ワールド・リクリエイター 〜不遇職『地形師』は、サーバーごと世界を創り変える〜

夏見ナイ

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第35話:白亜の塔と二つの歪み

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タナトスの執行者『ナンバーセブン』を退けたものの、その代償は大きかった。空飛ぶ箱舟『ジオ・フロンティア号』は、主砲『クリエイション・バスター』の強大な反動により、船体のエネルギー循環系が深刻なダメージを受け、航行不能に陥っていた。神々の故郷である天空大陸アヴァロンの端、古代の船着き場で、巨大な船体は沈黙を余儀なくされていた。

「……ひどい有様ね。これ、本当に直るの?」
甲板から、大きくひび割れた動力パイプを覗き込みながら、メイプルが不安げに呟く。船内の照明は明滅を繰り返し、ところどころから火花が散っている。
「応急処置は可能だ。だが、完全な修復には、特殊な高純度の魔力伝導体が必要になる。この大陸のどこかで、素材を調達しなければならない」
ケンが、破損した計器パネルを睨みながら、冷静に現状を分析する。

「その必要はありません」
船長席で、カナデがゆっくりと目を開いた。彼は、消耗した精神力を回復させながら、この船の修復プランを練っていた。
「この船は、俺の『ワールド・クリエイト』で創り出したもの。つまり、この船そのものが、俺の世界の一部です。俺の経験値(リソース)さえあれば、自己修復させることが可能なんです」
カナデは、船の操縦桿にそっと手を触れた。
「『ワールド・クリエイト:オート・リペア』」

彼がスキルを発動させると、船体全体が淡い金色の光に包まれた。ひび割れたパイプは自らその形を取り戻し、ショートしていた回路は再接続されていく。まるで、巨大な生き物が、自らの傷を癒していくかのように。
しかし、その代償として、カナデのレベルゲージが、わずかだが、しかし確実に減少していくのが見えた。

「カナデ、あんた、また自分のレベルを……!」
「大した消費じゃありませんよ。それに、今は一刻も早く、あの塔へ向かわないと」
カナデの視線は、大陸の中央にそびえる純白の巨塔――『セントラルタワー』――へと向けられていた。ナンバーセブンと、そしてゼノの気配が、そこから渦巻いている。

「船の完全修復には、あと半日ほどかかりそうです。その間に、タワーへのルートと、この大陸の情報を整理しましょう」
カナデの提案で、四人は操縦室で作戦会議を始めた。シオンが、船のレーダーと自らの『ホークアイ』を駆使して、大陸全体の簡易マップを作成していく。

「……やはり、一筋縄ではいかないようです」
シオンが、険しい表情で報告する。
「セントラルタワーへ至る道は、大きく三つ。一つは、中央の平原を真っ直ぐ進むルート。ですが、ここはタナトスの防衛ゴーレムが最も密集している危険地帯です。二つ目は、東の『古代樹の森』を抜けるルート。視界が悪く、原生生物の縄張りです。三つ目は、西の『風切り渓谷』を渡るルート。常に強風が吹き荒れ、飛行は困難を極めます」
どのルートも、相応の覚悟が必要だった。

「どうする、カナデ? どの道を選ぶ?」
メイプルに問われ、カナデはしばらく地図を睨み、やがて一つのルートを指さした。
「東の『古代樹の森』から行きましょう。視界が悪いのは、逆に、俺たちの行動を隠すのに好都合です。それに……」
カナデは、シオンがマークした、森の中の小さな遺跡の印に目を留めた。
「支配派の神々が、何を研究していたのか。少し、気になりますから」

方針は決まった。船の応急修理を終えたジオ・フロンティア号は、完全な飛行能力を取り戻せないため、ホバークラフトのように地上数メートルを低空飛行しながら、ゆっくりと古代樹の森へと進んでいった。

森の中は、外の神聖な雰囲気とは裏腹に、どこか不気味な空気が漂っていた。天を覆うほど巨大な樹木のせいで、昼間でも薄暗く、湿った土の匂いが立ち込めている。
「……気配が濃い。歪みによって、この森の生態系そのものが、変質しているようです」
シオンが、弓を構えながら警告する。

その言葉を証明するかのように、茂みから一体の獣が飛び出してきた。それは、狼のようだったが、その背中からは植物の蔦が生え、両目からは紫色の妖しい光が放たれていた。
「歪み狼(コラプト・ウルフ)!」
メイプルが、即座に盾を構えて応戦する。一体一体は強くないが、群れで襲いかかってくるため、厄介だった。

カナデは、戦闘を避け、最短ルートを確保するため、森の地形に干渉した。
「『シェイピング』!」
巨大な樹木の根を隆起させて壁を作り、狼の群れの進路を塞ぐ。あるいは、地面に深い溝を掘り、彼らの動きを制限する。ジオ・フロンティア号を動かせない今、彼本来の戦い方が、再びその真価を発揮していた。

