「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ

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第64話:密会の目撃

通路の突き当たりは半円状の広間になっていた。
かつては祭壇か何かがあったのであろうその場所は、今は異様な光景に包まれている。
俺たち三人は通路の入り口の柱の陰に身を隠し、息を殺して中の様子を窺った。

広間の中央では数本の禍々しい燭台が、紫色の炎を揺らめかせていた。その光が二つの人影を不気味に照らし出している。
一人は見間違いようもない。
豪奢な貴族服に身を包み、理知的な、しかし氷のように冷たい表情を浮かべた男。宰相ヴァルザー。
彼はまるで自らの執務室にいるかのように、優雅な仕草で椅子に腰掛けていた。

そして、そのヴァルザーと対峙するように立っていたのは人間ではなかった。
身長は二メートルを超え、その全身は爬虫類のような硬質の鱗で覆われている。背中からはコウモリのような皮膜の翼が生え、その手には黒曜石で作られた巨大な戦斧が握られていた。頭部には山羊のような捻れた角が二本突き出している。
高位の魔族。それもただの兵士ではない。その身に纏う圧倒的な魔力と威圧感は、彼が将軍クラスの大物であることを示していた。

「―――して、将軍ザルガス。例の件、首尾は上々かね?」
ヴァルザーがワイングラスを傾けるかのような軽い口調で尋ねた。その声は、この異常な空間には不釣り合いなほど落ち着き払っている。
「ふん。貴様こそ、我らを待たせおって」
ザルガスと呼ばれた魔族の将軍は、不機嫌そうな低い声で答えた。その声は腹の底に響くような不快な振動を伴っていた。
「勇者どもを始末したのは我らの力ぞ。貴様の計画通り、ダンジョンの入り口で塵にしてやったわ」
「うむ。その手腕、見事であった。感謝している」
ヴァルザーは表情一つ変えずに言った。

その会話を俺は柱の陰で、拳を握りしめながら聞いていた。
間違いない。
やはり勇者パーティの全滅は、ヴァルザーが仕組んだ罠だった。
ガイアスたちのことは好きではなかった。だが、彼らの死がこんな風に、こんな男たちの取引の材料にされていたという事実に、俺の腹の底から静かな怒りが込み上げてきた。

「だが、一つだけ計算外のことがあったな」
ザルガスが赤い瞳を細めてヴァルザーを睨んだ。
「生き残りが一人いたそうではないか。ただの【荷物持ち】だと? 我らの仕掛けた複合呪詛の中から、ただの人間が生きて出られるなどありえんことだ。貴様、何か我らに隠しておるのではないか?」
その言葉に俺の心臓がドクンと跳ねた。

ヴァルザーは優雅に脚を組み替えると、薄い笑みを浮かべた。
「人聞きの悪いことを言うな、将軍。私もあの男の存在は想定外だった。だが、心配には及ばん。既に処理するための駒は送ってある。今頃は冷たい骸となって、辺境の土に還っている頃だろう」
彼の言葉は自信に満ちていた。キリたちが失敗したという報告は、まだ彼の元には届いていないのだろう。

「それよりも本題に入ろうか」
ヴァルザーは懐から一枚の羊皮紙を取り出した。それは王国の防衛線が記された軍事機密の地図だった。
「次の手筈だ。勇者を失い、王国は混乱している。今こそ攻め時だ。貴殿らにはこの地図に記した、防衛線の最も手薄な箇所を突いてもらう」
「ほう。我らに王国を攻めろと?」
「無論だ。だが、王都を陥落させる必要はない。いくつかの主要都市を攻め落とし、民衆に恐怖を植え付けるだけでいい。そうすれば無能な国王と騎士団への不満は頂点に達するだろう」
「……そして貴様が救世主として現れる、という筋書きか。相変わらず食えぬ男よ」
ザルガスは呆れたように言いながらも、その口元には獰猛な笑みが浮かんでいた。
「よかろう。その芝居、乗ってやる。だが、我らにも見返りはもらうぞ。占領した都市の富と……人間どもは我らの好きにさせてもらう」
「好きにするがいい。どうせ私の新しい国には不要な者どもだ」
ヴァルザーは冷酷に言い放った。

俺はもう我慢の限界だった。
この男たちは国を、人々を、ただのゲームの駒としか見ていない。
彼らの歪んだ野望のためにどれだけの血が流れ、どれだけの悲しみが生まれるのか、想像もしていない。
許せない。
絶対に許してはならない。

俺の隣でフレアも奥歯をギリリと噛み締め、ウォーハンマーを握る手に力を込めているのが分かった。リリアの顔も怒りで青ざめていた。
俺は二人を手で制した。
まだだ。まだ動く時ではない。
今、俺たちが飛び出していってもヴァルザーを仕留め損なえば、全てが水の泡となる。
必要なのは証拠。
この密会そのものが彼らの罪を暴く、何よりの証拠なのだ。

俺はリリアの方を向いて、小さく頷いた。
彼女も俺の意図を察して、静かに頷き返した。
彼女は懐から、手のひらサイズの透き通った水晶玉を取り出した。
それはエルフの秘術によって作られた、記憶を記録するための魔法の道具、『記憶水晶(メモリークリスタル)』だった。
リリアは、その水晶玉に意識を集中させ、静かに呪文を唱え始めた。
水晶玉が淡い光を放ち始める。
今、この場所で行われている売国の会話。その音声と映像が、この水晶玉に一言一句、寸分違わず記録されていく。

ヴァルザーとザルガスの密会はまだ続いていた。
彼らはこれから始まる侵略戦争の血腥い詳細を、まるで晩餐会のメニューでも決めるかのように楽しげに語り合っている。
その全てが動かぬ証拠となって、俺たちの手の中に収められようとしていた。

俺は怒りを必死に抑えつけ、ただその時が来るのを待っていた。
ヴァルザーの罪を白日の下に晒し、その傲慢な鼻をへし折る、その瞬間を。
俺たちの反撃の切り札が、今、静かに作られていた。
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