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第28話:侵食される街
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アークライトの空は、完全にその色を失っていた。紫色のデジタルノイズが不規則に走り、まるで世界の終わりを告げるオーロラのように、不気味に空全体を覆い尽くしている。
「まずい! 完全にタナトスの仕業よ!」
メイプルは、ギルドハウスの窓からその異様な光景を見上げ、叫んだ。
「街の人々が……!」
シオンの指さす先、広場を行き交うNPCたちは、全員がまるで糸の切れた人形のように動きを止め、虚ろな目で空を見上げている。その瞳からは、普段の生き生きとした感情が完全に消え去っていた。
ウウウウウウウウウウウウン……
街全体に、不協和音のような低いサイレンが鳴り響く。それは、システムの異常を知らせるアラート音のようだった。
街の建築物の一部が、セレスティアで見たように、データが破損したかのようなノイズに覆われ始め、ゆっくりとその形を失っていく。噴水の水は流れを止め、鍛冶屋の炉の火は消え、市場の活気は死の沈黙へと変わった。
街のシステムが、タナトスと名乗る謎の監視者によって、リアルタイムで『侵食』されているのだ。
「カナデは、まだ地下の聖域から出てこない!」
「スキル解放の儀式が、タナトスの侵攻の引き金になってしまったというのか……!」
ケンが、苦々しい表情で分析する。
プレイヤーたちは、この異常事態に大混乱に陥っていた。
「なんだこれ! バグか!?」
「NPCに話しかけても、反応がねえぞ!」
「街が、壊れていく……!」
恐怖と混乱が、チャットウィンドウを埋め尽くす。
その時、異変は新たな段階へと移行した。
動きを止めていたNPCたちの身体が、黒いノイズに包まれ始めた。そして、その姿は、人の形を失い、カナデたちがこれまで戦ってきた『デリーター』へと、次々と変貌していく。
愛想の良かった宿屋の女将も、陽気だった酒場のマスターも、今やプレイヤーに敵意を向ける、歪みの尖兵と化していた。
「グ……ジジ……イレギュラー……ハイジョ……」
壊れた音声でそう呟きながら、デリーター化した元NPCたちが、近くにいたプレイヤーたちに襲いかかった。
「うわああああ!」
「助けてくれ!」
街は、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄へと変わった。
「見てるだけなんて、性に合わないわ!」
メイプルは、叫ぶと同時にギルドハウスのドアを蹴破り、広場へと飛び出した。
「メイプル!?」
「カナデが戻るまで、この街は、私たちが守る!」
メイプルは、デリーターに襲われていた初心者プレイヤーをかばい、その攻撃を盾(すでに新しいものを新調していた)で受け止めた。しかし、デリーターの攻撃は物理防御をすり抜け、彼女のHPを容赦なく削っていく。
「くっ……!」
「援護する!」
シオンの矢が、デリーターのコアを的確に射抜く。だが、一体や二体ではない。街中に溢れたデリーターが、次々と三人に襲いかかってきた。
「キリがないな。それに、こいつらは元々、この街の住人だ。倒すことに、躊躇いを感じる」
ケンの言う通り、敵はただのモンスターではなかった。昨日まで、笑顔で言葉を交わした相手だ。その事実が、彼らの心を重く締め付ける。
「それでも、やるしかないでしょ!」
メイプルが、デリーターの一体を盾で殴りつけ、吹き飛ばす。
「カナデは今、この世界のために戦ってる! だったら、私たちは、カナデの帰る場所を守るのが仕事よ!」
三人は、絶望的な数の敵を前に、背中合わせで円陣を組んだ。
メイプルが前衛として敵の攻撃を受け止め、シオンが的確な射撃で敵の動きを止め、ケンが範囲魔法で複数の敵を同時に攻撃する。しかし、敵の数はあまりにも多く、じりじりと追い詰められていく。
***
一方、カナデは精神世界で、タナトスの圧倒的なプレッシャーと対峙していた。
『……観測者タナトスより、警告。プレイヤー・カナデ。あなたの存在は、当システムが規定する安定性を著しく逸脱している。スキル『ワールド・クリエイト』の解放は、世界の崩壊を招くトリガーと判断。これより、あなたの強制排除を実行する』
感情のない声が、カナデの精神を直接攻撃する。頭が割れるような激しい頭痛と、存在そのものを否定されるような、根源的な恐怖。
(これが、タナトスの精神攻撃……!)
