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第81話:王都からの凶報
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辺境の勝利から数日、ラトナの街は少しずつ日常を取り戻しつつあった。
邪教団の襲撃によって受けた傷跡は決して浅くはなかったが、街の人々の表情は明るかった。誰もが自分たちの手で故郷を守り抜いたという自信と誇りに満ち溢れている。復興作業は驚くべき速さで進み、街には以前にも増して強い一体感が生まれていた。
俺たち『アルカディア』はその中心にいた。ギルドハウスには連日、感謝を伝えに来る人々や弟子入りを志願する若者たちが後を絶たない。俺はギルドマスターとしてその対応に追われながらも、仲間たちと共に過ごすこの温かく騒がしい日々を心から愛おしいと感じていた。
「先生、新しい紅茶が入りましたわ。少し休憩になさいませんか?」
執務室で書類の山と格闘していると、フィオナが優雅な仕草でティーカップを運んできてくれた。その香りを嗅ぐだけで、疲れた頭がすっと軽くなる。
「ああ、ありがとう。助かるよ」
「アレン様! 見てください! 街の子供たちが私の絵を描いてくれました!」
ルナが、一枚の拙い絵を宝物のように抱えて元気いっぱいに部屋へ飛び込んでくる。そこには猫耳の剣士が魔物をやっつけている、勇ましい姿が描かれていた。
「……フン。子供の落書きだな。だが、まあ特徴は捉えている」
書斎から出てきたシルフィが、ぶっきらぼうな口調ながらもその絵を覗き込み、かすかに口元を緩めた。
こんな何気ない午後の光景。これこそが俺たちが命を懸けて守り抜いたものだった。この平穏がずっと続けばいい。俺は心からそう願っていた。
だが、運命というものは俺たちに安息の時間さえ長くは与えてくれないらしい。
その日の午後、ギルドハウスの扉が壊れんばかりの勢いで叩かれた。応対に出たギルド職員の慌てた声が執務室まで届く。
「マスター! 大変です! 王都から……王都からの急使だという方が!」
俺たちが何事かと一階のホールに下りると、そこには信じられない光景が広がっていた。
一人の騎士が床に倒れ込むようにして、荒い息を繰り返していたのだ。彼が身にまとっているのは紛れもなく王国騎士団の正式な鎧だった。だが、その鎧は見るも無惨に砕け、全身はおびただしい数の傷で覆われている。その顔は土埃と血にまみれ、瞳には深い絶望の色が浮かんでいた。
「……はぁ……はぁ……ここが……『アルカディア』か……?」
騎士はかすれた声で呟いた。その体はもはや限界を超えているようだった。
「フィオナ、すぐに回復魔法を!」
俺が叫ぶ。フィオナが駆け寄り、癒しの光で騎士の傷を癒していく。だが傷は塞がっても、彼の魂に刻まれた疲労と絶望は拭い去ることができないようだった。
やがて少しだけ呼吸が落ち着いた騎士は、俺の姿を認めると最後の力を振り絞るようにその手を伸ばしてきた。
「……アレン・ウォーカー殿……だな……? 頼む……助けてくれ……。王都が……王都が滅ぶ……!」
その絶叫にも似た言葉に、ホールにいた全ての者が息を呑んだ。
王都が滅ぶ?
「一体何があったんだ! 落ち着いて話してくれ!」
俺が騎士の肩を掴むと、彼は悪夢を語るかのように途切れ途切れに、しかし必死に言葉を紡ぎ始めた。
「……『虚無の蛇』……奴らの本隊が……! 俺たちがラトナで戦ったのとは比較にならない……規模の軍勢が……三日前、突如として王都を……!」
騎士の言葉は、俺たちにとって最悪の報せだった。
俺たちが辺境で戦っていたのは、奴らの計画の一部隊に過ぎなかった。その本隊が手薄になった王都を総攻撃したというのだ。
「王都の騎士団は必死に抵抗した……。勇者様御一行も奮戦された……。だが敵の数はあまりにも……多すぎた……」
騎士の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
「街は火の海だ……。召喚されたおぞましい魔物たちが人々を……。もう三日も籠城しているが……防壁はあちこちで破られ……王城が陥落するのも時間の問題だ……」
その言葉が描写する光景は、地獄そのものだった。ラトナの襲撃など子供の遊びに思えるほどの絶望的な状況。
「……俺は王の勅命を受け……最後の望みを託され……ここへ来た……。辺境の英雄『アルカディア』に助けを求めるためだけに……」
騎士はそう言うと、ついに意識を失いぐったりとフィオナの腕の中に倒れ込んだ。
ホールは水を打ったように静まり返っていた。誰もがその凶報の衝撃に言葉を失っている。
王都が陥落寸前。
俺が生まれ育ち、そして追放されたあの街が。
かつての仲間たちが今、死の淵をさまよっている。
俺の脳裏に様々な感情が渦巻いた。
過去の因縁。俺を捨てた者たちへの割り切れない想い。
だがそれと同時に、邪教団という世界の脅威に対する燃え上がるような怒り。
そして、このまま王都が落ちれば、その災厄の波はいずれこのラトナにも必ず押し寄せてくるという冷徹な現実。
俺は固く拳を握りしめた。
つかの間の平穏は終わりを告げたのだ。
俺たちがラト-ナで掴んだ勝利は、より巨大でより過酷な戦いのほんの序章に過ぎなかった。
