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第76話:星になった創造主と仲間たちの現在
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カナデが、自らの魂を世界に捧げ、その理を永遠に守る『星』となってから、長い、長い年月が過ぎた。
彼が遺した世界『Aethelgard: Re-Genesis』は、残された六柱の神々――生命の女神リリア、絆の女神メイプル、知の神ケン、星々の神シオン、秩序の神ゼノ、そして、修正の女神へと生まれ変わったエヴァ――によって、見事に統治されていた。
そこは、もはや、ただのゲームではなかった。無数の魂が息づき、喜び、悲しみ、そして、新しい物語を紡ぎ続ける、もう一つの、完璧な現実。
カナデの名は、もはや、伝説の中の、創世神話の登場人物として、子供たちの絵本の中で語られるのみとなっていた。
***
現実世界。
梅雨の晴れ間の、穏やかな日差しが差し込む、小さなアパートの一室。
風見奏太は、淹れたてのコーヒーの香りを楽しみながら、静かにノートパソコンのキーボードを叩いていた。
あの日、運営からワールドデザイナーとしてスカウトされた彼は、数年間、その職務を全うし、仲間たちと共に、世界の礎を築き上げた。
そして、最後の戦いで、自らの魂をゲーム世界に捧げた後、彼は、運営会社を、静かに退職した。
今は、フリーの、ごく普通のシステムエンジニアとして、穏やかながらも、充実した日々を送っている。
「……ふぅ」
仕事を一区切りさせ、奏太は、お気に入りのゲーム情報サイトを開いた。もちろん、紫苑が編集長を務める『GameFrontier』だ。
トップページには、新生『Aethelgard』の、10周年を記念する、特集記事が、大々的に組まれていた。
『特集:神々の統治と、世界の新たなる胎動』
紫苑の、美しい筆致で綴られる、世界の最新情報。
メイプルが企画した、全大陸を巻き込む、巨大な感謝祭の様子。
ケンが発表した、新たな環境魔法体系の論文。
ゼノが、世界の秩序を守るため、新たに設立した『聖堂騎士団』の活躍。
そして、リリアとエヴァ、二人の女神が協力して創り上げた、生命の輪廻を司る、美しい庭園の風景。
その記事を、奏太は、目を細めながら、愛おしそうに読む。
もう、自分があの世界にログインすることは、できない。
彼の魂そのものが、あの世界の、法則の一部となっているからだ。
だが、寂しくはなかった。
仲間たちが、自分が遺した世界を、こんなにも、素晴らしく、輝かせてくれている。その事実が、何よりも、誇らしかった。
ピンポーン、と、軽快なチャイムが鳴る。
ドアを開けると、そこには、両手いっぱいに、ピザや寿司のデリバリーの箱を抱えた、楓(メイプル)が、満面の笑みで立っていた。
「奏太! お邪魔するわよー! 10周年記念パーティ、始めましょ!」
「わ、楓さん! そんなにたくさん……」
「いいのいいの! 今日は、私が奢るって決めてたんだから!」
彼女の後ろから、健一(ケン)と、紫苑(シオン)も、顔を覗かせる。
「よっ、奏太。邪魔するぞ」
「お久しぶりです、奏太さん」
彼らは、今でも、こうして、定期的に、奏太の部屋に集まっていた。
かつての、ジオ・フロンティアの、リアルオフ会だ。
「うわー、相変わらず、殺風景な部屋ねぇ。私が、お花でも飾ってあげようか?」
「余計なお世話だ」
「それより、奏太さん。あなたの設計した、新しいセキュリティシステム、見事でしたよ。業界でも、かなり話題になっています」
「いえ、健一さんの、AI倫理に関する新しい論文こそ。あれは、画期的でした」
他愛のない会話。穏やかな時間。
ピザを頬張り、思い出話に花を咲かせる。
あの壮絶な冒険が、まるで、遠い青春時代の、一ページだったかのように。
宴もたけなわになった頃。
楓が、ふと、真剣な顔で、奏太に尋ねた。
「……ねえ、奏太。あんた、本当は……寂しくないの? もう、あそこに、帰れないこと」
その、あまりにも真っ直ぐな問いに、奏太は、一瞬、言葉に詰まった。
「……寂しくない、と言ったら、嘘になりますね」
彼は、少しだけ、自嘲するように笑った。
