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第68話:邪教のシンボル
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俺は手のひらの上で転がるビー玉ほどの大きさの黒い宝珠を凝視していた。それは先ほどの汚染された狼が消滅した後に唯一残されたものだった。表面は滑らかで、まるで黒曜石のように冷たい光を鈍く反射している。
「アレンさん、それは何ですか?」
ルナが不思議そうに俺の手元を覗き込んできた。
「……分からん。だが、良いものではないことだけは確かだ」
俺は改めてその宝珠に【万物解析】の全能力を集中させた。先ほどよりもさらに深い階層の情報へとアクセスする。脳の奥にキリで突き刺されるような鋭い痛みが走ったが、今は構っていられない。
やがて、俺の脳裏に禍々しい文字が浮かび上がってきた。
【名称:狂信の宝珠(下級)】
【種別:呪物】
【効果:生物の体内に埋め込むことで、その精神を蝕み、肉体を邪悪な魔力で汚染・変質させる。対象の生命力を糧とし、最終的には自我を失った殺戮機械へと変貌させる】
【備考:特定のシンボルが刻まれている。これは、古代の邪神を崇める、ある教団の紋章に酷似している】
「……なんだ、これは……」
俺は、そのあまりにおぞましい内容に思わず声を漏らした。
生物を無理やり怪物に変えるための道具。そして、邪神を崇める教団。
「アレン? どうしたんだ、顔色が悪いぞ」
シルフィが俺の異変に気づき、訝しげに尋ねる。
俺は鑑定で得た情報を三人に共有した。宝珠の効果と、そこに刻まれたシンボルの意味。それを聞いた三人の顔から、さっと血の気が引いていく。
「人を……魔物に変えるですって……?」
フィオナが信じられないといった表情で、震える声を出した。
「なんて非道なことを……。命をなんだと思っているんだ!」
シルフィの瞳に激しい怒りの炎が燃え上がる。
ルナはただ黙って、俺が持つ黒い宝珠を恐怖に満ちた目で見つめていた。
俺は、宝珠の表面に微かに刻まれた蛇が自らの尾を喰らうような円形のシンボルを指先でなぞった。これが邪教団の紋章。
連続失踪事件の輪郭がようやく見えてきた。
犯人は単なる金目当ての野盗ではない。ましてや、縄張りを荒らす魔物などでもない。
何らかの目的を持って人間や生物を攫い、この『狂信の宝珠』を使っておぞましい怪物へと変えている邪悪な集団。それがこの事件の真相に近いのだろう。
だとすれば、行方不明になった十四人の人々は……。
最悪の可能性が俺の頭をよぎり、胃の奥が冷たくなった。
「……行くぞ」
俺は短い言葉で仲間たちに告げた。
「この森のさらに奥だ。この魔力の残滓を辿れば、奴らのアジトにたどり着けるはずだ」
俺の決意に、三人は黙って頷いた。恐怖や嫌悪感はある。だが、それ以上にこの許されざる悪行を自分たちの手で止めなければならないという強い使命感が、俺たちを突き動かしていた。
俺たちは森のさらに深部へと足を踏み入れていく。
道中、俺たちはさらに数体の汚染された魔物に遭遇した。巨大な熊、猪、そして本来なら温厚なはずの森鹿までが邪悪な紫色のオーラをまとい、俺たちに襲いかかってきた。
その全てを俺たちは一体ずつ確実に仕留めていく。戦いは苛烈だったが、俺たちの連携の前では敵ではなかった。そして、その度に奴らの亡骸からは、あの黒い『狂信の宝珠』が一つずつ残された。
まるで悪意に満ちた道標のように。
やがて、俺たちは森が開けた岩場の多い谷間に出た。そして、その谷間の奥に古びた石造りの遺跡のような建物が、ひっそりと佇んでいるのを発見した。
そこから、これまで感じてきたものとは比較にならないほど濃密で邪悪な魔力が放出されていた。
「……あそこだ。間違いない」
俺は確信を持って呟いた。
「アジト……ですのね」
フィオナがごくりと唾を飲む。
俺たちは音を殺し、岩陰に身を隠しながら慎重にその遺跡へと近づいていった。
遺跡の入り口には見張りはいなかった。だが、その代わりに地面には禍々しい紫色の魔法陣が描かれており、不気味な光を放っている。強力な警備結界が張られているのだ。
「どうする、アレン。正面から突っ込むか?」
シルフィがやる気満々といった様子で尋ねる。
「いや、待て」
俺は【万物解析】で、その結界の構造を分析した。
【名称:邪念感知の結界】
【効果:敵意や殺意を持って近づく者を感知し、術者に警告を送る。また、内部の音を外部に漏らさない効果もある】
【弱点:結界のエネルギー供給源は、入り口の左右にある二つの隠された魔石。それらを同時に破壊すれば、結界は一時的に無力化する】
「……やはり一筋縄ではいかないな。ルナ、シルフィ」
俺は二人に小声で指示を出した。
「入り口の左右、あの岩陰に結界の動力源がある。私の合図で同時にそれを破壊してくれ。いいな?」
二人はこくりと頷いた。ルナは影のように、シルフィは岩場の陰を伝って音もなくそれぞれの配置につく。
俺はフィオナと共に正面の茂みに身を潜め、その時を待った。
遺跡の中からは人の声は聞こえない。だが、時折獣の苦しむようなうめき声のようなものが微かに聞こえてくる気がした。
俺は深呼吸を一つすると、二人に合図を送った。
「――今だ!」
その瞬間、ルナのダガーとシルフィの魔剣が同時に閃いた。
