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第82話:救援要請
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意識を失った騎士はすぐにギルドハウスの医務室へと運ばれた。フィオナの懸命な治癒魔法と俺が作った最高品質のポーションのおかげで命に別状はなかったが、彼が再び目を覚ますにはしばらく時間がかかりそうだった。
俺は騎士が命懸けで運んできた、王家の紋章が入った羊皮紙の筒を静かに受け取った。これが王からの正式な救援要請書なのだろう。
執務室に戻った俺は仲間たちと共にその封を解いた。中から現れたのは、上質な羊皮紙に震えるような文字で綴られた悲痛な叫びだった。
『辺境の英雄、ギルド『アルカディア』のマスター、アレン・ウォーカー殿に勅命を下す。
今、我が王都は古の邪教団『虚無の蛇』の総攻撃を受け、滅亡の危機に瀕している。騎士団は壊滅し、勇者もまた深手を負った。もはや我々に残された時間は少ない。
聞くに、貴殿らはラトナを襲った邪教団の一派を見事に撃退したという。その比類なき力と卓越した指揮能力こそ、今この国が必要としている最後の希望である。
過去の経緯については、弁解の言葉もない。全ては我々の不明の致すところであった。
どうかこの国を、この民を救ってはくれまいか。
貴殿らがこの要請に応じてくれるのなら、いかなる恩賞も惜しまないことを、ここに国王の名において固く誓う』
それは一国の王が書いたとは思えないほど弱々しく、そして必死な嘆願だった。彼らがどれほど追い詰められているかが痛いほど伝わってくる。
羊皮紙を読み終えた後、部屋には重い沈黙が流れた。
最初に口を開いたのはシルフィだった。
「……どうする、アレン。行くのか?」
その問いはシンプルだが、この場の全員が抱いている核心的な疑問だった。
「……正直、乗り気はしないな」
シルフィは腕を組みながら忌々しげに言った。
「王都の連中はお前を捨てた奴らだ。そんな奴らのために、なぜ俺たちが命を懸けなければならない? 自業自得だろう」
彼女の言葉は正論だった。俺を追放した王宮、俺を見下した勇者パーティー。彼らが今、窮地に陥っているからといって、なぜ俺が助けに行かなければならないのか。
「私もシルフィさんの意見に賛成ですわ」
フィオナもまた静かだが、強い意志を込めて言った。
「先生をあんな風に扱った人々のために、先生が再び傷つくようなことは私は望みません。それに、王都がどれほど危険な状況か……。先生の御身に万が一のことがあれば……」
彼女は俺自身の身を何よりも案じてくれていた。
ルナは何も言わなかった。ただ俺の服の袖をぎゅっと強く握りしめている。その小さな手から、彼女の不安と、そして「アレン様の決めたことなら、どこへでもついていきます」という無言の信頼が伝わってきた。
仲間たちの想いは痛いほど分かった。彼女たちは俺のことを心から大切に思ってくれている。だからこそ、俺が過去の因縁に囚われ危険な戦場へ赴くことに反対しているのだ。
俺はしばらくの間、目を閉じて自分の心に問いかけた。
俺は、どうしたい?
王都を助けたいのか?
それとも見捨てたいのか?
