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第45話:君が望んだ世界
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創生の庭に満ちる、金色の光。それは、世界の終わりを告げる破滅の光ではない。新たな始まりを祝福する、創造の夜明けだった。
カナデは、その光の中心で、静かに目を閉じていた。彼の意識は、この世界のあらゆるデータと繋がり、その構造、その歴史、その理の全てを、自分のことのように感じ取っていた。
「『ワールド・リクリエイト』」
彼が、心の中でその名を唱える。
究極の権能が、解放された。
崩壊しかけていた『Aethelgard Online』の世界が、まるで奇跡の巻き戻しのように、その姿を変え始めた。
タナトスの侵食によってノイズに汚染されていた空は、どこまでも澄み渡る、紺碧の青空へと変わっていく。テクスチャの剥がれた建物は、その輝きを取り戻し、活気を失っていた街には、人々の温かい喧騒が、幻のように響き始めた。
森の木々は、より深く、鮮やかな緑に染まり、砂漠の砂は、太陽の光を浴びて黄金色に輝く。深海の底には、穏やかな海流が戻り、清らかな光が差し込んでいた。
それは、単なる修復(リストア)ではなかった。
カナデの、仲間たちの、そして、この世界を愛した全てのプレイヤーたちの記憶の中にあった、「こうだったらいいな」という、無数の小さな願い。それら全てを汲み取り、反映させた、理想の世界への『再創造(リクリエイト)』だった。
世界の歪みは、完全に消え去った。デリーターを生み出す土壌も、NPCたちを苦しめていたバグも、全てが、あるべき正しい姿へと調律されていく。
「すごい……」
「世界が、生まれ変わっていく……」
メイプルも、ケンも、シオンも、その神の御業としか言いようのない光景を、ただ息を呑んで見つめていた。
そして、再創造の光が、最も強く、優しく降り注いだ場所。
カナデが『リリアの心』を置いた、庭の中央の祭壇。
光の粒子が、ゆっくりと、しかし、確かな意志を持って、一つの形を紡ぎ始めていた。
銀色の、長い髪。
清らかな、白いワンピース。
そして、ゆっくりと開かれた、翡翠色の瞳。
そこには、もう、自らの存在に悩む儚さも、世界の歪みを憂う悲しみもなかった。ただ、目の前にいる、愛しい人を見つめる、喜びの輝きだけが満ちていた。
「……カナデさん」
リリアが、そこに立っていた。もはや、半透明の魂でも、データの結晶でもない。確かな実体を持って、この新しい世界に、最初の生命として、生を受けたのだ。
「リリアさん……!」
カナデは、彼女の元へと駆け寄り、その手を、そっと握りしめた。温かい。確かなぬくもりがあった。
「おかえりなさい、リリアさん」
「……ただいま、なさい、カナデさん」
二人の間に、言葉は、もう必要なかった。
***
その再創造の光は、創生の庭を越え、地上世界の全てへと降り注いでいた。
名もなき荒野を、一人、あてもなく彷徨っていたゼノも、その黄金の光を、その身に浴びていた。
彼は、空を見上げ、そして、全てを理解した。
「……そうか。あれが、貴様の答えか、カナデ」
彼の脳裏に、カナデとの戦いが蘇る。
力で全てを支配しようとした自分。
知恵と仲間との絆で、全てを守ろうとした彼。
そして、最後には、自らの存在すら賭して、世界そのものを救ってみせた。
「……完敗だ」
ゼノの口から、初めて、偽りのない、心からの敗北宣言が漏れた。
それは、悔しさではなかった。むしろ、晴れやかな、一種の清々しさすらあった。
自分が、どうしても超えられなかった壁。その壁の向こう側にあった景色の、あまりの美しさに、彼はただ、心を奪われていた。
力とは、何か。強さとは、何か。
その答えを、彼は、ようやく見つけたのかもしれない。
「……フッ」
ゼノは、自嘲するように、しかし、どこか楽しそうに笑うと、踵を返した。
「貴様の創った、その甘っちょろい世界。いつまでも、平穏が続くと思うなよ。俺のような『秩序』を求める者がいなければ、すぐに腐敗する」
彼の新たな道が、定まった瞬間だった。
破壊者でも、支配者でもない。
カナデの創った、この優しすぎる世界を、影から守り、その秩序を維持する、『番人』として。
彼は、聖剣を置いてきたギルドタワーへと、確かな足取りで、歩き始めた。
***
創生の庭に、穏やかな時間が流れる。
タナトスがいた奈落は、完全に塞がり、そこには、美しい泉が湧き出ていた。
カナデ、リリア、メイプル、ケン、シオン。
五人は、その泉のほとりに座り、生まれ変わった世界を、静かに眺めていた。
「すごいこと、しちゃったわね、あんた」
メイプルが、呆れたように、しかし、誇らしげに言う。
「ああ。もはや、我々の知る『Aethelgard Online』ではないな。これは、君の創った、『カナデ・オンライン』だ」
ケンの言葉に、カナデは照れくさそうに笑った。
「見てください」
リリアが、空を指さす。
そこには、サービス終了を告げていたはずの、システムウィンドウが、新たなメッセージを映し出していた。
【告 知】
『Aethelgard Online』は、本日、新生『Aethelgard: Re-Genesis』として、生まれ変わりました。
世界の創造主と、その仲間たちに、最大限の感謝を。
さあ、冒険者の皆さん。新たな神話の始まりです。
サービス終了は、撤回された。
いや、カナデが、その運命ごと、書き換えたのだ。
「……終わったんだな、俺たちの戦いも」
シオンが、感慨深げに呟く。
「ええ。でも、ここからが、始まりです」
カナデは、リリアの手を、優しく握りしめた。
「一度、帰りましょう。現実世界(リアル)へ」
カナデの提案に、仲間たちは、少しだけ驚いた顔をしたが、すぐに、その意味を理解して、頷いた。
この世界は、もう、逃げる場所ではない。いつでも帰ってこられる、大切な『故郷』になったのだから。
「また、明日ね! カナデ、リリアちゃん!」
「ああ。良い休息を」
「また、この場所で」
メイプル、ケン、シオンが、それぞれのログアウトの言葉を口にして、光の粒子となって消えていく。
残されたのは、カナデとリリアの二人だけ。
「カナデさんも、行くのですね?」
「はい。でも、すぐに戻ってきます。約束です」
「……はい」
リリアは、少しだけ寂しそうに、しかし、満面の笑顔で頷いた。
「待っています。あなたが創ってくれた、この世界で。ずっと」
カナデは、その笑顔を目に焼き付けると、自分もまた、ログアウトのコマンドを口にした。
視界が、白い光に包まれていく。
長かった冒険が、終わった。
不遇職『地形師』から始まった物語は、一つの世界を救い、そして、創り出すという、壮大な神話となって、その幕を閉じた。
だが、それは、決して終わりではない。
彼と、彼女と、仲間たちの、新たな日常が、ここから、始まるのだから。
カナデは、その光の中心で、静かに目を閉じていた。彼の意識は、この世界のあらゆるデータと繋がり、その構造、その歴史、その理の全てを、自分のことのように感じ取っていた。
「『ワールド・リクリエイト』」
彼が、心の中でその名を唱える。
究極の権能が、解放された。
崩壊しかけていた『Aethelgard Online』の世界が、まるで奇跡の巻き戻しのように、その姿を変え始めた。
タナトスの侵食によってノイズに汚染されていた空は、どこまでも澄み渡る、紺碧の青空へと変わっていく。テクスチャの剥がれた建物は、その輝きを取り戻し、活気を失っていた街には、人々の温かい喧騒が、幻のように響き始めた。
森の木々は、より深く、鮮やかな緑に染まり、砂漠の砂は、太陽の光を浴びて黄金色に輝く。深海の底には、穏やかな海流が戻り、清らかな光が差し込んでいた。
それは、単なる修復(リストア)ではなかった。
カナデの、仲間たちの、そして、この世界を愛した全てのプレイヤーたちの記憶の中にあった、「こうだったらいいな」という、無数の小さな願い。それら全てを汲み取り、反映させた、理想の世界への『再創造(リクリエイト)』だった。
世界の歪みは、完全に消え去った。デリーターを生み出す土壌も、NPCたちを苦しめていたバグも、全てが、あるべき正しい姿へと調律されていく。
「すごい……」
「世界が、生まれ変わっていく……」
メイプルも、ケンも、シオンも、その神の御業としか言いようのない光景を、ただ息を呑んで見つめていた。
そして、再創造の光が、最も強く、優しく降り注いだ場所。
カナデが『リリアの心』を置いた、庭の中央の祭壇。
光の粒子が、ゆっくりと、しかし、確かな意志を持って、一つの形を紡ぎ始めていた。
銀色の、長い髪。
清らかな、白いワンピース。
そして、ゆっくりと開かれた、翡翠色の瞳。
そこには、もう、自らの存在に悩む儚さも、世界の歪みを憂う悲しみもなかった。ただ、目の前にいる、愛しい人を見つめる、喜びの輝きだけが満ちていた。
