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第72話:弱点をつけ
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マリウスの精神攻撃は、俺たちの心の最も脆い部分を的確に抉ってきた。過去のトラウマ、拭い去れない後悔、心の奥底に潜む孤独。それらが悪意ある幻覚となって、俺たちの意識を容赦なく蝕んでいく。
(しっかりしろ……アレン……!)
俺は崩れ落ちそうになる体を必死で支え、朦朧とする意識の中で【万物解析】を限界まで酷使した。狙うは、この呪術そのものの構造と術者であるマリウス自身の弱点だ。
膨大な情報と精神攻撃によるノイズが脳内で混線し、激しい頭痛が走る。だが、俺は歯を食いしばって耐え抜いた。そして、ついにその核心を掴み取った。
【スキル:精神汚染(マインド・ポリューション)】
【詳細:対象のトラウマや負の感情を増幅させ、精神を内側から破壊する高等呪術。効果範囲内にいる全ての者に影響を及ぼす】
【弱点:この術は、術者自身の精神力とある『触媒』によって維持されている。術者が左手に隠し持っている『黒曜石のアミュレット』がその触媒であり、術の発動中、術者はそのアミュレットから片時も手を離すことができない。アミュレットが破壊されれば、術は暴発し術者自身に跳ね返る】
これだ!
弱点はマリウス自身が左手に握りしめている黒いアミュレット。ローブの袖に隠れて見えないが、俺のスキルはその存在を明確に捉えていた。
「フィオナ……シルフィ……聞こえるか……!」
俺はうめき声のような声で、二人に呼びかけた。
「……アレン……?」
シルフィが苦痛に顔を歪ませながら、かろうじて反応する。フィオナも涙を浮かべながら必死にこちらを見ていた。
「……敵の……左手だ……。ローブの袖に隠れた……アミュレットを狙え……! それが、この術の核だ……!」
俺が途切れ途切れに告げた言葉。それが二人にとっての、暗闇の中の一筋の光明となった。
「……左手……アミュレット……!」
シルフィが憎悪に満ちた目でマリウスを睨みつける。彼女の魔剣が主の怒りに呼応するように、青白い光を放ち始めた。
「先生の……言う通りに……!」
フィオナもまた杖を握りしめ、残った最後の気力を振り絞った。
マリウスは俺が弱点を見抜いたことに気づいていない。彼は俺たちがなすすべもなく精神崩壊していく様を、愉悦の表情で見守っていた。
「ククク……さあ、もっと苦しむがいい。絶望するがいい。あなた方の魂は、やがて我が邪神様の素晴らしい糧となるのだ……!」
その油断。それが彼の命取りとなった。
「……今だ!」
俺の絶叫を合図に、シルフィが動いた。
「おおおおおおお!」
彼女は精神攻撃の苦痛を怒りの力に変えて、獣のようにマリウスへと突進した。その動きはもはや剣士のそれではない。ただ、敵を屠るためだけの純粋な破壊の化身だった。
「なっ……!?」
マリウスがシルフィの予期せぬ突撃に、初めて驚愕の表情を浮かべた。彼は咄嗟に二人の暗殺者に迎撃を命じる。
だが、その暗殺者たちの動きをフィオナが見逃さなかった。
「行かせませんわ! 【グラビティ・フィールド】!」
フィオ-フィオナが詠唱も短縮した重力魔法を放つ。暗殺者たちの足元に目に見えない重圧がかかり、その動きが一瞬だけ、コンマ数秒だけ鈍った。
そのコンマ数秒が勝敗を分けた。
シルフィは暗殺者たちの攻撃を紙一重でいなし、その間をすり抜けてマリウスの懐へと一直線に飛び込んだ。
「しまっ……!」
マリウスが慌てて後退しようとする。だが、それよりも速く、シルフィの魔剣が彼の左腕を狙って薙ぎ払われた。
ザシュッ!
