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第29話:創造主の対価とゼノの影
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金色の光がアークライトの街を浄化し、タナトスの侵攻は一時的に退けられた。デリーターと化していたNPCたちは、何事もなかったかのように眠りにつき、やがて目を覚ましては、首を傾げながら日常へと戻っていく。プレイヤーたちも、大規模なバグだったのだろうと結論付け、街は徐々に元の活気を取り戻し始めていた。
だが、ジオ・フロンティアのメンバーだけは、それがただのバグではないことを知っていた。
ギルドハウスに戻った四人は、改めてカナデと向き合った。彼の全身から放たれていた神々しいオーラはすっかり消え、その顔には、これまでにないほどの深い疲労の色が浮かんでいた。
「カナデ、あんた、大丈夫なの?」
メイプルが、心配そうに彼の顔を覗き込む。
「……ええ、何とか」
カナデは、力なく笑った。「スキル『ワールド・クリエイト』、解放できました。その力で、タナトスが侵食した街のシステムデータを、強制的に上書きして、修復したんです」
「街ごと、修復……? そんなこと、本当にできるのか」
ケンが、信じられないといった表情で呟く。
「ええ。でも……」カナデは、言葉を濁した。「とんでもない対価を支払うことになりました」
彼は、自分のステータスウィンドウを開き、仲間たちに見せた。
その内容を見て、三人は息を呑んだ。
【名前】カナデ
【職業】ワールドクリエイター
【Lv】1
【HP】100/100
【MP】100/100
【STR】1
【VIT】1
【INT】1
【MND】1
【AGI】1
【DEX】1
【LUK】1
【特殊ステータス】創造力:測定不能(LIMIT BREAK)
「れ、レベル1!?」
メイプルが、素っ頓狂な声を上げた。
これまで積み上げてきたレベル、ステータス、スキルポイント。その全てが、リセットされていたのだ。
「『ワールド・クリエイト』は、俺自身の経験値(データ)そのものを燃料として、世界の理を書き換えるスキルなんです。街一つを修復するために、俺のレベルは、ほぼ全てを失いました」
あまりにも、大きすぎる代償。
「なんてこと……。じゃあ、またレベル1からやり直しってこと!?」
「そういうことになりますね」
カナデは、力なく笑うが、その瞳に後悔の色はなかった。
「でも、おかげで、街と、皆さんが助かった。それに、失ったのはレベルだけです。スキルそのものは、失っていません。むしろ……」
カナデは、スキルツリーを開いた。
そこには、これまで習得してきた『ディグ』や『シェイピング』、そして『フィールド・クラフト』といったスキルが、全て『ワールド・クリエイト』のサブスキルとして統合され、より洗練された形で表示されていた。そして、『創造力』のステータスは、もはや数値で測れない領域へと突入している。
「弱くなったようで、実は、もっと強くなった……ということか」
シオンが、冷静に分析する。
「はい。これからは、MPだけでなく、俺自身の経験値もリソースとして、より大規模な創造が可能になります。例えば……」
カナデは、おもむろにテーブルの上に手をかざした。
「『ワールド・クリエイト:オブジェクト生成』」
彼の経験値が、わずかに1だけ消費される。すると、テーブルの上に、手のひらサイズの、精巧なメイプルのフィギュアが出現した。その造形は、もはやゲームのアイテムとは思えないほどリアルだった。
「わ、私!? すごい、これ!」
メイプルが、目を輝かせてフィギュアを手に取る。
「このように、経験値をコストにすることで、MPを消費せずに、様々なものを創り出せるようになりました。もちろん、レベルを消費すれば、もっと巨大なものも」
神の力は、神にふさわしい対価を求める。彼は、自らの成長そのものを燃料に、奇跡を起こすのだ。