憎しみがないと言えば嘘になる。俺を切り捨てた彼らが無様に滅んでいく様をどこかで見たいと思ってしまう黒い感情も確かにある。
だが、それ以上に。
俺の脳裏に王都の街並みが浮かんだ。俺が生まれ育ったあの街。そこには俺を追放した者たちだけがいるわけではない。パン屋の陽気な親父、古本屋の物知りな爺さん、公園で遊ぶ罪のない子供たち。彼らもまた、今、邪教団の脅威に晒されているのだ。
そして何より『虚無の蛇』という、この世界そのものを脅かす絶対的な悪の存在。
奴らをこのまま放置しておくわけにはいかない。
奴らの計画を俺たちの手で完全に叩き潰さなければならない。でなければ、たとえ王都が滅んだとしても、次なる災厄は必ずこのラトナにもやってくるだろう。
俺たちが守り抜いたこの平穏な日常。それを本当の意味で守るためには、戦うしかないのだ。
俺はゆっくりと目を開けた。その瞳にはもはや迷いはなかった。
「……行くぞ」
俺は仲間たちに向かって、静かに、しかし力強くそう告げた。
「これは王都のためじゃない。俺を追放したあいつらのためでもない」
俺は三人の顔を一人一人しっかりと見つめた。
「俺たちが守り抜いたこのラトナの日常を、そしてこれから先、俺たちが共に歩んでいく未来を守るための戦いだ。邪教団という世界の癌を俺たちの手で完全に根絶やしにする。そのために俺は王都へ行く」
俺の決意は固かった。それは過去の復讐心などという矮小な感情からではない。ギルド『アルカディア』のマスターとして、そしてこの仲間たちを率いるリーダーとしての責任と覚悟だった。
俺の言葉を聞いた三人は、しばらく黙り込んでいた。だがやがて、彼女たちの顔にも同じ覚悟の光が灯っていく。
「……フン。お前がそう言うのなら仕方がない。付き合ってやる」
「先生の覚悟、しかと受け止めましたわ。どこまでも、お供いたします」
「アレン様が行くなら私も行きます! 今度は私がアレン様を守ります!」
最高の仲間たち。彼女たちは俺の決意を完全に理解し、受け入れてくれた。
その時、医務室から一人のギルド職員が駆け込んできた。
「マスター! 王都からの騎士様が目を覚まされました! そして……もう一人、面会を求める方が……」
「もう一人?」
俺が訝しげに聞き返すと、職員は少し困惑したような顔で告げた。
「はい。……かつてマスターを高く評価していたという、王宮の老文官だと名乗っておられます……」
老文官。俺の脳裏に一人の人物の顔が浮かんだ。それは俺が王宮を追放される際、唯一俺の才能を惜しみ、「君の力はいつか必ず国に必要になる」と声をかけてくれた、あの人物だった。
どうやら運命は俺が王都へ向かうための、全ての舞台を整えようとしているらしい。
俺は仲間たちと共に立ち上がった。
俺たちの次なる戦いが、今、始まろうとしていた。
俺は騎士が命懸けで運んできた、王家の紋章が入った羊皮紙の筒を静かに受け取った。これが王からの正式な救援要請書なのだろう。
執務室に戻った俺は仲間たちと共にその封を解いた。中から現れたのは、上質な羊皮紙に震えるような文字で綴られた悲痛な叫びだった。
『辺境の英雄、ギルド『アルカディア』のマスター、アレン・ウォーカー殿に勅命を下す。
今、我が王都は古の邪教団『虚無の蛇』の総攻撃を受け、滅亡の危機に瀕している。騎士団は壊滅し、勇者もまた深手を負った。もはや我々に残された時間は少ない。
聞くに、貴殿らはラトナを襲った邪教団の一派を見事に撃退したという。その比類なき力と卓越した指揮能力こそ、今この国が必要としている最後の希望である。
過去の経緯については、弁解の言葉もない。全ては我々の不明の致すところであった。
どうかこの国を、この民を救ってはくれまいか。
貴殿らがこの要請に応じてくれるのなら、いかなる恩賞も惜しまないことを、ここに国王の名において固く誓う』
それは一国の王が書いたとは思えないほど弱々しく、そして必死な嘆願だった。彼らがどれほど追い詰められているかが痛いほど伝わってくる。
羊皮紙を読み終えた後、部屋には重い沈黙が流れた。
最初に口を開いたのはシルフィだった。
「……どうする、アレン。行くのか?」
その問いはシンプルだが、この場の全員が抱いている核心的な疑問だった。
「……正直、乗り気はしないな」
シルフィは腕を組みながら忌々しげに言った。
「王都の連中はお前を捨てた奴らだ。そんな奴らのために、なぜ俺たちが命を懸けなければならない? 自業自得だろう」
彼女の言葉は正論だった。俺を追放した王宮、俺を見下した勇者パーティー。彼らが今、窮地に陥っているからといって、なぜ俺が助けに行かなければならないのか。
「私もシルフィさんの意見に賛成ですわ」
フィオナもまた静かだが、強い意志を込めて言った。
「先生をあんな風に扱った人々のために、先生が再び傷つくようなことは私は望みません。それに、王都がどれほど危険な状況か……。先生の御身に万が一のことがあれば……」
彼女は俺自身の身を何よりも案じてくれていた。
ルナは何も言わなかった。ただ俺の服の袖をぎゅっと強く握りしめている。その小さな手から、彼女の不安と、そして「アレン様の決めたことなら、どこへでもついていきます」という無言の信頼が伝わってきた。
仲間たちの想いは痛いほど分かった。彼女たちは俺のことを心から大切に思ってくれている。だからこそ、俺が過去の因縁に囚われ危険な戦場へ赴くことに反対しているのだ。
俺はしばらくの間、目を閉じて自分の心に問いかけた。
俺は、どうしたい?
