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第21話:毒ネズミの地下道
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傑作ポーションの完成に、俺たちの士気は最高潮に達していた。金貨一枚という大金を手にしたばかりだが、このポーションがあればさらに安定した収入源を確保できる。
「これを売れば、もっと良い装備が買えるし、美味しいものもたくさん食べられるぞ」
俺が言うと、ルナはこくんと頷き、期待に満ちた目で小瓶を見つめた。
翌日、俺たちは完成したポーションを売るため、ラトナで一番大きな薬屋を訪れた。ゴブリン討伐の依頼主だった店だ。店主は俺たちの顔を覚えており、にこやかに迎えてくれた。
「おお、ゴブリン退治の兄ちゃんたちか。どうしたね、今日は」
「実は、自分で作ったポーションがありまして。これを買い取ってはもらえませんか」
俺が小瓶をカウンターに置くと、店主は少し訝しげな顔をした。冒険者が片手間に作るポーションなど、品質はたかが知れている。そう思ったのだろう。
だが、彼が小瓶の蓋を開け、その香りを嗅いだ瞬間、表情が一変した。
「なっ……この芳醇な魔力の香りは……! まさか、これほどのポーションを君が?」
店主は慌てて鑑定用のルーペを取り出し、ポーションを検分し始めた。その目は、真剣そのものだ。
ちょうどその時、店の扉が勢いよく開き、一人の女性が駆け込んできた。
「ご主人! 解毒薬を! 夫の熱が、また上がって……!」
女性の顔は青ざめ、切羽詰まっている。店主は申し訳なさそうな顔で首を振った。
「すまないが、うちの店の解毒薬ももう在庫が…。それに、今流行りの病には、普通の解毒薬は効かないらしい」
「そんな……」
女性はがっくりと膝を落とした。街で病が流行っている? 俺は初耳だった。
「何かあったんですか?」
俺が尋ねると、店主はため息をつきながら説明してくれた。ここ数日、原因不明の病が街の一部で広まっているらしい。高熱と体の痺れが主な症状で、日に日に衰弱していくのだという。
俺は店の外に目をやった。確かに、街の活気がいつもより少しないように感じる。道行く人々の中にも、顔色の悪い者が散見された。
俺は店主に断りを入れ、病に苦しむ人々が集まっているという広場の救護所へと足を向けた。物見遊山ではない。この状況に、俺のスキルが役立つかもしれないと思ったからだ。
救護所には、簡易ベッドに横たわる十数人の患者がいた。皆、苦しそうに呻いている。俺は彼らに気づかれないよう、少し離れた場所から【万物解析】を発動した。
脳内に、患者たちの情報が流れ込んでくる。
【状態:高熱、四肢の麻痺、呼吸困難。体内に未知の神経毒(弱性)を確認】
やはり、ただの病気ではなかった。毒だ。俺はさらに解析を深め、毒の発生源を探る。
【毒の媒介:街の第三地区の共同井戸水。微量の毒素が混入】
原因は井戸水か。俺はすぐにその井戸へ向かった。見た目は普通の井戸だが、鑑定すると、その地下で古い水道網と繋がっていることが分かった。そして、その水道網から毒が流れ込んでいる。
毒の正体は……。
【名称:ヴェノムラットの毒液】
【備考:特殊な魔物『ヴェノムラット』が分泌する神経毒。少量でも人体に影響を及ぼす】
毒ネズミ。それが、この病の元凶だった。そして、そのネズミたちは、この街の地下に張り巡らされた古い水道網に巣を作っている。
事態は思ったより深刻だ。このまま放置すれば、被害はさらに拡大するだろう。
「ルナ、ギルドへ行くぞ」
俺は隣で心配そうにしていたルナに声をかけ、急いで冒険者ギルドへと向かった。
カウンターにいたミリーに事情を説明すると、彼女の顔色が変わった。
「毒ネズミが原因ですって!? 本当なの、アレンさん!」
「間違いありません。街の地下水道に巣を作っています。早くしないと、被害が街全体に広がります」
俺の真剣な言葉に、ミリーはゴクリと唾を飲んだ。ちょうどギルドでも、原因不明の病の調査依頼を出す準備をしていたところだったらしい。
「分かったわ。あなたの情報を信じる。この件、あなたたちに正式に依頼するわ。緊急依頼よ。原因を特定してくれた功績も加味して、報酬は金貨三枚!」
「受けます」
俺は即答した。これは金のためだけじゃない。俺たちが住むこの街を守るための戦いだ。
