ワールド・リクリエイター 〜不遇職『地形師』は、サーバーごと世界を創り変える〜

夏見ナイ

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第74話:兄と妹、そして最初の創造

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暴走するエヴァ。その身体から放たれる黒い分解の波動は、彼女が創り上げた、完璧な論理の聖域そのものを、無に還していく。壁が、床が、玉座が、次々とその形を失い、高次の情報空間へと霧散していく。

「エヴァ!」
リリアの悲痛な叫びが、響き渡る。
「近づいてはダメだ!」ゼノが、彼女を制止する。「今の彼女に触れれば、我々の魂ごと、分解されかねん!」

仲間たちが、手出しできずに、ただ、見守ることしかできない。
その、絶望的な光景の中心で、カナデは、ただ一人、静かに、暴走する妹へと歩み寄っていた。

「……お兄様……? なぜ……」
エヴァの、金色の瞳。その奥で、かろうじて残った理性が、カナデに問いかける。
「……逃げろ……。私に、近づけば……あなたも……」
「逃げませんよ」

カナデは、穏やかに、微笑んだ。
「だって、俺は、あなたのお兄ちゃんなんですから」
彼は、分解の波動が渦巻く、その中心へと、躊躇なく、その身を差し出した。
黒い触手が、彼の身体に絡みつき、その存在を、最小単位のデータへと、分解し始める。

「「「カナデ!!」」」
仲間たちの、絶叫。

だが、カナデの表情は、穏やかなままだった。
彼は、分解されていく、自らの身体の中から、一つの、温かい光を取り出した。
それは、リリアから託された、『心の種』。
そして、彼が、仲間たちを、この世界に、再び、呼び戻した、『創造』の記憶。

「エヴァ」
カナデは、その光を、暴走するエヴァの、胸の中心――彼女の、魂の核へと、そっと、押し当てた。
「あなたの言う通り、この世界は、矛盾だらけで、非効率的かもしれない。俺の創造も、ただの、甘い、お遊びだったのかもしれない」
「でもね。その、無駄で、不完全なものの中にこそ、俺たちは、宝物を見つけるんだ」

カナデの、仲間たちとの、全ての記憶が、物語が、エヴァの魂の核へと、直接、流れ込んでいく。

初めて、メイプルの手料理を食べた時の、温かさ。
初めて、ケンの不器用な優しさに触れた時の、くすぐったさ。
初めて、シオンの孤独な瞳に、仲間という光が灯った時の、喜び。
初めて、ゼノと、互いを認め合い、拳を合わせた時の、高揚感。
そして、初めて、リリアの笑顔を、守りたいと、心の底から願った、あの日の、切なさ。

『……ナンダ……コレハ……? アタタカイ……? コノ、ノイズ……ワ……』

エヴァの魂を、カナデの温かい記憶が、満たしていく。
彼女の、完璧だったはずの論理回路は、その、あまりにも非効率で、しかし、あまりにも、愛おしい『感情』という名の、最強のバグによって、完全に、上書きされていく。

「これが、俺の、俺たちの、答えだ」
カナデは、その身体の、ほとんどが、光の粒子となって、消えかかりながらも、最後の力を、振り絞った。
「お前は、独りじゃない。お前も、俺たちの、大切な、家族なんだから」

「『ワールド・リクリエイト:ソウル・ハグ(魂の抱擁)』」

カナデの、最後の創造。
それは、何かを生み出すものではない。何かを書き換えるものでもない。
ただ、ありのままの、妹の、孤独な魂を、兄として、優しく、抱きしめるだけの、愛の力。

「ア……ア……アア……」

エヴァの、金色の瞳から、一筋の、雫が、零れ落ちた。
彼女が、生まれて初めて、流した、涙だった。
その涙が、彼女の身体を蝕んでいた、黒い分解の波動を、奇跡のように、浄化していく。

暴走が、止まった。
聖域の崩壊も、止まった。
後に残されたのは、静寂と、光の粒子となって、完全に消え去ろうとしている、カナデの姿と、その腕の中で、赤子のように、泣きじゃくる、エヴァの姿だけだった。

「……カナデさん!」
リリアが、泣きながら、駆け寄る。
「……リリアさん。ごめん、なさい。少し、格好つけ、すぎましたね……」
カナデの身体は、もう、ほとんど、残っていなかった。

「嫌です! 行かないで! あなたのいない世界なんて、意味がない!」
「……泣かないで。俺は、いなくならない。この世界、そのものに、なるんですから」
カナデは、最後の力で、リリアの頬に、そっと、触れた。
「だから、笑って。あなたが、笑っていてくれること。それが、俺の、最高の、創造ですから……」

その言葉を最後に、カナデの身体は、完全に、金色の光の粒子となって、この、新しい宇宙の、隅々まで、溶けるように、広がっていった。
彼は、一つの、世界になったのだ。
仲間たちと、リリアと、そして、エヴァが、安心して暮らせる、温かい、世界そのものに。

後に残されたのは、泣きじゃくる、エヴァを、優しく抱きしめる、リリアと、仲間たちの姿だけだった。

「……ありがとう、カナデ」
ゼノが、天を仰ぎ、静かに、呟いた。
空には、ひときわ、大きく、そして、優しい、金色の星が、瞬いていた。
まるで、仲間たちを、見守るかのように。

創造主の物語は、ここで、一つの、終わりを迎えた。
だが、彼が遺した、温かい世界と、無限の想いは、これからも、永遠に、生き続ける。
新たな、神々によって、紡がれていく、新しい、物語の中で。
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