王都を助けたいのか?
それとも見捨てたいのか?
憎しみがないと言えば嘘になる。俺を切り捨てた彼らが無様に滅んでいく様をどこかで見たいと思ってしまう黒い感情も確かにある。
だが、それ以上に。
俺の脳裏に王都の街並みが浮かんだ。俺が生まれ育ったあの街。そこには俺を追放した者たちだけがいるわけではない。パン屋の陽気な親父、古本屋の物知りな爺さん、公園で遊ぶ罪のない子供たち。彼らもまた、今、邪教団の脅威に晒されているのだ。
そして何より『虚無の蛇』という、この世界そのものを脅かす絶対的な悪の存在。
奴らをこのまま放置しておくわけにはいかない。
奴らの計画を俺たちの手で完全に叩き潰さなければならない。でなければ、たとえ王都が滅んだとしても、次なる災厄は必ずこのラトナにもやってくるだろう。
俺たちが守り抜いたこの平穏な日常。それを本当の意味で守るためには、戦うしかないのだ。
俺はゆっくりと目を開けた。その瞳にはもはや迷いはなかった。
「……行くぞ」
俺は仲間たちに向かって、静かに、しかし力強くそう告げた。
「これは王都のためじゃない。俺を追放したあいつらのためでもない」
俺は三人の顔を一人一人しっかりと見つめた。
「俺たちが守り抜いたこのラトナの日常を、そしてこれから先、俺たちが共に歩んでいく未来を守るための戦いだ。邪教団という世界の癌を俺たちの手で完全に根絶やしにする。そのために俺は王都へ行く」
俺の決意は固かった。それは過去の復讐心などという矮小な感情からではない。ギルド『アルカディア』のマスターとして、そしてこの仲間たちを率いるリーダーとしての責任と覚悟だった。
俺の言葉を聞いた三人は、しばらく黙り込んでいた。だがやがて、彼女たちの顔にも同じ覚悟の光が灯っていく。
「……フン。お前がそう言うのなら仕方がない。付き合ってやる」
「先生の覚悟、しかと受け止めましたわ。どこまでも、お供いたします」
「アレン様が行くなら私も行きます! 今度は私がアレン様を守ります!」
最高の仲間たち。彼女たちは俺の決意を完全に理解し、受け入れてくれた。
その時、医務室から一人のギルド職員が駆け込んできた。
「マスター! 王都からの騎士様が目を覚まされました! そして……もう一人、面会を求める方が……」
「もう一人?」
俺が訝しげに聞き返すと、職員は少し困惑したような顔で告げた。
「はい。……かつてマスターを高く評価していたという、王宮の老文官だと名乗っておられます……」
老文官。俺の脳裏に一人の人物の顔が浮かんだ。それは俺が王宮を追放される際、唯一俺の才能を惜しみ、「君の力はいつか必ず国に必要になる」と声をかけてくれた、あの人物だった。
どうやら運命は俺が王都へ向かうための、全ての舞台を整えようとしているらしい。
俺は仲間たちと共に立ち上がった。
俺たちの次なる戦いが、今、始まろうとしていた。
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