「時々、夢に見るんです。また、みんなで、あのギルドハウスに集まって、馬鹿な話をして……。リリアさんの淹れてくれた、ハーブティーを飲む、そんな夢を」
「……奏太」
重い空気が、流れかけた、その時。
健一が、すっ、と、一つの、小さな箱を、テーブルの上に置いた。
それは、流線型の、美しいデザインの、ヘッドセットだった。
「……これは?」
「君への、10周年の、プレゼントだ」
健一は、少しだけ、照れくさそうに言った。
「俺と、紫苑と、そして、運営の相田さんたちとで、秘密裏に、開発を進めていた。君専用の、ダイブギアだ」
「俺、専用……?」
紫苑が、微笑みながら、説明を続けた。
「あなたの魂は、確かに、あの世界の一部となりました。ですが、その『魂の波長』は、我々が、はっきりと記憶しています。このダイブギアは、その波長だけを、特別に読み取り、あなたを、プレイヤーとしてではなく、『観測者』として、あの世界に、ほんの少しだけ、干渉させることを可能にします」
「……え?」
「もちろん、スキルも使えないし、物理的な干渉もできない。ただ、そこにいて、世界を、仲間たちを、『見る』ことしかできない、ゴーストのような存在として、だけどね」楓が、いたずらっぽく笑った。「でも、たまには、帰ってきたって、いいでしょ? あなたの、創った、家に」
奏太の、瞳が、熱くなった。
仲間たちが、自分のために、こんな、奇跡のようなプレゼントを、用意してくれていたなんて。
「……皆さん」
感謝の言葉が、見つからない。
ただ、胸がいっぱいで、声が出なかった。
「さあ、試してみろよ」
健一に促され、奏太は、震える手で、その特別なダイブギアを、手に取った。
数年ぶりの、懐かしい感触。
彼は、仲間たちに見守られながら、ソファに横になり、ゆっくりと、ヘッドセットを装着した。
視界が、暗転する。
『――魂の波長、認証。
――対象:創造主 カナデ
――接続モード:ゴースト・ダイブ
――ようこそ、再び、あなたの世界へ』
システム音声が、優しく、彼を迎え入れる。
そして、視界が、眩い、金色の光に、包まれた。
懐かしい、始まりの光。
涙が、止まらなかった。
もう一度、会える。
あの、愛おしい世界に。
そして、そこで、自分を待っていてくれる、大切な、家族に。
創造主の、ささやかな、しかし、最高の奇跡に満ちた、帰郷が、始まろうとしていた。
彼が遺した世界『Aethelgard: Re-Genesis』は、残された六柱の神々――生命の女神リリア、絆の女神メイプル、知の神ケン、星々の神シオン、秩序の神ゼノ、そして、修正の女神へと生まれ変わったエヴァ――によって、見事に統治されていた。
そこは、もはや、ただのゲームではなかった。無数の魂が息づき、喜び、悲しみ、そして、新しい物語を紡ぎ続ける、もう一つの、完璧な現実。
カナデの名は、もはや、伝説の中の、創世神話の登場人物として、子供たちの絵本の中で語られるのみとなっていた。
***
現実世界。
梅雨の晴れ間の、穏やかな日差しが差し込む、小さなアパートの一室。
風見奏太は、淹れたてのコーヒーの香りを楽しみながら、静かにノートパソコンのキーボードを叩いていた。
あの日、運営からワールドデザイナーとしてスカウトされた彼は、数年間、その職務を全うし、仲間たちと共に、世界の礎を築き上げた。
そして、最後の戦いで、自らの魂をゲーム世界に捧げた後、彼は、運営会社を、静かに退職した。
今は、フリーの、ごく普通のシステムエンジニアとして、穏やかながらも、充実した日々を送っている。
「……ふぅ」
仕事を一区切りさせ、奏太は、お気に入りのゲーム情報サイトを開いた。もちろん、紫苑が編集長を務める『GameFrontier』だ。
トップページには、新生『Aethelgard』の、10周年を記念する、特集記事が、大々的に組まれていた。
『特集:神々の統治と、世界の新たなる胎動』
紫苑の、美しい筆致で綴られる、世界の最新情報。
メイプルが企画した、全大陸を巻き込む、巨大な感謝祭の様子。
ケンが発表した、新たな環境魔法体系の論文。
ゼノが、世界の秩序を守るため、新たに設立した『聖堂騎士団』の活躍。
そして、リリアとエヴァ、二人の女神が協力して創り上げた、生命の輪廻を司る、美しい庭園の風景。
その記事を、奏太は、目を細めながら、愛おしそうに読む。
