無能と蔑まれた悪役貴族、実は人の心を数値化できる最強の傀儡師でした ~感情を支配するスキルで、腐敗した帝国を裏から作り変えます~

夏見ナイ

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第九十八話:戦後処理と新たな誓い

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『奈落の蛇』との死闘から一ヶ月。帝国は、まるで長い悪夢から覚めたかのように着実な回復の道を歩んでいた。アッシュが断行した改革は帝国の隅々にまで浸透し始め、その効果は目に見える形で現れていた。

帝都の市場には活気が戻り、地方からは安定して物資が供給されるようになった。治安は劇的に改善され、人々は夜道を歩く恐怖を忘れた。何よりも変わったのは人々の顔つきだった。絶望と不信の色は消え、そこには明日への希望と若き宰相への絶対的な信頼が輝いていた。

アッシュは宰相として、その膨大な戦後処理に追われていた。
まず、彼は『奈落の蛇』の残党狩りを徹底的に行った。捕らえられた幹部たちの自白と『北風商会』の情報網を駆ucsiし、帝国中に潜んでいた末端の構成員まで一人残らず摘発した。彼らの多くは結社の思想に染まった狂信者ではなく、金や弱みにつけ込まれて協力していただけの哀れな人々だった。アッシュは首謀者以外の者たちには寛大な処置をとり、社会復帰の道を与えた。恐怖による支配ではなく、法と秩序による統治こそが真の平穏に繋がることを彼は理解していた。

次に、彼はバルツァー伯爵領の再建に着手した。売国奴の伯爵が捕らえられた後、その領地は混乱の極みにあった。アッシュは騎士団長であったダリウスを新たな領主代行に任命し、改革派の官僚たちを派遣してその復興を全面的に支援した。ダリウスはアッシュへの恩義と自らの故郷を再建するという使命感に燃え、見事な手腕で領地を立て直していった。

そして、アッシュは自らの故郷ヴァイスラントの発展も忘れなかった。彼は帝都とヴァイスラントを結ぶ街道を整備し、両者間の交易を活性化させた。ヴァイスラントの高品質な鉄は帝国の復興に不可欠な資源となり、その富はかつて不毛の地であった辺境を帝国で最も豊かな地域の一つへと変貌させていった。

全てが順調に進んでいた。
だが、アッシュの心は完全には晴れなかった。
虚無の導師が残した言葉、『蛇は、一匹ではない』。その言葉が平穏な日々の裏側で常に彼の心に警鐘を鳴らし続けていた。

宰相執務室。アッシュは大陸全土の地図を広げ、その上に『奈落の蛇』に関する断片的な情報をプロットしていた。
「グランツ帝国でも近年、原因不明の内乱が頻発している……」
「西の王国では王族の間で不審な病が流行し、後継者争いが激化しているという……」
「南の自由都市同盟では、富裕層と貧困層の対立がかつてないほど深刻化している……」

一つ一つはただの不幸な事件に見える。だが、それらを線で結んだ時、そこには大陸全土を覆う巨大な悪意の網がぼんやりと浮かび上がってきた。
『奈落の蛇』は帝国だけでなく、この世界の至る所で着実にその毒を撒き散らしていたのだ。

(……俺が倒したのは、この巨大な蛇のほんの一つの頭に過ぎなかった)

アッシュは自らが成し遂げたことの小ささと、これから対峙しなければならない敵のあまりの巨大さを改めて痛感していた。

その時、執務室の扉がノックされ、セレスティアが入ってきた。彼女は魔力を完全に回復させ、以前にも増して凛とした輝きを放っていた。
「……まだ、そんな難しい顔をしているのね」
彼女はアッシュが広げている地図を一瞥し、ため息をついた。
「せっかく平和になったのだから、少しくらい休んだらどう?」

「休んでいる暇などないさ」
アッシュは顔を上げずに答えた。
「帝国は一時的に平穏を取り戻した。だが、この世界そのものが病んでいる。この病巣を根絶やしにしない限り、本当の平和は訪れない」

その言葉に、セレスティアは何も言い返せなかった。彼女もまたアッシュと同じ結論に達していたからだ。
「……そうね」
彼女は静かに頷いた。
「私たちの戦いはまだ終わっていない。むしろ、始まったばかりなのかもしれないわ」

彼女はアッシュの隣に立つと、地図を指差した。
「グランツ帝国の内情なら、私の方でも調べられるかもしれないわ。魔導師ギルドには国境を越えたネットワークがある」

その言葉を皮切りに、キルヒアイスが、ガイウスが、そしてヴァイスラントで待つブロックやギムリまでもがアッシュの新たな戦いに自らの意志で参加を表明した。
彼らはもはやアッシュの駒ではない。帝国を、そして世界をより良い場所へと変えるという同じ志を持つ、かけがえのない仲間だった。

アッシュは彼らの顔を見回した。
かつて彼は独りで戦っていた。復讐のため、そして自分だけの安楽な生活のために。
だが、今は違う。
彼の隣には信頼できる仲間たちがいる。彼の背後には彼を信じる民がいる。

彼は静かに新たな誓いを立てた。
それはもはや個人的な願いではない。
この仲間たちと共にこの世界に巣食う本当の悪と戦い抜く。
そして、全ての戦いが終わった先に皆が笑って暮らせる本当の意味での「安楽な世界」をこの手で創り上げる。

その誓いは、彼の心をこれまでにないほどの温かく、そして力強い光で満たした。
彼のスキルウィンドウに自らの感情が表示される。
『アッシュ・フォン・ヴェルヘイム。感情ステータス:決意 100、希望 95、仲間への信頼 100』

復讐の果てに見つけた空虚は、仲間との絆と新たな誓いによって完全に埋め尽くされていた。
アッシュの物語は、帝国の宰相として、そして世界を守る戦士として、その新たな章の幕を静かに開けようとしていた。
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