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第32話:空飛ぶ箱舟、ジオ・フロンティア号
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ルドハウスを、空飛ぶ箱舟に創り変える」
カナデの突拍子もない宣言から数日。ギルド『ジオ・フロンティア』は、その狂気の計画を実現すべく、かつてない規模の準備に取り掛かっていた。
「よし、今日のノルマは『金剛石』10個と、『浮遊石』の原石5個ね! シオン、場所は分かる!?」
「南のドワーフ鉱山跡地。最深部の、まだ誰も到達していないエリアに反応があります。ただし、強力なアースエレメンタルが守護しているようです」
「どんとこいよ! 私の新しい盾、試したかったところだし!」
メイプルとシオンは、箱舟の装甲材となる超硬度の鉱石を求めて、危険なダンジョンへと潜っていった。ケンは、ギルドハウスの地下で、箱舟の動力炉となる魔法エンジンの設計に没頭していた。
「……カナデ。君のアイデアは素晴らしいが、それを安定して稼働させるには、膨大な魔力を供給し続けるコアが必要だ。通常の魔石では、永久嵐を突破するほどの出力は得られない」
「分かっています。だから、これを使います」
カナデがテーブルの上に置いたのは、先日、街の影から回収した、あの小さな『歪みの欠片』だった。
「正気か? 歪みの力を、我々の船の心臓に使うと?」
ケンの声に、鋭い警戒の色が滲む。
「そのまま使うわけではありません。この歪みのエネルギーを、俺の『ワールド・クリエイト』で、安定した純粋な魔力へと『変成』させるんです。いわば、フィルター付きの原子炉のようなものです」
「……リスクが高すぎる。暴走すれば、我々ごと消し飛ぶぞ」
「でも、これしかありません。それに、俺の力なら、制御できるはずです」
カナデの瞳には、揺るぎない自信が宿っていた。ケンは、しばらく黙考した後、小さくため息をついた。
「……分かった。君の奇跡を、信じよう。だが、設計は俺がやる。安全マージンは、最大限に確保させてもらうぞ」
二人の天才的な創造主は、それぞれの専門分野で、空飛ぶ箱舟の心臓部を創り上げていった。
そして、計画開始から一週間後。
全ての準備が整った。
四人は、アークライト郊外の広大な平原に立っていた。その中央には、彼らの拠点である、見慣れた二階建てのギルドハウスがぽつんと建っている。
「本当に、これが飛ぶの……?」
メイプルが、半信半半疑で呟く。
カナデは、仲間たちに向かって頷くと、ギルドハウスから少し離れた場所に立ち、深く息を吸い込んだ。
「皆さん、離れていてください。何が起こるか分かりませんから」
カナデは両手を地面につけ、意識を集中させた。彼の膨大な経験値とMPが、足元の地面、そしてギルドハウスそのものへと流れ込んでいく。
「『ワールド・クリエイト:アーキテクト・リフォーミング』!」
創造の権能が、解放された。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
凄まじい地響きと共に、平原そのものが大きく揺れる。ギルドハウスの建つ地面が、周囲から切り離され、巨大な円形の土台となって、ゆっくりと浮上し始めた。
「う、浮いた!?」
「街からも見えるぞ、あれ!」
遠くアークライトの街から、驚愕の声が上がっているのが聞こえる。
浮上した土台の下部から、カナデが集めた金剛石や浮遊石が吸い寄せられ、分厚い装甲へと再構築されていく。船の底が、まるで巨大な要塞のように形成されていった。
建物の壁は、海底神殿で見た未知の金属質の素材へと変成し、窓には魔法障壁が幾重にも張られた強化ガラスがはめ込まれていく。
