「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ

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第67話:宰相の豹変

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ヴァルザーの体から噴き出した黒いオーラは、玉座の間全体を飲み込むかのような勢いで渦を巻いた。
燭台の炎が揺らめき、巨大なタペストリーが不気味にはためく。空気は鉛のように重くなり、肌を刺すような悪意がその場にいる全ての者を襲った。

「な、なんだ、これは……!?」
騎士団長が驚愕の声を上げる。
国王も、玉座の上で恐怖に震え、腰を抜かしていた。

「ククク……これが我が新たなる力! 魔族の王から授かりし、神をも超える力だ!」
ヴァルザーの甲高い笑い声が、玉座の間に響き渡る。
彼の体が人間のものではなくなっていく。
皮膚は禍々しい紫黒色に変色し、硬質の鱗のようなものに覆われていく。背中からは、ねじくれた悪魔の翼が突き出し、指先は鋭い鉤爪へと変化した。その瞳は血のように赤く輝いている。
もはや、そこに王国宰相の面影はない。
一体の醜悪な魔人。それがヴァルザーの正体だった。

「ひ、化け物……!」
誰かが恐怖に引きつった声を上げた。
騎士たちが反射的に剣を構える。だが、その剣先は恐怖で微かに震えていた。
目の前の存在が、自分たちの手に負える相手ではないことを本能で理解していたのだ。

「フハハハハ! そうだ、ひれ伏すがいい! 愚かな人間どもよ!」
魔人ヴァルザーは、その鉤爪を国王へと向けた。
「まずは、その玉座を明け渡していただこうか、無能な国王陛下!」
彼は地を蹴った。
その動きは、もはや人間の俊敏性を遥かに超えていた。黒い残像となって玉座へと迫る。

「陛下をお守りしろ!」
バルガスが雷鳴のような号令を発した。
彼と彼に付き従う『王国の盾』のメンバーたちが、国王の前に立ちはだかり、盾を構えた。
ガキイイイイン!
ヴァルザーの鉤爪とバルガスの長剣が激突し、甲高い金属音と火花を散らした。

「ぬうっ……!」
バルガスは、そのあまりの膂力に数歩後退させられた。老いてなお王国最強と謳われた彼の剣を、いとも容易く受け止める。
「……ほう。まだこれほどの力が残っていたか、老いぼれ」
ヴァルザーが嘲笑う。
「だが、今の私の前では無意味だ!」
ヴァルザーはさらに力を込めた。バルガスの剣が、ミシリと軋む音を立てる。

「親父さん! 加勢するぜ!」
フレアがウォーハンマーを構えて、ヴァルザーの側面へと回り込もうとする。
「させるか!」
だが、ヴァルザーの背後から新たな脅威が現れた。
魔族の将軍ザルガス。
そして、数十体の武装した魔族兵。
彼らはヴァルザーの魔力に呼応し、王城の地下からこの玉座の間へと転移してきたのだ。

「なっ……魔族だと!?」
「王城にこれほどの数の魔族が……!」
騎士団が完全に混乱に陥る。
ザルガスは巨大な戦斧を振りかざし、フレアの前に立ちはだかった。
「貴様の相手はこの俺だ、ドワーフの小娘! 昨夜の借りを、ここで返させてもらうぞ!」
「望むところだ、トカゲ野郎!」
フレアとザルガスの第二ラウンドの火蓋が切られた。

玉座の間は一瞬にして、人間と魔族が入り乱れる地獄の戦場と化した。
剣と魔法が交錯し、怒号と悲鳴が響き渡る。
レジスタンスたちは数で勝る魔族兵を相手に、必死の防戦を繰り広げていた。
リリアも弓を構え、光の矢で仲間たちを援護している。彼女の矢は、正確に魔族の急所を射抜いていく。
だが、敵の数はあまりにも多かった。

「アッシュ!」
バルガスがヴァルザーと鍔迫り合いをしながら、俺に向かって叫んだ。
「国王陛下と王女殿下をお連れして、ここから脱出しろ! お前さんだけが最後の希望だ!」
玉座の陰で、若い王女が恐怖に震えているのが見えた。
国王は、もはや気を失っているようだった。

俺は一瞬ためらった。
仲間たちをこの死地に残していくのか?
「行けえええええっ!」
バルガスの悲痛な叫び。
俺は奥歯を噛み締めた。
今、俺がすべきことは何か。
感情に流されるな。最善の選択をしろ。

俺の『幸運』は、戦況を覆せるほどの万能の力ではない。
だが、脱出という一点に絞れば話は別だ。
俺は決意を固めた。
「リリア! 王女を!」
「はい!」
リリアは矢を放ちながら、素早く王女の元へと駆け寄った。
俺は、気を失っている国王の体を肩に担ぎ上げた。

「逃がすと思うか、小僧!」
ヴァルザーが俺たちの動きに気づき、バルガスを弾き飛ばしてこちらへ向かってこようとする。
だが、その瞬間。
俺が国王を担いで一歩踏み出した床の大理石が、都合よく砕けた。
ヴァルザーは、その窪みに足を取られて体勢を崩す。
「なっ……!?」
その一瞬の隙に、俺たちは玉座の裏に隠されていた秘密の通路へと駆け込んだ。

「追え! 奴らを逃がすな!」
ヴァルザーの怒声が背後から追いかけてくる。
だが、俺たちが通路に飛び込んだ直後、頭上から巨大なシャンデリアが落下し、通路の入り口を完全に塞いでしまった。
図書館で起きた現象の再現だった。
俺の『脱出したい』という強い意志が、またしてもありえない偶然を引き起こしたのだ。

俺たちは暗い秘密通路をひたすら走った。
背後から聞こえていた戦いの喧騒が、徐々に遠ざかっていく。
仲間たちの顔が脳裏に浮かんだ。
バルガス、フレア、そしてレジスタンスの仲間たち。
(……死ぬなよ。絶対に)
俺は心の中で強く願った。
必ず助けに戻る。
そのために、今は生き延びなければならない。

俺たちの王城からの決死の脱出劇。
それは、ヴァルザーのクーデターの始まりを告げる狼煙でもあった。
王都の運命は、今、風前の灯火となっていた。
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