捨てられ王女ですが、もふもふ達と力を合わせて最強の農業国家を作ってしまいました

夏見ナイ

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第二十一話 革新的な農具

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ドワーフは、目の前に差し出されたシチューの器を、今度は素直に受け取った。そして、一口、また一口と、まるで失われた時間を取り戻すかのように夢中で食べ始めた。その食べっぷりは、彼の空腹がいかに限界だったかを物語っていた。

「美味い……これも、あの酒と同じくらい美味い……」
彼は呟きながら、あっという間に器を空にしてしまった。そして、満足げに大きく息をつくと、改めて私たちに向き直った。その瞳から、先ほどまでの敵意と頑固さは綺麗に消え去っていた。

「ワシはガンツ。見ての通り、ドワーフの鍛冶職人だ」
彼は、自分の胸を親指で指しながら名乗った。
「あの酒と食事の礼だ。何か困っていることはないか?ワシにできることなら、力を貸してやらんでもない」
その口調はまだぶっきらぼうだったが、そこには確かな誠意が感じられた。極上の酒と美味い食事は、彼のドワーフとしての誇りを心地よく刺激したらしい。

「助かります、ガンツさん」
私が微笑むと、ガンツは少し照れたように髭をいじった。

私たちはガンツに、この共同体の成り立ちや、これからの目標について語って聞かせた。不毛の地を開墾し、冬を越すために備え、皆で力を合わせて暮らしていることを。
私たちの話を聞きながら、ガンツは時折感心したように頷いていた。特に、モグ族と協力して家を建てた話や、私の力で温室を作った話には、職人として大いに興味を惹かれたようだった。

「なるほどな。人間の嬢ちゃんが持つ不思議な力と、獣人どもの働き、そして土竜の土木技術か。面白い組み合わせだ。だが、一つだけ足りんものがある」
ガンツは、ログハウスの壁に立てかけてあった、ギルバートたちが開墾に使っていた道具を指差した。それは、丈夫な木の枝の先に平たい石を括り付けた、原始的な鍬だった。

「これだ。こんな粗末な道具では、せっかくの働き手たちの力が半減してしまう。良い仕事は、良い道具から生まれる。これは鍛冶職人の世界の鉄則だ」
彼の目は、プロフェッショナルの厳しい光を宿していた。
「よし、決めた。ワシが、お前たちのために最高の道具を作ってやろう」

その言葉に、私たちは顔を見合わせた。願ってもない申し出だった。
「本当ですか!?」
「ああ、約束する。ただし、ワシの仕事には最高の素材が必要だ。この辺りで、質の良い鉱石は採れるのか?」
ガンツの問いに、私は首を横に振った。この辺りは岩と砂ばかりで、金属の気配は感じられない。

すると、今まで黙って話を聞いていたモグ族の長老が、土の中からひょっこりと顔を出した。彼はガンツの申し出に興味津々だったようだ。
『鉱石ナラ、心当タリガアルゾ!』
長老は、洞窟のさらに奥深く、彼らモグ族の縄張りの地下深くに、不思議な輝きを放つ鉱脈が眠っていることを教えてくれた。
『ワレラニハドウ使ウカ分カラナカッタガ、鍛冶屋サンナラ、アレヲ活カセルカモシレナイ』

話はとんとん拍子に進んだ。翌日、吹雪がわずかに弱まったのを見計らい、ガンツはモグ族の案内で地下の鉱脈へと向かった。ギルバートが護衛として付き添う。

そして、その日の夕方。彼らは興奮した様子で帰ってきた。ガンツの手には、彼が今まで見たこともないような、美しい鉱石が握られていた。それは、鉄鉱石に銀色の金属が混じり合ったような不思議な輝きを放っている。

「ミスリルだ……!間違いねえ、これは極めて純度の高いミスリルの鉱石だ!」
ガンツは、まるで恋人を見つめるような熱い眼差しで鉱石を撫でながら、震える声で言った。
「しかも、鉄と見事に混じり合っている。これなら、鋼の強度とミスリルの軽さ、そして魔力伝導性を兼ね備えた、夢のような合金が作れるぞ!」

その日から、ガンツは人が変わったように仕事に没頭し始めた。彼は共同体の外れに簡単な鍛冶場を設けると、一日中、炉に火を入れ、金槌を振るい続けた。カン、カン、と響き渡るリズミカルな金属音が、私たちの村に新たな活気をもたらす。

そして、数日後。ガンツは、完成したばかりの道具を私たちの前に誇らしげに並べてみせた。
そこに並んでいたのは、鍬、鋤、そして鎌。どれも、私たちが今まで使っていたものとは比べ物にならないほど、洗練された美しいフォルムをしていた。刃の部分は、ミスリル合金特有の鈍い銀色の輝きを放ち、その切れ味は見ただけで伝わってくるほどだ。

「さあ、使ってみろ」
ガンツに促され、ギルバートが代表して新しい鍬を手に取った。
「なっ……軽い!」
彼は驚きの声を上げた。見た目は重厚なのに、まるで羽のように軽いのだ。

ギルバートは試しに、まだ手つかずだった凍てついた地面に鍬を振り下ろした。
ザシュッ!
今までなら、硬い音を立てて弾き返されたはずの地面に、鍬はいとも簡単に、まるで柔らかな豆腐を切るように深々と突き刺さった。ほとんど力は入れていない。道具の重さと鋭さだけで、大地が耕されていく。

「こ、これは……すごい!」
ギルバートが、感嘆の声を上げる。ガルフも、モグ族たちも、その革新的な農具の性能に目を丸くしていた。

「それだけじゃねえ」
ガンツはにやりと笑うと、私に手招きをした。
「嬢ちゃん。その鍬に、お前の力を注いでみな」

言われるがままに、私が鍬の柄に手を触れ、力を込める。すると、ミスリル合金でできた刃の部分が、私の翠色の光に呼応するように淡く輝き始めた。
そして、ギルバートが再び鍬を振るうと、刃が触れた地面が、耕されると同時にふかふかの黒土へと変わっていくではないか。

「道具が、アリシア様の御力を増幅させている……!」
ギルバートが驚愕する。

ガンツの作った革新的な農具は、私たちの農業生産性を文字通り劇的に向上させた。開墾のスピードは数倍、いや数十倍にも跳ね上がり、『陽だまりのドーム』の中は、あっという間に多種多様な作物で埋め尽くされていった。

ガンツは、私たちの共同体に欠かすことのできない、重要な仲間となった。
頑固なドワーフの心を開いたのは、一杯の酒。そして、その出会いが、私たちの未来に計り知れないほどの豊かさをもたらしてくれたのだ。
冬の厳しさの中、私たちの共同体は、また一つ、大きな力を手に入れたのだった。
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