俺たちは街の衛兵の案内の下、地下水道への入り口がある古い管理塔へと向かった。錆びついた鉄格子を開けてもらうと、カビ臭く湿った空気が吹き上げてくる。
「気をつけてな。この下は、何十年も誰も入っていない迷宮だ」
衛兵の忠告を背に、俺とルナは松明の明かりを頼りに、暗い螺旋階段を下りていった。
地下は、レンガ造りの通路がどこまでも続く、広大な空間だった。足元には汚れた水が流れ、時折、不気味な鳴き声が反響する。
「アレンさん、気配がします。たくさん……」
ルナが耳を澄ませ、小声で言った。彼女が言うまでもなく、俺の鑑定もすでに敵の存在を捉えていた。
暗闇の向こうから、無数の赤い光点が現れる。それは全て、ネズミの目だった。普通のネズミではない。体長は五十センチほどもあり、その牙は不気味な紫色に濡れている。ヴェノムラットの群れだ。
「キィィィィ!」
甲高い鳴き声と共に、数十匹のヴェノムラットがこちらに向かって殺到してきた。
「ルナ、毒の牙にだけは気をつけろ! 動きは単調だ!」
俺は叫び、自分も短剣を構える。ルナはこくりと頷くと、疾風のようにネズミの群れへと突っ込んだ。
狭い通路は、彼女の独壇場だった。壁を蹴り、天井を走り、変幻自在の動きでネズミたちを翻弄する。銀色のダガーが閃くたびに、ヴェノムラットが一体、また一体と絶命していく。
俺も彼女の援護に回り、側面から襲いかかろうとする個体を確実に仕留めていった。
最初の群れを殲滅するのに、時間はかからなかった。だが、これはまだ序の口に過ぎない。この地下迷宮の奥には、さらに多くのネズミがいるはずだ。
俺たちは松明の光を頼りに、さらに奥へと進んでいく。道中、俺は鑑定でいくつかの古い罠を発見した。突然床が抜け落ちる落とし穴や、壁から毒矢が飛び出す仕掛け。それらを全て事前に看破し、俺たちは安全に進むことができた。
「アレンさんがいなければ、私、もう何度も死んでいました……」
ルナが感心したように言う。
「ルナがいてくれるから、俺も安心して索敵に集中できる」
俺たちは互いの能力を認め合い、完璧な連携でこの地下迷宮を攻略していく。
やがて、俺たちはひときわ大きな鉄の扉の前にたどり着いた。ここから、ひときわ濃密な魔物の気配と、邪悪な毒の匂いが漏れ出してきている。
俺は扉に手を触れ、【万物解析】を発動した。
「……いるぞ、ルナ。この奥だ。とんでもなく、デカいのがな」
扉の向こうにいるのは、ただのヴェノムラットではない。この群れの王。病の根源。俺たちの本当の敵が、そこに待ち構えていた。
「これを売れば、もっと良い装備が買えるし、美味しいものもたくさん食べられるぞ」
俺が言うと、ルナはこくんと頷き、期待に満ちた目で小瓶を見つめた。
翌日、俺たちは完成したポーションを売るため、ラトナで一番大きな薬屋を訪れた。ゴブリン討伐の依頼主だった店だ。店主は俺たちの顔を覚えており、にこやかに迎えてくれた。
「おお、ゴブリン退治の兄ちゃんたちか。どうしたね、今日は」
「実は、自分で作ったポーションがありまして。これを買い取ってはもらえませんか」
俺が小瓶をカウンターに置くと、店主は少し訝しげな顔をした。冒険者が片手間に作るポーションなど、品質はたかが知れている。そう思ったのだろう。
だが、彼が小瓶の蓋を開け、その香りを嗅いだ瞬間、表情が一変した。
「なっ……この芳醇な魔力の香りは……! まさか、これほどのポーションを君が?」
店主は慌てて鑑定用のルーペを取り出し、ポーションを検分し始めた。その目は、真剣そのものだ。
ちょうどその時、店の扉が勢いよく開き、一人の女性が駆け込んできた。
「ご主人! 解毒薬を! 夫の熱が、また上がって……!」
女性の顔は青ざめ、切羽詰まっている。店主は申し訳なさそうな顔で首を振った。
「すまないが、うちの店の解毒薬ももう在庫が…。それに、今流行りの病には、普通の解毒薬は効かないらしい」
「そんな……」
女性はがっくりと膝を落とした。街で病が流行っている? 俺は初耳だった。
「何かあったんですか?」
俺が尋ねると、店主はため息をつきながら説明してくれた。ここ数日、原因不明の病が街の一部で広まっているらしい。高熱と体の痺れが主な症状で、日に日に衰弱していくのだという。
俺は店の外に目をやった。確かに、街の活気がいつもより少しないように感じる。道行く人々の中にも、顔色の悪い者が散見された。