カナデの周囲の『無』の空間が、黒いデータに侵食されていく。彼が思い描いた浮遊島も、その黒いデータに触れた途端、音もなく消滅した。
このままでは、自分の意識そのものが、この闇に飲み込まれてしまう。
「……くそっ……!」
カナデは、必死に抵抗し、精神世界の中で『フィールド・クラフト』を発動させた。自分の意識を守るための、小さな聖域を創造する。
だが、タナトスの侵食は、その聖域すらも、少しずつ蝕んでいく。
その時だった。
カナデの耳に、現実世界から、仲間たちの声が聞こえてきたような気がした。
――カナデが戻るまで、この街は、私たちが守る!
メイプルの、力強い声。
ケンの、冷静な分析。
シオンの、的確な援護。
ボロボロになりながらも、必死で戦ってくれている仲間たちの姿が、彼の脳裏に浮かんだ。
(俺は、一人じゃない……!)
守るべきものがある。帰るべき場所がある。
その想いが、タナトスの精神攻撃に蝕まれかけていた彼の心を、再び強く繋ぎ止めた。
「……黙れ、タナトス」
カナデは、闇に向かって、静かに、しかし毅然と言い放った。
「俺が創る世界は、お前が決めるんじゃない。俺が、俺の仲間たちが、決めるんだ」
彼の強い意志に呼応するように、『太陽の王の魂晶』と『深淵の海図』の力が、彼の魂の中で完全に融合した。
スキルウィンドウで、固く閉ざされていた鍵が、カチリ、と音を立てて外れる。
【ワールド・クリエイト(世界創造)】
――スキル、解放。
カナデの全身から、金色の光が溢れ出した。
それは、タナトスの黒い侵食を、逆に押し返していく、圧倒的な『創造』の光。
精神世界そのものが、カナデの色に染まっていく。
「これが……俺の、世界……!」
カナデは、もはやタナトスの精神攻撃を恐れなかった。彼は、この精神世界の中で、新たな『理』を創造し始めた。
***
現実世界のアークライト。
メイプルたちは、もはや限界だった。全身は傷だらけで、HPもMPも尽きかけている。周囲は、おびただしい数のデリーターに、完全に包囲されていた。
「……これまで、みたいね」
メイプルが、悔しそうに呟いた。
デリーターたちが、一斉に三人に襲いかかろうとした、その瞬間。
街の中心、ジオ・フロンティアのギルドハウスが、突如として、天を突くほどの金色の光の柱を放った。
光の柱は、空を覆っていた紫色のノイズを、まるで太陽が霧を晴らすかのように、一瞬にして消し去った。
街に響き渡っていた不協和音のサイレンが止み、代わりに、荘厳で、穏やかな旋律が流れ始める。
「な、なに……?」
デリーターたちの動きが、ピタリと止まった。
そして、彼らの身体を覆っていた黒いノイズが、金色の光に触れて、みるみるうちに浄化されていく。
デリーターたちは、元のNPCの姿へと戻り、その場に崩れ落ちるように眠りについた。
街を覆っていたデータの破損も、まるでビデオを巻き戻すかのように、次々と修復されていく。
噴水は再び流れ始め、鍛冶屋の炉には火が灯り、市場には活気が戻りつつあった。
まるで、悪夢から覚めたかのように、街は、本来の姿を取り戻していった。
その中心で、ギルドハウスの地下から、一人の青年が、静かに姿を現した。
全身から、神々しいほどの金色のオーラを放ちながら。
「カナデ……!」
メイプルが、その名を呼ぶ。
カナデは、仲間たちの無事を確認すると、安堵の笑みを浮かべた。
そして、空を見上げ、この世界のどこかにいるであろう『監視者』に向かって、静かに宣言した。
「タお前がこの世界を壊すなら、俺は、何度でも創り直す。この戦い、受けて立つ」
創造主の覚醒。
それは、世界の管理者に対する、高らかな宣戦布告だった。
二人の神の戦いは、今、本当の意味で、その幕を開けた。
「まずい! 完全にタナトスの仕業よ!」
メイプルは、ギルドハウスの窓からその異様な光景を見上げ、叫んだ。
「街の人々が……!」
