95 / 100
第九十五話:希望への変換
しおりを挟む
アッシュの右手に集束した光の剣は、太陽の欠片のように眩しく、そして温かかった。それは純粋な魔力や闘気とは全く違う、帝都百万の民の祈りが形となった希望そのものの結晶だった。
「馬鹿な……馬鹿な……馬鹿な!」
虚無の導師は目の前で起きている奇跡が信じられず、狂乱したように叫んでいた。
「負の感情こそが世界の真理! 絶望こそが人の本質! 光など、ただの幻に過ぎん!」
彼の足元にある祭壇が、主の感情に呼応するように激しく振動を始めた。上空に浮かぶ黒い水晶は、供給されるべき負のエネルギーが光へと変換されていく様に耐えきれず、メキメキと音を立てて崩壊していく。儀式はもはや失敗寸前だった。
「終わらせはせん……!終わらせてなるものか!」
追い詰められた導師は最後の手段に打って出た。
彼は自らの仮面を剥ぎ取り、それを祭壇の中心へと叩きつけた。
「我が魂を喰らい、顕現せよ! 我が主、邪神の腕よ!」
仮面は祭壇に吸い込まれるように消え、その代償として空間そのものが悲鳴を上げた。祭壇の中心から、次元の裂け目のような黒い亀裂が走り、その奥から言葉では形容しがたいおぞましい何かが這い出てきた。
それは黒い粘液に覆われた、巨大な一本の腕だった。その腕からは無数の触手が伸び、苦悶に歪む人間の顔がいくつも浮かび上がっている。邪神の肉体の一部。
「アッシュ!」
「アッシュ様!」
仲間たちの悲鳴が響く。邪神の腕から放たれる絶望のオーラは絶望の番人の比ではなく、ガイウスやセレスティアでさえその場に立っているのがやっとだった。
だが、アッシュは怯まなかった。
彼の赤い瞳は、神の一部であろうと、ただ破壊すべき障害として冷静に捉えていた。
「……それが、お前たちの神か。随分と醜い姿をしているな」
アッシュは光の剣を構えると、地面を蹴った。
その動きはリリアのような神速でも、ガイウスのような剛剣でもない。だが、彼の背後には百万の民の希望が翼のように続いている。
「消えろ、過去の亡霊」
アッシュの振るった光の剣が、邪神の腕へと叩きつけられた。
光と闇の激突。
凄まじいエネルギーの衝突が地下遺跡全体を揺るがした。天井は崩落し、地面は裂け、祭壇の間は世界の終末のような光景と化した。
邪神の腕は絶望のオーラを津波のように放ち、アッシュの光を飲み込もうとする。
だが、アッシュの光は消えなかった。
それはただの破壊の力ではない。人々の「生きたい」という願い、「守りたい」という祈り。その全てが束ねられた不屈の光だったからだ。
光は闇を打ち破り、邪神の腕を内側から浄化していく。
「ギシャアアアアアアアアアアッ!!」
邪神の腕は断末魔の叫びを上げ、光の粒子となって霧散していった。
祭壇の間には静寂が戻った。
邪神の腕が消え去った後には、もはや抜け殻となった虚無の導師のローブだけが静かに落ちていた。
戦いは終わった。
アッシュは光の剣を解き、深く息を吐いた。彼の体から光のオーラがゆっくりと消えていく。帝都の民から借り受けた力は、今、彼らの元へと還っていったのだ。
彼のスキルウィンドウには、帝都全域に散らばる人々の感情が表示されていた。
「怒り」や「恐怖」の赤い数値は鳴りを潜め、代わりに「安堵」「平穏」、そして理由の分からない温かい「希望」という青い光が街の至る所で灯り始めていた。
アッシュは、帝都を覆っていた負の感情の霧を完全に晴らしたのだ。
「……やったのか……?」
ガイウスが信じられないという顔で呟いた。
「ええ……。終わったのよ」
セレスティアは涙を浮かべながら、その光景を見つめていた。
リリアは何も言わずに駆け寄ると、アッシュの体にそっと寄り添った。主が成し遂げた偉業を、彼女は自らのことのように誇らしく感じていた。
アッシュは仲間たちの顔を見回した。
彼らの顔には疲労の色は濃いが、それ以上に絶望的な戦いを共に乗り越えた深い絆と安堵が浮かんでいた。
アッシュは初めて心の底から笑みを浮かべた。それはこれまでの彼が見せたことのない、穏やかで人間らしい笑みだった。
復讐のためでもなく、自分のためでもない。
仲間たちと、そして名も知らぬ多くの人々の未来を守るための戦い。
その戦いの果てに、彼は自分が本当に求めていたもの――誰かと喜びを分かち合うという、ささやかな温かさを見つけ出したのかもしれない。
希望への変換。
それはただ敵を倒すための力ではなかった。
絶望に満ちた世界を、人々の心を、未来そのものをより良い方向へと変えていくための、本当の意味での救済の力だったのだ。
アッシュの物語は、ここで一つの大きな転換点を迎えた。
「馬鹿な……馬鹿な……馬鹿な!」
虚無の導師は目の前で起きている奇跡が信じられず、狂乱したように叫んでいた。
「負の感情こそが世界の真理! 絶望こそが人の本質! 光など、ただの幻に過ぎん!」
彼の足元にある祭壇が、主の感情に呼応するように激しく振動を始めた。上空に浮かぶ黒い水晶は、供給されるべき負のエネルギーが光へと変換されていく様に耐えきれず、メキメキと音を立てて崩壊していく。儀式はもはや失敗寸前だった。
「終わらせはせん……!終わらせてなるものか!」
追い詰められた導師は最後の手段に打って出た。
彼は自らの仮面を剥ぎ取り、それを祭壇の中心へと叩きつけた。
「我が魂を喰らい、顕現せよ! 我が主、邪神の腕よ!」
