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第22話:巨大なボス
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重い鉄の扉は、俺が体重をかけると、ギィィと耳障りな音を立てて開いた。その向こうに広がっていたのは、これまでの狭い通路とは全く違う、広大な円形の空洞だった。ドーム状の天井は高く、どこからか差し込む微かな光が、不気味な空間をぼんやりと照らしている。
そして、その中央に『それ』はいた。
ゴミや動物の骨、そしておそらくは人間のものと思われる武具の残骸が、小高い丘のように積み上げられている。その頂点に、まるで玉座に鎮座する王のように、一体の巨大なネズミがいた。
体長は三メートルを超えるだろうか。その毛皮は汚れた灰色で、無数の傷跡が走り、片目は潰れて白濁している。口元からは絶えず紫色の毒液が滴り落ち、地面の石をジューッと溶かしていた。ヴェノムラットの群れを束ねるボス、『プレイグラット』に違いなかった。
「キシャアアア!」
プレイグラットは俺たちの存在に気づくと、耳障りな威嚇音を発した。その声だけで、空気がビリビリと震える。凄まじい威圧感だ。ゴブリン・チャンピオンなど、子供の遊びに見える。
俺は恐怖で竦みそうになる足を叱咤し、即座にスキルを発動した。
【名称:プレイグラット(変異種)】
【レベル:22】
【状態:縄張りを侵され激怒】
【スキル:猛毒液、強酸の唾液、テールスマッシュ】
【特性:異常な再生能力。並の攻撃ではすぐに傷が塞がってしまう】
【弱点:腹部に隠された『汚染された魔石』。そこが力の源であり、唯一の急所。ただし、分厚い脂肪と硬い皮膚で守られている】
レベル22。そして、厄介な再生能力。やはり、一筋縄ではいかない相手だ。
「ルナ、聞こえるか。あいつの弱点は腹にある魔石だ。それ以外を攻撃しても、すぐに再生してしまう」
俺は小声で、しかしはっきりと指示を出す。
「分かった。でも、どうやって……」
ルナが問う。その通りだ。プレイグラットは四つ足でどっしりと構えており、腹部は完全に地面に隠れている。
「隙は必ずある。俺がそれを見つけ出す。それまで、絶対に無理な攻撃はするな。回避に専念しろ!」
「はい!」
俺たちの短い会話を、プレイグラットは許さなかった。巨体に見合わぬ俊敏さで地面を蹴り、弾丸のように突進してくる。
「散開!」
俺とルナは、同時に左右へ飛んだ。プレイグラットが通り過ぎた後の壁に、巨大な穴が開く。まともに食らえば、即死だった。
「キィィ!」
突進をかわされたプレイグラットは、今度は長い尻尾をしならせ、鞭のように薙ぎ払ってきた。スキル『テールスマッシュ』だ。
ルナはそれを驚異的な跳躍で回避する。俺も地面に伏せて、すんでのところで攻撃をやり過ごした。
「アレンさん、あいつ、口から何か……!」
ルナの叫び声。見ると、プレイグラットが大きく口を開け、紫色の液体を吐き出してきた。『猛毒液』だ。それは霧状に広がり、俺たちの退路を塞ぐ。
「壁を走れ!」
俺の指示に、ルナは迷わず空洞の壁面を駆け上がった。獣人ならではの身軽さで、毒の霧が届かない高さまで一気に移動する。俺も後退し、安全な距離を確保した。
ルナは壁を蹴ると、プレイグラットの背後へと回り込んだ。そして、その隙を突いてダガーで一閃。だが、刃は硬い毛皮に阻まれ、浅い傷しかつけられない。そして、その傷は見る間にモコモコと盛り上がり、塞がってしまった。
「くっ……再生が速すぎる!」
これではジリ貧だ。どうにかして、腹部の魔石を攻撃する機会を作らなければ。
俺は戦況を見守りながら、プレイグラットの動きを徹底的に分析する。突進、尻尾、毒液。攻撃パターンは三つ。その全てが大振りで、攻撃後にはわずかな硬直時間がある。だが、その隙は腹を狙うには短すぎる。
何か、もっと大きな隙はないのか。
その時、プレイグラットが奇妙な動きを見せた。後ろ足に力を溜め、まるで巨大なカエルのように、その場にうずくまる。
【行動予測:【ボディプレス】。高く跳躍し、目標を押し潰す。着地後、約三秒間、腹部が無防備になる】
これだ!
