鑑定スキルで万物を見抜く俺、実は女の子の好感度も丸見えです

夏見ナイ

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第20話:生産スキルの開花

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ゴブリンの巣からラトナの街への帰路は、行きとは比べ物にならないほど足取りが軽かった。疲労感は確かにある。だがそれを上回る達成感が全身を満たしていた。

隣を歩くルナも、口数は少ないながらその表情は自信に満ち溢れている。彼女は時折、腰に差した一対のダガーにそっと触れては嬉しそうに微笑んでいた。初めての実戦、初めての勝利。それが彼女を大きく成長させたことは間違いない。

俺たちの間には、もはや言葉は必要なかった。ただ互いの存在を感じるだけで、強い信頼と絆がそこにあると分かった。

街の門をくぐり、俺たちはまっすぐ冒険者ギルドへと向かった。扉を開けると、昼間だというのに中は多くの冒険者で賑わっている。俺たちが中に入ると、いくつかの視線がこちらに向けられた。その視線には、以前のような侮りはなく好奇心や探るような色が混じっていた。

カウンターにいたミリーが、俺たちの姿を認めるとぱっと顔を輝かせた。

「アレンさん! ルナちゃん! 無事だったのね!」

彼女はカウンターから身を乗り出すようにして、俺たちの全身を心配そうに確認した。

「怪我はない!? 大丈夫だったの!?」

「ええ、問題ありません。依頼は完了しました」

俺はそう言って、麻袋からゴブリン・チャンピオンの証拠として切り取った、奇妙な紋様のある大きな耳を取り出しカウンターの上に置いた。

その瞬間、ギルド内にいた冒険者たちからどよめきが起こった。

「おい、あれはチャンピオンの耳じゃねえか」
「マジかよ、あの新人コンビが倒したっていうのか?」
「しかも、二人とも無傷だと……?」

ミリーも信じられないといった表情で、耳と俺たちの顔を交互に見ている。彼女の思考が、驚きと共に流れ込んできた。『嘘でしょ……。あの二人だけで、本当に巣を掃討しちゃったの? しかも無傷で……。この子たち、一体何者なの……』。

「依頼書にあった通り、巣にいたゴブリンは全て掃討しました。確認をお願いします」

俺が淡々と告げると、ミリーはハッと我に返り慌ててギルドの職員を呼んだ。証拠品の確認が行われ、依頼の達成が正式に認められる。

「す、すごいわ……。本当に、おめでとう! はい、これが約束の報酬、金貨一枚よ!」

ミリーは興奮した様子で、一枚の金貨を俺に手渡した。ずしりとした重み。俺がこれまでの人生で手にしたことのない、大金だった。

「ありがとうございます」

俺が礼を言うと、ルナが隣で俺の袖をくんと引いた。見ると、彼女は金貨を食い入るように見つめ目をきらきらと輝かせている。その姿が微笑ましくて、俺は思わず笑みをこぼした。

俺たちは周囲の冒険者たちの称賛と驚愕の視線を浴びながら、ギルドを後にした。

宿に戻り、俺は早速戦利品の整理を始めた。ゴブリンたちから回収した魔石は全部で十七個。その他、チャンピオンが持っていた鉄の棍棒や、メイジが使っていた杖などガラクタ同然に見えるものもいくつか持ち帰っていた。

「これは、お金になるんですか?」

ルナが不思議そうに、錆びついた棍棒を指差しながら尋ねた。

「さあな。だが、ただのガラクタかどうか調べてみる価値はある」

俺はまず、その巨大な棍棒に【万物解析】を使った。

【名称:ゴブリン・チャンピオンの棍棒】
【素材:不純物の多い鉄鉱石、オークの骨】
【状態:粗悪な作り。武器としての価値は低い】
【潜在能力:素材を分解し、再精錬することで高純度の『強化鉄』を抽出可能】
【最適な加工法:摂氏千三百度で溶解後、オークの骨を燃やした灰を触媒として加える。これにより不純物が分離し、通常の鉄よりも三倍の強度を持つインゴットが精製できる】

「……なんだ、これは」

俺は思わず声を上げた。ただの鑑定ではない。素材の隠された価値だけでなく、その能力を最大限に引き出すための具体的な加工法まで示されている。まるで、伝説級の鍛冶職人の知識が俺の頭に直接ダウンロードされたかのようだ。

