ログインしたら人外でした。 ~VRMMOで最恐の魔物になる~

夏見ナイ

文字の大きさ
46 / 76

第四十六話 創世の槌音

しおりを挟む
現実世界のアパートの一室。神代湊は、ERO公式サイトに表示された大型アップデート「Realms Unveiled」と大規模イベント「War of Genesis」の告知を、食い入るように読んでいた。新大陸アストライア、新種族、新たなダンジョン、そして全プレイヤーを巻き込む陣営対立戦争――。それは、彼がプレイするこのVRMMOの世界が、新たな局面を迎えようとしていることを明確に示していた。

「秩序(オーダー)と混沌(カオス)…か。運営も、随分と分かりやすい対立構造を持ってきたものだ」

湊は、どちらの陣営に参加するかを促すゲーム内通知を想像し、わずかに眉をひそめた。魔物種族であるオブシディアンは、システム上おそらく「混沌」陣営に分類されるのだろう。しかし、彼に陣営に与(くみ)する気は毛頭なかった。彼にとって重要なのは、この大規模な変化と混乱を、いかに自身の糧とするか、だ。

「アストライア…そこに、新たな知識や進化の手がかりがあるかもしれない。戦争は…格好の狩り場になるだろう」

湊は小さく呟くと、再びNerveLinkerを装着し、意識をEROの世界へと送り込んだ。

ログインしたのは、前回ログアウトした「微睡みの森」の奥深くにある岩陰。カオス・アビスとしての感覚が即座に戻ってくる。周囲の魔力の流れ、微細な生物の気配、そして自身の内に満ちる深淵の力。

まず、オブシディアンは【古代言語完全解読】スキルを使い、中断していた「アーク・メイジの日誌」と「古代魔術の断章」の解読を再開した。解読レベルが上がったことで、以前は曖昧だった部分も次々と明らかになっていく。

日誌には、アーク・メイジが「アストライア」と呼ばれる浮遊大陸の存在を知り、そこにあるという「始原の石板」を求めていた記述があった。その石板には、世界の創造に関する根源的な情報が記されているという。また、「創世戦争」についても、それが単なるプレイヤーイベントではなく、世界の法則そのものに影響を与える可能性を示唆するような、予言めいた記述が見られた。

断章には、【万物創造】や【因果歪曲】といったオブシディアンが持つスキルに類似した、あるいはその上位に位置するであろう古代魔術の理論が記されていた。物質だけでなく、エネルギー、生命、さらには時間や空間といった概念すらも操作対象とする、まさに神の領域に触れるかのような魔術体系。オブシディアンは、その深遠な知識に魅了されると同時に、その危険性も改めて認識した。

(これらの知識…いずれは我が物としなければ)

次に、オブシディアンは新たなスキルの試用と熟練度上げを開始した。まずは【混沌変異 Lv.2】。彼は、捕食したワイバーンの記憶と知識を元に、自身の背中に巨大な黒曜石色の翼を形成することを試みた。MPを大きく消費し、核(コア)に負荷がかかるが、イメージ通りに不定形の身体の一部が変異し、力強い翼が形作られた。

(飛べるか…?)

【風操作(小)】で上昇気流を作り出し、翼を羽ばたかせてみる。身体はふわりと浮き上がるが、安定した飛行にはまだ程遠い。変異させた部位の精密なコントロールと、飛行に関する知識・経験がさらに必要だろう。しかし、短時間の滑空や、高所からの奇襲など、戦術の幅が広がる可能性は示された。

続いて【万物創造(中級) Lv.1】。オブシディアンは、アーク・メイジの日誌にあったゴーレムの設計図を参考に、自身の魔力と周囲の物質(岩石や金属片など)を組み合わせて、小型の自律型ゴーレムを生成することを試みた。これもまた膨大なMPと集中力を要したが、やがて一体の黒曜石ゴーレム(Lv.10相当)が目の前に実体化した。それは【死霊魔術】による召喚とは異なり、オブシディアンの命令に忠実に従い、ある程度の自己判断能力も持つ、まさに「創造物」だった。ただし、活動時間は限られており、MP供給がなくなると崩壊してしまうようだ。

(これも、使い方次第では強力な武器になる…)

オブシディアンは、これらの新スキルを試しながら、近くに生息するモンスターを狩り、スキル熟練度と経験値を稼いでいった。レベルは既に20に到達しているが、さらなる高みを目指す上で、地道な鍛錬は欠かせない。