「ルナ、そいつから離れろ! 俺のところへ来い!」
俺は絶好の好機が訪れたことを確信し、ルナを呼び寄せた。ルナは俺の意図を察し、すぐに俺の隣まで戻ってくる。
プレイグラットは、ターゲットを俺たち二人に定めたようだった。その巨体が、信じられないほどの跳躍力で宙を舞う。巨大な影が、俺たちに覆いかぶさってきた。
「今だ、散開!」
俺たちは再び左右に分かれて回避する。直後、轟音と共に地面が揺れ、プレイグラットが着地した。予測通り、その衝撃で体勢を崩し、巨体を揺らしている。
そして、その腹部が、わずかに持ち上がった体勢のせいで、ほんの一瞬だけ、無防備に晒された。そこには、禍々しい紫色の光を放つ、拳大の魔石が埋め込まれているのが見えた。
「ルナ、行けえええ!」
俺の絶叫が、空洞に響き渡る。ルナは、俺が叫ぶよりも速く動いていた。地面を滑るような低い姿勢で、体勢を立て直そうとしているプレイグラットの懐へと一直線に潜り込む。
「キシャア!?」
プレイグラットが危険を察知し、慌てて体を起こそうとする。だが、もう遅い。
ルナは腹部の下で体を反転させ、渾身の力を込めて、一対のダガーを魔石のど真ん中に突き立てた。
パリンッ!
ガラスが砕けるような、甲高い音が響いた。
「ギ……ギィイイイイイイイアアアアア!」
プレイグラットが、これまでとは比較にならない、凄まじい断末魔の叫びを上げた。力の源である魔石を破壊され、その巨体が痙攣する。異常な速度を誇った再生能力も、今はもう機能しない。
紫色の毒液を撒き散らしながら、巨獣はゆっくりと横倒しになり、やがて完全に動きを止めた。
静寂が戻る。俺は荒い息を整えながら、倒れたプレイグラットを見つめた。勝ったのだ。
ルナが、返り血を浴びたまま、ふらりとこちらへ歩いてくる。
「やりました……アレンさん」
その顔には、疲労の色が濃く浮かんでいたが、瞳は達成感で輝いていた。
「ああ、やったな。君のおかげだ、ルナ」
俺は彼女の肩を支え、その健闘を称えた。俺一人では、絶対に勝てなかった。ルナがいてくれたから、そして俺たちの連携があったからこその勝利だ。
これで、街を蝕んでいた病の根源は断たれた。俺たちは、この街を守ったのだ。
俺は倒れたプレイグラットの亡骸に近づき、砕け散った魔石の欠片をいくつか拾い上げた。これも、依頼達成の証拠になるだろう。
俺とルナは、互いの無事を確認し合うと、地上への帰路についた。暗く、不気味だった地下道が、今はどこか誇らしい勝利の道のように感じられた。
そして、その中央に『それ』はいた。
ゴミや動物の骨、そしておそらくは人間のものと思われる武具の残骸が、小高い丘のように積み上げられている。その頂点に、まるで玉座に鎮座する王のように、一体の巨大なネズミがいた。
体長は三メートルを超えるだろうか。その毛皮は汚れた灰色で、無数の傷跡が走り、片目は潰れて白濁している。口元からは絶えず紫色の毒液が滴り落ち、地面の石をジューッと溶かしていた。ヴェノムラットの群れを束ねるボス、『プレイグラット』に違いなかった。
「キシャアアア!」
プレイグラットは俺たちの存在に気づくと、耳障りな威嚇音を発した。その声だけで、空気がビリビリと震える。凄まじい威圧感だ。ゴブリン・チャンピオンなど、子供の遊びに見える。
俺は恐怖で竦みそうになる足を叱咤し、即座にスキルを発動した。
【名称:プレイグラット(変異種)】
【レベル:22】
【状態:縄張りを侵され激怒】
【スキル:猛毒液、強酸の唾液、テールスマッシュ】
【特性:異常な再生能力。並の攻撃ではすぐに傷が塞がってしまう】
【弱点:腹部に隠された『汚染された魔石』。そこが力の源であり、唯一の急所。ただし、分厚い脂肪と硬い皮膚で守られている】
レベル22。そして、厄介な再生能力。やはり、一筋縄ではいかない相手だ。
「ルナ、聞こえるか。あいつの弱点は腹にある魔石だ。それ以外を攻撃しても、すぐに再生してしまう」
俺は小声で、しかしはっきりと指示を出す。
「分かった。でも、どうやって……」
ルナが問う。その通りだ。プレイグラットは四つ足でどっしりと構えており、腹部は完全に地面に隠れている。
「隙は必ずある。俺がそれを見つけ出す。それまで、絶対に無理な攻撃はするな。回避に専念しろ!」
「はい!」
