「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ

文字の大きさ
45 / 100

第45話:意識的な幸運

しおりを挟む
森の中、暗殺者キリの消耗は、限界に達していた。
彼の全身は、蔦や枝による無数の切り傷で覆われ、自慢の黒装束も泥と樹液で見るも無残な状態だった。呼吸は荒く、超一流の暗殺者である彼の心臓も、経験したことのない疲労と恐怖で激しく脈打っていた。

(……ありえない。こんな森、聞いたことがない)
彼は、背中を大木に預け、荒い息を整えながら思考を巡らせた。
この森は、生きている。そして、明確な殺意を持って、彼という異物を排除しようとしている。
仲間たちは、もうやられただろう。信号弾は上がらなかった。自分も、このままではじり貧だ。
撤退すべきか。
いや、宰相ヴァルザー閣下に、失敗の報告などできるはずがない。
任務を完遂できぬのならば、死んだ方がましだ。
キリは、ボロボロの体に鞭打ち、再び立ち上がった。

(こうなれば、狙いは一人……!)
彼は、思考を切り替えた。
この異常事態の元凶は、間違いなくあの黒髪の男、アッシュだ。彼さえ仕留めれば、この森の呪いも解けるかもしれない。
彼は、残された全ての力を振り絞り、最後の奇襲をかけることに決めた。
気配を、完全に消す。
それは、彼が最も得意とする究極の隠密術、『無(ゼロ)』。自らの存在そのものを、世界の認識から切り離すという、神業に等しい技術だ。
この術を使えば、たとえ森の精霊でさえ、彼の存在を捉えることはできないはず。

キリの姿が、ふっとその場から掻き消えた。
いや、消えたのではない。彼はそこにいる。だが、誰の目にも、どんな感知能力にも、彼は映らない。
彼は、最後の獲物を狩るべく、音もなく、影もなく、森の中心部――俺がいるであろう場所へと、向かっていった。

その頃、俺は森の出口で、静かにその時を待っていた。
リリアは、まだ森の迷宮を維持するために、少し離れた場所で精神を集中させている。
俺の周りには、誰もいない。
だが、俺は知っていた。敵が、すぐそこまで来ていることを。

(……来る)
肌が、ピリピリとする。
それは、殺気とは違う。もっと根源的な、世界の理が軋むような感覚。
俺の『幸運』が、これまで感じたことのないほど強力な『不運』を打ち消そうと、激しく脈動しているのを感じる。
敵は、今までの誰よりも強い。
そして、その敵意は、ただ一点、俺だけに向けられている。

俺は、腰の『星屑』の柄を握りしめた。
抜くべきか。
いや、まだだ。
俺の力は、俺が『守る』と決めた時にこそ、最大限に発揮される。
今、俺が守るべきものは何か。
リリアか? フレアか? 村か?
違う。
その全てだ。
この平穏な日常、その全てを、俺は守りたい。

(みんなが無事でありますように)

俺は、ただ、それだけを強く、強く願った。
それは、祈りにも似た、純粋な願い。
自分のためではない。大切な仲間たち、大切な場所が、傷つけられることのないようにと願う、無私の思い。
その瞬間、俺の中で、何かが弾けた。

今まで、俺の力は、無意識のうちに、あるいは反射的に発動していた。
だが、今、俺は初めて、はっきりと『意識』して、この力を発動させようとしていたのだ。
『幸運』を、ただ待つのではない。
『幸運』を、自らの手で、この戦場に呼び寄せるのだ。

「―――!」
俺の目の前の空間が、ぐにゃりと歪んだ。
そこに、音もなく、暗殺者キリの姿が現れた。
彼は、俺の背後から回り込み、心臓を一突きにするつもりだったのだろう。だが、彼の究極の隠密術は、俺の意識的な幸運の前には、完璧ではなかった。
俺の力が、彼の術に干渉し、強制的にその姿を白日の下に晒したのだ。

「なっ……なぜ、気づいた!?」
キリは、驚愕に目を見開いた。
だが、彼は一流だった。驚きも一瞬。即座に思考を切り替え、手にした短剣を俺の喉元へと突き出してきた。
その動きは、あまりにも速く、鋭い。
俺には、目で追うことさえできなかった。

死が、すぐそこまで迫る。
だが、俺は動かなかった。
俺は、信じていた。俺の願いが、この理不尽な死を、必ず覆してくれると。

その、刹那。
俺の背後、少し離れた場所で精神を集中させていたリリアの肩が、ぴくりと震えた。
彼女は、キリの殺気に反応したのではない。
彼女の持つ弓が、彼女の意思とは無関係に、勝手に光を放ち始めたのだ。
それは、アルカディアの森の精霊たちが、リリアの体を依り代として、力を解放した瞬間だった。
彼女の指が、勝手につがえられていた光の矢を、弾き放つ。

放たれた光の矢は、俺を狙ったものではなかった。
それは、俺の頭上を通り過ぎ、あらぬ方向――キリが潜んでいた、森の木々の上――へと飛んでいった。
何もない空間を、矢が貫く。
無駄撃ちか。
誰もが、そう思っただろう。

