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第九十六話:光と闇の決着
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邪神の腕が光の粒子となって消え去り、祭壇の間には静寂が戻った。だが、アッシュたちは決して油断していなかった。虚無の導師のローブだけが残された祭壇の中心を、誰もが警戒の目で睨みつけていた。
「……本当に終わったのか?」
ガイウスがまだ剣を構えたまま問いかける。
その言葉に答えるかのように、祭壇の上に残されたローブが不意に蠢いた。
そして、その下から黒い靄のようなものが立ち上り、再び人の形を成し始めた。現れたのは仮面もローブも失い、その素顔を晒した虚無の導師だった。
その顔は驚くほど若く、そして美しい青年のものだった。だが、その瞳には何の光もなく、ただ底なしの虚無が広がっているだけだった。
「見事だ、アッシュ・フォン・ヴェルヘイム」
導師はもはや何の力も残っていないかのように、静かな声で言った。
「お前は我らの神さえも退けた。人の持つ希望の光がこれほどの力を持つとは……。計算外だった」
彼は敗北を認めていた。だが、その表情に悔しさや絶望の色はなかった。ただ、一つの実験結果を観察するかのような冷たい静けさがあるだけだった。
「だが、勘違いするな」
導師はゆっくりと首を横に振った。
「お前たちが倒したのは、我らが『奈落の蛇』のほんの一部に過ぎん」
「……何だと?」
セレスティアが息を呑んだ。
「蛇は一匹ではない」
導師の言葉は不吉な予言のように響いた。
「この帝国に潜む蛇もいれば、他の王国に巣食う蛇もいる。大陸の至る所で我らの同胞は、世界の終わりを静かに待ち望んでいる。一つの頭を潰したところで蛇は死なない。いずれ新たな頭が生まれ、再び毒を吐き始めるだろう」
その言葉は、アッシュたちの心を凍り付かせた。
彼らが戦ってきた相手は、氷山の一角に過ぎなかったのだ。
「そして、アッシュ・フォン・ヴェルヘイム」
導師は、その虚ろな瞳をアッシュに向けた。
「お前という存在は、我らにとっても、そしてこの世界にとっても最大の『異物』だ。お前が持つ感情を操る力。それは神の領域に踏み込む禁忌の力だ。その力は、いずれ世界に光をもたらすか、あるいは我らがもたらそうとした破滅とは別の、新たな混沌を生み出すだろう」
「……」
アッシュは何も答えなかった。
「お前の戦いはまだ終わらない。いや、むしろこれから始まるのだ。光と闇、秩序と混沌。その狭間で、お前は永遠に戦い続けることになるだろう。……実に滑稽だな」
導師はそう言うと、ふっと自嘲するように笑った。
次の瞬間、彼の体が足元から砂のように崩れ始めた。彼は邪神を召喚した代償として、自らの存在そのものを使い果たしていたのだ。
「さらばだ、希望の子よ。いずれまた、奈落の底で会うことになるやもしれん……」
その言葉を最後に虚無の導師は完全に消滅し、後には何も残らなかった。
光と闇の決着は、あまりにも静かで、そして後味の悪い形で幕を閉じた。
ゴゴゴゴゴ……。
主を失った地下遺跡が、その存在を維持できなくなったかのように激しく揺れ始めた。天井から巨大な岩が次々と落下し、床には深い亀裂が走る。この場所は間もなく完全に崩壊するだろう。
「行くぞ!脱出する!」
アッシュは仲間たちに叫んだ。
一行は最後の力を振り絞り、崩れゆく遺跡の中を駆け抜けた。来た道を必死に引き返し、瓦礫の雨を潜り抜ける。
そして、彼らが共同墓地の地下霊廟から地上へと飛び出した、その瞬間。
彼らの背後で地面が大きく陥没し、帝都の地下に眠っていた古代遺跡は轟音と共に永遠に闇の中へと埋もれていった。
戦いは本当に終わったのだ。
アッシュたちは埃と血に塗れ、満身創痍の姿でその場に崩れ落ちた。
誰もが口を利く気力さえ残っていなかった。
だが、彼らは顔を上げた。
東の空がゆっくりと白み始めていた。
長い長い夜が終わり、帝都に新たな朝が訪れようとしていた。
闇を打ち破った彼らを迎えたのは、どこまでも美しく、そして希望に満ちた夜明けの光だった。
その光を浴びながら、アッシュは静かに目を閉じた。
導師の最後の言葉が、彼の心に重く響いていた。
『蛇は、一匹ではない』
『お前の戦いは、これから始まる』
彼は一つの大きな戦いを終えた。
だが、それはこれから始まる、より大きく、そして終わりのない戦いのほんの序章に過ぎないのかもしれない。
それでも。
アッシュは隣で息をつく仲間たちの顔を見た。
リリアが、ガイウスが、セレスティアが、そこにいる。
