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第69話:黒いローブの集団
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邪悪な結界を破り、俺たちは音もなく遺跡の内部へと足を踏み入れた。ひんやりとした石の空気が肌を撫で、カビとそして微かな血の匂いが鼻をつく。通路は薄暗く、壁に設置された松明の頼りない光が長い影を揺らめかせていた。
俺は【万物解析】を常に発動させ先行する。ルナが影のようにそれに続き、シルフィとフィオナが背後を固める。完璧な潜入隊形だった。
【前方二十メートル、通路の床に圧力感知式の罠。踏むと天井から酸を塗った杭が落下する】
俺は身振り手振りで後続の三人に罠の存在を伝え、その脇を慎重にすり抜けていく。この遺跡はダンジョンさながらに、悪意に満ちた罠で満ち溢れていた。だが、俺のスキルがあれば、それらは何の意味もなさない。
しばらく進むと、通路の先から人の声が聞こえてきた。複数の人間が何かを唱えているような、抑揚のある声だ。
俺たちは壁際に身を寄せ、息を殺してその声に耳を澄ませた。
「……虚無なる蛇に、その身を捧げよ……」
「……混沌の帳の下、我らは一つとならん……」
「……偉大なる邪神様の御力の片鱗を、賜りたまえ……」
不気味な祈りの言葉。それはまるで何かの儀式を行っているかのようだった。
俺は通路の角からそっと中の様子を窺った。そこは広大な儀式場のような空間だった。床には入り口で見たものよりもさらに複雑で巨大な魔法陣が描かれ、禍々しい紫色の光を放っている。
そして、その魔法陣を取り囲むように十数人の人影があった。
彼らは全員、顔を深く覆うフードが付いた漆黒のローブを身にまとっていた。その手には奇妙な形をした儀式用の短剣を握りしめ、一心不乱に祈りを捧げている。
間違いない。こいつらが邪教団の連中だ。
そして、俺はその光景の中心に信じられないものを見て、息を呑んだ。
魔法陣の中央にはいくつもの粗末な檻が置かれていた。そして、その中には変わり果てた姿の人間たちが閉じ込められていたのだ。
彼らの体は痩せこけ、その瞳には理性の光はなく、ただ飢えた獣のような光だけが宿っている。そして、その胸にはあの黒い『狂信の宝珠』が、まるで腫瘍のように皮膚を突き破って埋め込まれていた。
「……ああ……」
俺の背後からフィオナのかすれた声が漏れた。彼女もまた、そのおぞましい光景に言葉を失っていた。
行方不明になった人々。彼らは殺されたのではなかった。生きたまま捕らえられ、この場所でおぞましい実験の材料にされていたのだ。
激しい怒りが、俺の心の奥底からマグマのように噴き出した。これは許されない。断じて許してはならない行為だ。
儀式は佳境に差し掛かっているようだった。黒ローブの一人がリーダー格なのだろう、一歩前に進み出た。
「時は満ちた! 偉大なる『虚無の蛇』の御名において、この者たちにさらなる混沌の祝福を与えん!」
リーダーが短剣を振り上げると、魔法陣の輝きが一層強くなる。檻の中の人間たちが苦しそうに呻き声を上げ始めた。彼らの体がさらに異形なものへと変貌しようとしている。
もう見ているだけではいられなかった。
「……やるぞ」
俺は短く、しかし決意を込めて仲間たちに告げた。
俺の合図を待たず、シルフィが最初に動いた。彼女の怒りはすでに限界に達していたのだ。
「外道が!」
雷のような叫びと共に、シルフィが儀式場へと飛び出した。月光魔剣『ソウルセイバー』が抜き放たれ、聖なる銀色の光を放つ。
「な、何者だ!?」
黒ローブたちが突然の乱入者に驚き、慌てて武器を構える。
「ルナ、フィオナ、続け! 檻の解放を最優先しろ!」
俺もまた短剣を手に飛び出した。ルナは影となって走り、儀式の邪魔をする黒ローブたちを的確に牽制する。フィオナは後方から援護の魔法を詠唱し始めた。
「【ライト・バインド】!」
フィオナの杖から放たれた光の鎖が、数人の黒ローブたちの動きを封じる。
「おのれ、邪魔立てするか!」
リーダー格の男が俺たちに向かって邪悪な魔力の塊を放ってきた。だが、その攻撃はシルフィの魔剣の一振りによっていとも簡単に掻き消される。
「貴様らの好きにはさせん!」
