「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ

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第80話:宰相の切り札

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貴族街での圧勝。
その報せは王城に立てこもるヴァルザーにとって、最後の希望を打ち砕く絶望の鐘の音だっただろう。
王都は完全に解放された。
民衆も貴族も騎士団の大部分も、今や全てが俺たち王都解放軍の側についた。
ヴァルザーに残されたのは僅かな手勢と魔族の残党、そしてもはや誰も近づくことのない孤立無援の王城だけ。
誰もが彼の敗北を確信していた。

「……追い詰められたな、ヴァルザー」
解放された貴族街の司令部で、バルガスが静かに呟いた。
「だが、あの男がこのまま大人しく投降するとは思えん。必ず最後の最後まで足掻くだろう」
その言葉通り、王城は不気味な沈黙を保っていた。降伏の使者が来る気配も、城内から逃げ出す者がいる気配もない。

「何か、とんでもない奥の手を隠してるに違いねえぜ」
フレアが愛用のウォーハンマーの手入れをしながら、警戒を露わにした。
「リリア、何か感じるかい?」
「……はい」
リリアは窓の外の王城を見つめながら、難しい顔で頷いた。
「城の中心から、今までとは比べ物にならないほど巨大で邪悪な魔力が渦巻いています。まるで地獄の門でも開こうとしているかのような……。何かを『召喚』しているのかもしれません」

召喚。
その言葉に司令部の空気が凍りついた。
ヴァルザーに残された、最後の、そして最悪の切り札。
俺たちの脳裏に同じ予感がよぎっていた。

その予感はすぐに現実のものとなった。
ゴゴゴゴゴゴゴ……!
王都全体が激しい地震のように揺れた。
空はまだ昼間だというのに急速に暗雲に覆われ、まるで夜のようになった。
そして王城の中庭。その中心の地面が巨大な魔法陣となって、禍々しい紫色の光を放ち始めた。

「始まったぞ!」
バルガスが叫んだ。
俺たちは司令部を飛び出し、王城がよく見える広場へと駆け出した。
街路には異変に気づいた民衆が溢れ、不安そうな顔で空を見上げている。

魔法陣の光が天を突くほどの柱となって立ち上る。
その光の中から、何かがゆっくりと姿を現した。
それは生物と呼ぶにはあまりにも巨大で異形だった。

全長は王城の塔よりも高い。
全身は黒曜石のように硬質で、ごつごつとした甲殻に覆われている。
百本以上はあろうかという昆虫のような無数の足が、地面を蠢いている。
そしてその頭部には、ただ一つ。
虚無の闇を凝縮したかのような巨大な紅い瞳が、不気味に輝いていた。
その瞳が俺たちのいる王都を、まるで矮小な虫けらでも見るかのように見下ろしている。

「……な、なんだよ、ありゃあ……」
フレアが生まれて初めて、恐怖に引きつった声を上げた。
「古の文献にのみ記される、伝説の厄災……魔族さえもがその力を恐れ、太古の昔に封印したとされる究極の破壊兵器……」
リリアが震える声でその名を告げた。
「―――魔獣、『デモゴルゴン』……!」

ヴァルザーは正気ではなかった。
自らの敗北を悟った彼は、最後の最後にこの王都を、そしてこの国そのものを道連れにして滅ぼそうとしているのだ。
彼は魔族から与えられた禁断の知識を使い、この世の終わりそのものをこの地に召喚してしまった。

グルオオオオオオオオオオオッ!
デモゴルゴンが咆哮した。
それは音というより衝撃波だった。
広場の建物の窓ガラスが一斉に砕け散る。人々は耳を塞ぎ、その場にうずくまった。

「……全軍に告ぐ!」
バルガスが恐怖に震える自らを叱咤するように、張り裂けんばかりの声で叫んだ。
「怯むな! 我々の後ろには民がいる! この街がある! あの化け物をここで食い止めるのだ! 王国の最後の盾となれ!」
その言葉に解放軍の兵士たちは、恐怖を勇気に変えて武器を構えた。

「フレア!」
俺は隣に立つ仲間の名を呼んだ。
「『城砕き』はまだ使えるか!?」
「ああ! 予備の矢はまだ二本ある!」
「リリア!」
「はい! 魔力はまだ残っています!」
二人の声に迷いはなかった。

俺は民衆に向かって叫んだ。
「みんな、伏せろ! 家の中に隠れろ! 絶対に外に出るな!」
人々は俺の言葉に従い、パニックになりながらも必死で安全な場所を探し始めた。

そして俺は、天を衝くほどの巨大な魔獣をまっすぐに見据えた。
相手は伝説の厄災。
神々でさえ封印するのがやっとだったという、破壊の化身。
勝てるのか?
いや、勝つしかない。

俺は腰の『星屑』を抜き放った。
そして自らの持つ全ての『幸運』を、この一点に集中させる。
(頼む。力を貸してくれ)
俺はもはや神に祈るような気持ちで、願った。
(この街を、ここにいる全ての人々を守らせてくれ……!)

俺の願いに応えるかのように、『星屑』の刀身が今までにないほどの眩い光を放ち始めた。
それは絶望の闇を切り裂く、一筋の希望の光。
俺たちの最後の戦いが、今、始まろうとしていた。
相手は、この世の終わりそのものだった。
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