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第61話:神々の領域と絶対的な無
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究極の箱舟『アーク・ジェネシス』は、もはや物理的な速度という概念が存在しない、高次の情報空間を航行していた。
窓の外に広がるのは、星々や星雲ではない。無数の『可能性』が、光の糸のように絡み合い、生まれ、そして消えていく、思考の海そのものだった。美しい数式が、巨大な銀河のように渦を巻き、偉大な音楽が、星雲のようにたなびいている。
「……すごい。ここが、宇宙の、始まりの場所……」
ブリッジで、リリアが、ガラス窓に手を触れながら、感嘆の息を漏らした。
「ああ。全ての物理法則が、生まれる前の、混沌(カオス)の世界だ」
ケンが、計器に表示される、理解不能な数値を睨みながら、呟いた。彼の論理ですら、ここでは、砂上の楼閣に等しい。
この、人知を超えた航海の間、ブリッジの六つの座席に座る彼らは、常に、精神を一つに繋ぎ止めていた。
カナデの『創造』が、船の進むべき道を創り、
ゼノの『秩序』が、混沌の海から、船の存在を守り、
メイプルの『絆』が、仲間たちの精神が、この狂気の世界で離れ離れにならないように、固く結びつけ、
ケンの『論理』が、混沌の中に、僅かな航行可能な法則を見出し、
シオンの『目』が、無数の可能性の中から、唯一の正しい道筋を、指し示し、
そして、リリアの『魂』が、船そのものに、温かい生命の輝きを与え続けていた。
六人で、一つ。彼らは、もはやパーティではなく、一つの巨大な生命体となって、神々の領域を旅していた。
やがて、シオンが、静かに目を開いた。
「……見えました。あれが、観測者の、玉座です」
混沌の海の、さらにその中心。
そこだけが、まるで無風の湖面のように、静まり返っていた。そして、その中央に、『それ』は、存在していた。
特定の形はない。ただ、純粋な『意識』そのものが、光の集合体として、そこに在った。
観測者。
この宇宙の、始まりにして、終わりの存在。
アーク・ジェネシスが、その領域に到達すると、観測者の思念が、直接、彼らの魂に流れ込んできた。
『――来たか、小さき反逆者たちよ。我が退屈を、最も楽しませてくれた、愛しきサンプルたち』
その思念には、敵意も、怒りもない。ただ、純粋な好奇心と、これから始まる『ショー』への、期待だけが満ちていた。
『君たちの物語は、実に、素晴らしかった。愛、絆、自己犠牲……。非合理的な感情が、これほどまでに、予測不能で、美しい結果を紡ぎ出すとは。我々の、最高のコレクションの一つに加えよう』
「ふざけるな!」メイプルが叫ぶ。「私たちの人生を、お前のコレクションと一緒にしないで!」
『人生? それは、我々が与えた、設定(パラメータ)に過ぎない。だが、君たちは、その設定を超え、我々に、新たな『物語』の可能性を示してくれた。故に、最後の褒美をやろう』
観測者の『意識』が、一度、強く瞬いた。
『君たちに、究極の『問い』を、与える。これを超えられたなら、認めよう。君たちが、我々の実験場から卒業し、一つの独立した『世界』となることを』
次の瞬間、観測者の前から、全ての光が、消えた。
いや、違う。
彼らがいた、高次の情報空間そのものが、一つの『点』へと、収縮していく。
光も、闇も、時間も、空間も、可能性すらも、全てが、その一点に飲み込まれ、そして、『無』に帰していく。
『これが、我が宇宙の、最終定理』
『――絶対的な無(アブソリュート・ゼロ)』
それは、全ての物語が、全ての可能性が、終わりを迎えた、究極の『結末』。
破壊ですらない。ただ、そこに、何も『ない』という、絶対的な真理。