俺は店主に断りを入れ、病に苦しむ人々が集まっているという広場の救護所へと足を向けた。物見遊山ではない。この状況に、俺のスキルが役立つかもしれないと思ったからだ。
救護所には、簡易ベッドに横たわる十数人の患者がいた。皆、苦しそうに呻いている。俺は彼らに気づかれないよう、少し離れた場所から【万物解析】を発動した。
脳内に、患者たちの情報が流れ込んでくる。
【状態:高熱、四肢の麻痺、呼吸困難。体内に未知の神経毒(弱性)を確認】
やはり、ただの病気ではなかった。毒だ。俺はさらに解析を深め、毒の発生源を探る。
【毒の媒介:街の第三地区の共同井戸水。微量の毒素が混入】
原因は井戸水か。俺はすぐにその井戸へ向かった。見た目は普通の井戸だが、鑑定すると、その地下で古い水道網と繋がっていることが分かった。そして、その水道網から毒が流れ込んでいる。
毒の正体は……。
【名称:ヴェノムラットの毒液】
【備考:特殊な魔物『ヴェノムラット』が分泌する神経毒。少量でも人体に影響を及ぼす】
毒ネズミ。それが、この病の元凶だった。そして、そのネズミたちは、この街の地下に張り巡らされた古い水道網に巣を作っている。
事態は思ったより深刻だ。このまま放置すれば、被害はさらに拡大するだろう。
「ルナ、ギルドへ行くぞ」
俺は隣で心配そうにしていたルナに声をかけ、急いで冒険者ギルドへと向かった。
カウンターにいたミリーに事情を説明すると、彼女の顔色が変わった。
「毒ネズミが原因ですって!? 本当なの、アレンさん!」
「間違いありません。街の地下水道に巣を作っています。早くしないと、被害が街全体に広がります」
俺の真剣な言葉に、ミリーはゴクリと唾を飲んだ。ちょうどギルドでも、原因不明の病の調査依頼を出す準備をしていたところだったらしい。
「分かったわ。あなたの情報を信じる。この件、あなたたちに正式に依頼するわ。緊急依頼よ。原因を特定してくれた功績も加味して、報酬は金貨三枚!」
「受けます」
俺は即答した。これは金のためだけじゃない。俺たちが住むこの街を守るための戦いだ。
俺たちは街の衛兵の案内の下、地下水道への入り口がある古い管理塔へと向かった。錆びついた鉄格子を開けてもらうと、カビ臭く湿った空気が吹き上げてくる。
「気をつけてな。この下は、何十年も誰も入っていない迷宮だ」
衛兵の忠告を背に、俺とルナは松明の明かりを頼りに、暗い螺旋階段を下りていった。
地下は、レンガ造りの通路がどこまでも続く、広大な空間だった。足元には汚れた水が流れ、時折、不気味な鳴き声が反響する。
「アレンさん、気配がします。たくさん……」
ルナが耳を澄ませ、小声で言った。彼女が言うまでもなく、俺の鑑定もすでに敵の存在を捉えていた。
暗闇の向こうから、無数の赤い光点が現れる。それは全て、ネズミの目だった。普通のネズミではない。体長は五十センチほどもあり、その牙は不気味な紫色に濡れている。ヴェノムラットの群れだ。
「キィィィィ!」
甲高い鳴き声と共に、数十匹のヴェノムラットがこちらに向かって殺到してきた。
「ルナ、毒の牙にだけは気をつけろ! 動きは単調だ!」
俺は叫び、自分も短剣を構える。ルナはこくりと頷くと、疾風のようにネズミの群れへと突っ込んだ。
狭い通路は、彼女の独壇場だった。壁を蹴り、天井を走り、変幻自在の動きでネズミたちを翻弄する。銀色のダガーが閃くたびに、ヴェノムラットが一体、また一体と絶命していく。
俺も彼女の援護に回り、側面から襲いかかろうとする個体を確実に仕留めていった。
最初の群れを殲滅するのに、時間はかからなかった。だが、これはまだ序の口に過ぎない。この地下迷宮の奥には、さらに多くのネズミがいるはずだ。
俺たちは松明の光を頼りに、さらに奥へと進んでいく。道中、俺は鑑定でいくつかの古い罠を発見した。突然床が抜け落ちる落とし穴や、壁から毒矢が飛び出す仕掛け。それらを全て事前に看破し、俺たちは安全に進むことができた。
「アレンさんがいなければ、私、もう何度も死んでいました……」
ルナが感心したように言う。
「ルナがいてくれるから、俺も安心して索敵に集中できる」
俺たちは互いの能力を認め合い、完璧な連携でこの地下迷宮を攻略していく。
やがて、俺たちはひときわ大きな鉄の扉の前にたどり着いた。ここから、ひときわ濃密な魔物の気配と、邪悪な毒の匂いが漏れ出してきている。
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