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第18話:ゴブリンの巣
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ルナの才能が確かなものであることを確認した俺たちは、その翌日、満を持して冒険者ギルドを訪れた。目的は、初めての討伐依頼。薬草採取とは違う、本物の戦いが俺たちを待っていた。
掲示板の前に立つと、以前とは見える景色が違っていた。様々な討伐依頼が、今の俺たちなら達成可能な目標として目に映る。
「アレンさん、ルナちゃん。おはよう」
カウンターから、受付のミリーが声をかけてきた。彼女の視線は、俺たちの纏う雰囲気の変化に気づいているようだった。
「なんだか、二人とも少し雰囲気が変わったわね。特にルナちゃん、なんだかすごく強そうに見えるわ」
ミリーの言葉に、ルナは少しはにかんだ。
「討伐依頼を受けようと思っています。何か、俺たちでもこなせそうなものはありますか?」
俺が尋ねると、ミリーは少し考える素振りを見せた後、一枚の依頼書を指差した。
「それなら、これなんてどうかしら。『嘆きの森』にあるゴブリンの巣の掃討依頼。少し前にギルドが調査して、規模はそれほど大きくないと分かっているわ。新人パーティーが最初に受ける討伐依頼としては、定番よ」
【依頼内容:嘆きの森にあるゴブリンの巣の掃討】
【報酬:金貨一枚】
【備考:巣の内部には十数体のゴブリンが生息している可能性あり。リーダー格の討伐を推奨】
報酬は金貨一枚。銀貨百枚分だ。これまでの依頼とは桁が違う。その分、危険度も高いということだろう。
「どうする、ルナ。やってみるか?」
俺が尋ねると、彼女は俺の目を真っ直ぐに見つめ、力強く頷いた。
「はい! アレンさんと一緒なら!」
その瞳に迷いはなかった。俺たちはその依頼書を剥がし、ミリーに提出した。
「分かったわ。でも、絶対に無理はしないでね。危ないと思ったら、すぐに逃げ帰ってくること。いいわね?」
ミリーは母親のような口調で念を押した。彼女の頭上には、俺たちへの『心配』を示す薄紫色の感情が浮かんでいた。俺は礼を言ってギルドを後にした。
嘆きの森は、街から半日ほど歩いた場所にあった。その名の通り、どこか陰鬱な雰囲気が漂う森だ。俺たちは依頼書に記された地図を頼りに、森の奥深くへと進んでいく。
道中、俺は常に【万物解析】を発動させ、周囲の警戒を怠らなかった。
「ルナ、右手の茂みに気をつけて。そこに一体、潜んでいる」
俺が小声で言うと、ルナはこくりと頷き、腰の一対のダガーにそっと手をかけた。彼女の鋭い五感も、すでに敵の存在を捉えているようだった。
茂みから飛び出してきたのは、一体のゴブリンだった。だが、俺たちの準備は万全だ。
「ルナ!」
俺の短い号令に、彼女は風のように動いた。ゴブリンが棍棒を振り上げるよりも速く、その懐に飛び込む。銀色の閃光が二筋走ると、ゴブリンは声も上げられずにその場に崩れ落ちた。喉と心臓を、正確に貫かれていた。
見事な一撃だった。訓練の成果が、遺憾なく発揮されている。
俺たちはその後も、道中に現れるゴブリンを危なげなく処理しながら、目的の巣へとたどり着いた。それは、巨大な岩が折り重なった崖の中腹に、ぽっかりと口を開けていた。
「ここが、ゴブリンの巣か……」
入り口からは、獣の腐臭と糞尿の混じったような、不快な匂いが漂ってくる。中には、まだ多くのゴブリンがいるはずだ。
「ルナ、待機だ。まずは中を調べる」
俺はそう言って、洞窟の入り口に意識を集中させた。スキルを発動すると、脳内に岩盤を透過した巣の内部構造が、青白いワイヤーフレームとなって立体的に描き出されていく。
通路は複雑に入り組んでいるが、大きく分けて三つの広間がある。そして、その中に点在する生命反応。
【ゴブリン:12体】
【ゴブリン・アーチャー:3体】
【ゴブリン・メイジ(見習い):1体】
【リーダー個体:ゴブリン・チャンピオン:1体】
総勢、十七体。ミリーの話より少し多いが、想定の範囲内だ。俺はさらに解析を深め、敵の配置を把握する。
入り口近くの最初の広間に五体。中央の広間に弓兵を含む七体。そして、最奥の広間にメイジとリーダー、そして護衛が四体。完璧な布陣だ。正面から突っ込めば、数の暴力で押し潰されていただろう。
だが、俺には全てが見えている。
