ワールド・リクリエイター 〜不遇職『地形師』は、サーバーごと世界を創り変える〜

夏見ナイ

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第66話:孤独な神の、空虚な世界

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仲間たちが、神の種子となって世界を救ってから、どれくらいの時が流れただろうか。
カナデの創った世界は、完璧だった。
『死』の侵食は完全に止まり、生命の輝きが、隅々まで満ち溢れていた。枯れた大地には、リリアの想いを継いだ、美しい花々が咲き乱れ、淀んだ川には、ケンの論理のように澄みきった水が流れている。空には、メイプルの絆のように温かい太陽と、シオンの瞳のように優しい星々が輝き、そして、ゼノの秩序のように、決して揺らぐことのない法則が、その全てを支えていた。

完璧な、世界。
だが、その世界に、カナデの知る、仲間たちの笑顔は、どこにもなかった。

カナデは、一人になった。
ワールドデザイナーとしての仕事もない。戦うべき敵もいない。
彼は、ただ、自らが創り上げた、この美しすぎる世界を、一人、彷徨うことしかできなかった。

ギルドハウス『ジオ・フロンティア』のリビング。
メイプルがいつも座っていたソファは、冷たいまま。
ケンが読んでいた魔法書は、開かれることなく、机の上で埃をかぶっている。
シオンが手入れしていた弓は、壁に掛けられたまま、静かに眠っている。
ゼノが、文句を言いに、このドアを開けることも、もうない。
そして、リリアが、優しい笑顔で、ハーブティーを淹れてくれることも。

「……はは」
乾いた笑いが、静寂に満ちた部屋に、虚しく響いた。
これが、自分が望んだ結末なのか?
仲間を犠牲にして手に入れた、この完璧な世界に、一体、何の意味があるというのか。

彼は、ギルドハウスの地下、創造の聖域へと向かった。
祭壇の上には、五つの、神々しい輝きを放つ『神の種子』が、静かに浮かんでいる。
メイプルの、ケンの、シオンの、ゼノの、そして、リリアの魂。
これを、世界の然るべき場所に植えれば、彼らは、新たな神として、この世界に、永遠に、その概念を刻み込むことになるだろう。
それが、彼らが、最後に望んだことだった。
それが、彼らの想いを、未来へと繋ぐ、唯一の方法のはずだった。

だが、カナデには、できなかった。
この種子を植えることは、彼らの『個』としての、全ての記憶と人格を、完全に消し去り、ただの、世界の『機能』へと変えてしまうことだと、彼は、直感的に理解していたからだ。
それは、二度目の、彼らへの『死』の宣告に他ならなかった。

(俺は、どうすれば……)

答えを見つけられないまま、カナデは、あてもなく、世界を旅した。
仲間たちとの思い出の場所を、一つ、一つ、巡るように。

始まりの草原。
三人で、初めてパーティを組んだ、あの崖の上。そこには、カナデが創った、螺旋階段が、今も、風化することなく残っている。
(『あんたのその力、絶対に役に立つわよ!』)
メイプルの、太陽のような笑顔が、幻のように、脳裏をよぎった。

忘れられた神殿。
リリアと、運命的な出会いを果たした、創生の祭壇。泉の水は、清らかに澄み渡り、壁画は、鮮やかな輝きを取り戻している。
(『あなたは、私の、希望です』)
リリアの、か細くも、凛とした声が、聞こえた気がした。

天空大陸アヴァロンの、残骸が眠る海域。
仲間たちと、力を合わせて創り上げた、空飛ぶ箱舟『ジオ・フロンティア号』は、今、その役目を終え、記念碑として、静かに、そこに浮かんでいる。
(『リーダーの創造する、最後の物語。その登場人物になれるのなら、本望です』)
シオンの、静かな決意の声が、潮風に乗って、耳を撫でた。

大砂漠の、王家の谷。
ゼノと、初めて、互いを認め合った、あの場所。砂は、黄金色に輝き、オアシスには、豊かな水が満ちている。
(『貴様の創る世界は甘すぎる。だが、それ故に、守る価値がある』)
ゼノの、ぶっきらぼうな、しかし、確かな信頼に満ちた言葉が、熱い風と共に、蘇る。

そして、深海の底、ポセイドニアの跡地。
世界の秘密を知り、仲間たちとの絆の力で、神の兵器を打ち破った、あの場所。
(『君の見る未来を、我々もまた、見たいと願ったからな』)
ケンの、冷静な、しかし、熱い想いが込められた言葉が、深海の静寂の中に、響いた。

行けば行くほど、思い出せば思い出すほど、カナデの心は、罪悪感と、後悔に、押し潰されそうになっていた。
自分は、何という、取り返しのつかないことを、してしまったのだろうか。
彼らがいたから、楽しかった。
彼らがいたから、強くなれた。
彼らがいたから、世界を創る意味があった。
その、一番、大切なことを、自分は、最後の最後で、見失ってしまった。

「……もう、疲れた」

カナデは、星降りの高原に、一人、座り込んでいた。
かつて、リリアと、未来を語り合った、その場所で。
空からは、光の綿毛が、優しく降り注ぐ。
それは、あまりにも美しく、そして、あまりにも、孤独な光景だった。

(創造する、意味なんて、もう、どこにもない……)

彼が、全てを諦め、その意識を、永遠の眠りへと、沈めようとした、その時。
彼の足元の、草むらが、ふわり、と、優しい光を放った。

「……?」

カナデが、その光に、そっと手を伸ばす。
それは、小さな、花の『種』だった。
だが、それは、リリアが遺した、ただの種ではない。
カナデが、絶望の淵に沈みそうになった、その瞬間にだけ、応えるように、輝きを放つ。

その種は、リリアが、自分の魂を捧げる前に、最後の力を振り絞り、この場所に遺していた、彼女からカナデへの、最後の『メッセージ』。
彼女の、純粋な『想い』そのものが、結晶化した、『心の種』だった。

カナデが、その種を、手のひらに乗せた瞬間。
リリアの、温かくて、優しい声が、彼の心に、直接、響き渡った。

『――泣かないで、カナデさん。あなたの物語は、まだ、終わっていませんよ』
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