(独りじゃない)
彼は心の中で呟いた。
どんな戦いが待っていようと、もはや彼は独りではなかった。
それこそが、彼がこの絶望的な戦いの果てに手に入れた何物にも代えがたい最大の報酬だった。
「……本当に終わったのか?」
ガイウスがまだ剣を構えたまま問いかける。
その言葉に答えるかのように、祭壇の上に残されたローブが不意に蠢いた。
そして、その下から黒い靄のようなものが立ち上り、再び人の形を成し始めた。現れたのは仮面もローブも失い、その素顔を晒した虚無の導師だった。
その顔は驚くほど若く、そして美しい青年のものだった。だが、その瞳には何の光もなく、ただ底なしの虚無が広がっているだけだった。
「見事だ、アッシュ・フォン・ヴェルヘイム」
導師はもはや何の力も残っていないかのように、静かな声で言った。
「お前は我らの神さえも退けた。人の持つ希望の光がこれほどの力を持つとは……。計算外だった」
彼は敗北を認めていた。だが、その表情に悔しさや絶望の色はなかった。ただ、一つの実験結果を観察するかのような冷たい静けさがあるだけだった。
「だが、勘違いするな」
導師はゆっくりと首を横に振った。
「お前たちが倒したのは、我らが『奈落の蛇』のほんの一部に過ぎん」
「……何だと?」
セレスティアが息を呑んだ。
「蛇は一匹ではない」
導師の言葉は不吉な予言のように響いた。
「この帝国に潜む蛇もいれば、他の王国に巣食う蛇もいる。大陸の至る所で我らの同胞は、世界の終わりを静かに待ち望んでいる。一つの頭を潰したところで蛇は死なない。いずれ新たな頭が生まれ、再び毒を吐き始めるだろう」
その言葉は、アッシュたちの心を凍り付かせた。
彼らが戦ってきた相手は、氷山の一角に過ぎなかったのだ。
「そして、アッシュ・フォン・ヴェルヘイム」
導師は、その虚ろな瞳をアッシュに向けた。
「お前という存在は、我らにとっても、そしてこの世界にとっても最大の『異物』だ。お前が持つ感情を操る力。それは神の領域に踏み込む禁忌の力だ。その力は、いずれ世界に光をもたらすか、あるいは我らがもたらそうとした破滅とは別の、新たな混沌を生み出すだろう」
「……」
アッシュは何も答えなかった。
「お前の戦いはまだ終わらない。いや、むしろこれから始まるのだ。光と闇、秩序と混沌。その狭間で、お前は永遠に戦い続けることになるだろう。……実に滑稽だな」
導師はそう言うと、ふっと自嘲するように笑った。
次の瞬間、彼の体が足元から砂のように崩れ始めた。彼は邪神を召喚した代償として、自らの存在そのものを使い果たしていたのだ。
「さらばだ、希望の子よ。いずれまた、奈落の底で会うことになるやもしれん……」
その言葉を最後に虚無の導師は完全に消滅し、後には何も残らなかった。
光と闇の決着は、あまりにも静かで、そして後味の悪い形で幕を閉じた。
ゴゴゴゴゴ……。
主を失った地下遺跡が、その存在を維持できなくなったかのように激しく揺れ始めた。天井から巨大な岩が次々と落下し、床には深い亀裂が走る。この場所は間もなく完全に崩壊するだろう。
「行くぞ!脱出する!」
アッシュは仲間たちに叫んだ。
一行は最後の力を振り絞り、崩れゆく遺跡の中を駆け抜けた。来た道を必死に引き返し、瓦礫の雨を潜り抜ける。
そして、彼らが共同墓地の地下霊廟から地上へと飛び出した、その瞬間。
彼らの背後で地面が大きく陥没し、帝都の地下に眠っていた古代遺跡は轟音と共に永遠に闇の中へと埋もれていった。
戦いは本当に終わったのだ。
アッシュたちは埃と血に塗れ、満身創痍の姿でその場に崩れ落ちた。
誰もが口を利く気力さえ残っていなかった。
だが、彼らは顔を上げた。
東の空がゆっくりと白み始めていた。
長い長い夜が終わり、帝都に新たな朝が訪れようとしていた。
闇を打ち破った彼らを迎えたのは、どこまでも美しく、そして希望に満ちた夜明けの光だった。
その光を浴びながら、アッシュは静かに目を閉じた。
導師の最後の言葉が、彼の心に重く響いていた。
『蛇は、一匹ではない』
『お前の戦いは、これから始まる』
彼は一つの大きな戦いを終えた。
だが、それはこれから始まる、より大きく、そして終わりのない戦いのほんの序章に過ぎないのかもしれない。
それでも。
アッシュは隣で息をつく仲間たちの顔を見た。
リリアが、ガイウスが、セレスティアが、そこにいる。
(独りじゃない)
彼は心の中で呟いた。
どんな戦いが待っていようと、もはや彼は独りではなかった。
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