アーク・ジェネシスの、水晶でできた船体が、その『無』の領域に触れた途端、その存在の定義を失い、先端から、ゆっくりと、透明になって、消え始めた。
「船体が、消える!?」
「ダメだ! 俺の秩序の力でも、この『無』の前では、守るべき法則そのものが存在しない!」
ゼノですら、その顔に、初めて、本当の焦りの色を浮かべた。
「ケン! シオン!」
「論理も、運命も、通用しない! ここには、参照すべきデータが、何一つないんだ!」
仲間たちの力が、生まれて初めて、完全に無力化された。
彼らの存在そのものが、この宇宙から、消し去られようとしていた。
リリアが、カナデの手を、強く握りしめた。
「カナデさん……!」
「……大丈夫です」
カナデは、静かに、仲間たちを見つめた。
その瞳には、絶望はなく、むしろ、答えを見出したかのような、穏やかな光が宿っていた。
「観測者は、俺たちに、『問い』を与えた。なら、俺たちも、最高の『答え』を、返してやるだけです」
彼は、ゆっくりと、船長席から立ち上がった。
そして、消えゆく船首の、その最先端へと、歩みを進める。
彼の目の前には、全てを飲み込む、絶対的な無が、広がっていた。
「ゼノさん、仲間たち、リリアさん。俺に、皆さんの、全ての『物語』を、預けてください」
彼は、振り返らずに、そう言った。
「お前は、何を……」
「『無』があるのなら」
カナデは、その『無』に向かって、両手を広げた。
「その始まりとなる、『一』を、俺が創ればいい」
彼の全身から、これまでにない、純粋で、根源的な、創造の光が、溢れ出した。
それは、もはや、Aethelgardの世界の理に縛られた力ではない。
仲間たちとの絆、リリアへの愛、そして、これまでの冒険の全ての記憶(物語)を、一つの『種』へと昇華させた、究極の創造。
「『ワールド・リクリエイト:ジェネシス・シード(創生の種子)』!」
カナデは、自らの魂そのものを、一粒の、光の種に変え、絶対的な『無』の中へと、解き放った。
それは、神々の退屈な実験を終わらせ、全く新しい宇宙を創造するための、最初で、最後の一撃。
創造主の、最後の戦いが、今、始まった。
窓の外に広がるのは、星々や星雲ではない。無数の『可能性』が、光の糸のように絡み合い、生まれ、そして消えていく、思考の海そのものだった。美しい数式が、巨大な銀河のように渦を巻き、偉大な音楽が、星雲のようにたなびいている。
「……すごい。ここが、宇宙の、始まりの場所……」
ブリッジで、リリアが、ガラス窓に手を触れながら、感嘆の息を漏らした。
「ああ。全ての物理法則が、生まれる前の、混沌(カオス)の世界だ」
ケンが、計器に表示される、理解不能な数値を睨みながら、呟いた。彼の論理ですら、ここでは、砂上の楼閣に等しい。
この、人知を超えた航海の間、ブリッジの六つの座席に座る彼らは、常に、精神を一つに繋ぎ止めていた。
カナデの『創造』が、船の進むべき道を創り、
ゼノの『秩序』が、混沌の海から、船の存在を守り、
メイプルの『絆』が、仲間たちの精神が、この狂気の世界で離れ離れにならないように、固く結びつけ、
ケンの『論理』が、混沌の中に、僅かな航行可能な法則を見出し、
シオンの『目』が、無数の可能性の中から、唯一の正しい道筋を、指し示し、
そして、リリアの『魂』が、船そのものに、温かい生命の輝きを与え続けていた。
六人で、一つ。彼らは、もはやパーティではなく、一つの巨大な生命体となって、神々の領域を旅していた。
やがて、シオンが、静かに目を開いた。
「……見えました。あれが、観測者の、玉座です」
混沌の海の、さらにその中心。
そこだけが、まるで無風の湖面のように、静まり返っていた。そして、その中央に、『それ』は、存在していた。
特定の形はない。ただ、純粋な『意識』そのものが、光の集合体として、そこに在った。
観測者。
この宇宙の、始まりにして、終わりの存在。
