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第65話:死に向かう世界
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『死』の侵食は、静かに、しかし、確実に、カナデたちの世界を蝕んでいった。
それは、レクイエムのように派手な破壊ではなく、タナトスのように分かりやすい支配でもない。ただ、全ての生命が、ゆっくりと、その輝きを失っていく、抗いようのない、緩やかな終焉だった。
川は流れを緩め、水は淀み、やがて干上がる。
森の木々は、葉を落とし、その幹は、生気を失って、白く枯れていく。
プレイヤーたちの間でも、異変は起きていた。
「なんだか、最近、スキルの威力が、全体的に落ちてないか?」
「レベルアップしても、昔ほど、強くなった実感がねえんだよな……」
「活気が、ない。街全体が、なんだか、どんよりしてる……」
世界の『生命力』そのものが、枯渇し始めているのだ。
新生の塔の司令室は、これまでになく、重い空気に包まれていた。
「……ダメだ」ケンが、モニターから顔を上げ、力なく首を振った。「世界の『エントロピー』が増大し続けている。あらゆるエネルギーが、拡散し、最終的には、完全な熱的死へと向かっている。これは、もはや、俺たちの科学や魔法で、どうこうできる問題じゃない」
「あの、漆黒の星……」シオンが、天文台の映像を映し出す。「あれこそが、この宇宙の『死』の概念そのものが、具現化したものだとしたら……。我々に、打つ手はありません」
「そんなこと、言ってる場合じゃないでしょ!」
メイプルが、テーブルを叩いて、叫んだ。
「このままじゃ、この世界は、本当に、ただのデータの抜け殻になっちゃう! カナデ、あんたの力で、何とかならないの!?」
全員の視線が、カナデに集まる。
カナデは、黙って、目を閉じていた。
彼の『ワールド・リクリエイト』は、確かに、生命を創造し、世界を修復できる。
だが、それは、あくまで、この世界に『生命力』というリソースが存在していることが、大前提だった。
その大元が枯渇していく今、彼の創造は、乾いた大地に、一滴の水を垂らすような、気休めにしかならない。
「……一つだけ、方法があります」
しばらくして、カナデは、静かに目を開いた。その瞳には、壮絶な覚悟の色が浮かんでいた。
「この宇宙の『死』を、止めることはできない。ならば、この世界に、新たな『生命の源』を、創造するしかありません」
「新たな、生命の源……?」
「はい」カナデは、リリアを見つめた。「リリアさんのように、自らの意志で、生命を育むことができる、第二、第三の『魂の庭師』。あるいは、ゼノさんのように、世界の理を安定させ、エネルギーの拡散を防ぐ、『秩序の核』。そういった、世界の『柱』となるべき、新しい神々を、俺の力で、創り出すんです」
「……新しい、神を、創る……?」
ゼノですら、その言葉に、息を呑んだ。
「ですが、そのためには、あまりにも膨大な、そして、純粋な、創造エネルギーが必要です。今の俺の力だけでは、到底、足りない」
「じゃあ、どうするのよ……」
「……だから」カナデは、仲間たち、一人一人の顔を、ゆっくりと見つめた。「皆さんの、『魂』を、貸してください」
その言葉の意味を、誰もが、瞬時に理解した。
カナデは、仲間たちの魂そのものを、触媒として、新しい神々を創造しようとしているのだ。それは、仲間たちに、「死んでくれ」と言っているのと、同義だった。
「……ふざけるな!」
最初に、怒りの声を上げたのは、ゼノだった。
「貴様、我々を、犠牲にするというのか! 貴様の創った、その甘っちょろい理想のために!」
「そうです」カナデは、その怒りを、まっすぐに受け止めた。「俺は、エゴイストです。俺は、この世界が、好きだ。皆さんが、笑っている、この日常が、好きだ。それを、失うくらいなら、俺は、どんな非道なことでもする」
「……いいわよ」
静寂を破ったのは、メイプルだった。
彼女は、微笑んでいた。
「あんたが、そういう奴だってこと、とっくに知ってたわよ。だから、私たちは、あんたについてきたんじゃない。違う?」
「ああ。君の見る未来を、我々もまた、見たいと願ったからな」ケンが、静かに頷く。
「リーダーの創造する、最後の物語。その登場人物になれるのなら、本望です」シオンもまた、覚悟を決めた目をしていた。
「皆さん……!」
カナデの瞳から、涙が溢れそうになる。