シオンの指さす先、広場を行き交うNPCたちは、全員がまるで糸の切れた人形のように動きを止め、虚ろな目で空を見上げている。その瞳からは、普段の生き生きとした感情が完全に消え去っていた。
ウウウウウウウウウウウウン……
街全体に、不協和音のような低いサイレンが鳴り響く。それは、システムの異常を知らせるアラート音のようだった。
街の建築物の一部が、セレスティアで見たように、データが破損したかのようなノイズに覆われ始め、ゆっくりとその形を失っていく。噴水の水は流れを止め、鍛冶屋の炉の火は消え、市場の活気は死の沈黙へと変わった。
街のシステムが、タナトスと名乗る謎の監視者によって、リアルタイムで『侵食』されているのだ。
「カナデは、まだ地下の聖域から出てこない!」
「スキル解放の儀式が、タナトスの侵攻の引き金になってしまったというのか……!」
ケンが、苦々しい表情で分析する。
プレイヤーたちは、この異常事態に大混乱に陥っていた。
「なんだこれ! バグか!?」
「NPCに話しかけても、反応がねえぞ!」
「街が、壊れていく……!」
恐怖と混乱が、チャットウィンドウを埋め尽くす。
その時、異変は新たな段階へと移行した。
動きを止めていたNPCたちの身体が、黒いノイズに包まれ始めた。そして、その姿は、人の形を失い、カナデたちがこれまで戦ってきた『デリーター』へと、次々と変貌していく。
愛想の良かった宿屋の女将も、陽気だった酒場のマスターも、今やプレイヤーに敵意を向ける、歪みの尖兵と化していた。
「グ……ジジ……イレギュラー……ハイジョ……」
壊れた音声でそう呟きながら、デリーター化した元NPCたちが、近くにいたプレイヤーたちに襲いかかった。
「うわああああ!」
「助けてくれ!」
街は、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄へと変わった。
「見てるだけなんて、性に合わないわ!」
メイプルは、叫ぶと同時にギルドハウスのドアを蹴破り、広場へと飛び出した。
「メイプル!?」
「カナデが戻るまで、この街は、私たちが守る!」
メイプルは、デリーターに襲われていた初心者プレイヤーをかばい、その攻撃を盾(すでに新しいものを新調していた)で受け止めた。しかし、デリーターの攻撃は物理防御をすり抜け、彼女のHPを容赦なく削っていく。
「くっ……!」
「援護する!」
シオンの矢が、デリーターのコアを的確に射抜く。だが、一体や二体ではない。街中に溢れたデリーターが、次々と三人に襲いかかってきた。
「キリがないな。それに、こいつらは元々、この街の住人だ。倒すことに、躊躇いを感じる」
ケンの言う通り、敵はただのモンスターではなかった。昨日まで、笑顔で言葉を交わした相手だ。その事実が、彼らの心を重く締め付ける。
「それでも、やるしかないでしょ!」
メイプルが、デリーターの一体を盾で殴りつけ、吹き飛ばす。
「カナデは今、この世界のために戦ってる! だったら、私たちは、カナデの帰る場所を守るのが仕事よ!」
三人は、絶望的な数の敵を前に、背中合わせで円陣を組んだ。
メイプルが前衛として敵の攻撃を受け止め、シオンが的確な射撃で敵の動きを止め、ケンが範囲魔法で複数の敵を同時に攻撃する。しかし、敵の数はあまりにも多く、じりじりと追い詰められていく。
***
一方、カナデは精神世界で、タナトスの圧倒的なプレッシャーと対峙していた。
『……観測者タナトスより、警告。プレイヤー・カナデ。あなたの存在は、当システムが規定する安定性を著しく逸脱している。スキル『ワールド・クリエイト』の解放は、世界の崩壊を招くトリガーと判断。これより、あなたの強制排除を実行する』
感情のない声が、カナデの精神を直接攻撃する。頭が割れるような激しい頭痛と、存在そのものを否定されるような、根源的な恐怖。
(これが、タナトスの精神攻撃……!)