俺は心配そうに俺の顔を見上げる三人の仲間たちを見渡した。彼女たちの瞳には同じように、驚きと困惑と、そして新たな戦いの予感が宿っている。
俺たちの次なる戦場は、王都。
俺は決断を迫られていた。過去と、そして世界の運命そのものと対峙する覚悟を。
邪教団の襲撃によって受けた傷跡は決して浅くはなかったが、街の人々の表情は明るかった。誰もが自分たちの手で故郷を守り抜いたという自信と誇りに満ち溢れている。復興作業は驚くべき速さで進み、街には以前にも増して強い一体感が生まれていた。
俺たち『アルカディア』はその中心にいた。ギルドハウスには連日、感謝を伝えに来る人々や弟子入りを志願する若者たちが後を絶たない。俺はギルドマスターとしてその対応に追われながらも、仲間たちと共に過ごすこの温かく騒がしい日々を心から愛おしいと感じていた。
「先生、新しい紅茶が入りましたわ。少し休憩になさいませんか?」
執務室で書類の山と格闘していると、フィオナが優雅な仕草でティーカップを運んできてくれた。その香りを嗅ぐだけで、疲れた頭がすっと軽くなる。
「ああ、ありがとう。助かるよ」
「アレン様! 見てください! 街の子供たちが私の絵を描いてくれました!」
ルナが、一枚の拙い絵を宝物のように抱えて元気いっぱいに部屋へ飛び込んでくる。そこには猫耳の剣士が魔物をやっつけている、勇ましい姿が描かれていた。
「……フン。子供の落書きだな。だが、まあ特徴は捉えている」
書斎から出てきたシルフィが、ぶっきらぼうな口調ながらもその絵を覗き込み、かすかに口元を緩めた。
こんな何気ない午後の光景。これこそが俺たちが命を懸けて守り抜いたものだった。この平穏がずっと続けばいい。俺は心からそう願っていた。
だが、運命というものは俺たちに安息の時間さえ長くは与えてくれないらしい。
その日の午後、ギルドハウスの扉が壊れんばかりの勢いで叩かれた。応対に出たギルド職員の慌てた声が執務室まで届く。
「マスター! 大変です! 王都から……王都からの急使だという方が!」
俺たちが何事かと一階のホールに下りると、そこには信じられない光景が広がっていた。
一人の騎士が床に倒れ込むようにして、荒い息を繰り返していたのだ。彼が身にまとっているのは紛れもなく王国騎士団の正式な鎧だった。だが、その鎧は見るも無惨に砕け、全身はおびただしい数の傷で覆われている。その顔は土埃と血にまみれ、瞳には深い絶望の色が浮かんでいた。
「……はぁ……はぁ……ここが……『アルカディア』か……?」
騎士はかすれた声で呟いた。その体はもはや限界を超えているようだった。
「フィオナ、すぐに回復魔法を!」
俺が叫ぶ。フィオナが駆け寄り、癒しの光で騎士の傷を癒していく。だが傷は塞がっても、彼の魂に刻まれた疲労と絶望は拭い去ることができないようだった。
やがて少しだけ呼吸が落ち着いた騎士は、俺の姿を認めると最後の力を振り絞るようにその手を伸ばしてきた。
「……アレン・ウォーカー殿……だな……? 頼む……助けてくれ……。王都が……王都が滅ぶ……!」
その絶叫にも似た言葉に、ホールにいた全ての者が息を呑んだ。
王都が滅ぶ?
「一体何があったんだ! 落ち着いて話してくれ!」
俺が騎士の肩を掴むと、彼は悪夢を語るかのように途切れ途切れに、しかし必死に言葉を紡ぎ始めた。
「……『虚無の蛇』……奴らの本隊が……! 俺たちがラトナで戦ったのとは比較にならない……規模の軍勢が……三日前、突如として王都を……!」
騎士の言葉は、俺たちにとって最悪の報せだった。
俺たちが辺境で戦っていたのは、奴らの計画の一部隊に過ぎなかった。その本隊が手薄になった王都を総攻撃したというのだ。
「王都の騎士団は必死に抵抗した……。勇者様御一行も奮戦された……。だが敵の数はあまりにも……多すぎた……」
騎士の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
「街は火の海だ……。召喚されたおぞましい魔物たちが人々を……。もう三日も籠城しているが……防壁はあちこちで破られ……王城が陥落するのも時間の問題だ……」
その言葉が描写する光景は、地獄そのものだった。ラトナの襲撃など子供の遊びに思えるほどの絶望的な状況。
「……俺は王の勅命を受け……最後の望みを託され……ここへ来た……。辺境の英雄『アルカディア』に助けを求めるためだけに……」
騎士はそう言うと、ついに意識を失いぐったりとフィオナの腕の中に倒れ込んだ。
ホールは水を打ったように静まり返っていた。誰もがその凶報の衝撃に言葉を失っている。
王都が陥落寸前。
俺が生まれ育ち、そして追放されたあの街が。
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そして、このまま王都が落ちれば、その災厄の波はいずれこのラトナにも必ず押し寄せてくるという冷徹な現実。
俺は固く拳を握りしめた。
つかの間の平穏は終わりを告げたのだ。
俺たちがラト-ナで掴んだ勝利は、より巨大でより過酷な戦いのほんの序章に過ぎなかった。
俺は心配そうに俺の顔を見上げる三人の仲間たちを見渡した。彼女たちの瞳には同じように、驚きと困惑と、そして新たな戦いの予感が宿っている。
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