ワールド・リクリエイター 〜不遇職『地形師』は、サーバーごと世界を創り変える〜

夏見ナイ

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第60話:最後の創造、アーク・ジェネシス

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世界の法則が、薄れていく。その絶対的な終焉までの、カウントダウンが始まった。
だが、ジオ・フロンティアと、アークライトの民の心に、もはや絶望はなかった。カナデが示した、あまりにも壮大で、無謀な『神々への反逆』という名の希望。それに、全ての想いを託していた。

セントラルタワーの最上階は、究極の箱舟『アーク・ジェネシス』を創造するための、巨大な設計室と化していた。
「カナデ、船体の基礎構造は、俺の『秩序の力』で、あらゆる物理法則に耐えうる、絶対不変の物質へと固定した。だが、これを、高次の情報空間へと跳躍させるための『次元エンジン』の設計が、難航している」
ゼノが、空中に浮かぶ複雑な設計図を睨みながら、カナデに報告する。

「そのエンジンには、純粋なエネルギーだけではなく、それを、次元を超えるための『意味』へと変換する、触媒が必要です」
カナデは、設計図に、新たな数式を書き加えていく。それは、物理学でも、魔法工学でもない。人々の『想い』という、非論理的なエネルギーを、推進力へと変換するための、概念的な方程式だった。
「……なるほど。祈りや希望を、燃料にする、と。貴様の考えることは、どこまでも、非合理的だな」
ゼノは、呆れながらも、その独創的なアイデアに、感嘆の色を隠せない。

その頃、メイプルとシオンは、地上で、その『燃料』を集めるために、奔走していた。
「みんな、聞いて! 私たちの世界を、この想いを、カナデに届けるのよ!」
メイプルは、コミュニティマネージャーとしての能力を最大限に発揮し、拡声器の魔法を使い、世界中のプレイヤーやNPCに、呼びかけ続けた。

彼女の魂の叫びに、人々は応えた。
鍛冶屋の親方は、最高の武具を創り上げたいという、職人としての『誇り』を。
若い冒険者たちは、まだ見ぬ世界を見たいという、未知への『憧れ』を。
小さな子供たちは、明日も友達と笑い合いたいという、純粋な『願い』を。
その全てが、色とりどりの光の粒子となり、天へと昇り、アーク・ジェネシスへと注ぎ込まれていく。

シオンは、ジャーナリストとして、その光景を、記録し続けていた。
「……見えますか、カナデさん。これが、あなたの創った世界の、答えです」
彼の言葉は、通信機を通して、カナデの心に、確かな力となって届いていた。

そして、ケンとリリアは、その膨大な想いのエネルギーを、暴走させることなく、次元エンジンへと送り込むための、巨大な『調律魔法陣』を、アークライトの広場に描いていた。
「ケントさん、ここのルーンの配列、もう少し、優しくできませんか? これでは、想いの力が、悲鳴をあげてしまいます」
「……む。すまない。つい、効率を重視しすぎた」
論理の魔術師ケンと、生命の庭師リリア。正反対の二人が、互いの知識を補い合うことで、これまでになかった、温かく、そして、パワフルな魔法陣が、完成に近づいていた。

そうして、数日が過ぎた。
世界の法則の希薄化は、もはや、誰の目にも明らかになっていた。
空は、色を失い始め、大地は、その質感を失って、のっぺりとしたデータのように見え始めている。
残された時間は、もう、僅かしかない。

そして、ついに、その時は来た。
全ての準備が、整った。
セントラルタワーの最上階から、カナデとゼノが、地上へと降り立つ。
彼らの背後、遥か上空には、その姿を完全に変えた、究極の箱舟が、静かに出航の時を待っていた。

それは、もはや船の形をしていなかった。
巨大な、水晶でできた、美しい『種子』のような形。
その内部には、ジオ・フロンティアの仲間たちが、そして、この世界の全ての人々の『想い』が、凝縮されて輝いている。
これこそが、神々の実験場に、新たな理の芽を芽吹かせるための、希望の種子『アーク・ジェネシス』。