ガキンという硬い音と共に二つの隠された魔石が砕け散る。遺跡を覆っていた不気味な紫色の光がふっと消え失せた。
結界は破られた。
「行くぞ!」
俺たちは息を殺し、幽鬼のように邪教団のアジトへと、その内部へと静かに侵入を開始した。
この先に何が待ち受けていようとも、俺たちはもう引き返すつもりはなかった。
「アレンさん、それは何ですか?」
ルナが不思議そうに俺の手元を覗き込んできた。
「……分からん。だが、良いものではないことだけは確かだ」
俺は改めてその宝珠に【万物解析】の全能力を集中させた。先ほどよりもさらに深い階層の情報へとアクセスする。脳の奥にキリで突き刺されるような鋭い痛みが走ったが、今は構っていられない。
やがて、俺の脳裏に禍々しい文字が浮かび上がってきた。
【名称:狂信の宝珠(下級)】
【種別:呪物】
【効果:生物の体内に埋め込むことで、その精神を蝕み、肉体を邪悪な魔力で汚染・変質させる。対象の生命力を糧とし、最終的には自我を失った殺戮機械へと変貌させる】
【備考:特定のシンボルが刻まれている。これは、古代の邪神を崇める、ある教団の紋章に酷似している】
「……なんだ、これは……」
俺は、そのあまりにおぞましい内容に思わず声を漏らした。
生物を無理やり怪物に変えるための道具。そして、邪神を崇める教団。
「アレン? どうしたんだ、顔色が悪いぞ」
シルフィが俺の異変に気づき、訝しげに尋ねる。
俺は鑑定で得た情報を三人に共有した。宝珠の効果と、そこに刻まれたシンボルの意味。それを聞いた三人の顔から、さっと血の気が引いていく。
「人を……魔物に変えるですって……?」
フィオナが信じられないといった表情で、震える声を出した。
「なんて非道なことを……。命をなんだと思っているんだ!」
シルフィの瞳に激しい怒りの炎が燃え上がる。
ルナはただ黙って、俺が持つ黒い宝珠を恐怖に満ちた目で見つめていた。
俺は、宝珠の表面に微かに刻まれた蛇が自らの尾を喰らうような円形のシンボルを指先でなぞった。これが邪教団の紋章。
連続失踪事件の輪郭がようやく見えてきた。
犯人は単なる金目当ての野盗ではない。ましてや、縄張りを荒らす魔物などでもない。
何らかの目的を持って人間や生物を攫い、この『狂信の宝珠』を使っておぞましい怪物へと変えている邪悪な集団。それがこの事件の真相に近いのだろう。
だとすれば、行方不明になった十四人の人々は……。
最悪の可能性が俺の頭をよぎり、胃の奥が冷たくなった。
「……行くぞ」
俺は短い言葉で仲間たちに告げた。
「この森のさらに奥だ。この魔力の残滓を辿れば、奴らのアジトにたどり着けるはずだ」
俺の決意に、三人は黙って頷いた。恐怖や嫌悪感はある。だが、それ以上にこの許されざる悪行を自分たちの手で止めなければならないという強い使命感が、俺たちを突き動かしていた。
俺たちは森のさらに深部へと足を踏み入れていく。
道中、俺たちはさらに数体の汚染された魔物に遭遇した。巨大な熊、猪、そして本来なら温厚なはずの森鹿までが邪悪な紫色のオーラをまとい、俺たちに襲いかかってきた。
その全てを俺たちは一体ずつ確実に仕留めていく。戦いは苛烈だったが、俺たちの連携の前では敵ではなかった。そして、その度に奴らの亡骸からは、あの黒い『狂信の宝珠』が一つずつ残された。
まるで悪意に満ちた道標のように。
やがて、俺たちは森が開けた岩場の多い谷間に出た。そして、その谷間の奥に古びた石造りの遺跡のような建物が、ひっそりと佇んでいるのを発見した。
そこから、これまで感じてきたものとは比較にならないほど濃密で邪悪な魔力が放出されていた。
「……あそこだ。間違いない」
俺は確信を持って呟いた。
「アジト……ですのね」
フィオナがごくりと唾を飲む。
俺たちは音を殺し、岩陰に身を隠しながら慎重にその遺跡へと近づいていった。
遺跡の入り口には見張りはいなかった。だが、その代わりに地面には禍々しい紫色の魔法陣が描かれており、不気味な光を放っている。強力な警備結界が張られているのだ。
「どうする、アレン。正面から突っ込むか?」
シルフィがやる気満々といった様子で尋ねる。
「いや、待て」
俺は【万物解析】で、その結界の構造を分析した。
【名称:邪念感知の結界】
【効果:敵意や殺意を持って近づく者を感知し、術者に警告を送る。また、内部の音を外部に漏らさない効果もある】
【弱点:結界のエネルギー供給源は、入り口の左右にある二つの隠された魔石。それらを同時に破壊すれば、結界は一時的に無力化する】
「……やはり一筋縄ではいかないな。ルナ、シルフィ」
俺は二人に小声で指示を出した。
「入り口の左右、あの岩陰に結界の動力源がある。私の合図で同時にそれを破壊してくれ。いいな?」
二人はこくりと頷いた。ルナは影のように、シルフィは岩場の陰を伝って音もなくそれぞれの配置につく。
俺はフィオナと共に正面の茂みに身を潜め、その時を待った。
遺跡の中からは人の声は聞こえない。だが、時折獣の苦しむようなうめき声のようなものが微かに聞こえてくる気がした。
俺は深呼吸を一つすると、二人に合図を送った。
「――今だ!」
その瞬間、ルナのダガーとシルフィの魔剣が同時に閃いた。
ガキンという硬い音と共に二つの隠された魔石が砕け散る。遺跡を覆っていた不気味な紫色の光がふっと消え失せた。
結界は破られた。
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