ワールド・リクリエイター 〜不遇職『地形師』は、サーバーごと世界を創り変える〜

夏見ナイ

文字の大きさ
34 / 80

第34話:天空大陸の管理人

しおりを挟む
失われた天空大陸アヴァロン。その神聖な空気を切り裂くように、タナトスの執行者『ナンバーセブン』が放つ歪みのオーラが渦巻いていた。彼の周囲の空間は、まるで熱せられた陽炎のように揺らめき、世界の法則そのものが悲鳴を上げているようだった。

「執行者……。お前が、リリアを、この世界を苦しめている元凶の一人か!」
カナデの静かな怒りが、その場の魔力を震わせる。
『元凶、か。面白いことを言う』ナンバーセブンは、感情のない合成音声で応じた。『我々は、ただ、このシステムの安定を維持しているに過ぎない。バグは修正し、エラーは削除する。それの、何が悪い?』
「人の心を、バグと呼ぶな!」

問答は、無用だった。
ナンバーセブンが、その黒いローブの腕を、ゆっくりとカナデたちに向けた。
『――第一執行プロトコル、開始。対象、イレギュラーズ。空間圧縮による、完全消去(デリート)を実行する』

次の瞬間、ジオ・フロンティアの四人が立っている空間そのものが、四方から、目に見えない巨大な力によって圧し潰され始めた。
「ぐっ……!?」
「身体が、動かない……!」
メイプルとシオンが、苦悶の声を上げる。まるで、深海の底にいるかのような、凄まじい圧力。これが、空間を支配するタナトスの力。

「こんなもの……!」
カナデは、最後の力を振り絞り、スキルを発動させた。
「『フィールド・クラフト:斥力結界(リパルサー・フィールド)』!」

彼の足元から、外側に向かう斥力のフィールドが展開され、ナンバーセブンによる空間圧縮の力と、激しく拮抗する。ミシミシと、空間そのものが軋む、嫌な音が響き渡った。
「カナデ!」
「俺の結界で、圧力を相殺しています! でも、長くはもたない! 攻撃を!」

その言葉に、ケンが即座に反応した。
「我が魔力よ、光となりて闇を討て! 《ホーリー・アロー》!」
神聖な属性を持つ光の矢が、ナンバーセブンに向かって放たれる。歪みの存在には、効果的なはずだった。
しかし、ナンバーセブンは、その矢を避けようともしない。彼の目の前に、空間の断層のような、黒い亀裂が出現し、光の矢を、いともたやすく飲み込んでしまった。

「なっ!? 魔法が、消えた!?」
『無駄だ』ナンバーセブンは、嘲笑うかのように言った。『このアヴァロン大陸では、空間の法則は、我々タナトスが支配している。貴様らの脆弱な魔法など、この空間に存在する前に、その定義ごと削除される』

まさに、神の権能。攻撃が、一切通用しない。
じりじりと、カナデの張った斥力結界が、ナンバーセブンの空間圧縮に押し負け始めていた。カナデの額からは、滝のような汗が流れ落ち、MPゲージが危険な速度で減少していく。

「どうすればいいのよ、これじゃ、手も足も出ないじゃない!」
「何か、何か弱点があるはずだ……!」
シオンが、必死に『ホークアイ』でナンバーセブンを分析する。だが、その情報は、ほとんどが『解析不能』という絶望的な文字列で埋め尽くされていた。
しかし、その中に、ほんの僅か、ノイズ混じりの一文が浮かび上がっていた。

『……オブジェクト名:タナトス・ナンバーセブン……同期率:アヴァロン大陸・中央制御塔(セントラルタワー)……99.8%……』

「……これだ!」シオンが、叫んだ。「ケン! こいつの力は、この大陸そのものと同期することで成り立っている! この大陸のどこかにある、中央制御塔が、力の源だ!」
「だが、その制御塔がどこにあるか分からない以上、意味がない!」
「いや……」シオンは、カナデを見た。「カナデ、君ならできるはずだ。この大陸の地形情報そのものを読み取り、制御塔の場所を特定できるんじゃないか!?」

その言葉に、カナデは、この絶望的な状況の中、一条の光を見出した。
「……やってみます!」
カナデは、結界の維持をケンに一時的に任せるよう指示した。ケンは、自分の全魔力を注ぎ込み、不完全ながらも斥力結界を模倣し、空間圧縮の圧力をわずかに弱める。
その間に、カナデは、地面に両手をつけた。

「『ワールド・クリエイト:惑星読心(プラネット・リーディング)』!」
それは、まだ完全に使いこなせていない、広域情報解析スキル。カナデの意識が、ジオ・フロンティア号を離れ、このアヴァロン大陸そのものへと、深く、深く潜っていく。
彼の脳内に、大陸全体の、膨大な地形データと、魔力の流れが、洪水のように流れ込んできた。森、川、山脈、そして、街。その全ての情報が、彼の精神を焼き切らんばかりの勢いで駆け巡る。

(どこだ……どこにある……この大陸の、心臓部は……!)