屋根の上には、シオンの索敵と連動する、巨大なレーダーのような水晶のアンテナが出現。船体の左右からは、翼のようなスタビライザーが伸び、船尾には、ケンが設計した歪みエネルギー転換炉を内蔵した、巨大な推進器(スラスター)が三基、その姿を現した。
それは、もはや家ではなかった。
居住区画を内包した、全長百メートルを超える、重厚な空中戦艦。
カナデは、最後の仕上げとして、船首に、ギルドの紋章――スコップとつるはしをクロスさせ、その中央に星をあしらったマーク――を刻み込んだ。
「……完成です。『空飛ぶ箱舟 ジオ・フロンティア号』」
経験値とMPのほぼ全てを使い果たし、ふらつくカナデを、仲間たちが駆け寄って支える。
目の前には、青空を背景に、威風堂々と浮かぶ、彼らだけの城が完成していた。
「す……すごい……」
メイプルは、言葉を失って、ただただ自分たちの船を見上げていた。
「これが……我々の拠点か。アヴァロンの飛行船など、ガラクタに見えるな」
ケンも、満足げに自分の設計した推進器を眺めている。
「……美しい。まるで、一つの生命体のようだ」
シオンは、詩人のように呟き、その全景をその目に焼き付けていた。
四人は、船体に設置された昇降機(リフト)から、内部へと乗り込んだ。
中は、驚くことに、以前とほとんど変わらない、見慣れたギルドハウスのリビングだった。メイプルの脱ぎっぱなしの鎧や、ケンの読みかけの魔法書まで、そのまま残っている。
「外は要塞、中は我が家! 最高じゃない!」
一番の見晴らしの良い部屋は、操縦室に改装されていた。船長席のような豪華な椅子の前には、水晶のパネルに航行情報が表示され、操縦桿が設置されている。
「さて、と」
カナデが、船長席に座り、操縦桿を握る。まるで、最初からそこにあったかのように、その手によく馴染んだ。
「ケンさん、動力炉の出力は?」
「安定している。いつでも出航可能だ」
「シオンさん、周囲の索敵を」
「クリア。航路上に、障害物はありません」
「メイプルさん!」
「おう! 何でも言って!」
「……おやつ、持ってきましたか?」
「当たり前でしょ! ポテチとコーラ、完備よ!」
「なら、問題ありません」
四人の間に、笑いがこぼれる。
カナ
デは、パネルを操作し、船内スピーカーのスイッチを入れた。
「――こちら、ジオ・フロンティア号船長、カナデ。これより、我々は、前人未到の海域、『永久嵐』の中心、そして、その先に待つ『失われた天空大陸アヴァロン』を目指す。目標、三つ目の設計図の欠片の確保! 全員、準備はいいか!」
「「「応!!」」」
仲間たちの力強い返事を確認し、カナデは、推進器の出力をゆっくりと上げていく。
船尾のスラスターが、青白い魔力の光を噴射し、巨大な船体が、滑るように空を走り始めた。
ぐんぐんと、高度と速度を上げていく。眼下のアークライトの街が、あっという間に小さくなっていく。
彼らの新たな船出は、多くのプレイヤーたちの注目を集めていた。
「おい、なんだあれ!?」
「家が、飛んでるぞ!」
「ジオ・フロンティア……? あの、地形師がいるっていう、最近噂のギルドか!」
「あいつら、一体何者なんだ……」
人々の驚愕と賞賛を背に受け、ジオ・フロンティア号は、一路、南へと進路を取る。
やがて、彼らの眼下に、世界の果てが広がっていた。
空は鉛色の雲に覆われ、海は黒く荒れ狂い、無数の稲妻が空と海とを繋いでいる。それが、全ての船乗りが恐れる、絶対航行不能海域『永久嵐』。
「……すごい嵐ね」
「この中に、突っ込むのか……」
操縦室の窓からその光景を眺め、メイプルとシオンが息を呑む。
カナデは、しかし、臆することなく操縦桿を握りしめていた。
「これより、本船は『永久嵐』海域に突入する。全員、衝撃に備えよ!」