「……よし、分かった」
俺は目を開け、隣で息を潜めていたルナに向き直った。
「作戦を伝える。中は大きく三つの部屋に分かれている。敵は合計十七体だ」
俺は地面に簡単な見取り図を描きながら、敵の配置と種類を説明した。ルナは驚いた顔一つせず、真剣な表情で俺の言葉に耳を傾けている。彼女はもう、俺の力が常識外のものであることを、疑いなく受け入れてくれていた。
「俺が君の目となり、耳となる。君は俺の指示通りに、その速さを活かして、一体ずつ確実に仕留めていくんだ。いいな?」
「はい! アレンさんの指示通りに動きます!」
俺たちの間には、言葉以上の確かな信頼関係があった。
俺は巣の構造を再度確認し、敵の警戒網が最も薄いルートを特定した。入り口から見て左手、岩壁の亀裂から続く、獣しか通れないような狭い通路。それは、最初の広間を迂回し、中央の広間の死角へと繋がっていた。
「行くぞ。ここから潜入する」
俺たちは音を殺し、その亀裂へと身を滑り込ませた。ルナは獣人ならではのしなやかさで、難なく狭い通路を進んでいく。俺も彼女に続いた。
しばらく進むと、前方に微かな明かりが見えてきた。中央の広間だ。ゴブリンたちの下品な笑い声が聞こえてくる。
俺たちは岩陰に身を潜め、中の様子を窺った。七体のゴブリンが、焚き火を囲んで何かの肉を貪っている。その中には、弓を持った個体も三体いる。
俺はルナの耳元に、囁くように指示を出した。
「まず、奥にいる弓兵三体を同時に無力化する。君の速さならできるはずだ」
ルナは静かにダガーを抜き放ち、こくりと頷いた。その瞳には、恐怖ではなく、狩人のような鋭い光が宿っている。
俺は彼女の肩を軽く叩き、合図を送った。
「――行け」
その瞬間、ルナの姿が影となって岩陰から飛び出した。それはもはや、人間の動きではなかった。床を蹴る音もなく、風のように広間を駆け抜ける。
焚き火を囲んでいたゴブリンたちが、何かの気配に気づいて顔を上げた時には、全てが終わっていた。
三体の弓兵が、同時に喉から血を噴き出して崩れ落ちる。ルナは、一瞬のうちに三つの命を刈り取っていた。
残りのゴブリンたちが、何が起きたか理解できずに呆然としている。その隙を、俺は見逃さない。
「次! 右手の二体!」
俺の指示が飛ぶより早く、ルナはすでに次の獲物に向かって駆けていた。俺たちの初めての本格的な連携が、今、始まろうとしていた。
掲示板の前に立つと、以前とは見える景色が違っていた。様々な討伐依頼が、今の俺たちなら達成可能な目標として目に映る。
「アレンさん、ルナちゃん。おはよう」
カウンターから、受付のミリーが声をかけてきた。彼女の視線は、俺たちの纏う雰囲気の変化に気づいているようだった。
「なんだか、二人とも少し雰囲気が変わったわね。特にルナちゃん、なんだかすごく強そうに見えるわ」
ミリーの言葉に、ルナは少しはにかんだ。
「討伐依頼を受けようと思っています。何か、俺たちでもこなせそうなものはありますか?」
俺が尋ねると、ミリーは少し考える素振りを見せた後、一枚の依頼書を指差した。
「それなら、これなんてどうかしら。『嘆きの森』にあるゴブリンの巣の掃討依頼。少し前にギルドが調査して、規模はそれほど大きくないと分かっているわ。新人パーティーが最初に受ける討伐依頼としては、定番よ」
【依頼内容:嘆きの森にあるゴブリンの巣の掃討】
【報酬:金貨一枚】
【備考:巣の内部には十数体のゴブリンが生息している可能性あり。リーダー格の討伐を推奨】
報酬は金貨一枚。銀貨百枚分だ。これまでの依頼とは桁が違う。その分、危険度も高いということだろう。
「どうする、ルナ。やってみるか?」
俺が尋ねると、彼女は俺の目を真っ直ぐに見つめ、力強く頷いた。
「はい! アレンさんと一緒なら!」
その瞳に迷いはなかった。俺たちはその依頼書を剥がし、ミリーに提出した。
「分かったわ。でも、絶対に無理はしないでね。危ないと思ったら、すぐに逃げ帰ってくること。いいわね?」
ミリーは母親のような口調で念を押した。彼女の頭上には、俺たちへの『心配』を示す薄紫色の感情が浮かんでいた。俺は礼を言ってギルドを後にした。
嘆きの森は、街から半日ほど歩いた場所にあった。その名の通り、どこか陰鬱な雰囲気が漂う森だ。俺たちは依頼書に記された地図を頼りに、森の奥深くへと進んでいく。
道中、俺は常に【万物解析】を発動させ、周囲の警戒を怠らなかった。