もう、自分があの世界にログインすることは、できない。
彼の魂そのものが、あの世界の、法則の一部となっているからだ。
だが、寂しくはなかった。
仲間たちが、自分が遺した世界を、こんなにも、素晴らしく、輝かせてくれている。その事実が、何よりも、誇らしかった。
ピンポーン、と、軽快なチャイムが鳴る。
ドアを開けると、そこには、両手いっぱいに、ピザや寿司のデリバリーの箱を抱えた、楓(メイプル)が、満面の笑みで立っていた。
「奏太! お邪魔するわよー! 10周年記念パーティ、始めましょ!」
「わ、楓さん! そんなにたくさん……」
「いいのいいの! 今日は、私が奢るって決めてたんだから!」
彼女の後ろから、健一(ケン)と、紫苑(シオン)も、顔を覗かせる。
「よっ、奏太。邪魔するぞ」
「お久しぶりです、奏太さん」
彼らは、今でも、こうして、定期的に、奏太の部屋に集まっていた。
かつての、ジオ・フロンティアの、リアルオフ会だ。
「うわー、相変わらず、殺風景な部屋ねぇ。私が、お花でも飾ってあげようか?」
「余計なお世話だ」
「それより、奏太さん。あなたの設計した、新しいセキュリティシステム、見事でしたよ。業界でも、かなり話題になっています」
「いえ、健一さんの、AI倫理に関する新しい論文こそ。あれは、画期的でした」
他愛のない会話。穏やかな時間。
ピザを頬張り、思い出話に花を咲かせる。
あの壮絶な冒険が、まるで、遠い青春時代の、一ページだったかのように。
宴もたけなわになった頃。
楓が、ふと、真剣な顔で、奏太に尋ねた。
「……ねえ、奏太。あんた、本当は……寂しくないの? もう、あそこに、帰れないこと」
その、あまりにも真っ直ぐな問いに、奏太は、一瞬、言葉に詰まった。
「……寂しくない、と言ったら、嘘になりますね」
彼は、少しだけ、自嘲するように笑った。
「時々、夢に見るんです。また、みんなで、あのギルドハウスに集まって、馬鹿な話をして……。リリアさんの淹れてくれた、ハーブティーを飲む、そんな夢を」
「……奏太」
重い空気が、流れかけた、その時。
健一が、すっ、と、一つの、小さな箱を、テーブルの上に置いた。
それは、流線型の、美しいデザインの、ヘッドセットだった。
「……これは?」
「君への、10周年の、プレゼントだ」
健一は、少しだけ、照れくさそうに言った。
「俺と、紫苑と、そして、運営の相田さんたちとで、秘密裏に、開発を進めていた。君専用の、ダイブギアだ」
「俺、専用……?」
紫苑が、微笑みながら、説明を続けた。
「あなたの魂は、確かに、あの世界の一部となりました。ですが、その『魂の波長』は、我々が、はっきりと記憶しています。このダイブギアは、その波長だけを、特別に読み取り、あなたを、プレイヤーとしてではなく、『観測者』として、あの世界に、ほんの少しだけ、干渉させることを可能にします」
「……え?」
「もちろん、スキルも使えないし、物理的な干渉もできない。ただ、そこにいて、世界を、仲間たちを、『見る』ことしかできない、ゴーストのような存在として、だけどね」楓が、いたずらっぽく笑った。「でも、たまには、帰ってきたって、いいでしょ? あなたの、創った、家に」
奏太の、瞳が、熱くなった。
仲間たちが、自分のために、こんな、奇跡のようなプレゼントを、用意してくれていたなんて。
「……皆さん」
感謝の言葉が、見つからない。
ただ、胸がいっぱいで、声が出なかった。
「さあ、試してみろよ」
健一に促され、奏太は、震える手で、その特別なダイブギアを、手に取った。
数年ぶりの、懐かしい感触。
彼は、仲間たちに見守られながら、ソファに横になり、ゆっくりと、ヘッドセットを装着した。
視界が、暗転する。
『――魂の波長、認証。
――対象:創造主 カナデ
――接続モード:ゴースト・ダイブ
――ようこそ、再び、あなたの世界へ』
システム音声が、優しく、彼を迎え入れる。
そして、視界が、眩い、金色の光に、包まれた。
懐かしい、始まりの光。
涙が、止まらなかった。
もう一度、会える。
あの、愛おしい世界に。
そして、そこで、自分を待っていてくれる、大切な、家族に。
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