シルフィの剣が嵐のように荒れ狂う。聖属性を帯びた斬撃は、邪教を奉ずる彼らにとって天敵そのものだった。黒ローブたちが次々と悲鳴を上げて倒れていく。
その間に、俺とルナは檻へと駆け寄っていた。檻には複雑な呪いの錠前がかかっていたが、俺の【万物解析】の前では無力だった。
「解除方法は……この三つのルーンを、逆の順番でなぞるだけだ!」
俺が錠前の構造を瞬時に見抜くと、ルナがそのしなやかな指先で素早くそれを実行していく。カチリと音がして、一つ、また一つと檻の扉が開かれていった。
だが、解放された人々は俺たちに感謝するどころか、虚ろな目で唸り声を上げ、襲いかかってこようとする。彼らはもはや自我を失っているのだ。
「フィオナ! 彼らを眠らせろ!」
「はい、先生! 【スリープ・クラウド】!」
フィオナが広範囲に効果のある睡眠魔法を放つ。優しい光の霧が暴れる人々を包み込み、彼らは次々とその場に崩れ落ち穏やかな寝息を立て始めた。
儀式場は阿鼻叫喚の地獄と化していた。シルフィの圧倒的な剣技とルナの神速の動き、そしてフィオナの的確な援護。俺たちの連携はもはや芸術の域に達している。
黒ローブたちはなすすべもなく、その数を減らしていった。
やがて、残るはリーダー格の男、ただ一人となった。
彼は信じられないといった表情で、床に転がる仲間たちの亡骸と俺たちを交互に見ている。
「馬鹿な……我らが『虚無の蛇』の儀式が……こんな、小娘どもに……!」
彼は何かを叫びながら、懐から黒く輝くこれまで見たものよりも大きな宝珠を取り出した。
「おのれ……こうなれば、貴様らも道連れだ! この身を、偉大なる邪神様への生贄と……」
男がその宝珠を自らの胸に突き立てようとした、その時だった。
「――遅い」
彼の背後にいつの間にかシルフィが立っていた。
月光魔剣が音もなく、その心臓を貫いていた。
「……が……はっ……」
リーダー格の男は最後まで信じられないといった表情を浮かべたまま、その場に崩れ落ちた。
静寂が儀式場に戻る。
俺たちはひとまずの勝利を収めたのだ。だが、誰の顔にも喜びの色はなかった。
床に眠る、元は人間だった者たちの変わり果てた姿。そして、この遺跡に漂う拭い去ることのできない邪悪な気配。
この事件の根は、俺たちが思っていたよりもずっと深く、そして暗い。
俺は倒れたリーダー格の男の亡骸に近づき、そのフードを剥いだ。その下から現れたのは、ごく普通のどこにでもいるような中年男性の顔だった。ただ、その顔には狂信者の証である蛇の刺青が刻まれていた。
『虚無の蛇』。
俺はその名を、決して忘れまいと心に固く誓った。
俺たちの本当の戦いは、まだ始まったばかりなのかもしれない。
俺は【万物解析】を常に発動させ先行する。ルナが影のようにそれに続き、シルフィとフィオナが背後を固める。完璧な潜入隊形だった。
【前方二十メートル、通路の床に圧力感知式の罠。踏むと天井から酸を塗った杭が落下する】
俺は身振り手振りで後続の三人に罠の存在を伝え、その脇を慎重にすり抜けていく。この遺跡はダンジョンさながらに、悪意に満ちた罠で満ち溢れていた。だが、俺のスキルがあれば、それらは何の意味もなさない。
しばらく進むと、通路の先から人の声が聞こえてきた。複数の人間が何かを唱えているような、抑揚のある声だ。
俺たちは壁際に身を寄せ、息を殺してその声に耳を澄ませた。
「……虚無なる蛇に、その身を捧げよ……」
「……混沌の帳の下、我らは一つとならん……」
「……偉大なる邪神様の御力の片鱗を、賜りたまえ……」
不気味な祈りの言葉。それはまるで何かの儀式を行っているかのようだった。
俺は通路の角からそっと中の様子を窺った。そこは広大な儀式場のような空間だった。床には入り口で見たものよりもさらに複雑で巨大な魔法陣が描かれ、禍々しい紫色の光を放っている。
そして、その魔法陣を取り囲むように十数人の人影があった。
彼らは全員、顔を深く覆うフードが付いた漆黒のローブを身にまとっていた。その手には奇妙な形をした儀式用の短剣を握りしめ、一心不乱に祈りを捧げている。
間違いない。こいつらが邪教団の連中だ。
そして、俺はその光景の中心に信じられないものを見て、息を呑んだ。
魔法陣の中央にはいくつもの粗末な檻が置かれていた。そして、その中には変わり果てた姿の人間たちが閉じ込められていたのだ。
