ワールド・リクリエイター 〜不遇職『地形師』は、サーバーごと世界を創り変える〜

夏見ナイ

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第36話:決戦、セントラルタワー

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セントラルタワーの麓は、不気味なほどの静寂に包まれていた。タナトスの防衛ゴーレムがひしめいているというシオンの情報とは裏腹に、敵の姿は一体も見当たらない。まるで、全ての戦力が、塔の内部に集結しているかのようだった。

「嵐の前の静けさ、ってやつね」
メイプルが、ゴクリと喉を鳴らしながら、高さ数百メートルはあろうかという塔を見上げる。入り口は、巨大な一枚岩のような扉で、固く閉ざされていた。

「ケンさん、シオンさん、解析をお願いします」
「この扉、ポセイドニアの門と同じ、高次元エネルギーでロックされている。通常の手段では開かない」
「内部構造も、外部からの索敵を完全にシャットアウトしています。中がどうなっているか、全く読めません」

絶望的な報告。だが、カナデは落ち着いていた。
彼は、海底神殿で手に入れた『創生の設計図:深淵の海図』を取り出した。扉の模様が、海図に描かれた紋様と共鳴するように、淡い光を放っている。
「やはり、この設計図が鍵のようですね」

カナデが、扉に海図をかざすと、重々しい音を立てて、巨大な扉がゆっくりと開いていった。
その先には、上層階へと続く、一本の螺旋階段だけが存在する、殺風景な空間が広がっていた。

「罠の気配はありません。ですが、この階段、異常に長い。頂上まで、数キロメートルはありそうです」
「歩いて登るだけで、日が暮れちゃうわよ!」
「……いえ」カナデは、螺旋階段の中心に広がる、巨大な吹き抜け空間を見上げた。「道は、自分で創ります」

カナデは、両手を広げ、スキルを発動させた。
「『ワールド・クリエイト:反重力エレベーター』!」

彼の足元を中心に、円形のプラットフォームが生成される。そして、そのプラットフォームは、物理法則を無視して、ゆっくりと、しかし確実に、吹き抜け空間を上昇し始めた。
「すごい! これなら一気に最上階まで!」
「いや、そう簡単にはいかないだろう」

ケンの予測通り、エレベーターが上昇を始めると、壁面の至る所から、タナトスの防衛システムが、一斉にその姿を現した。
レーザーを放つ浮遊砲台、実体弾を撃ち出すオートタレット、そして、壁を自在に這い回る機械の蛇。

「総員、迎撃態勢!」
メイプルが、最前線で盾を構え、飛来する弾丸を防ぐ。
シオンの矢が、正確に浮遊砲台のセンサーを射抜き、その機能を停止させる。
ケンの魔法が、壁を這う機械の蛇を、炎で焼き払う。
そして、カナデは、エレベーターを操縦しながら、時には壁を創造して攻撃を防ぎ、時には床を変成させて敵の足場を崩す。

四人の完璧な連携が、絶え間ない攻撃を凌ぎ切り、エレベーターは、ついに最上階のプラットフォームへと到達した。
そこは、王の玉座の間を思わせる、広大な円形のホールだった。
天井は、星空のように無数のデータが流れるドーム状のスクリーンになっており、部屋の中央には、二つの巨大なカプセルのようなものが設置されている。
そして、その手前。二人の男が、彼らを待っていた。

一人は、漆黒のローブを纏った、タナトスの執行者『ナンバーセブン』。
そして、もう一人は――
全身から、制御しきれないほどの紫色の歪みのオーラを放ち、その瞳をデリーターと同じ、冷たい赤色に染めた、ゼノだった。

「……来たか、カナデ」
ゼノの声は、以前の彼とは違い、どこかノイズが混じった、不快な響きを帯びていた。
「ゼノさん……。あなた、その身体……」
「素晴らしいぞ、この力は!」ゼノは、恍惚とした表情で両手を広げた。「世界の理に縛られる、脆弱な人間だった頃の俺とは違う! 俺は、神に、いや、神をも超える存在へと進化したのだ!」