だが、その矢が通り過ぎた空間には、キリが最後の切り札として隠し持っていた、小さな魔道具が浮かんでいた。
それは、絶体絶命の際に、空間を転移して逃げるための、高価な脱出用の魔道具。
光の矢は、その魔道具の核を、寸分の狂いもなく射抜いた。

パリン、と軽い音がして、魔道具は砕け散った。
同時に、暴走した空間魔力が、キリの体を襲う。
「ぐ……あ……あああああっ!?」
キリの体が、激しく痙攣した。彼の体のあちこちが、空間の歪みに飲み込まれそうになり、引き伸ばされ、ねじ曲げられる。
それは、彼の切り札が、最悪の形で裏目に出た瞬間だった。
彼の体は、無作為な空間転移を繰り返し、数秒後、ボロボロの状態で、俺の足元に叩きつけられた。
そして、そのまま意識を失った。

静寂が、戦場に戻ってきた。
リリアは、自分が何をしたのか分からず、弓を握りしめたまま呆然としている。
俺は、足元で気絶している最後の敵を見下ろし、静かに息を吐いた。

俺の意志が、『幸運』に影響を与える。
その確信が、今、揺るぎないものとなった。
これは、もはや偶然ではない。
俺が、自らの手で掴み取った、『勝利』だった。
これは、俺の『力』なのだ。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

散々利用されてから勇者パーティーを追い出された…が、元勇者パーティーは僕の本当の能力を知らない。

アノマロカリス
ファンタジー
僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。 それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。 するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。 それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき… 遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。 ……とまぁ、ここまでは良くある話。 僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき… 遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。 「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」 それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。 なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…? 2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。 皆様お陰です、有り難う御座います。

なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって?

名無し
ファンタジー
「ラウル、追放だ。今すぐ出ていけ!」 「えっ? ちょっと待ってくれ。理由を教えてくれないか?」 「それは貴様が無能だからだ!」 「そ、そんな。俺が無能だなんて。こんなに頑張ってるのに」 「黙れ、とっととここから消えるがいい!」  それは突然の出来事だった。  SSパーティーから総スカンに遭い、追放されてしまった治癒使いのラウル。  そんな彼だったが、とあるパーティーに拾われ、そこで認められることになる。 「治癒魔法でモンスターの群れを殲滅だと!?」 「え、嘘!? こんなものまで回復できるの!?」 「この男を追放したパーティー、いくらなんでも見る目がなさすぎだろう!」  ラウルの神がかった治癒力に驚愕するパーティーの面々。  その凄さに気が付かないのは本人のみなのであった。 「えっ? 俺の治癒魔法が凄いって? おいおい、冗談だろ。こんなの普段から当たり前にやってることなのに……」

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

ゴミスキルと追放された【万物鑑定】の俺、実は最強でした。Sランクパーティが崩壊する頃、俺は伝説の仲間と辺境で幸せに暮らしています

黒崎隼人
ファンタジー
Sランク勇者パーティのお荷物扱いされ、「ゴミスキル」と罵られて追放された鑑定士のアッシュ。 失意の彼が覚醒させたのは、森羅万象を見通し未来さえも予知する超チートスキル【万物鑑定】だった! この力を使い、アッシュはエルフの少女や凄腕の鍛冶師、そして伝説の魔獣フェンリル(もふもふ)といった最強の仲間たちを集め、辺境の町を大発展させていく。 一方、彼を追放した勇者たちは、アッシュのサポートを失い、ダンジョンで全滅の危機に瀕していた――。 「今さら戻ってこい? お断りだ。俺はこっちで幸せにやってるから」 底辺から駆け上がる痛快逆転ファンタジー、ここに開幕!

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

追放された『修理職人』、辺境の店が国宝級の聖地になる~万物を新品以上に直せるので、今さら戻ってこいと言われても予約で一杯です

たまごころ
ファンタジー
「攻撃力が皆無の生産職は、魔王戦では足手まといだ」 勇者パーティで武器や防具の管理をしていたルークは、ダンジョン攻略の最終局面を前に追放されてしまう。 しかし、勇者たちは知らなかった。伝説の聖剣も、鉄壁の鎧も、ルークのスキル『修復』によるメンテナンスがあったからこそ、性能を維持できていたことを。 一方、最果ての村にたどり着いたルークは、ボロボロの小屋を直して、小さな「修理屋」を開店する。 彼の『修復』スキルは、単に物を直すだけではない。錆びた剣は名刀に、古びたポーションは最高級エリクサーに、品質すらも「新品以上」に進化させる規格外の力だったのだ。 引退した老剣士の愛剣を蘇らせ、村の井戸を枯れない泉に直し、ついにはお忍びで来た王女様の不治の病まで『修理』してしまい――? ルークの店には、今日も世界中から依頼が殺到する。 「えっ、勇者たちが新品の剣をすぐに折ってしまって困ってる? 知りませんが、とりあえず最後尾に並んでいただけますか?」 これは、職人少年が辺境の村を世界一の都へと変えていく、ほのぼの逆転サクセスストーリー。

A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~

名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」 「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」 「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」 「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」 「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」 「くっ……」  問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。  彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。  さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。 「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」 「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」 「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」  拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。  これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

処理中です...