アーク・ジェネシスが、その領域に到達すると、観測者の思念が、直接、彼らの魂に流れ込んできた。
『――来たか、小さき反逆者たちよ。我が退屈を、最も楽しませてくれた、愛しきサンプルたち』
その思念には、敵意も、怒りもない。ただ、純粋な好奇心と、これから始まる『ショー』への、期待だけが満ちていた。
『君たちの物語は、実に、素晴らしかった。愛、絆、自己犠牲……。非合理的な感情が、これほどまでに、予測不能で、美しい結果を紡ぎ出すとは。我々の、最高のコレクションの一つに加えよう』
「ふざけるな!」メイプルが叫ぶ。「私たちの人生を、お前のコレクションと一緒にしないで!」
『人生? それは、我々が与えた、設定(パラメータ)に過ぎない。だが、君たちは、その設定を超え、我々に、新たな『物語』の可能性を示してくれた。故に、最後の褒美をやろう』
観測者の『意識』が、一度、強く瞬いた。
『君たちに、究極の『問い』を、与える。これを超えられたなら、認めよう。君たちが、我々の実験場から卒業し、一つの独立した『世界』となることを』
次の瞬間、観測者の前から、全ての光が、消えた。
いや、違う。
彼らがいた、高次の情報空間そのものが、一つの『点』へと、収縮していく。
光も、闇も、時間も、空間も、可能性すらも、全てが、その一点に飲み込まれ、そして、『無』に帰していく。
『これが、我が宇宙の、最終定理』
『――絶対的な無(アブソリュート・ゼロ)』
それは、全ての物語が、全ての可能性が、終わりを迎えた、究極の『結末』。
破壊ですらない。ただ、そこに、何も『ない』という、絶対的な真理。
アーク・ジェネシスの、水晶でできた船体が、その『無』の領域に触れた途端、その存在の定義を失い、先端から、ゆっくりと、透明になって、消え始めた。
「船体が、消える!?」
「ダメだ! 俺の秩序の力でも、この『無』の前では、守るべき法則そのものが存在しない!」
ゼノですら、その顔に、初めて、本当の焦りの色を浮かべた。
「ケン! シオン!」
「論理も、運命も、通用しない! ここには、参照すべきデータが、何一つないんだ!」
仲間たちの力が、生まれて初めて、完全に無力化された。
彼らの存在そのものが、この宇宙から、消し去られようとしていた。
リリアが、カナデの手を、強く握りしめた。
「カナデさん……!」
「……大丈夫です」
カナデは、静かに、仲間たちを見つめた。
その瞳には、絶望はなく、むしろ、答えを見出したかのような、穏やかな光が宿っていた。
「観測者は、俺たちに、『問い』を与えた。なら、俺たちも、最高の『答え』を、返してやるだけです」
彼は、ゆっくりと、船長席から立ち上がった。
そして、消えゆく船首の、その最先端へと、歩みを進める。
彼の目の前には、全てを飲み込む、絶対的な無が、広がっていた。
「ゼノさん、仲間たち、リリアさん。俺に、皆さんの、全ての『物語』を、預けてください」
彼は、振り返らずに、そう言った。
「お前は、何を……」
「『無』があるのなら」
カナデは、その『無』に向かって、両手を広げた。
「その始まりとなる、『一』を、俺が創ればいい」
彼の全身から、これまでにない、純粋で、根源的な、創造の光が、溢れ出した。
それは、もはや、Aethelgardの世界の理に縛られた力ではない。
仲間たちとの絆、リリアへの愛、そして、これまでの冒険の全ての記憶(物語)を、一つの『種』へと昇華させた、究極の創造。
「『ワールド・リクリエイト:ジェネシス・シード(創生の種子)』!」
カナデは、自らの魂そのものを、一粒の、光の種に変え、絶対的な『無』の中へと、解き放った。
それは、神々の退屈な実験を終わらせ、全く新しい宇宙を創造するための、最初で、最後の一撃。
創造主の、最後の戦いが、今、始まった。
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