「でも、それじゃあ、カナデのレベルが全然上がらないじゃない!」
「そうですね。これからは、皆さんに、俺のレベル上げを手伝ってもらうことになりそうです」
カナデは、苦笑しながら頭を掻いた。
***
一方、アークライトの遥か遠く、人知れぬ薄暗い洞窟の奥深く。
ゼノは、巨大な魔法陣の中央で、静かに瞑想していた。彼の周囲には、アヴァロンの魔術師たちが、必死の形相で魔法陣に魔力を注ぎ込んでいる。
海底神殿ポセイドニアでの敗北。そして、アークライトで起きた大規模なシステム異常。その両方が、ゼノにある決意を固めさせていた。
(カナデ……。奴は、ついに世界の理を書き換える領域にまで足を踏み入れた。正攻法では、もはや追いつけん)
ならば、自分もまた、人の領域を超えるしかない。
ゼノは、懐から、禍々しい輝きを放つ『歪みの核』を取り出した。それは、海底神殿で入手したものではなく、彼がこれまでに秘密裏に集めてきたものだった。
「リーダー、ご準備ができました」
「……始めろ」
ゼノの短い命令で、魔術師たちが禁断の儀式を開始する。
魔法陣が、不気味な紫色の光を放ち、ゼノの身体を包み込んでいく。
「ぐ……ううううううっ……!」
ゼノは、凄まじい苦痛に顔を歪ませながら、その手にした『歪みの核』を、自らの胸へと押し当てた。
核は、まるで生き物のように、彼の身体の中へと、ずるりと吸い込まれていく。
「グオオオオオオオオオオオ!」
人ならざる絶叫が、洞窟に響き渡る。
ゼノの身体が、黒いノイズに覆われ、そのステータスが、あり得ない勢いで書き換わっていく。彼のレベルやステータスが、異常な速度で上昇していく代わりに、その職業欄が、不吉な言葉へと変わっていた。
【職業】ロード・オブ・デリーター
歪みを取り込み、歪みを支配する者。
彼は、自らの人間性を捨て、タナトスの尖兵となる道を選んだのだ。全ては、カナデという唯一人の男を、この手で打ち破るために。
やがて、光が収まった時。そこに立っていたのは、もはや桐生院也という人間ではなかった。その瞳は、デリーターと同じ、冷たい赤色に輝き、全身からは、世界の理そのものを拒絶するような、圧倒的な歪みのオーラが放たれていた。
「……素晴らしい。これが、力……」
ゼノは、自分の手のひらを見つめ、恍惚の表情を浮かべた。
「カナデ。次こそ、貴様の創る世界ごと、この手で削除してくれる」
***
ジオ・フロンティアのギルドハウスでは、今後の活動方針が決められていた。
「カナデのレベル上げを最優先。同時に、次の『設計図の欠片』の情報も集める」
ケンの提案に、全員が頷く。
「レベル1のカナデを連れて、安全な狩場……となると、やっぱり、始まりの草原あたりかしらね」
メイプルが、苦笑する。
「いえ」とカナデは首を横に振った。「その必要はありません。レベル上げなら、もっと効率的で、安全な方法があります」
「え?」
カナデは、仲間たちに向かって、悪戯っぽく笑った。
「皆さん、忘れていませんか? 俺の新しいスキルは、『ワールド・クリエイト』ですよ?」
彼は、ギルドハウスの地下にある、創造用の聖域へと仲間たちを案内した。
「ここに、俺たちだけの、オリジナルダンジョンを創ります。敵の強さも、数も、ドロップアイテムも、全て俺が設定できる。経験値効率が、最高に良いダンジョンを」
その言葉に、三人は、もはや驚くことすらしなかった。
この男なら、やりかねない。
「ただし、創造には、大量の経験値が必要です。今の俺のレベルでは、まだ小さなダンジョンしか創れませんが……」
カナデは、聖域の中央に立ち、両手を広げた。
「『ワールド・クリエイト:ダンジョン・ジェネシス』!」
彼のなけなしの経験値が、全て消費される。
すると、目の前の空間が歪み、一つの扉が出現した。
それは、彼らジオ・フロンティアだけが入ることを許された、未知なるダンジョンへの入り口だった。
レベルを失い、しかし、より根源的な力を手に入れた創造主。