鈍い音と共に、マリウスの左腕がローブの袖ごと宙を舞った。そして、その手の中から黒く輝くアミュレットが床にこぼれ落ちる。
「……ああ……ああああああ!」
マリウスが絶叫した。だが、それは腕を斬られたことによる痛みだけではなかった。
触媒を失った呪術が暴走し、術者である彼自身に何倍にもなって跳ね返ったのだ。
彼の頭の中に、彼自身がこれまで弄んできた数多の魂の断末魔と邪神の狂気が、濁流のように流れ込んでいく。
「やめろ……来るな……我ガ……頭ガ……!」
マリウスは両手で頭をかきむしり、その場に崩れ落ちた。その瞳からは理性の光が消え失せ、ただ涎を垂らしながら意味のない言葉を呟くだけの廃人と化していた。
精神攻撃の呪縛から解放された俺とシルフィは、荒い息をつきながらその場にへたり込んだ。フィオナも魔力を使い果たし、壁に寄りかかっている。
残された二人の暗殺者は主が倒されたのを見て一瞬だけ躊躇した。だが、彼らはすぐに状況を判断し、煙玉を床に叩きつける。
「撤退だ!」
煙が晴れた時には、すでに彼らの姿はどこにもなかった。
静寂が再び戻る。
俺たちは勝った。格上の教団幹部を打ち破ったのだ。
それは、俺たち一人一人の力だけでは決して成し得なかった勝利だった。
俺が敵の弱点を『見抜き』。
フィオナが魔法で『隙を作り』。
そして、シルフィがその刃で『貫く』。
俺たち三人の完璧な連携が生み出した、奇跡の勝利だった。
俺は床に落ちている黒曜石のアミュレットを拾い上げた。これが俺たちをあれほどまでに苦しめた呪いの源。
俺はそれを力の限り床に叩きつけて粉々に砕いた。
「……終わった」
俺は疲労困憊の仲間たちを見渡し、かすれた声でそう告げた。
だが、俺たちの胸には勝利の喜びよりも、これから始まるであろう本当の戦いへの重い覚悟だけが、ずしりと圧し掛かっていた。
(しっかりしろ……アレン……!)
俺は崩れ落ちそうになる体を必死で支え、朦朧とする意識の中で【万物解析】を限界まで酷使した。狙うは、この呪術そのものの構造と術者であるマリウス自身の弱点だ。
膨大な情報と精神攻撃によるノイズが脳内で混線し、激しい頭痛が走る。だが、俺は歯を食いしばって耐え抜いた。そして、ついにその核心を掴み取った。
【スキル:精神汚染(マインド・ポリューション)】
【詳細:対象のトラウマや負の感情を増幅させ、精神を内側から破壊する高等呪術。効果範囲内にいる全ての者に影響を及ぼす】
【弱点:この術は、術者自身の精神力とある『触媒』によって維持されている。術者が左手に隠し持っている『黒曜石のアミュレット』がその触媒であり、術の発動中、術者はそのアミュレットから片時も手を離すことができない。アミュレットが破壊されれば、術は暴発し術者自身に跳ね返る】
これだ!