「……行くぞ」
ゼノが、短く告げる。
「はい」
カナデが、頷く。

カナデ、ゼノ、そして、メイプル、ケン、シオン、リリア。
六人の、この世界の運命を背負う者たちが、アーク・ジェネシスの、中枢であるブリッジへと、転移した。
ブリッジの中央には、六つの座席が用意されていた。

カナデが、船長席に座る。
「皆さん、準備はいいですか」
仲間たちは、無言で、しかし、力強く頷いた。

カナデは、目を閉じ、最後の創造を開始した。
「『ワールド・リクリエイト:アーク・ドライブ・イグニッション』!」

アーク・ジェネシスに注がれた、全ての人々の想いが、一斉に、輝きを放つ。
次元エンジンが、優しい、しかし、力強い鼓動を始めた。

「動力炉、臨界点へ!」
「船体、オールグリーン!」
「航路、設定完了! 目標、高次情報空間、観測者の座標!」
「想いのエネルギー、安定しています!」
「秩序のシールド、全開!」

仲間たちの、力強い声が、ブリッジに響き渡る。
カナデは、操縦桿を、強く、強く、握りしめた。

「究極の箱舟『アーク・ジェネシス』! 発進します!」

種子は、眩いばかりの光を放った。
そして、次の瞬間。
音もなく、衝撃もなく、ただ、静かに、この『Aethelgard』という世界から、その姿を、完全に消し去った。
後に残されたのは、法則が消えゆく、沈黙した世界だけ。

彼らの、神々への反逆が。
この宇宙の、理不尽な理(ルール)を、根底から覆すための、最後の航海が、今、始まった。
その先に、どんな結末が待っていようとも、彼らの心に、もう、迷いはなかった。

---
**第三部 まとめ(第六章終了時点)**

◆**これまでの流れ**
タナトスとの戦いを終え、新生『Aethelgard: Re-Genesis』に平穏が戻った。カナデはワールドデザイナーとして、仲間たちと共に、世界をより豊かにするための創造の日々を送っていた。リリアもまた、長い眠りから目覚め、再会を果たす。

しかし、その平穏は、新たな脅威『星を喰らうもの(レクイエム)』によって破られる。次元を超えた侵略者の前に、世界は再び滅亡の危機に瀕するが、カナデは、かつての宿敵ゼノとの共闘の末、自らの創造の力と、ゼノの秩序の力で、世界ごと次元の狭間へと退避させる『箱舟化』に成功し、脅威を退けた。

その後、彼らは、別の世界から発せられる救難信号をキャッチ。滅びゆくエルフの世界を、機械仕掛けの軍勢『レギオン』から救い出す。この経験を通じ、カナデは、自らの力が、この宇宙の他の世界にも干渉できること、そして、その法則は世界ごとに異なることを学ぶ。

そんな中、カナデは、この宇宙そのものを実験場として『観測』する、神にも等しい上位存在の存在を知る。タナトスも、レギオンも、全てはその観測者の実験の駒に過ぎなかった。そして、観測者は、カナデたちの世界を、次の実験のために、世界の法則そのものを無効化するという、静かな侵略を開始する。

絶望的な状況の中、カナデは、神々の領域へと直接乗り込み、その理不尽な理に、戦いを挑むことを決意。仲間たち、ゼノ、そして、この世界の全ての人々の『想い』を結集させ、究極の箱舟『アーク・ジェネシス』を創造。理が消えゆく故郷の世界を背に、彼らは、観測者の待つ、高次の情報空間へと、最後の航海に旅立った。