人間性を捨て、歪みの力に身を委ねた破壊者。
二人の道は、決定的に分かたれた。
世界の運命を巡る、本当の戦いは、まだ始まったばかり。
カナデは、仲間たちと共に、自らが創り出した世界で、次なる戦いに備える。その先に、どんな出会いと、どんな絶望が待ち受けていようとも、彼の創造は、もう誰にも止められない。
だが、ジオ・フロンティアのメンバーだけは、それがただのバグではないことを知っていた。
ギルドハウスに戻った四人は、改めてカナデと向き合った。彼の全身から放たれていた神々しいオーラはすっかり消え、その顔には、これまでにないほどの深い疲労の色が浮かんでいた。
「カナデ、あんた、大丈夫なの?」
メイプルが、心配そうに彼の顔を覗き込む。
「……ええ、何とか」
カナデは、力なく笑った。「スキル『ワールド・クリエイト』、解放できました。その力で、タナトスが侵食した街のシステムデータを、強制的に上書きして、修復したんです」
「街ごと、修復……? そんなこと、本当にできるのか」
ケンが、信じられないといった表情で呟く。
「ええ。でも……」カナデは、言葉を濁した。「とんでもない対価を支払うことになりました」
彼は、自分のステータスウィンドウを開き、仲間たちに見せた。
その内容を見て、三人は息を呑んだ。
【名前】カナデ
【職業】ワールドクリエイター
【Lv】1
【HP】100/100
【MP】100/100
【STR】1
【VIT】1
【INT】1
【MND】1
【AGI】1
【DEX】1
【LUK】1
【特殊ステータス】創造力:測定不能(LIMIT BREAK)
「れ、レベル1!?」
メイプルが、素っ頓狂な声を上げた。
これまで積み上げてきたレベル、ステータス、スキルポイント。その全てが、リセットされていたのだ。
「『ワールド・クリエイト』は、俺自身の経験値(データ)そのものを燃料として、世界の理を書き換えるスキルなんです。街一つを修復するために、俺のレベルは、ほぼ全てを失いました」
あまりにも、大きすぎる代償。
「なんてこと……。じゃあ、またレベル1からやり直しってこと!?」
「そういうことになりますね」
カナデは、力なく笑うが、その瞳に後悔の色はなかった。
「でも、おかげで、街と、皆さんが助かった。それに、失ったのはレベルだけです。スキルそのものは、失っていません。むしろ……」
カナデは、スキルツリーを開いた。
そこには、これまで習得してきた『ディグ』や『シェイピング』、そして『フィールド・クラフト』といったスキルが、全て『ワールド・クリエイト』のサブスキルとして統合され、より洗練された形で表示されていた。そして、『創造力』のステータスは、もはや数値で測れない領域へと突入している。
「弱くなったようで、実は、もっと強くなった……ということか」
シオンが、冷静に分析する。
「はい。これからは、MPだけでなく、俺自身の経験値もリソースとして、より大規模な創造が可能になります。例えば……」
カナデは、おもむろにテーブルの上に手をかざした。
「『ワールド・クリエイト:オブジェクト生成』」
彼の経験値が、わずかに1だけ消費される。すると、テーブルの上に、手のひらサイズの、精巧なメイプルのフィギュアが出現した。その造形は、もはやゲームのアイテムとは思えないほどリアルだった。
「わ、私!? すごい、これ!」
メイプルが、目を輝かせてフィギュアを手に取る。
「このように、経験値をコストにすることで、MPを消費せずに、様々なものを創り出せるようになりました。もちろん、レベルを消費すれば、もっと巨大なものも」
神の力は、神にふさわしい対価を求める。彼は、自らの成長そのものを燃料に、奇跡を起こすのだ。
「でも、それじゃあ、カナデのレベルが全然上がらないじゃない!」
「そうですね。これからは、皆さんに、俺のレベル上げを手伝ってもらうことになりそうです」
カナデは、苦笑しながら頭を掻いた。