「それは、進化じゃない! ただの、破滅への道だ!」
カナデの叫びは、もはや彼には届かない。

『茶番はそこまでだ、創造主の卵よ』
ナンバーセブンが、冷たく言い放つ。
『このセントラルタワーは、我々タナトスが、この世界の理を支配するための、いわば神の玉座。そして、ゼノというサンプルは、我々の支配を代行するための、完璧な『人形』となる』

ナンバーセブンの背後にある、二つのカプセル。その片方が、シュー、という音を立てて開いた。
中から現れたのは、銀色の髪をなびかせ、しかし、その瞳から一切の光を失った、リリアの姿だった。

「リリアさん!?」
「そんな……!?」
仲間たちが、驚愕の声を上げる。
リリアは、まるで操り人形のように、虚ろな目で、ゆっくりとカナデの方を見た。

『彼女は、この世界の歪みのアンカーであり、同時に、最高のセキュリティキーでもある』ナンバーセブンが、愉快そうに説明する。『彼女の生体情報を利用すれば、この世界のあらゆるシステムにアクセスし、書き換えることが可能となる。今、ゼノと彼女の精神は、完全に同期されつつある。それが完了すれば、この世界は、完全に我々のものだ』

もう一つのカプセルには、ゼノが横たわっており、無数のケーブルが、彼とリリア、そしてこのタワーのシステムとを繋いでいた。
「やめろ……! リリアさんを、道具のように使うな!」
カナデの怒りが、頂点に達した。

「遅いのだ、カナデ」ゼノ(正確には、彼の意識を宿したアバター)が、嘲笑う。「もう、誰にも止められん。俺は、この世界の全てを手に入れる。そして、最初に、貴様というバグを、この手で削除してやる!」

ゼノの身体から、紫色のオーラが爆発し、その手には、歪みのエネルギーそのものでできた、巨大な黒い剣が握られていた。
『さあ、始めよう。最後の、ショータイムを』
ナンバーセブンもまた、その両手に、空間を歪ませる黒いエネルギー球を生成する。

ラスボスは、二人。
世界の理を破壊する、歪みの王と化したライバル。
そして、その王を操る、冷徹な世界の管理者。

「メイプルさん、ケンさん、シオンさん!」
カナデは、覚悟を決めた。
「俺とメイプルさんで、ゼノさんを止めます! ケンさん、シオンさん! ナンバーセブンをお願いします! 何としても、リリアさんとの同期を、阻止してください!」

「「「了解!」」」
四人は、最後の決戦へと、その身を投じた。

メイプルが、巨大な盾を構え、ゼノの初撃を受け止める。
「カナデは、行かせないわよ!」
「邪魔だ!」
歪みの剣と、聖なる盾が激突し、凄まじい衝撃波がホール全体を揺るがす。

カナデは、その隙に、ゼノの背後へと回り込み、スキルを発動させた。
「『フィールド・クラフト:重力牢獄(グラビティ・プリズン)』!」
ゼノの周囲の重力を、極端に増大させ、その動きを封じ込める。
「ぐっ……! 小賢しい……!」

一方、ケンとシオンは、ナンバーセブンと対峙していた。
「貴様らの攻撃など、届かんと言ったはずだ」
ナンバーセブンが、空間断層のバリアを展開する。
「どうかな?」
シオンの矢が、断層のわずかな隙間、空間が歪むほんの一瞬のタイミングを狙って、放たれた。
「我が術中、一点に収束せよ! 《フォーカス・マジック》!」
ケンの魔法が、シオンの矢に付与され、その貫通力を極限まで高める。

「なっ!?」
シオンとケンの連携から生まれた一撃は、ナンバーセブンの絶対防御を、わずかに、しかし確かに貫き、そのローブを掠めた。
『……面白い。虫けらなりに、知恵をつけたか』
ナンバーセブンの声に、初めて、苛立ちの色が浮かんだ。

四つの場所で、同時に、世界の運命を賭けた戦いが繰り広げられる。
カナデの創造と、ゼノの破壊。
仲間たちの絆と、管理者の絶対的な力。

勝つのは、どちらか。
答えは、まだ誰にも分からない。
ただ、この戦いの果てに、一つの世界が終わり、そして、新たな世界が生まれることだけは、確かだった。
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