俺たちの短い会話を、プレイグラットは許さなかった。巨体に見合わぬ俊敏さで地面を蹴り、弾丸のように突進してくる。
「散開!」
俺とルナは、同時に左右へ飛んだ。プレイグラットが通り過ぎた後の壁に、巨大な穴が開く。まともに食らえば、即死だった。
「キィィ!」
突進をかわされたプレイグラットは、今度は長い尻尾をしならせ、鞭のように薙ぎ払ってきた。スキル『テールスマッシュ』だ。
ルナはそれを驚異的な跳躍で回避する。俺も地面に伏せて、すんでのところで攻撃をやり過ごした。
「アレンさん、あいつ、口から何か……!」
ルナの叫び声。見ると、プレイグラットが大きく口を開け、紫色の液体を吐き出してきた。『猛毒液』だ。それは霧状に広がり、俺たちの退路を塞ぐ。
「壁を走れ!」
俺の指示に、ルナは迷わず空洞の壁面を駆け上がった。獣人ならではの身軽さで、毒の霧が届かない高さまで一気に移動する。俺も後退し、安全な距離を確保した。
ルナは壁を蹴ると、プレイグラットの背後へと回り込んだ。そして、その隙を突いてダガーで一閃。だが、刃は硬い毛皮に阻まれ、浅い傷しかつけられない。そして、その傷は見る間にモコモコと盛り上がり、塞がってしまった。
「くっ……再生が速すぎる!」
これではジリ貧だ。どうにかして、腹部の魔石を攻撃する機会を作らなければ。
俺は戦況を見守りながら、プレイグラットの動きを徹底的に分析する。突進、尻尾、毒液。攻撃パターンは三つ。その全てが大振りで、攻撃後にはわずかな硬直時間がある。だが、その隙は腹を狙うには短すぎる。
何か、もっと大きな隙はないのか。
その時、プレイグラットが奇妙な動きを見せた。後ろ足に力を溜め、まるで巨大なカエルのように、その場にうずくまる。
【行動予測:【ボディプレス】。高く跳躍し、目標を押し潰す。着地後、約三秒間、腹部が無防備になる】
これだ!
「ルナ、そいつから離れろ! 俺のところへ来い!」
俺は絶好の好機が訪れたことを確信し、ルナを呼び寄せた。ルナは俺の意図を察し、すぐに俺の隣まで戻ってくる。
プレイグラットは、ターゲットを俺たち二人に定めたようだった。その巨体が、信じられないほどの跳躍力で宙を舞う。巨大な影が、俺たちに覆いかぶさってきた。
「今だ、散開!」
俺たちは再び左右に分かれて回避する。直後、轟音と共に地面が揺れ、プレイグラットが着地した。予測通り、その衝撃で体勢を崩し、巨体を揺らしている。
そして、その腹部が、わずかに持ち上がった体勢のせいで、ほんの一瞬だけ、無防備に晒された。そこには、禍々しい紫色の光を放つ、拳大の魔石が埋め込まれているのが見えた。
「ルナ、行けえええ!」
俺の絶叫が、空洞に響き渡る。ルナは、俺が叫ぶよりも速く動いていた。地面を滑るような低い姿勢で、体勢を立て直そうとしているプレイグラットの懐へと一直線に潜り込む。
「キシャア!?」
プレイグラットが危険を察知し、慌てて体を起こそうとする。だが、もう遅い。
ルナは腹部の下で体を反転させ、渾身の力を込めて、一対のダガーを魔石のど真ん中に突き立てた。
パリンッ!
ガラスが砕けるような、甲高い音が響いた。
「ギ……ギィイイイイイイイアアアアア!」
プレイグラットが、これまでとは比較にならない、凄まじい断末魔の叫びを上げた。力の源である魔石を破壊され、その巨体が痙攣する。異常な速度を誇った再生能力も、今はもう機能しない。
紫色の毒液を撒き散らしながら、巨獣はゆっくりと横倒しになり、やがて完全に動きを止めた。
静寂が戻る。俺は荒い息を整えながら、倒れたプレイグラットを見つめた。勝ったのだ。
ルナが、返り血を浴びたまま、ふらりとこちらへ歩いてくる。
「やりました……アレンさん」
その顔には、疲労の色が濃く浮かんでいたが、瞳は達成感で輝いていた。
「ああ、やったな。君のおかげだ、ルナ」
俺は彼女の肩を支え、その健闘を称えた。俺一人では、絶対に勝てなかった。ルナがいてくれたから、そして俺たちの連携があったからこその勝利だ。
これで、街を蝕んでいた病の根源は断たれた。俺たちは、この街を守ったのだ。
俺は倒れたプレイグラットの亡骸に近づき、砕け散った魔石の欠片をいくつか拾い上げた。これも、依頼達成の証拠になるだろう。
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