俺は興奮を抑え、次にメイジの杖を鑑定した。

【名称:ねじくれた樫の杖】
【素材:魔力を帯びた樫の木】
【状態:劣化が激しい。魔術の増幅効果はほぼ失われている】
【最適な加工法:細かく砕き、清水で煮詰めることで『魔力活性液』を抽出可能。この液体は、ポーションの効果を高める添加剤として非常に有用】

やはり同じだった。ガラクタにしか見えないものから、価値あるものを生み出すための知識。俺の【万物解析】には、そんな力も秘められていたのだ。

生産スキル。錬金術や鍛冶といった、物作りの分野。その可能性に気づいた瞬間、俺の全身に電流が走った。

冒険者として戦うだけが、俺の道じゃない。この力を使えば、俺は最高の生産者にもなれる。

「……そうだ、試してみよう」

俺はすぐに立ち上がった。以前、依頼で採取した薬草がまだいくつか残っている。あれを使って、ポーションを作ってみるんだ。

俺はルナに留守を頼み、街の道具屋へと走った。錬金術師が使うような高価な道具は買えない。俺は一番安い、携帯用の錬金キットを一つだけ購入した。小さな鍋と、アルコールランプ、ガラスの攪拌棒、そして数本の小瓶。素人が見れば、子供の遊び道具にしか見えないだろう。

宿に戻ると、俺は早速準備を始めた。机の上に道具を並べ、薬草を取り出す。以前採取したセリーン草と月光草だ。

「アレンさん、何を始めるんですか?」

ルナが興味深そうに、俺の手元を覗き込んでいる。

「ポーション作りだ。うまくいくか分からないが、やってみる価値はある」

俺はまず、セリーン草に【万物解析】を向けた。

【名称:セリーン草】
【効果:鎮静作用、治癒促進】
【最適な加工法(ヒーリングポーション):葉の部分のみを使用。石臼で粘り気が出るまで丁寧にすり潰し、清水を少量ずつ加えながらペースト状にする。抽出には摂氏六十度の温水が最も適している】

次に、月光草。

【名称:月光草】
【効果:解毒作用、魔力安定】
【最適な加工法(ヒーリングポーション):茎から抽出した液体を使用。セリーン草のペーストと混ぜ合わせる際、時計回りに七回、反時計回りに三回、正確な速度で攪拌することで、薬効が最大限に引き出される】

脳内に、完璧なレシピが浮かび上がる。まるで、何十年もポーションを作り続けてきた大錬金術師にでもなったかのような感覚だった。

俺はスキルが示す手順に、寸分違わず従った。

水の温度は、指先の感覚で正確に六十度に調整する。すり鉢で薬草を潰す力加減、攪拌棒を回す速度。全てがごく自然に、完璧に行えた。俺の体が、スキルによって最適化されているかのようだ。

ルナは、俺の無駄のない動きに感心したようにじっと見入っている。

やがて、鍋の中の液体が淡い緑色の美しい輝きを放ち始めた。部屋中に、清涼感のある心地よい香りが満ちる。

俺は最後の仕上げに、ガラスの小瓶に液体を注いだ。完成だ。見た目は、市販されている安物のヒーリングポーションと大差ない。だが俺には確信があった。これは、ただのポーションではない、と。

俺は完成したばかりのポーションに、震える手で【万物解析】を使った。

【名称:高品質ヒーリングポーション(傑作)】
【等級:Aランク】
【効果:軽度の傷であれば瞬時に治癒し、体力を大幅に回復させる。市販の高級ポーションに匹敵、あるいはそれ以上の効果を持つ。副作用は一切存在しない】
【備考:完璧な手順と素材の選別によって生み出された奇跡の一品。市場に出せば、高値で取引されるだろう】

「……やった」

俺は思わず、ガッツポーズをした。傑作。Aランク。市販の高級ポーション以上。俺が作ったものが、とんでもない代物であることが証明された。

「すごい……アレンさん、すごい匂いがします! なんだか、力が湧いてくるみたいです!」

ルナが興奮したように言った。彼女の鋭い嗅覚は、このポーションに込められた魔力を感じ取っているのだろう。

俺は小瓶を光にかざし、その美しい緑色の液体を眺めた。

これがあれば、戦闘での生存率が格段に上がる。そしてこれを売れば、莫大な富を築くことができる。俺たちの未来を支える、強力な武器を手に入れたのだ。

冒険者としての戦闘能力。そして生産者としての創造能力。この二つが合わされば、俺たちはどこまでだって行ける。

俺は隣で喜ぶルナの顔を見て、笑いかけた。

「ルナ。俺たち、すごいことになっちまうかもしれないぞ」

追放された鑑定士の未来は、今や無限の可能性に満ちていた。
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