創造主の箱舟は、神々の領域へと挑むべく、その巨大な船首を、荒れ狂う嵐の中へと突き進めていった。
彼らの本当の冒険が、今、始まる。
カナデの突拍子もない宣言から数日。ギルド『ジオ・フロンティア』は、その狂気の計画を実現すべく、かつてない規模の準備に取り掛かっていた。
「よし、今日のノルマは『金剛石』10個と、『浮遊石』の原石5個ね! シオン、場所は分かる!?」
「南のドワーフ鉱山跡地。最深部の、まだ誰も到達していないエリアに反応があります。ただし、強力なアースエレメンタルが守護しているようです」
「どんとこいよ! 私の新しい盾、試したかったところだし!」
メイプルとシオンは、箱舟の装甲材となる超硬度の鉱石を求めて、危険なダンジョンへと潜っていった。ケンは、ギルドハウスの地下で、箱舟の動力炉となる魔法エンジンの設計に没頭していた。
「……カナデ。君のアイデアは素晴らしいが、それを安定して稼働させるには、膨大な魔力を供給し続けるコアが必要だ。通常の魔石では、永久嵐を突破するほどの出力は得られない」
「分かっています。だから、これを使います」
カナデがテーブルの上に置いたのは、先日、街の影から回収した、あの小さな『歪みの欠片』だった。
「正気か? 歪みの力を、我々の船の心臓に使うと?」
ケンの声に、鋭い警戒の色が滲む。
「そのまま使うわけではありません。この歪みのエネルギーを、俺の『ワールド・クリエイト』で、安定した純粋な魔力へと『変成』させるんです。いわば、フィルター付きの原子炉のようなものです」
「……リスクが高すぎる。暴走すれば、我々ごと消し飛ぶぞ」
「でも、これしかありません。それに、俺の力なら、制御できるはずです」
カナデの瞳には、揺るぎない自信が宿っていた。ケンは、しばらく黙考した後、小さくため息をついた。
「……分かった。君の奇跡を、信じよう。だが、設計は俺がやる。安全マージンは、最大限に確保させてもらうぞ」
二人の天才的な創造主は、それぞれの専門分野で、空飛ぶ箱舟の心臓部を創り上げていった。
そして、計画開始から一週間後。
全ての準備が整った。
四人は、アークライト郊外の広大な平原に立っていた。その中央には、彼らの拠点である、見慣れた二階建てのギルドハウスがぽつんと建っている。
「本当に、これが飛ぶの……?」
メイプルが、半信半半疑で呟く。
カナデは、仲間たちに向かって頷くと、ギルドハウスから少し離れた場所に立ち、深く息を吸い込んだ。
「皆さん、離れていてください。何が起こるか分かりませんから」
カナデは両手を地面につけ、意識を集中させた。彼の膨大な経験値とMPが、足元の地面、そしてギルドハウスそのものへと流れ込んでいく。
「『ワールド・クリエイト:アーキテクト・リフォーミング』!」
創造の権能が、解放された。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
凄まじい地響きと共に、平原そのものが大きく揺れる。ギルドハウスの建つ地面が、周囲から切り離され、巨大な円形の土台となって、ゆっくりと浮上し始めた。
「う、浮いた!?」
「街からも見えるぞ、あれ!」
遠くアークライトの街から、驚愕の声が上がっているのが聞こえる。
浮上した土台の下部から、カナデが集めた金剛石や浮遊石が吸い寄せられ、分厚い装甲へと再構築されていく。船の底が、まるで巨大な要塞のように形成されていった。
建物の壁は、海底神殿で見た未知の金属質の素材へと変成し、窓には魔法障壁が幾重にも張られた強化ガラスがはめ込まれていく。
屋根の上には、シオンの索敵と連動する、巨大なレーダーのような水晶のアンテナが出現。船体の左右からは、翼のようなスタビライザーが伸び、船尾には、ケンが設計した歪みエネルギー転換炉を内蔵した、巨大な推進器(スラスター)が三基、その姿を現した。