「俺たちは、死ぬわけじゃない」ゼノが、忌々しげに、しかし、どこか誇らしげに言った。「俺たちの魂は、新たな神となり、この世界で、永遠に生き続ける。そうだろう? 創造主」
そうだ。これは、終わりではない。
新しい始まりのための、通過儀礼なのだ。
そして、リリアが、カナデの手を、そっと握りしめた。
「……私も、行きます」
「リリアさん!?」
「いいえ、カナデさん。あなたは、この世界の、最後の『希望』です。あなたの魂まで、使うわけにはいかない。だから、私が、あなたの代わりに、この世界の、新しい『生命の心臓』になります」
彼女は、微笑んだ。それは、かつて、カナデを救うために、自らの魂を差し出した時と、同じ、慈愛に満ちた、決意の笑みだった。
「私の中に宿る、カナデさんからもらった『心』。それを、この世界全体へと、広げるんです。そうすれば、この世界は、永遠に、あなたの優しさで、満たされる」
「そんなこと、させません!」
「いいえ。これは、私が、初めて、自分の意志で決めた、私の『創造』です」
リリアの、あまりにも強い意志に、カナデは、言葉を失った。
彼女は、もう、守られるだけの存在ではなかった。
共に、世界を創る、対等な、創造主だったのだ。
儀式の場所は、創生の庭。
五人の、神となる覚悟を決めた者たちが、祭壇を囲むように、円陣を組んだ。
カナデは、その中央に立ち、涙をこらえながら、最後の創造の、言の葉を紡ぐ。
「……皆さんを、信じています」
「当たり前でしょ」
「ああ」
「いつでも、あなたの側に」
「フン」
「はい」
仲間たちの、最後の声。
カナデは、天を仰ぎ、叫んだ。
「『ワールド・リクリエイト:ゴッズ・レガシー(神々の遺産)』!」
五人の身体から、それぞれの魂の色を纏った、眩いばかりの光が、放たれた。
メイプルの、絆の黄金。
ケンの、論理の青白。
シオンの、運命の星空。
ゼノの、秩序の白銀。
そして、リリアの、生命の翠緑。
五つの光は、天へと昇り、一つとなり、そして、この世界全体へと、優しい光の雨となって、降り注いだ。
世界が、再び、生命の輝きを、取り戻していく。
枯れた大地に、花が咲き、淀んだ川に、清流が戻る。
後に残されたのは、静寂と、立ち尽くす、カナデただ一人。
そして、彼の足元に、五つの、小さな『神の種子』が、残されていた。
仲間たちは、いなくなった。
世界は、救われた。
だが、その代償は、あまりにも、大きかった。
創造主は、その世界で、たった一人になったのだ。
孤独な神の、本当の物語が、今、始まろうとしていた。
それは、レクイエムのように派手な破壊ではなく、タナトスのように分かりやすい支配でもない。ただ、全ての生命が、ゆっくりと、その輝きを失っていく、抗いようのない、緩やかな終焉だった。
川は流れを緩め、水は淀み、やがて干上がる。
森の木々は、葉を落とし、その幹は、生気を失って、白く枯れていく。
プレイヤーたちの間でも、異変は起きていた。
「なんだか、最近、スキルの威力が、全体的に落ちてないか?」
「レベルアップしても、昔ほど、強くなった実感がねえんだよな……」
「活気が、ない。街全体が、なんだか、どんよりしてる……」
世界の『生命力』そのものが、枯渇し始めているのだ。
新生の塔の司令室は、これまでになく、重い空気に包まれていた。
「……ダメだ」ケンが、モニターから顔を上げ、力なく首を振った。「世界の『エントロピー』が増大し続けている。あらゆるエネルギーが、拡散し、最終的には、完全な熱的死へと向かっている。これは、もはや、俺たちの科学や魔法で、どうこうできる問題じゃない」
「あの、漆黒の星……」シオンが、天文台の映像を映し出す。「あれこそが、この宇宙の『死』の概念そのものが、具現化したものだとしたら……。我々に、打つ手はありません」
「そんなこと、言ってる場合じゃないでしょ!」
メイプルが、テーブルを叩いて、叫んだ。
「このままじゃ、この世界は、本当に、ただのデータの抜け殻になっちゃう! カナデ、あんたの力で、何とかならないの!?」
全員の視線が、カナデに集まる。
カナデは、黙って、目を閉じていた。
彼の『ワールド・リクリエイト』は、確かに、生命を創造し、世界を修復できる。
だが、それは、あくまで、この世界に『生命力』というリソースが存在していることが、大前提だった。
その大元が枯渇していく今、彼の創造は、乾いた大地に、一滴の水を垂らすような、気休めにしかならない。
「……一つだけ、方法があります」
しばらくして、カナデは、静かに目を開いた。その瞳には、壮絶な覚悟の色が浮かんでいた。