数日が経過し、ゲーム内ではついに「創世戦争」の正式な開戦日時と、最初の戦場となるエリアが告知された。それは、オブシディアンが予想した通り、新大陸アストライアへと繋がる「境界門」周辺の地域だった。プレイヤーたちは、秩序・混沌の各陣営に分かれ、境界門の支配権を巡って激突することになる。

【蟲の共鳴】を通じて聞こえてくるプレイヤーたちの会話は、期待と興奮、そして陣営間の敵意に満ちていた。大手ギルドは戦略会議を開き、PKギルドは混乱に乗じた略奪を計画し、一般プレイヤーたちは友人たちとパーティを組んで参戦準備を進めている。世界全体が、来るべき戦争に向けて動き出しているのが感じられた。

もちろん、オブシディアンの名も、その喧騒の中で頻繁に囁かれていた。

「Obsidianはどっちの陣営につくんだろうな?」
「魔物種族だからカオス陣営だろ? いや、あいつはそういう次元じゃないか…」
「どっちにつくにせよ、戦場で遭遇したら終わりだ。味方でも安心できん」
「いっそ、両陣営から最優先討伐対象に指定されたりしてなw」

(好きに言っていろ)

オブシディアンは、そんな噂を一蹴する。彼にとって、この戦争は自身の目的を達成するための舞台装置に過ぎない。秩序も混沌も関係ない。ただ、戦場に満ちる力と知識を喰らい、自身の糧とするのみ。

(まずは、戦場となる「境界門」周辺エリアへ向かうか。そこからアストライアへ渡る方法も見つかるかもしれない)

オブシディアンは、決意を新たに【影潜行 Lv.2】…いや、【混沌変異 Lv.2】で自身の姿を完全に影そのものへと変質させ、音もなく移動を開始した。レベルが上がり、スキルも進化した今、その移動速度は以前とは比較にならない。

森を抜け、荒野を駆け、山岳を越え、オブシディアンは指定された戦場エリアへと向かう。道中、イベントに向けて移動しているプレイヤーの集団や、偵察部隊らしき姿も何度か見かけたが、オブシディアンの存在に気づく者は誰もいなかった。

やがて、オブシディアンの前方に、異様な光景が広がってきた。大地には巨大な亀裂が走り、そこからアストライア大陸のものと思われる未知の植物や結晶体が顔を覗かせている。空には、オーロラのような色とりどりの光が揺らめき、空間そのものが不安定になっているのを感じる。そして、その中心には、巨大な石造りの門――「境界門」――が聳え立ち、その周囲には既に両陣営のプレイヤーたちが集結し、一触即発の空気を漂わせていた。

(始まるな…創世の戦争が)

オブシディアンは、戦場の喧騒から少し離れた丘の上の影に潜み、静かにその時を待った。彼の黒曜石のような瞳(のような感覚器官)の奥には、冷徹な計算と、抑えきれない捕食者としての渇望が宿っていた。この戦場で、どれほどの力を得られるのか。どれほどの知識を喰らえるのか。

創世の槌音が、今、打ち鳴らされようとしていた。そして、その混沌の中心で、黒曜石の影が静かに、しかし確実に、その牙を研いでいた。世界がどう変わろうと、彼はただ、喰らい続ける。

名前: オブシディアン
種族: カオス・アビス (ユニーク種族)
称号: 影に潜む者 (効果向上), 墓守殺し, 深淵の使徒, 竜殺し, 風を征す者, 炎心を識る者, ヒュドラ・ベイン, 叡智を探求する者
所属: 未定義