◆**キャラクターシート(第三部終了時点)**

*   **カナデ / 風見 奏太**
    *   **職業:** ワールド・リクリエイター
    *   **概要:** 究極スキル『ワールド・リクリエイト』を完全に掌握。世界の理そのものを書き換える、真の創造主となった。仲間や世界の人々の『想い』を力に変え、神々の理不尽に戦いを挑む、反逆の主人公。
*   **リリア**
    *   **職業:** 魂の庭師(ソウル・ガーデナー)
    *   **概要:** 完全に復活し、生命を育み、癒やす、カナデとは違う方向性の『創造』の力に目覚めた。カナデの精神的な支えであり、彼の創る世界の、優しさの象徴。
*   **ゼノ / 桐生 院也**
    *   **職業:** 秩序の守護神(オーダー・ガーディアン)
    *   **概要:** 歪みの力を克服し、世界の『秩序』を司る、絶対的な守護者へと新生。カナデとは、対極の力を持ちながらも、互いを認め合う、最高のライバルであり、共同創造主。
*   **メイプル / 佐藤 楓**
    *   **職業:** 絆の聖騎士(ソウル・パラディン)
    *   **概要:** 試練を乗り越え、仲間との絆を力に変える、パーティの絶対的な盾にして、心の支柱。彼女の存在そのものが、パーティの結束力を高めている。
*   **ケン / 山田 健一**
    *   **職業:** 論理の魔導師(ロジック・ソーサラー)
    *   **概要:** 仲間との連携により、自らの強大な魔力を完全に制御。論理と仲間との絆を融合させた、新たな魔法の境地を切り拓いた、パーティの頭脳。
*   **シオン / 紫苑**
    *   **職業:** 星見の射手(アストラル・アーチャー)
    *   **概要:** 過去のトラウマを乗り越え、仲間を守るという強い意志に目覚めた。その目は、もはや物理的な索敵だけでなく、運命や因果の線すらも見通す、預言者の領域に達している。

◆**次の章(第三部 第七章)で書くこと**

*   **タイトル案:** 第七章:ワールド・リクリエイター
*   **舞台:** 高次の情報空間。物理法則が存在せず、概念や思念そのものが形を持つ、神々の領域。
*   **観測者との対決:** アーク・ジェネシスで、観測者の本拠地へと到達したカナデたち。観測者は、彼らの『物語』を評価しつつも、最後の『テスト』として、究極の『破壊』の概念――『全ての可能性が消え去った、絶対的な無(アブソリュート・ゼロ)』――を具現化させ、彼らにけしかける。
*   **創造主同士の戦い:** それは、もはや物理的な戦闘ではない。カナデは、仲間たちの想いを乗せた『ワールド・リクリエイト』で、『無限の可能性を持つ、始まりの世界(ワールド・ジェネシス)』を創造し、観測者の『絶対的な無』と、概念レベルで衝突させる。創造と破壊の、究極のぶつかり合い。
*   **リリアの救出:** 概念戦争の最中、カナデは、観測者が保存していた、リリアの『オリジナルデータ』の存在に気づく。彼は、最後の力で、そのデータを、自らの創造した新しい世界の中核へと移植し、彼女を、神々の実験という呪縛から、完全に解放する。
*   **世界の再構築:** 観測者の『無』を打ち破ったカナデは、その力で、故郷の世界『Aethelgard』を、観測者の干渉を受けない、完全に独立した、新しい宇宙として、再構築する。それは、彼と、仲間たちのための、安息の地となる。
*   **黒幕の無力化:** 観測者は、カナデの創った『物語』に、予想以上の『面白さ』を見出し、敗北を認める。彼は、これ以上、カナデたちの世界に干渉しないことを約束し、新たな『面白いサンプル』を探すため、別の次元へと去っていく。力でねじ伏せるのではなく、物語の力で、神を退屈させるという、カナデらしい勝利。

この章で、全ての戦いに終止符を打ち、カナデが、名実ともに、一つの独立した世界の『創造主』となる、物語のクライマックスを描き切る。
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