『無駄な足掻きを』
ナンバーセブンが、カナデの意図に気づき、空間圧縮の力をさらに強める。ケンの張った結界が、悲鳴を上げて崩壊寸前だ。

「カナデ、まだか!?」
メイプルが、最後の抵抗として、ナンバーセブンに向かって突撃するが、その身体は、見えない壁に阻まれて、一歩も前に進めない。

カナデの意識が、限界に達しようとした、その時。
彼は、見つけた。
大陸全体の魔力の流れが、まるで川が海に注ぐように、ただ一点へと収束していく場所を。
大陸の中心にそびえる、あの純白の塔――『セントラルタワー』。その最上階。
そして、そこに、もう一つの巨大な『歪み』の反応があることにも、彼は気づいた。

(ゼノさん……! やはり、あそこに!)

「見つけました! あの白い塔の、最上階です!」
カナデが、現実世界へと意識を戻し、叫んだ。
「でも、どうやって、ここから、あそこを攻撃するのよ!」
「直接、攻撃する必要はありません!」

カナデは、ニヤリと笑った。
「彼の力が、この大陸と繋がっているのなら……。その『接続』を、一時的に断ち切ればいい!」

カナデは、操縦室へと駆け込むと、ジオ・フロンティア号の動力炉――歪みエネルギー転換炉――の出力を、危険領域まで引き上げた。
「ケンさん! この船の全エネルギーを、一点に集中させます! 座標は、俺が指定する! あなたの魔法で、指向性を持たせてください!」
「……正気か! そんなことをすれば、この船は……!」
「数秒間だけ、機能停止するだけです! その数秒に、全てを賭けます!」

カナデは、ナンバーセブンと、セントラルタワーを結ぶ、目に見えない魔力のラインを、惑星リーディングで正確に把握していた。
「シオンさん、あのラインが見えますか!」
「……ああ。君のおかげで、はっきりと見える!」
シオンの矢が、そのラインを指し示す。

「目標、あの魔力ライン! ジオ・フロンティア号、主砲、『クリエイション・バスター』、発射!」

船首に搭載されていた、カナデの創造力をエネルギーに変換する、最終兵器。
ジオ・フロンティア号の全エネルギーと、ケンの魔法によって収束された黄金色の破壊光線が、シオンの示した一点――ナンバーセブンとセントラルタワーを繋ぐ、魔力の奔流――に向かって、放たれた。

ズガアアアアアアアアアアアン!!

空間そのものが引き裂かれるような、凄まじい轟音。
黄金の光線は、魔力のラインを、確かに断ち切った。

『なっ……!?』
ナンバーセブンから、初めて、焦りの色が混じった声が漏れた。
大陸との同期が、一時的に遮断されたのだ。彼の身体を覆っていた、絶対的な空間支配の力が、霧のように消え失せる。

「今だあああああっ!」
メイプルが、この瞬間を待っていたかのように、雄叫びを上げて突撃する。
これまで届かなかった彼女の剣が、今度こそ、ナンバーセブンのローブの胸元を、深く切り裂いた。
「ぐ……お……!」

実体を持たないかのように見えたその身体は、確かにダメージを受けていた。
ナンバーセブンは、信じられないといったように、自分の胸を見下ろすと、憎々しげにカナデを睨みつけた。
『……面白い。この私に、一撃を与えるとはな。創造主の卵……』

彼は、それだけ言うと、その身体を黒い霧へと変え、その場から掻き消えるように撤退していった。
『……セントラルタワーで、待っている。貴様らが、真の絶望と出会う、その瞬間を、特等席で見届けてやろう……』

後に残されたのは、ボロボロになったジオ・フロンティア号と、疲弊しきった四人だけだった。
主砲の反動で、船の機能は一時的に停止し、航行不能に陥っている。
だが、彼らは勝ったのだ。神の代理人を、知恵と、勇気と、そして仲間との絆で、確かに退けたのだ。