***
一方、アークライトの遥か遠く、人知れぬ薄暗い洞窟の奥深く。
ゼノは、巨大な魔法陣の中央で、静かに瞑想していた。彼の周囲には、アヴァロンの魔術師たちが、必死の形相で魔法陣に魔力を注ぎ込んでいる。
海底神殿ポセイドニアでの敗北。そして、アークライトで起きた大規模なシステム異常。その両方が、ゼノにある決意を固めさせていた。
(カナデ……。奴は、ついに世界の理を書き換える領域にまで足を踏み入れた。正攻法では、もはや追いつけん)
ならば、自分もまた、人の領域を超えるしかない。
ゼノは、懐から、禍々しい輝きを放つ『歪みの核』を取り出した。それは、海底神殿で入手したものではなく、彼がこれまでに秘密裏に集めてきたものだった。
「リーダー、ご準備ができました」
「……始めろ」
ゼノの短い命令で、魔術師たちが禁断の儀式を開始する。
魔法陣が、不気味な紫色の光を放ち、ゼノの身体を包み込んでいく。
「ぐ……ううううううっ……!」
ゼノは、凄まじい苦痛に顔を歪ませながら、その手にした『歪みの核』を、自らの胸へと押し当てた。
核は、まるで生き物のように、彼の身体の中へと、ずるりと吸い込まれていく。
「グオオオオオオオオオオオ!」
人ならざる絶叫が、洞窟に響き渡る。
ゼノの身体が、黒いノイズに覆われ、そのステータスが、あり得ない勢いで書き換わっていく。彼のレベルやステータスが、異常な速度で上昇していく代わりに、その職業欄が、不吉な言葉へと変わっていた。
【職業】ロード・オブ・デリーター
歪みを取り込み、歪みを支配する者。
彼は、自らの人間性を捨て、タナトスの尖兵となる道を選んだのだ。全ては、カナデという唯一人の男を、この手で打ち破るために。
やがて、光が収まった時。そこに立っていたのは、もはや桐生院也という人間ではなかった。その瞳は、デリーターと同じ、冷たい赤色に輝き、全身からは、世界の理そのものを拒絶するような、圧倒的な歪みのオーラが放たれていた。
「……素晴らしい。これが、力……」
ゼノは、自分の手のひらを見つめ、恍惚の表情を浮かべた。
「カナデ。次こそ、貴様の創る世界ごと、この手で削除してくれる」
***
ジオ・フロンティアのギルドハウスでは、今後の活動方針が決められていた。
「カナデのレベル上げを最優先。同時に、次の『設計図の欠片』の情報も集める」
ケンの提案に、全員が頷く。
「レベル1のカナデを連れて、安全な狩場……となると、やっぱり、始まりの草原あたりかしらね」
メイプルが、苦笑する。
「いえ」とカナデは首を横に振った。「その必要はありません。レベル上げなら、もっと効率的で、安全な方法があります」
「え?」
カナデは、仲間たちに向かって、悪戯っぽく笑った。
「皆さん、忘れていませんか? 俺の新しいスキルは、『ワールド・クリエイト』ですよ?」
彼は、ギルドハウスの地下にある、創造用の聖域へと仲間たちを案内した。
「ここに、俺たちだけの、オリジナルダンジョンを創ります。敵の強さも、数も、ドロップアイテムも、全て俺が設定できる。経験値効率が、最高に良いダンジョンを」
その言葉に、三人は、もはや驚くことすらしなかった。
この男なら、やりかねない。
「ただし、創造には、大量の経験値が必要です。今の俺のレベルでは、まだ小さなダンジョンしか創れませんが……」
カナデは、聖域の中央に立ち、両手を広げた。
「『ワールド・クリエイト:ダンジョン・ジェネシス』!」
彼のなけなしの経験値が、全て消費される。
すると、目の前の空間が歪み、一つの扉が出現した。
それは、彼らジオ・フロンティアだけが入ることを許された、未知なるダンジョンへの入り口だった。
レベルを失い、しかし、より根源的な力を手に入れた創造主。
人間性を捨て、歪みの力に身を委ねた破壊者。
二人の道は、決定的に分かたれた。
世界の運命を巡る、本当の戦いは、まだ始まったばかり。
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