それは、もはや家ではなかった。
居住区画を内包した、全長百メートルを超える、重厚な空中戦艦。
カナデは、最後の仕上げとして、船首に、ギルドの紋章――スコップとつるはしをクロスさせ、その中央に星をあしらったマーク――を刻み込んだ。
「……完成です。『空飛ぶ箱舟 ジオ・フロンティア号』」
経験値とMPのほぼ全てを使い果たし、ふらつくカナデを、仲間たちが駆け寄って支える。
目の前には、青空を背景に、威風堂々と浮かぶ、彼らだけの城が完成していた。
「す……すごい……」
メイプルは、言葉を失って、ただただ自分たちの船を見上げていた。
「これが……我々の拠点か。アヴァロンの飛行船など、ガラクタに見えるな」
ケンも、満足げに自分の設計した推進器を眺めている。
「……美しい。まるで、一つの生命体のようだ」
シオンは、詩人のように呟き、その全景をその目に焼き付けていた。
四人は、船体に設置された昇降機(リフト)から、内部へと乗り込んだ。
中は、驚くことに、以前とほとんど変わらない、見慣れたギルドハウスのリビングだった。メイプルの脱ぎっぱなしの鎧や、ケンの読みかけの魔法書まで、そのまま残っている。
「外は要塞、中は我が家! 最高じゃない!」
一番の見晴らしの良い部屋は、操縦室に改装されていた。船長席のような豪華な椅子の前には、水晶のパネルに航行情報が表示され、操縦桿が設置されている。
「さて、と」
カナデが、船長席に座り、操縦桿を握る。まるで、最初からそこにあったかのように、その手によく馴染んだ。
「ケンさん、動力炉の出力は?」
「安定している。いつでも出航可能だ」
「シオンさん、周囲の索敵を」
「クリア。航路上に、障害物はありません」
「メイプルさん!」
「おう! 何でも言って!」
「……おやつ、持ってきましたか?」
「当たり前でしょ! ポテチとコーラ、完備よ!」
「なら、問題ありません」
四人の間に、笑いがこぼれる。
カナ
デは、パネルを操作し、船内スピーカーのスイッチを入れた。
「――こちら、ジオ・フロンティア号船長、カナデ。これより、我々は、前人未到の海域、『永久嵐』の中心、そして、その先に待つ『失われた天空大陸アヴァロン』を目指す。目標、三つ目の設計図の欠片の確保! 全員、準備はいいか!」
「「「応!!」」」
仲間たちの力強い返事を確認し、カナデは、推進器の出力をゆっくりと上げていく。
船尾のスラスターが、青白い魔力の光を噴射し、巨大な船体が、滑るように空を走り始めた。
ぐんぐんと、高度と速度を上げていく。眼下のアークライトの街が、あっという間に小さくなっていく。
彼らの新たな船出は、多くのプレイヤーたちの注目を集めていた。
「おい、なんだあれ!?」
「家が、飛んでるぞ!」
「ジオ・フロンティア……? あの、地形師がいるっていう、最近噂のギルドか!」
「あいつら、一体何者なんだ……」
人々の驚愕と賞賛を背に受け、ジオ・フロンティア号は、一路、南へと進路を取る。
やがて、彼らの眼下に、世界の果てが広がっていた。
空は鉛色の雲に覆われ、海は黒く荒れ狂い、無数の稲妻が空と海とを繋いでいる。それが、全ての船乗りが恐れる、絶対航行不能海域『永久嵐』。
「……すごい嵐ね」
「この中に、突っ込むのか……」
操縦室の窓からその光景を眺め、メイプルとシオンが息を呑む。
カナデは、しかし、臆することなく操縦桿を握りしめていた。
「これより、本船は『永久嵐』海域に突入する。全員、衝撃に備えよ!」
創造主の箱舟は、神々の領域へと挑むべく、その巨大な船首を、荒れ狂う嵐の中へと突き進めていった。
彼らの本当の冒険が、今、始まる。
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