仮面は祭壇に吸い込まれるように消え、その代償として空間そのものが悲鳴を上げた。祭壇の中心から、次元の裂け目のような黒い亀裂が走り、その奥から言葉では形容しがたいおぞましい何かが這い出てきた。
それは黒い粘液に覆われた、巨大な一本の腕だった。その腕からは無数の触手が伸び、苦悶に歪む人間の顔がいくつも浮かび上がっている。邪神の肉体の一部。
「アッシュ!」
「アッシュ様!」
仲間たちの悲鳴が響く。邪神の腕から放たれる絶望のオーラは絶望の番人の比ではなく、ガイウスやセレスティアでさえその場に立っているのがやっとだった。
だが、アッシュは怯まなかった。
彼の赤い瞳は、神の一部であろうと、ただ破壊すべき障害として冷静に捉えていた。
「……それが、お前たちの神か。随分と醜い姿をしているな」
アッシュは光の剣を構えると、地面を蹴った。
その動きはリリアのような神速でも、ガイウスのような剛剣でもない。だが、彼の背後には百万の民の希望が翼のように続いている。
「消えろ、過去の亡霊」
アッシュの振るった光の剣が、邪神の腕へと叩きつけられた。
光と闇の激突。
凄まじいエネルギーの衝突が地下遺跡全体を揺るがした。天井は崩落し、地面は裂け、祭壇の間は世界の終末のような光景と化した。
邪神の腕は絶望のオーラを津波のように放ち、アッシュの光を飲み込もうとする。
だが、アッシュの光は消えなかった。
それはただの破壊の力ではない。人々の「生きたい」という願い、「守りたい」という祈り。その全てが束ねられた不屈の光だったからだ。
光は闇を打ち破り、邪神の腕を内側から浄化していく。
「ギシャアアアアアアアアアアッ!!」
邪神の腕は断末魔の叫びを上げ、光の粒子となって霧散していった。
祭壇の間には静寂が戻った。
邪神の腕が消え去った後には、もはや抜け殻となった虚無の導師のローブだけが静かに落ちていた。
戦いは終わった。
アッシュは光の剣を解き、深く息を吐いた。彼の体から光のオーラがゆっくりと消えていく。帝都の民から借り受けた力は、今、彼らの元へと還っていったのだ。
彼のスキルウィンドウには、帝都全域に散らばる人々の感情が表示されていた。
「怒り」や「恐怖」の赤い数値は鳴りを潜め、代わりに「安堵」「平穏」、そして理由の分からない温かい「希望」という青い光が街の至る所で灯り始めていた。
アッシュは、帝都を覆っていた負の感情の霧を完全に晴らしたのだ。
「……やったのか……?」
ガイウスが信じられないという顔で呟いた。
「ええ……。終わったのよ」
セレスティアは涙を浮かべながら、その光景を見つめていた。
リリアは何も言わずに駆け寄ると、アッシュの体にそっと寄り添った。主が成し遂げた偉業を、彼女は自らのことのように誇らしく感じていた。
アッシュは仲間たちの顔を見回した。
彼らの顔には疲労の色は濃いが、それ以上に絶望的な戦いを共に乗り越えた深い絆と安堵が浮かんでいた。
アッシュは初めて心の底から笑みを浮かべた。それはこれまでの彼が見せたことのない、穏やかで人間らしい笑みだった。
復讐のためでもなく、自分のためでもない。
仲間たちと、そして名も知らぬ多くの人々の未来を守るための戦い。
その戦いの果てに、彼は自分が本当に求めていたもの――誰かと喜びを分かち合うという、ささやかな温かさを見つけ出したのかもしれない。
希望への変換。
それはただ敵を倒すための力ではなかった。
絶望に満ちた世界を、人々の心を、未来そのものをより良い方向へと変えていくための、本当の意味での救済の力だったのだ。
アッシュの物語は、ここで一つの大きな転換点を迎えた。
1
あなたにおすすめの小説
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
最強のアラサー魔導師はかつての弟子達に迫られる~ただ冒険者を始めようとしただけなのに弟子達がそれを許してくれない~
おやっつ
ファンタジー
王国魔導師団指南役をしていたシューファはある日突然、王様に追放されてしまう。王様曰く、シューファみたいなアラサーが教えていたら魔導師団が衰えるとのことだった。
突然の追放で行く場所を失ったシューファは貴族社会の王国では卑下されていた冒険者での強さが全ての帝都に行くことにした。
シューファが帝都に行ったと報告を受けたかつての弟子達はガクに会いに自分の仕事を放棄して帝都に向かう。
そう、彼女らの仕事は国の重鎮だというのに───
小説家になろうにも投稿中です!
毎日投稿していこうと思うので、ブクマなどをしていただけると励みになります。
貴族に無茶苦茶なことを言われたのでやけくそな行動をしたら、戦争賠償として引き抜かれました。
詰んだ
ファンタジー
エルクス王国の魔法剣士で重鎮のキースは、うんざりしていた。
王国とは名ばかりで、元老院の貴族が好き勝手なこと言っている。
そしてついに国力、戦力、人材全てにおいて圧倒的な戦力を持つヴォルクス皇国に、戦争を仕掛けるという暴挙に出た。
勝てるわけのない戦争に、「何とか勝て!」と言われたが、何もできるはずもなく、あっという間に劣勢になった。
日を追うごとに悪くなる戦況に、キースへのあたりがひどくなった。
むしゃくしゃしたキースは、一つの案を思いついた。
その案を実行したことによって、あんなことになるなんて、誰も想像しなかった。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる