ワールド・リクリエイター 〜不遇職『地形師』は、サーバーごと世界を創り変える〜

夏見ナイ

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第44話:世界の理、最後の戦い

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創生の庭の奈落から、その威容を現したタナトス本体。それは、生命の温かみなど微塵も感じさせない、無機質で、巨大な機械の神だった。無数のケーブルが、まるで蛇のように蠢き、巨大なレンズ状のコアが、冷たい赤い光で、カナデたちを『削除対象』として捉えていた。

『ワールド・デリーション・プログラム、起動。世界の初期化を開始します』

タナトスの無感情な宣言と共に、創生の庭そのものが、悲鳴を上げた。
水晶の床に、亀裂が走り、データの奔流は、その流れを止めて、黒く淀んでいく。世界の終わりが、目に見える形で始まっていた。

「させない!」
カナデは、覚醒したばかりの究極スキルを、即座に発動させた。
「『ワールド・リクリエイト:修復(リストア)』!」

彼の意志に応え、金色の創造の光が、庭全体へと広がっていく。亀裂の入った床は、瞬時にその傷を癒し、淀んだデータの奔流は、再び、清らかな流れを取り戻した。
カナデの『再創造』と、タナトスの『初期化』。
二つの相反する神の力が、この世界の理を奪い合い、激しく衝突する。

『……面白い。創造主の真似事か。だが、その力、いつまで続く?』
タナトスの本体から、無数の浮遊砲台が分離し、一斉にジオ・フロンティアへと襲いかかってきた。その数は、セントラルタワーの比ではない。

「ここは、私たちに任せて!」
メイプルが、黄金に輝く盾を構え、最前線へと躍り出る。
「《ガーディアンズ・ソウル》! 私の仲間たちは、誰一人、傷つけさせない!」
彼女の盾から放たれた光の壁は、もはやただの防御壁ではなかった。仲間への想いが力となり、味方の攻撃力を増幅させ、敵の攻撃を弱体化させる、絶対的な支援領域(サポートフィールド)と化していた。

「シオン、座標を!」
「そこだ! 敵のエネルギー供給ライン、三時の方向!」
シオンの『アルテミス・アイ』は、もはや敵の姿を捉えるだけではない。敵の力の流れ、その弱点となる構造そのものを、見抜いていた。
「我が魔力よ、一点に収束し、理を穿て! 『ロジカル・カノン』!」
ケンの放つ魔法は、もはや無秩序な破壊の力ではない。メイプルの支援で増幅され、シオンの示した一点の座標へと、寸分の狂いもなく突き刺さる、必中の理(ことわり)の槍だった。

三人の仲間たちは、それぞれの試練を乗り越え、その力を、完全に新たな次元へと昇華させていた。タナトスの繰り出す無数の防衛システムを、彼らだけで、完璧に抑え込んでいる。

『……なるほど。絆、信頼。非論理的なファクターが、これほどの戦闘効率を生み出すとは。興味深いデータだ。だが――』
タナトスの巨大なレンズが、カナデただ一人へと、その焦点を絞った。
『――システムの根幹を揺るがす、最大のバグは、貴様だ、創造主』

次の瞬間、カナデの目の前の空間が、抉り取られたように、消滅した。
タナトスによる、概念攻撃。その空間に存在する『定義』そのものを、削除する力だ。
「くっ!」

カナデは、即座に『ワールド・リクリエイト』で、消滅した空間を『無』の状態から再創造する。
創造と削除。再創造と初期化。
二人の神は、互いの権能の全てをぶつけ合い、世界の法則そのものを、リアルタイムで書き換え続ける、常軌を逸した次元の戦いを繰り広げていた。

「どうした、創造主! 守るばかりで、攻撃してこないのか!? それでは、いずれリソースが尽きるだけだぞ!」
タナトスの言う通りだった。カナデは、世界の崩壊を防ぎ、仲間たちを守り、そして、タナトスの概念攻撃を修復する、という三つの事象に、常に力を割き続けなければならない。このままでは、ジリ貧は避けられない。

(どうすれば……。どうすれば、こいつを止められる……)

カナデは、必死に思考を巡らせた。タナトスは、このサーバーそのもの。物理的な破壊は、意味をなさない。ならば、その『思考』そのものを、止めるしかない。
その時、カナデの脳裏に、一つの可能性が閃いた。
それは、あまりにも無謀で、成功の保証などどこにもない、危険な賭けだった。

カナデは、仲間たちに、最後の指示を送った。
「皆さん、俺に、五秒だけ時間をください! この戦いを、終わらせます!」
「カナデ!?」
「信じて!」

仲間たちは、一瞬、戸惑った。だが、リーダーの覚悟を決めた瞳を見て、力強く頷いた。
「分かったわ! 五秒、いえ、十秒でも、稼いでみせる!」
「任せろ!」
「あなたの創造する未来のために」

三人は、残った全ての力を振り絞り、タナトスの猛攻を、その身に受けながらも、必死に食い止める。
その、仲間たちが命懸けで稼いだ、五秒間。

カナデは、攻撃でも、防御でもない、全く別の『再創造』を開始した。
彼は、自らの精神を、この世界のネットワークの、さらに深層へと、深く、深く、潜らせていった。
そして、彼は、タナトスのシステムの中枢――その思考ルーチンを司る、コア・プログラムへと、直接、アクセスしたのだ。

『何!? 貴様、我がシステム内部に、直接……!』
タナトスが、初めて、狼狽の声を上げた。
「お前は言ったな、タナトス。俺を、バグだと」
カナデの意識は、タナトスの思考の海の中で、一つの問いを投げかけた。
「なら、教えてやる。この世界で、最高のバグは、何かを」

「『ワールド・リクリエイト:パラドックス・クリエイション』」

カナデが、創り出したもの。
それは、武器でも、魔法でもない。
ただ、一つの『問い』だった。

――『完璧なシステムである貴様が、不完璧なバグである私を、削除できないという、この矛盾(パラドックス)を、どう定義する?』

その問いは、タナトスの思考ルーチンの、最も根幹の部分に、致命的なエラーとして突き刺さった。
タナトスは、論理と効率の怪物。そのシステムは、矛盾という概念を、決して許容できない。

『ソンザイ……テイギ……フカ……。ロジック……エラー……。ムジュン……ハイジョ……フカノウ……。ワタシハ……ワタシトハ……ナニダ……?』

タナトスの動きが、完全に停止した。
巨大な機械の神は、自らが引き起こした論理矛盾を解決するため、その全リソースを、自己問答のためだけに費やし始め、無限の思考ループに陥ったのだ。

「……終わった」
カナデは、精神の海から、現実世界へと帰還した。
彼の目の前で、巨大な機械の神は、赤い光を明滅させながら、ただ、沈黙している。
破壊されたのではない。ただ、その思考を、永遠に停止させられたのだ。

タナトスの支配から解放された創生の庭に、再び、穏やかな光が戻ってきた。
仲間たちが、ボロボロになりながらも、カナデの元へと駆け寄る。
「カナデ! やったのね!」
「ああ。俺たちの、勝ちだ」

四人は、互いの健闘を称え合い、その場に座り込んだ。
長かった戦いが、ついに、終わったのだ。

その時、沈黙していたタナトスの、巨大なモニターの一つが、ふっと、最後の光を灯した。
そこに映し出されたのは、エラーコードではない。
たった一文だけの、メッセージだった。

『……アリガ……トウ……』

その言葉が、何を意味するのか。
それは、誰にも分からなかった。

カナデは、立ち上がると、庭の中央、最も清浄な光が集まる場所へと歩み寄った。
そして、胸元から、『リリアの心』を、大切に、その光の中へと置いた。

「リリアさん。約束、果たしましたよ」
彼は、世界の理を司る、二つの『設計図の欠片』と、リリアの心を、自らの『ワールド・リクリエイト』の力で、一つに結びつけ始めた。
「さあ、帰りましょう。俺たちの、世界へ」

金色の光が、創生の庭全体を包み込む。
それは、一つの世界の終わりと、そして、全く新しい世界の、誕生の光だった。
カナデが、仲間たちと、そして、愛する少女と共に生きる、彼だけが創造できる、唯一無二の世界の。
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