弱点はマリウス自身が左手に握りしめている黒いアミュレット。ローブの袖に隠れて見えないが、俺のスキルはその存在を明確に捉えていた。
「フィオナ……シルフィ……聞こえるか……!」
俺はうめき声のような声で、二人に呼びかけた。
「……アレン……?」
シルフィが苦痛に顔を歪ませながら、かろうじて反応する。フィオナも涙を浮かべながら必死にこちらを見ていた。
「……敵の……左手だ……。ローブの袖に隠れた……アミュレットを狙え……! それが、この術の核だ……!」
俺が途切れ途切れに告げた言葉。それが二人にとっての、暗闇の中の一筋の光明となった。
「……左手……アミュレット……!」
シルフィが憎悪に満ちた目でマリウスを睨みつける。彼女の魔剣が主の怒りに呼応するように、青白い光を放ち始めた。
「先生の……言う通りに……!」
フィオナもまた杖を握りしめ、残った最後の気力を振り絞った。
マリウスは俺が弱点を見抜いたことに気づいていない。彼は俺たちがなすすべもなく精神崩壊していく様を、愉悦の表情で見守っていた。
「ククク……さあ、もっと苦しむがいい。絶望するがいい。あなた方の魂は、やがて我が邪神様の素晴らしい糧となるのだ……!」
その油断。それが彼の命取りとなった。
「……今だ!」
俺の絶叫を合図に、シルフィが動いた。
「おおおおおおお!」
彼女は精神攻撃の苦痛を怒りの力に変えて、獣のようにマリウスへと突進した。その動きはもはや剣士のそれではない。ただ、敵を屠るためだけの純粋な破壊の化身だった。
「なっ……!?」
マリウスがシルフィの予期せぬ突撃に、初めて驚愕の表情を浮かべた。彼は咄嗟に二人の暗殺者に迎撃を命じる。
だが、その暗殺者たちの動きをフィオナが見逃さなかった。
「行かせませんわ! 【グラビティ・フィールド】!」
フィオ-フィオナが詠唱も短縮した重力魔法を放つ。暗殺者たちの足元に目に見えない重圧がかかり、その動きが一瞬だけ、コンマ数秒だけ鈍った。
そのコンマ数秒が勝敗を分けた。
シルフィは暗殺者たちの攻撃を紙一重でいなし、その間をすり抜けてマリウスの懐へと一直線に飛び込んだ。
「しまっ……!」
マリウスが慌てて後退しようとする。だが、それよりも速く、シルフィの魔剣が彼の左腕を狙って薙ぎ払われた。
ザシュッ!
鈍い音と共に、マリウスの左腕がローブの袖ごと宙を舞った。そして、その手の中から黒く輝くアミュレットが床にこぼれ落ちる。
「……ああ……ああああああ!」
マリウスが絶叫した。だが、それは腕を斬られたことによる痛みだけではなかった。
触媒を失った呪術が暴走し、術者である彼自身に何倍にもなって跳ね返ったのだ。
彼の頭の中に、彼自身がこれまで弄んできた数多の魂の断末魔と邪神の狂気が、濁流のように流れ込んでいく。
「やめろ……来るな……我ガ……頭ガ……!」
マリウスは両手で頭をかきむしり、その場に崩れ落ちた。その瞳からは理性の光が消え失せ、ただ涎を垂らしながら意味のない言葉を呟くだけの廃人と化していた。
精神攻撃の呪縛から解放された俺とシルフィは、荒い息をつきながらその場にへたり込んだ。フィオナも魔力を使い果たし、壁に寄りかかっている。
残された二人の暗殺者は主が倒されたのを見て一瞬だけ躊躇した。だが、彼らはすぐに状況を判断し、煙玉を床に叩きつける。
「撤退だ!」
煙が晴れた時には、すでに彼らの姿はどこにもなかった。
静寂が再び戻る。
俺たちは勝った。格上の教団幹部を打ち破ったのだ。
それは、俺たち一人一人の力だけでは決して成し得なかった勝利だった。
俺が敵の弱点を『見抜き』。
フィオナが魔法で『隙を作り』。
そして、シルフィがその刃で『貫く』。
俺たち三人の完璧な連携が生み出した、奇跡の勝利だった。
俺は床に落ちている黒曜石のアミュレットを拾い上げた。これが俺たちをあれほどまでに苦しめた呪いの源。
俺はそれを力の限り床に叩きつけて粉々に砕いた。
「……終わった」
俺は疲労困憊の仲間たちを見渡し、かすれた声でそう告げた。
だが、俺たちの胸には勝利の喜びよりも、これから始まるであろう本当の戦いへの重い覚悟だけが、ずしりと圧し掛かっていた。
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