「……カナデさん」
リリアが、そこに立っていた。もはや、半透明の魂でも、データの結晶でもない。確かな実体を持って、この新しい世界に、最初の生命として、生を受けたのだ。
「リリアさん……!」
カナデは、彼女の元へと駆け寄り、その手を、そっと握りしめた。温かい。確かなぬくもりがあった。
「おかえりなさい、リリアさん」
「……ただいま、なさい、カナデさん」
二人の間に、言葉は、もう必要なかった。
***
その再創造の光は、創生の庭を越え、地上世界の全てへと降り注いでいた。
名もなき荒野を、一人、あてもなく彷徨っていたゼノも、その黄金の光を、その身に浴びていた。
彼は、空を見上げ、そして、全てを理解した。
「……そうか。あれが、貴様の答えか、カナデ」
彼の脳裏に、カナデとの戦いが蘇る。
力で全てを支配しようとした自分。
知恵と仲間との絆で、全てを守ろうとした彼。
そして、最後には、自らの存在すら賭して、世界そのものを救ってみせた。
「……完敗だ」
ゼノの口から、初めて、偽りのない、心からの敗北宣言が漏れた。
それは、悔しさではなかった。むしろ、晴れやかな、一種の清々しさすらあった。
自分が、どうしても超えられなかった壁。その壁の向こう側にあった景色の、あまりの美しさに、彼はただ、心を奪われていた。
力とは、何か。強さとは、何か。
その答えを、彼は、ようやく見つけたのかもしれない。
「……フッ」
ゼノは、自嘲するように、しかし、どこか楽しそうに笑うと、踵を返した。
「貴様の創った、その甘っちょろい世界。いつまでも、平穏が続くと思うなよ。俺のような『秩序』を求める者がいなければ、すぐに腐敗する」
彼の新たな道が、定まった瞬間だった。
破壊者でも、支配者でもない。
カナデの創った、この優しすぎる世界を、影から守り、その秩序を維持する、『番人』として。
彼は、聖剣を置いてきたギルドタワーへと、確かな足取りで、歩き始めた。
***
創生の庭に、穏やかな時間が流れる。
タナトスがいた奈落は、完全に塞がり、そこには、美しい泉が湧き出ていた。
カナデ、リリア、メイプル、ケン、シオン。
五人は、その泉のほとりに座り、生まれ変わった世界を、静かに眺めていた。
「すごいこと、しちゃったわね、あんた」
メイプルが、呆れたように、しかし、誇らしげに言う。
「ああ。もはや、我々の知る『Aethelgard Online』ではないな。これは、君の創った、『カナデ・オンライン』だ」
ケンの言葉に、カナデは照れくさそうに笑った。
「見てください」
リリアが、空を指さす。
そこには、サービス終了を告げていたはずの、システムウィンドウが、新たなメッセージを映し出していた。
【告 知】
『Aethelgard Online』は、本日、新生『Aethelgard: Re-Genesis』として、生まれ変わりました。
世界の創造主と、その仲間たちに、最大限の感謝を。
さあ、冒険者の皆さん。新たな神話の始まりです。
サービス終了は、撤回された。
いや、カナデが、その運命ごと、書き換えたのだ。
「……終わったんだな、俺たちの戦いも」
シオンが、感慨深げに呟く。
「ええ。でも、ここからが、始まりです」
カナデは、リリアの手を、優しく握りしめた。
「一度、帰りましょう。現実世界(リアル)へ」
カナデの提案に、仲間たちは、少しだけ驚いた顔をしたが、すぐに、その意味を理解して、頷いた。
この世界は、もう、逃げる場所ではない。いつでも帰ってこられる、大切な『故郷』になったのだから。
「また、明日ね! カナデ、リリアちゃん!」
「ああ。良い休息を」
「また、この場所で」
メイプル、ケン、シオンが、それぞれのログアウトの言葉を口にして、光の粒子となって消えていく。
残されたのは、カナデとリリアの二人だけ。
「カナデさんも、行くのですね?」
「はい。でも、すぐに戻ってきます。約束です」
「……はい」
リリアは、少しだけ寂しそうに、しかし、満面の笑顔で頷いた。
「待っています。あなたが創ってくれた、この世界で。ずっと」
カナデは、その笑顔を目に焼き付けると、自分もまた、ログアウトのコマンドを口にした。
視界が、白い光に包まれていく。
長かった冒険が、終わった。
不遇職『地形師』から始まった物語は、一つの世界を救い、そして、創り出すという、壮大な神話となって、その幕を閉じた。
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