「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ

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第11話:村長の信頼

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グランドモール撃退の噂は、小さな村を瞬く間に駆け巡った。
翌朝、俺が家の外に出ると、村人たちが何人も集まっていた。彼らは俺の顔を見るなり、まるで英雄を迎えるかのような歓声を上げた。

「アッシュさん、ありがとう! あんたは村の救い主だ!」
「まさか一人であの土竜を追い払うなんて、信じられん!」
「これで安心して冬を越せるよ」
口々に寄せられる感謝と称賛の言葉。差し入れだと言って、籠いっぱいの野菜や焼きたてのパンを手渡される。
俺はその熱量に気圧され、ただ戸惑うばかりだった。

「いや、だから俺は何も……。土竜が勝手に転んだだけで……」
俺の弁明は、熱狂の中では誰の耳にも届かない。彼らにとっては「アッシュが畑を見張ったら、グランドモールがいなくなった」という結果が全てなのだ。その過程がどうであれ、俺が村の危機を救ったという事実に変わりはなかった。
その様子を、リリアが家の戸口から微笑ましそうに眺めている。彼女だけは、真実を(あるいは真実に近い何かを)理解しているのだろう。その視線が、少しだけ俺を落ち着かせてくれた。

騒ぎが一段落した頃、村長がやってきて俺に静かに声をかけた。
「アッシュさん。少し、わしと話をしてはくれんかの」
その真剣な眼差しに、俺は頷くしかなかった。
村長は俺を、村のはずれにある小高い丘へと連れて行った。そこからは、アルカディア村の全景と、その背後に広がる呪われた森が一望できた。

「見ての通り、寂れた村じゃ」
村長は、眼下の村を見下ろしながらぽつりと呟いた。
「若者は皆出て行き、残ったのはわしら年寄りばかり。このままでは、あと十年もすればこの村は地図から消えるじゃろう。それが、この村の運命だと諦めておった」
風が、村長の白い髭を優しく揺らす。
「じゃが、あんたさんが来てから、村の空気が少し変わった」

村長は俺の方へと向き直った。その深い皺の刻まれた瞳が、まっすぐに俺を射抜く。
「わしは、あんたさんがどうやってあのグランドモールを追い払ったのか、詳しい話を聞くつもりはない。魔法使いか、あるいは特別な力を持つ方なのかもしれん。正直に言えば、少し怖いと思う気持ちも、ないわけではない」
その言葉に、俺は少し身構えた。
だが、村長の次の言葉は、俺の予想を裏切るものだった。

「じゃが、それ以上に確かなことがある」
村長は、俺の肩に節くれだった手を置いた。その手は温かかった。
「あんたさんは、この村のために、自分の危険を顧みずに行動してくれた。わしらが見ているのは、そこじゃ。あんたさんのその『心』を、わしらは信じる」

その言葉は、まるで祝福のように俺の心に染み渡った。
能力や結果ではない。俺の行動の根底にある意志を、この人は見てくれている。
勇者パーティでは決して得られなかったもの。成果ではなく、存在そのものを認めてくれる、温かい承認。
胸の奥から、熱いものが込み上げてくるのを感じた。

「アッシュさん。あんたさんはもう、この村の客人ではない。わしらの仲間じゃ。アルカディア村の、正式な一員として、あんたさんを歓迎する」
村長はそう言うと、深く深く頭を下げた。
一人の人間として、これ以上ないほどの敬意を払って。
俺は慌てて村長に頭を上げさせようとしたが、声が出なかった。ただ、目頭が熱くなるのを堪えるので精一杯だった。

家に戻ると、リリアがハーブティーを用意して待っていた。
俺が村長と話している間、彼女は何かを察していたのかもしれない。
「おかえりなさい、アッシュ様。良いお顔をされていますね」
「……そうか?」
俺は自分の頬に触れてみる。自分ではよく分からなかったが、リリアにはそう見えたらしい。
俺は村長から言われたことを、ぽつりぽつりと彼女に話した。村の正式な一員として認められたこと。それが、どれほど嬉しかったか。

リリアは黙って俺の話を聞いていた。そして、俺が話し終えると、静かに口を開いた。
「当然のことです。あなたは、それに値する方ですから」
その声には、絶対的な確信がこもっていた。
彼女はカップをテーブルに置くと、少し悪戯っぽい笑みを浮かべて俺に尋ねた。
「ところでアッシュ様。あなたはご自身を、運が良い人間だと思われますか? それとも、運が悪い人間だと?」
唐突な質問だった。
俺は少し考えてから答える。
「昔は、とことん運が悪いと思っていた。何をやってもうまくいかないし、いつも貧乏くじばかり引いていたからな」
ガイアスたちに石につまずいたことを罵倒された記憶が蘇る。
「でも、この村に来てからは……不思議と、運が良いことばかりだ」
ゴブリンの自滅。グランドモールの撃退。どれも、偶然にしては出来すぎている。

「そう……ですか」
リリアは意味ありげに頷くと、窓の外に広がる呪われた森へと視線を移した。
「わたくしは、こう思うのです。幸運とは、ただ待っているだけでは訪れない。それは、誰かを助けたい、何かを守りたいと願う、強い意志に引き寄せられるのではないか、と」
彼女の言葉は、まるで詩の一節のようだった。
そして、その言葉は、俺が薄々感じ始めていた自分の身の回りで起こる不可解な現象の、一つの答えを示しているようにも聞こえた。

俺はまだ、自分の身に何が起きているのか、その核心には気づいていない。
ただ、確かなことが一つだけあった。
俺はもう、孤独な追放者ではない。
ここには俺を信じてくれる人がいて、俺が守りたいと思える場所がある。
その事実だけで、俺はどこまでも強くなれるような気がした。

その日の午後、村の子供たちが、おずおずと俺の家の前にやってきた。
彼らは俺に、木の実で作った下手くそな首飾りを差し出した。グランドモールを追い払ってくれたお礼だという。
俺がそれを受け取ると、子供たちは嬉しそうに笑った。
その笑顔は、どんな高価な報酬よりも、俺の心を豊かに満たしてくれた。
アルカディア村での、穏やかで温かい日々が、こうして続いていく。
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