数々の障害を乗り越え、一行は、森の奥深くにある、蔦に覆われた小さな石造りの研究所跡にたどり着いた。
内部には、壊れた実験器具や、意味不明な数式が書きなぐられた石板が散乱している。
「ひどい有様だな。ここで、何か良からぬ研究が行われていたのは、間違いない」
ケンが、床に落ちていた水晶の記録媒体(クリスタルメモリ)を拾い上げ、解析を始めた。

その水晶には、断片的ながら、衝撃的な実験記録が残されていた。

`//実験記録 No.004`
`//被験体:原生グリフォン`
`//歪みエネルギーとの同期率を強制的に引き上げる実験。結果、被験体は急激な変異の後、自我を喪失。暴走し、施設を半壊させたため、やむなく処分。`

`//実験記録 No.013`
`//被験体:神族の志願兵`
`//歪みの核(プロトタイプ)の埋め込み手術を実施。被験体は一時的に絶大な力を獲得するも、数時間後に精神が歪みに耐えきれず崩壊。自己の存在を維持できなくなり、塵となって消滅。`

`//結論:歪みは、制御不能なエネルギーである。これを力とする道は、栄光ではなく、破滅にしか繋がらない。我々は、過ちを犯したのかもしれない――`

「……ゼノさんがやろうとしていることと、同じだ」
カナデが、苦々しく呟く。支配派の神々ですら、最後にはその危険性に気づき、道を誤ったことを後悔していたのだ。だが、ゼノは、その破滅の道を、自ら突き進んでいる。

「彼を、止めないと」
カナデの決意が、より一層固まった。

研究所を出て、さらに森の奥へと進む。セントラルタワーが、木々の間から、より大きく見えるようになってきた。
その時、シオンが、鋭く叫んだ。
「伏せろ!」

全員が、反射的に地面に伏せる。直後、凄まじい轟音と共に、彼らがいた場所のすぐ横の巨木が、根元から、レーザーのような光線によって焼き切られた。
「なっ!?」
「どこから!?」

「……上空です」
シオンが指さす先、遥か上空に、小さな黒い点が、いくつも浮かんでいた。
「タナトスの、無人偵察機……! ナンバーセブンの追手か!」

無人機から、第二、第三のレーザーが、雨のように降り注ぐ。
「ジオ・フロンティア号に戻る時間はない!」
「ここで、迎撃します!」
カナデは、即座に『フィールド・クラフト』で、周囲に強固な岩のドームを創造し、レーザーの直撃を防いだ。

「シオンさん、狙撃できますか!?」
「距離が離れすぎている! 威力も、精度も落ちる!」
「ケンさん、魔法は!?」
「同じくだ! あの高度では、届かん!」

防戦一方。このままでは、ドームごと焼き尽くされるのも時間の問題だ。
カナデは、歯を食いしばりながら、一つの可能性に賭けることにした。
彼は、ケンとシオンに向かって叫んだ。
「二人とも、俺の足元に、最大火力を撃ち込んでください!」
「はあ!? 正気か、カナデ!」
「いいから、早く!」

メイプルが止めるのも聞かず、ケンとシオンは、カナデのただならぬ覚悟を信じ、彼の足元に向かって、それぞれの最大火力を放った。
ケンの炎の嵐と、シオンの星の矢が、カナデの足元の地面に炸裂する。

だが、それは破壊には繋がらなかった。
カナデは、その膨大なエネルギーを、『ワールド・クリエイト』のスキルで受け止め、吸収し、そして、『変成』させたのだ。

「うおおおおおおおおっ!」
カナデの全身から、金色のオーラが噴き出す。
彼の足元から、仲間たちの力を変換した、巨大な黄金の砲塔が、その姿を現した。それは、ジオ・フロンティア号の主砲を、地上に再現したかのような、即席の迎撃システムだった。

「創造と、仲間たちの力を合わせて……! これが、俺たちの答えだ!」

カナデは、その砲塔に乗り込むと、照準を遥か上空の無人機に合わせた。
「喰らえ! 『フロンティア・カノン』!」

仲間たちの力が、カナデの創造力によって増幅され、一本の黄金の破壊光線となって、天を突いた。
光線は、空を舞う無人機を、一瞬にして、全て飲み込み、消し炭にした。

「……はぁ、はぁ……」
カナデは、その場に膝をついた。MPも、経験値も、根こそぎ持っていかれた。
だが、彼らは、再び勝利したのだ。

息つく暇もなく、一行は、セントラルタワーの麓を目指す。
森を抜けた先には、広大な平原が広がり、その中心に、天を突く純白の塔が、神々しく、そして不気味にそびえ立っていた。
その頂上には、二つの禍々しいオーラが渦巻いているのが、肉眼でもはっきりと見えた。一つは、ナンバーセブンの冷たい歪み。そして、もう一つは、ゼノの、暴走寸前の、荒れ狂う歪み。

決戦の時は、近い。
カナデは、仲間たちと顔を見合わせ、力強く頷いた。
「行きましょう。俺たちの、最後の戦いを、始めに」

彼らの足が、ついに、最終決戦の舞台へと、その一歩を踏み出した。
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