【能力値】
体力: 40
魔力容量: 55
物理攻撃力: 12
物理防御力: 25
魔法攻撃力: 20
魔法防御力: 35
素早さ: 28

【スキル】
・虚無捕食 Lv.2
・混沌変異 Lv.2
・生物発光 Lv.1
・闇視 Lv.1
・噛みつき耐性(微) Lv.1
・跳躍 Lv.1
・嗅覚強化 Lv.1
・糸生成 Lv.2
・毒耐性(大) Lv.1
・金剛鱗 Lv.1
・爪撃 Lv.2
・腐食溶解液 Lv.1
・物理耐性(小) Lv.1
・万物創造(中級) Lv.1
・アンデッド耐性(微) Lv.1
・死霊魔術(初級) Lv.1
・精神耐性(中) Lv.1
・ブレス耐性(大) Lv.1
・怨念耐性(小) Lv.1
・深淵の心臓 Lv.1
・統率力(微) Lv.1
・水中浮遊機動 Lv.1
・粘液噴射 Lv.1
・麻痺耐性(小) Lv.1
・壁面歩行(小) Lv.1
・鎌鼬 Lv.1
・蟲の共鳴 Lv.1
・威圧 Lv.1
・猛禽の目 Lv.1
・古代言語完全解読
・魅了耐性(微) Lv.1
・突風耐性(小) Lv.1
・風操作(小) Lv.1
・火炎耐性(極) Lv.1
・熱源感知 Lv.1
・エレメンタル知識(四大) Lv.1
・自己再生(小) Lv.1
・火炎ブレス Lv.1
・墨噴射 Lv.1
・三叉槍術(初級) Lv.1
・古代魔術耐性(微) Lv.1
・見張り Lv.1
・電撃耐性(小) Lv.1
・固有スキル【深淵領域 Lv.2】
・固有スキル【因果歪曲(微) Lv.2】
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

俺の職業は【トラップ・マスター】。ダンジョンを経験値工場に作り変えたら、俺一人のせいでサーバー全体のレベルがインフレした件

夏見ナイ
SF
現実世界でシステムエンジニアとして働く神代蓮。彼が効率を求めVRMMORPG「エリュシオン・オンライン」で選んだのは、誰にも見向きもされない不遇職【トラップ・マスター】だった。 周囲の冷笑をよそに、蓮はプログラミング知識を応用してトラップを自動連携させる画期的な戦術を開発。さらに誰も見向きもしないダンジョンを丸ごと買い取り、24時間稼働の「全自動経験値工場」へと作り変えてしまう。 結果、彼のレベルと資産は異常な速度で膨れ上がり、サーバーの経済とランキングをたった一人で崩壊させた。この事態を危険視した最強ギルドは、彼のダンジョンに狙いを定める。これは、知恵と工夫で世界の常識を覆す、一人の男の伝説の始まり。

親がうるさいのでVRMMOでソロ成長します

miigumi
ファンタジー
VRが当たり前になった時代。大学生の瑞希は、親の干渉に息苦しさを感じながらも、特にやりたいことも見つからずにいた。 そんなある日、友人に誘われた話題のVRMMO《ルーンスフィア・オンライン》で目にしたのは――「あなたが求める自由を」という言葉。 軽い気持ちでログインしたはずが、気づけば彼女は“ソロ”で世界を駆けることになる。 誰にも縛られない場所で、瑞希は自分の力で強くなることを選んだ。これは、自由を求める彼女のソロ成長物語。 毎日22時投稿します。

癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。

branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位> <カクヨム週間総合ランキング最高3位> <小説家になろうVRゲーム日間・週間1位> 現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。 目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。 モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。 ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。 テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。 そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が―― 「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!? 癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中! 本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ! ▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。 ▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕! カクヨムで先行配信してます!

もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。 遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。 作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓―― 今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!? ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。 癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ
ファンタジー
ブラック企業『アメイジング・コーポレーション㈱』で働く経理部員、高橋翔23歳。 理不尽に会社をクビになってしまった翔だが、慎ましい生活を送れば一年位なら何とかなるかと、以前よりハマっていたフルダイブ型VRMMO『Different World』にダイブした。 今日は待ちに待った大規模イベント情報解禁日。その日から高橋翔の世界が一変する。 ゲーム世界と現実を好きに行き来出来る主人公が織り成す『ハイパーざまぁ!ストーリー。』 計画的に?無自覚に?怒涛の『ざまぁw!』がここに有る! この物語はフィクションです。 ※ノベルピア様にて3話先行配信しておりましたが、昨日、突然ログインできなくなってしまったため、ノベルピア様での配信を中止しております。

ミックスブラッドオンライン・リメイク

マルルン
ファンタジー
 ある日、幼馴染の琴音に『大学進学資金』の獲得にと勧められたのは、何と懸賞金付きのVRMMOの限定サーバへの参加だった。名前は『ミックスブラッドオンライン』と言って、混血がテーマの一風変わったシステムのゲームらしい。賞金の額は3億円と破格だが、ゲーム内には癖の強い振るい落としイベント&エリアが満載らしい。  たかがゲームにそんな賞金を懸ける新社長も変わっているが、俺の目的はどちらかと言えば沸点の低い幼馴染のご機嫌取り。そんな俺たちを待ち構えるのは、架空世界で巻き起こる破天荒な冒険の数々だった――。

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

処理中です...