「ルナ、右手の茂みに気をつけて。そこに一体、潜んでいる」
俺が小声で言うと、ルナはこくりと頷き、腰の一対のダガーにそっと手をかけた。彼女の鋭い五感も、すでに敵の存在を捉えているようだった。
茂みから飛び出してきたのは、一体のゴブリンだった。だが、俺たちの準備は万全だ。
「ルナ!」
俺の短い号令に、彼女は風のように動いた。ゴブリンが棍棒を振り上げるよりも速く、その懐に飛び込む。銀色の閃光が二筋走ると、ゴブリンは声も上げられずにその場に崩れ落ちた。喉と心臓を、正確に貫かれていた。
見事な一撃だった。訓練の成果が、遺憾なく発揮されている。
俺たちはその後も、道中に現れるゴブリンを危なげなく処理しながら、目的の巣へとたどり着いた。それは、巨大な岩が折り重なった崖の中腹に、ぽっかりと口を開けていた。
「ここが、ゴブリンの巣か……」
入り口からは、獣の腐臭と糞尿の混じったような、不快な匂いが漂ってくる。中には、まだ多くのゴブリンがいるはずだ。
「ルナ、待機だ。まずは中を調べる」
俺はそう言って、洞窟の入り口に意識を集中させた。スキルを発動すると、脳内に岩盤を透過した巣の内部構造が、青白いワイヤーフレームとなって立体的に描き出されていく。
通路は複雑に入り組んでいるが、大きく分けて三つの広間がある。そして、その中に点在する生命反応。
【ゴブリン:12体】
【ゴブリン・アーチャー:3体】
【ゴブリン・メイジ(見習い):1体】
【リーダー個体:ゴブリン・チャンピオン:1体】
総勢、十七体。ミリーの話より少し多いが、想定の範囲内だ。俺はさらに解析を深め、敵の配置を把握する。
入り口近くの最初の広間に五体。中央の広間に弓兵を含む七体。そして、最奥の広間にメイジとリーダー、そして護衛が四体。完璧な布陣だ。正面から突っ込めば、数の暴力で押し潰されていただろう。
だが、俺には全てが見えている。
「……よし、分かった」
俺は目を開け、隣で息を潜めていたルナに向き直った。
「作戦を伝える。中は大きく三つの部屋に分かれている。敵は合計十七体だ」
俺は地面に簡単な見取り図を描きながら、敵の配置と種類を説明した。ルナは驚いた顔一つせず、真剣な表情で俺の言葉に耳を傾けている。彼女はもう、俺の力が常識外のものであることを、疑いなく受け入れてくれていた。
「俺が君の目となり、耳となる。君は俺の指示通りに、その速さを活かして、一体ずつ確実に仕留めていくんだ。いいな?」
「はい! アレンさんの指示通りに動きます!」
俺たちの間には、言葉以上の確かな信頼関係があった。
俺は巣の構造を再度確認し、敵の警戒網が最も薄いルートを特定した。入り口から見て左手、岩壁の亀裂から続く、獣しか通れないような狭い通路。それは、最初の広間を迂回し、中央の広間の死角へと繋がっていた。
「行くぞ。ここから潜入する」
俺たちは音を殺し、その亀裂へと身を滑り込ませた。ルナは獣人ならではのしなやかさで、難なく狭い通路を進んでいく。俺も彼女に続いた。
しばらく進むと、前方に微かな明かりが見えてきた。中央の広間だ。ゴブリンたちの下品な笑い声が聞こえてくる。
俺たちは岩陰に身を潜め、中の様子を窺った。七体のゴブリンが、焚き火を囲んで何かの肉を貪っている。その中には、弓を持った個体も三体いる。
俺はルナの耳元に、囁くように指示を出した。
「まず、奥にいる弓兵三体を同時に無力化する。君の速さならできるはずだ」
ルナは静かにダガーを抜き放ち、こくりと頷いた。その瞳には、恐怖ではなく、狩人のような鋭い光が宿っている。
俺は彼女の肩を軽く叩き、合図を送った。
「――行け」
その瞬間、ルナの姿が影となって岩陰から飛び出した。それはもはや、人間の動きではなかった。床を蹴る音もなく、風のように広間を駆け抜ける。
焚き火を囲んでいたゴブリンたちが、何かの気配に気づいて顔を上げた時には、全てが終わっていた。
三体の弓兵が、同時に喉から血を噴き出して崩れ落ちる。ルナは、一瞬のうちに三つの命を刈り取っていた。
残りのゴブリンたちが、何が起きたか理解できずに呆然としている。その隙を、俺は見逃さない。
「次! 右手の二体!」
俺の指示が飛ぶより早く、ルナはすでに次の獲物に向かって駆けていた。俺たちの初めての本格的な連携が、今、始まろうとしていた。
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