、ここは辺境の街ラトナ。いつ何時、危険な魔物に襲われるか分からない。それに、俺たちがこの先、何不自由なく暮らしていくためには、もっと多くの金が必要になる。

何より、ルナ自身がそれを望んでいない。彼女は食事中も、時折俺の顔を窺うように見ては「私、もっとアレン様のお役に立ちたいです」と何度も口にしていた。彼女はただ守られるだけの存在でいるつもりはないのだ。その強い意志が、彼女の黄金色のオーラを一層輝かせている。

ならば、俺がすべきことは一つだ。彼女の内に眠る才能を、俺が引きずり出してやる。

宿の部屋に戻ると、俺は真剣な面持ちでルナに向き合った。

「ルナ。君の本当の力を、俺に見せてくれないか」

「本当の、力……ですか?」

彼女は不思議そうに首を傾げた。俺は頷き、自分のスキルについて、当たり障りのない範囲で説明した。

「俺のスキルは、物事の本質を見抜く力だ。君を鑑定させてもらった時、君にはとてつもない才能が眠っているのが見えた。それを、もっと詳しく知りたい」

俺の言葉に、ルナは少し顔を赤らめながらも、真っ直ぐな瞳で俺を見つめ返した。

「アレン様がそうおっしゃるなら……。私の全てを、見てください」

その言葉には、絶対的な信頼が込められていた。俺は彼女の前に立ち、改めて【万物解析】を限界まで集中させて発動した。脳内に、前回よりも遥かに詳細な情報が流れ込んでくる。

【名称:ルナ】
【種族:銀月猫(シルバームーン・リンクス)族】
【レベル:1】
【ステータス】
筋力(STR): F
敏捷性(AGI): A+
体力(VIT): E
知力(INT): C
魔力(MP): D
器用さ(DEX): B+

【種族特性】
『月光の加護』: 夜間活動時、全能力に微量の補正。隠密行動、跳躍力に高い適性。
『鋭敏な五感』: 人間を遥かに超える聴覚、嗅覚、視覚を持つ。

【潜在スキル】
『縮地』(覚醒度: 5%)
発動条件:極度の集中状態、または生命の危機を感知した時。発動時、使用者にも相応の負荷がかかる。

「……やはり、か」

俺は思わず呟いた。彼女のステータスは、極端なまでに尖っている。筋力や体力は絶望的に低い。普通の戦士なら、致命的な欠点だ。しかし、それを補って余りあるほどの敏捷性と器用さ。そして、獣人ならではの五感と隠密適性。

彼女は、正面から敵と打ち合う戦士ではない。影に潜み、敵の攻撃を紙一重でかわし、その一瞬の隙に、急所へ鋭い一撃を叩き込む。闇に生きる暗殺者、あるいは疾風の如き剣舞士。それが彼女の進むべき道だ。

俺は解析した内容を、ルナに分かりやすく説明した。

「君は、誰よりも速く動ける。その速さが、君の最大の武器になるんだ」

「私が……速く?」

彼女は自分の手足を見下ろし、まだ実感が湧かないといった表情をしていた。

「ああ。だから、明日から訓練を始めよう。君の才能を、本当の力に変えるための訓練だ」

「訓練……! はいっ、やります! 私、頑張ります!」

ルナの瞳に、決意の光が灯った。俺はその熱意に応えるように、具体的な訓練計画を彼女に語って聞かせた。

翌日から、俺たちの新しい日常が始まった。早朝、俺たちは街の外れにある冒険者用の訓練場へと向かう。まずは基礎体力作りからだ。長年の奴隷生活で衰えた彼女の体を、元に戻す必要があった。

最初は、訓練場の周りを走るだけでも息を切らしていたルナだったが、彼女の成長は俺の想像を遥かに超えていた。三日も経つと、俺の方が引き離されるようになり、一週間後には、彼女は風のように訓練場を駆け抜けるようになっていた。

【ルナの体力(VIT)が E から D- に上昇しました】

脳内に浮かぶ通知が、彼女の確かな成長を伝えてくれる。食事も、俺が鑑定で栄養価の高い食材を選び、彼女に食べさせた。みるみるうちに、彼女の顔色や体つきは健康的になっていった。

体力作りの次は、彼女の最大の武器である敏捷性を活かす訓練だ。俺は木の枝を拾い、それを剣に見立ててルナに打ち込んだ。

「いいか、ルナ。敵の攻撃は、受けるな。全て、かわすんだ」

「は、はい!」

俺の打ち込みは、素人目には速く見えるだろう。だが、ルナはその全てを、猫のようなしなやかな身のこなしでひらりひらりと避けていく。最初は危なっかしかったが、数日もすると、俺の攻撃が彼女に掠りもしなくなった。

そして、隠密行動の訓練。これは、彼女が最も才能を発揮した分野だった。

「今から俺が目をつぶる。その間に、気配を消して俺の背後を取ってみろ」

そんな、まるで遊びのような訓練で、彼女は驚くべき能力を見せた。目を閉じて意識を集中させる。だが、風の音と木の葉の擦れる音以外、何も聞こえない。足音も、衣擦れの音も、全くしない。

不意に、背後から「わっ!」と小さな声がした。俺が驚いて振り返ると、そこには悪戯っぽく笑うルナが立っていた。俺が【万物解析】を使わなければ、彼女の接近を全く感知できなかっただろう。

俺は彼女の才能に舌を巻きながらも、育成の楽しさに夢中になっていた。まるで、最高の素材を与えられた職人のような気分だった。俺の知識とスキルで、彼女という原石が日に日に磨かれ、輝きを増していく。その過程が、たまらなく面白い。

訓練開始から十日が過ぎた頃、俺は街の武具屋で、彼女のための武器を購入した。鑑定で見つけ出した、ドワーフの名工が作ったとされる一対の軽量ダガー。バランスも切れ味も申し分ない、掘り出し物だった。

「これを君に」

俺がダガーを差し出すと、ルナは目を輝かせ、まるで宝物のようにそれを受け取った。

「これが……私の武器……」

初めて手にする本物の武器に、彼女は少し緊張した面持ちで、しかし嬉しそうに何度も素振りをした。その動きは、もはやただの素人ではない。一振一振に、確かな鋭さが宿っていた。

「そろそろ、次の段階に進む時が来たな」

夕暮れの訓練場で、俺は模擬戦の相手をしながら言った。ルナの振るうダガーの切っ先が、俺の喉元すれすれを掠めていく。その瞳には、以前の怯えの色はなく、自信に満ちた強い光が宿っていた。

彼女はもう、守られるだけのか弱い少女ではない。共に戦う、俺の頼もしいパートナーだ。

「次の段階、ですか?」

「ああ。実践だ。簡単な討伐依頼を受けて、本物の魔物と戦ってみる」

その言葉に、ルナは一瞬息を呑んだが、すぐに力強く頷いた。

「はい! アレンさんと一緒なら、怖くありません!」

彼女の頭上で輝く黄金色のオーラが、夕日に照らされて一層強く、温かく見えた。俺たちの絆は、この訓練の日々を通して、また一つ、確かな形になったのだ。
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