カナデの周囲の『無』の空間が、黒いデータに侵食されていく。彼が思い描いた浮遊島も、その黒いデータに触れた途端、音もなく消滅した。
このままでは、自分の意識そのものが、この闇に飲み込まれてしまう。
「……くそっ……!」
カナデは、必死に抵抗し、精神世界の中で『フィールド・クラフト』を発動させた。自分の意識を守るための、小さな聖域を創造する。
だが、タナトスの侵食は、その聖域すらも、少しずつ蝕んでいく。
その時だった。
カナデの耳に、現実世界から、仲間たちの声が聞こえてきたような気がした。
――カナデが戻るまで、この街は、私たちが守る!
メイプルの、力強い声。
ケンの、冷静な分析。
シオンの、的確な援護。
ボロボロになりながらも、必死で戦ってくれている仲間たちの姿が、彼の脳裏に浮かんだ。
(俺は、一人じゃない……!)
守るべきものがある。帰るべき場所がある。
その想いが、タナトスの精神攻撃に蝕まれかけていた彼の心を、再び強く繋ぎ止めた。
「……黙れ、タナトス」
カナデは、闇に向かって、静かに、しかし毅然と言い放った。
「俺が創る世界は、お前が決めるんじゃない。俺が、俺の仲間たちが、決めるんだ」
彼の強い意志に呼応するように、『太陽の王の魂晶』と『深淵の海図』の力が、彼の魂の中で完全に融合した。
スキルウィンドウで、固く閉ざされていた鍵が、カチリ、と音を立てて外れる。
【ワールド・クリエイト(世界創造)】
――スキル、解放。
カナデの全身から、金色の光が溢れ出した。
それは、タナトスの黒い侵食を、逆に押し返していく、圧倒的な『創造』の光。
精神世界そのものが、カナデの色に染まっていく。
「これが……俺の、世界……!」
カナデは、もはやタナトスの精神攻撃を恐れなかった。彼は、この精神世界の中で、新たな『理』を創造し始めた。
***
現実世界のアークライト。
メイプルたちは、もはや限界だった。全身は傷だらけで、HPもMPも尽きかけている。周囲は、おびただしい数のデリーターに、完全に包囲されていた。
「……これまで、みたいね」
メイプルが、悔しそうに呟いた。
デリーターたちが、一斉に三人に襲いかかろうとした、その瞬間。
街の中心、ジオ・フロンティアのギルドハウスが、突如として、天を突くほどの金色の光の柱を放った。
光の柱は、空を覆っていた紫色のノイズを、まるで太陽が霧を晴らすかのように、一瞬にして消し去った。
街に響き渡っていた不協和音のサイレンが止み、代わりに、荘厳で、穏やかな旋律が流れ始める。
「な、なに……?」
デリーターたちの動きが、ピタリと止まった。
そして、彼らの身体を覆っていた黒いノイズが、金色の光に触れて、みるみるうちに浄化されていく。
デリーターたちは、元のNPCの姿へと戻り、その場に崩れ落ちるように眠りについた。
街を覆っていたデータの破損も、まるでビデオを巻き戻すかのように、次々と修復されていく。
噴水は再び流れ始め、鍛冶屋の炉には火が灯り、市場には活気が戻りつつあった。
まるで、悪夢から覚めたかのように、街は、本来の姿を取り戻していった。
その中心で、ギルドハウスの地下から、一人の青年が、静かに姿を現した。
全身から、神々しいほどの金色のオーラを放ちながら。
「カナデ……!」
メイプルが、その名を呼ぶ。
カナデは、仲間たちの無事を確認すると、安堵の笑みを浮かべた。
そして、空を見上げ、この世界のどこかにいるであろう『監視者』に向かって、静かに宣言した。
「タお前がこの世界を壊すなら、俺は、何度でも創り直す。この戦い、受けて立つ」
創造主の覚醒。
それは、世界の管理者に対する、高らかな宣戦布告だった。
二人の神の戦いは、今、本当の意味で、その幕を開けた。
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