「……やった、のよね?」
「ああ。だが、猶予は、ほとんどないだろう」
セントラルタワーの方向からは、依然として、ゼノと、そしてナンバーセブンの強大な気配が感じられる。

カナデは、純白の塔を見据えた。
三つ目の設計図の欠片。人間性を捨てたライバル。そして、世界の管理者。
全ての決着をつけるべき場所は、定まった。

「船の修理を急ぎましょう。そして、行きます。俺たちの、最後のフロンティアへ」

カナデの言葉に、仲間たちが、力強く頷いた。
彼らの冒険は、ついに、最終決戦の舞台へと、その舵を切った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺の職業は【トラップ・マスター】。ダンジョンを経験値工場に作り変えたら、俺一人のせいでサーバー全体のレベルがインフレした件

夏見ナイ
SF
現実世界でシステムエンジニアとして働く神代蓮。彼が効率を求めVRMMORPG「エリュシオン・オンライン」で選んだのは、誰にも見向きもされない不遇職【トラップ・マスター】だった。 周囲の冷笑をよそに、蓮はプログラミング知識を応用してトラップを自動連携させる画期的な戦術を開発。さらに誰も見向きもしないダンジョンを丸ごと買い取り、24時間稼働の「全自動経験値工場」へと作り変えてしまう。 結果、彼のレベルと資産は異常な速度で膨れ上がり、サーバーの経済とランキングをたった一人で崩壊させた。この事態を危険視した最強ギルドは、彼のダンジョンに狙いを定める。これは、知恵と工夫で世界の常識を覆す、一人の男の伝説の始まり。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界宇宙SFの建艦記 ――最強の宇宙戦艦を建造せよ――

黒鯛の刺身♪
SF
主人公の飯富晴信(16)はしがない高校生。 ある朝目覚めると、そこは見たことのない工場の中だった。 この工場は宇宙船を作るための設備であり、材料さえあれば巨大な宇宙船を造ることもできた。 未知の世界を開拓しながら、主人公は現地の生物達とも交流。 そして時には、戦乱にも巻き込まれ……。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

この世界、貞操が逆で男女比1対100!?〜文哉の転生学園性活〜

妄想屋さん
SF
気がつけば、そこは“男女の常識”がひっくり返った世界だった。 男は極端に希少で守られる存在、女は戦い、競い、恋を挑む時代。 現代日本で命を落とした青年・文哉は、最先端の学園都市《ノア・クロス》に転生する。 そこでは「バイオギア」と呼ばれる強化装甲を纏う少女たちが、日々鍛錬に明け暮れていた。 しかし、ただの転生では終わらなかった―― 彼は“男でありながらバイオギアに適合する”という奇跡的な特性を持っていたのだ。 無自覚に女子の心をかき乱し、甘さと葛藤の狭間で揺れる日々。 護衛科トップの快活系ヒロイン・桜葉梨羽、内向的で絵を描く少女・柊真帆、 毒気を纏った闇の装甲をまとう守護者・海里しずく…… 個性的な少女たちとのイチャイチャ・バトル・三角関係は、次第に“恋と戦い”の渦へと深まっていく。 ――これは、“守られるはずだった少年”が、“守る覚悟”を知るまでの物語。 そして、少女たちは彼の隣で、“本当の強さ”と“愛し方”を知ってゆく。 「誰かのために戦うって、こういうことなんだな……」 恋も戦場も、手加減なんてしてられない。 逆転世界ラブコメ×ハーレム×SFバトル群像劇、開幕。

ゴブリンだって進化したい!~最弱モンスターに転生したけど、スキル【弱肉強食】で食って食って食いまくったら、気づけば魔王さえ喰らう神になってた

夏見ナイ
SF
ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、醜く弱い最弱モンスター「ゴブリン」。いつ殺されてもおかしくない絶望的な状況で、俺はたった一つの希望を見出す。それは、食べた相手の能力を奪うユニークスキル【弱肉強食】だった。 「二度と理不尽に死んでたまるか!」 元社畜の思考力と戦略で、スライムから巨大な魔獣、果てはドラゴンまで食らい尽くす! 知恵とスキルでゴブリンの群れを最強の軍団に改革し、追いやられたエルフやオークを仲間に加え、やがて未開の森に一大国家を築き上げる。 これは、最弱のゴブリンが知恵と食欲で進化の頂点に駆け上がり、やがて世界の理さえも喰らう神に至る物語。

処理中です...