「この宇宙の『死』を、止めることはできない。ならば、この世界に、新たな『生命の源』を、創造するしかありません」
「新たな、生命の源……?」
「はい」カナデは、リリアを見つめた。「リリアさんのように、自らの意志で、生命を育むことができる、第二、第三の『魂の庭師』。あるいは、ゼノさんのように、世界の理を安定させ、エネルギーの拡散を防ぐ、『秩序の核』。そういった、世界の『柱』となるべき、新しい神々を、俺の力で、創り出すんです」
「……新しい、神を、創る……?」
ゼノですら、その言葉に、息を呑んだ。
「ですが、そのためには、あまりにも膨大な、そして、純粋な、創造エネルギーが必要です。今の俺の力だけでは、到底、足りない」
「じゃあ、どうするのよ……」
「……だから」カナデは、仲間たち、一人一人の顔を、ゆっくりと見つめた。「皆さんの、『魂』を、貸してください」
その言葉の意味を、誰もが、瞬時に理解した。
カナデは、仲間たちの魂そのものを、触媒として、新しい神々を創造しようとしているのだ。それは、仲間たちに、「死んでくれ」と言っているのと、同義だった。
「……ふざけるな!」
最初に、怒りの声を上げたのは、ゼノだった。
「貴様、我々を、犠牲にするというのか! 貴様の創った、その甘っちょろい理想のために!」
「そうです」カナデは、その怒りを、まっすぐに受け止めた。「俺は、エゴイストです。俺は、この世界が、好きだ。皆さんが、笑っている、この日常が、好きだ。それを、失うくらいなら、俺は、どんな非道なことでもする」
「……いいわよ」
静寂を破ったのは、メイプルだった。
彼女は、微笑んでいた。
「あんたが、そういう奴だってこと、とっくに知ってたわよ。だから、私たちは、あんたについてきたんじゃない。違う?」
「ああ。君の見る未来を、我々もまた、見たいと願ったからな」ケンが、静かに頷く。
「リーダーの創造する、最後の物語。その登場人物になれるのなら、本望です」シオンもまた、覚悟を決めた目をしていた。
「皆さん……!」
カナデの瞳から、涙が溢れそうになる。
「俺たちは、死ぬわけじゃない」ゼノが、忌々しげに、しかし、どこか誇らしげに言った。「俺たちの魂は、新たな神となり、この世界で、永遠に生き続ける。そうだろう? 創造主」
そうだ。これは、終わりではない。
新しい始まりのための、通過儀礼なのだ。
そして、リリアが、カナデの手を、そっと握りしめた。
「……私も、行きます」
「リリアさん!?」
「いいえ、カナデさん。あなたは、この世界の、最後の『希望』です。あなたの魂まで、使うわけにはいかない。だから、私が、あなたの代わりに、この世界の、新しい『生命の心臓』になります」
彼女は、微笑んだ。それは、かつて、カナデを救うために、自らの魂を差し出した時と、同じ、慈愛に満ちた、決意の笑みだった。
「私の中に宿る、カナデさんからもらった『心』。それを、この世界全体へと、広げるんです。そうすれば、この世界は、永遠に、あなたの優しさで、満たされる」
「そんなこと、させません!」
「いいえ。これは、私が、初めて、自分の意志で決めた、私の『創造』です」
リリアの、あまりにも強い意志に、カナデは、言葉を失った。
彼女は、もう、守られるだけの存在ではなかった。
共に、世界を創る、対等な、創造主だったのだ。
儀式の場所は、創生の庭。
五人の、神となる覚悟を決めた者たちが、祭壇を囲むように、円陣を組んだ。
カナデは、その中央に立ち、涙をこらえながら、最後の創造の、言の葉を紡ぐ。
「……皆さんを、信じています」
「当たり前でしょ」
「ああ」
「いつでも、あなたの側に」
「フン」
「はい」
仲間たちの、最後の声。
カナデは、天を仰ぎ、叫んだ。
「『ワールド・リクリエイト:ゴッズ・レガシー(神々の遺産)』!」
五人の身体から、それぞれの魂の色を纏った、眩いばかりの光が、放たれた。
メイプルの、絆の黄金。
ケンの、論理の青白。
シオンの、運命の星空。
ゼノの、秩序の白銀。
そして、リリアの、生命の翠緑。
五つの光は、天へと昇り、一つとなり、そして、この世界全体へと、優しい光の雨となって、降り注いだ。
世界が、再び、生命の輝きを、取り戻していく。
枯れた大地に、花が咲き、淀んだ川に、清流が戻る。
後に残されたのは、静寂と、立ち尽くす、カナデただ一人。
そして、彼の足元に、五つの、小さな『神の種子』が、残されていた。
仲間たちは、いなくなった。
世界は、救われた。
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