彼らの体は痩せこけ、その瞳には理性の光はなく、ただ飢えた獣のような光だけが宿っている。そして、その胸にはあの黒い『狂信の宝珠』が、まるで腫瘍のように皮膚を突き破って埋め込まれていた。
「……ああ……」
俺の背後からフィオナのかすれた声が漏れた。彼女もまた、そのおぞましい光景に言葉を失っていた。
行方不明になった人々。彼らは殺されたのではなかった。生きたまま捕らえられ、この場所でおぞましい実験の材料にされていたのだ。
激しい怒りが、俺の心の奥底からマグマのように噴き出した。これは許されない。断じて許してはならない行為だ。
儀式は佳境に差し掛かっているようだった。黒ローブの一人がリーダー格なのだろう、一歩前に進み出た。
「時は満ちた! 偉大なる『虚無の蛇』の御名において、この者たちにさらなる混沌の祝福を与えん!」
リーダーが短剣を振り上げると、魔法陣の輝きが一層強くなる。檻の中の人間たちが苦しそうに呻き声を上げ始めた。彼らの体がさらに異形なものへと変貌しようとしている。
もう見ているだけではいられなかった。
「……やるぞ」
俺は短く、しかし決意を込めて仲間たちに告げた。
俺の合図を待たず、シルフィが最初に動いた。彼女の怒りはすでに限界に達していたのだ。
「外道が!」
雷のような叫びと共に、シルフィが儀式場へと飛び出した。月光魔剣『ソウルセイバー』が抜き放たれ、聖なる銀色の光を放つ。
「な、何者だ!?」
黒ローブたちが突然の乱入者に驚き、慌てて武器を構える。
「ルナ、フィオナ、続け! 檻の解放を最優先しろ!」
俺もまた短剣を手に飛び出した。ルナは影となって走り、儀式の邪魔をする黒ローブたちを的確に牽制する。フィオナは後方から援護の魔法を詠唱し始めた。
「【ライト・バインド】!」
フィオナの杖から放たれた光の鎖が、数人の黒ローブたちの動きを封じる。
「おのれ、邪魔立てするか!」
リーダー格の男が俺たちに向かって邪悪な魔力の塊を放ってきた。だが、その攻撃はシルフィの魔剣の一振りによっていとも簡単に掻き消される。
「貴様らの好きにはさせん!」
シルフィの剣が嵐のように荒れ狂う。聖属性を帯びた斬撃は、邪教を奉ずる彼らにとって天敵そのものだった。黒ローブたちが次々と悲鳴を上げて倒れていく。
その間に、俺とルナは檻へと駆け寄っていた。檻には複雑な呪いの錠前がかかっていたが、俺の【万物解析】の前では無力だった。
「解除方法は……この三つのルーンを、逆の順番でなぞるだけだ!」
俺が錠前の構造を瞬時に見抜くと、ルナがそのしなやかな指先で素早くそれを実行していく。カチリと音がして、一つ、また一つと檻の扉が開かれていった。
だが、解放された人々は俺たちに感謝するどころか、虚ろな目で唸り声を上げ、襲いかかってこようとする。彼らはもはや自我を失っているのだ。
「フィオナ! 彼らを眠らせろ!」
「はい、先生! 【スリープ・クラウド】!」
フィオナが広範囲に効果のある睡眠魔法を放つ。優しい光の霧が暴れる人々を包み込み、彼らは次々とその場に崩れ落ち穏やかな寝息を立て始めた。
儀式場は阿鼻叫喚の地獄と化していた。シルフィの圧倒的な剣技とルナの神速の動き、そしてフィオナの的確な援護。俺たちの連携はもはや芸術の域に達している。
黒ローブたちはなすすべもなく、その数を減らしていった。
やがて、残るはリーダー格の男、ただ一人となった。
彼は信じられないといった表情で、床に転がる仲間たちの亡骸と俺たちを交互に見ている。
「馬鹿な……我らが『虚無の蛇』の儀式が……こんな、小娘どもに……!」
彼は何かを叫びながら、懐から黒く輝くこれまで見たものよりも大きな宝珠を取り出した。
「おのれ……こうなれば、貴様らも道連れだ! この身を、偉大なる邪神様への生贄と……」
男がその宝珠を自らの胸に突き立てようとした、その時だった。
「――遅い」
彼の背後にいつの間にかシルフィが立っていた。
月光魔剣が音もなく、その心臓を貫いていた。
「……が……はっ……」
リーダー格の男は最後まで信じられないといった表情を浮かべたまま、その場に崩れ落ちた。
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床に眠る、元は人間だった者たちの変わり果てた姿。そして、この遺跡に漂う拭い去ることのできない邪悪な気配。
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