ワールド・リクリエイター 〜不遇職『地形師』は、サーバーごと世界を創り変える〜

夏見ナイ

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最終話:そして、新たな世界へ

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風見奏太が、ゴーストダイブを終えてから、さらに長い年月が流れた。
彼は、システムエンジニアとして、大きな成功を収めていた。彼が設計するシステムは、常に、使う人の心に寄り添う、温かい思想に満ちており、社会の様々な場面で、人々の生活を、より豊かに、より優しく、変えていった。

楓、健一、紫苑との友情も、変わらず続いていた。
彼らは、それぞれの分野で、第一人者となりながらも、週末には、奏太の部屋に集まり、昔と変わらない、他愛のない話で、笑い合った。
彼らの心の中には、常に、あの冒険の日々と、仲間たちとの絆が、色褪せることなく、輝き続けていた。

奏太は、もう、『Aethelgard』にログインすることはなかった。
自分の物語は、終わった。
あの世界は、今や、新しい神々と、新しい世代の冒険者たちが、紡いでいくべき、新しい物語の舞台なのだから。
彼は、ただ、遠くから、その世界の、幸福な未来を、信じ、祈り続けていた。

そんなある、冬の日。
奏太の元に、一通の、古い、手紙のようなものが、届いた。
差出人の名前はない。ただ、そこには、懐かしい、スコップとつるはしをクロスさせた、ジオ・フロンティアの紋章が、小さく、刻まれているだけだった。

奏太が、不思議に思いながら、その封を開けると、中には、一枚の、美しいカードが入っているだけだった。
そこには、こう書かれていた。

『――もう一度だけ、会いに来てくれませんか? 私たちの、始まりの場所で。
最後の、サプライズがあります』

その、懐かしい、少しだけ、癖のある、愛しい文字。
奏太の胸が、高鳴った。
迷う理由は、どこにもなかった。

彼は、クローゼットの奥から、ほこりを被っていた、旧型のフルダイブギア『NerveLinker』を取り出した。
仲間たちが作ってくれた、特別なギアではない。
彼が、一番最初に、この冒険を始めた、あの日の、古いギアだ。

「……行きますか」
奏太は、微笑むと、久しぶりに、その身を、仮想世界へと、委ねた。

***

ログインした場所は、始まりの街『アークライト』だった。
だが、そこは、彼の知る、活気のある街ではない。
全ての時が止まり、全ての音が消えた、静寂に包まれた、真っ白な世界。
そして、その、真っ白な広場の中央に、彼女は、一人、静かに、立っていた。

銀色の髪を、穏やかな風になびかせ、白いワンピースを身に纏った、リリア。
彼女は、奏太の姿を認めると、あの、最初の出会いの時と、何も変わらない、優しく、そして、少しだけ、儚げな笑顔で、微笑んだ。

「……お待ちしておりました、私の、創造主様」
「リリアさん……。これは、一体……?」
「ここは、この世界の、一番、古い、記憶の層です」リリアは、言った。「あなたが、初めて、この世界に降り立った、あの日の、記録。私が、あなたと、初めて、言葉を交わす、この瞬間のために、特別に、遺しておいた、二人だけの、世界です」

彼女は、カナデに、そっと、寄り添った。
「……カナデさん。あなたが、この世界を去ってから、私たちは、ずっと、考えていました。あなたにしてあげられる、最後の、最高の、贈り物は、何だろう、と」
「……」
「そして、私たちは、一つの、結論に、たどり着いたのです」

リリアは、カナデの手を、そっと、取った。
「あなたも、この世界に、還ってきてください、と」
「え……?」
「あなたは、観測者として、私たちを見守るだけでした。でも、それは、あまりにも、寂しすぎます。私たちは、あなたと、もう一度、一緒に、冒険がしたい。笑い合って、時には、喧嘩もして、そして、一緒に、未来を、創っていきたいんです」

リリアの瞳から、一筋の、涙が、零れ落ちた。
「だから、私たちは、決めました。六柱の神、全ての力を、そして、この世界に生きる、全ての人々の想いを、一つにして、最後の、奇跡を、起こすことを」

彼女は、カナデを、強く、見つめた。
「あなたの魂は、この世界そのものとなりました。ですが、その『心』は、まだ、現実世界の、あなたの中にあります。その、二つに分かれた魂を、もう一度、一つに結びつけ、あなたを、神としてでも、観測者としてでもない、ただ一人の、『冒険者カナデ』として、この世界に、再び、生まれ変わらせる。それこそが、私たちの、最後の『創造』です」

「そんなこと……。そんなことをしたら、世界の理が……」
「もう、大丈夫なんです」リリアは、微笑んだ。「この世界には、もう、新しい神々が、育っていますから。エヴァも、あなたの魂を受け継いだ、あの『旅人』も、そして、これから生まれてくる、無数の、新しい世代が、この世界を、支えていってくれます」

「だから」
彼女は、カナデの胸に、そっと、額を当てた。
「……おかえりなさい、カナデさん。私たちの、愛おしい、たった一人の、英雄」

その言葉と共に、リリアの身体が、眩いばかりの、究極の光となって、カナデの身体を、包み込んでいった。
現実世界の、奏太の『心』と、この世界そのものである、カナデの『魂』が、再び、一つになろうとしていた。

視界が、真っ白な光に、包まれていく。
遠くで、メイプルの、ケンの、シオンの、そして、ゼノの、笑い声が、聞こえた気がした。

***

どれくらいの、時が、流れただろうか。
カナデが、ゆっくりと、目を開ける。
そこは、見慣れた、始まりの草原だった。
自分の手を見る。ゴーストアバターのような、半透明ではない。確かな、実体があった。
ステータスウィンドウを開く。

【名前】カナデ
【職業】冒険者
【Lv】1

全ての、肩書きが消えていた。創造主でも、神でもない。
ただ、一人の、レベル1の、冒険者。
だが、彼の心の中には、これまでの、全ての冒険の記憶と、仲間たちとの絆が、何よりも、温かいスキルとして、確かに、宿っていた。

「……ただいま」
彼が、そう、呟いた時。

「――おや? あなたも、今日から、この世界で、冒険を始めるのですか?」

聞き覚えのある、快活な声。
振り返ると、そこには、真新しい、聖騎士の鎧に身を包んだ、メイプルが、立っていた。
その隣には、見習い魔術師のローブを着た、ケンが、静かに頷いている。
少し離れた木の枝の上からは、駆け出しの弓兵のような、シオンが、こちらを、見つめている。
そして、彼らの背後からは、見習い騎士の鎧を着た、ゼノが、フン、と鼻を鳴らしながら、歩いてきた。

彼らもまた、神としての、全ての力を、この奇跡のために、使ったのだ。
そして、ただの、一人の冒険者として、この、始まりの場所に、還ってきた。
もう一度、カナデと、ゼロから、冒険を、始めるために。

「よ、よろしく、お願いします」
カナデは、照れくさそうに、頭を下げた。

「ふふん、いい心がけじゃない!」メイプルは、手を差し伸べた。「私、メイプル! この人はケン! あっちがシオンで、あの仏頂面がゼノよ! よかったら、私たちと、パーティ、組まない?」

「……はい! 喜んで!」
カナデは、最高の笑顔で、その手を、固く、握り返した。

その時、彼らの目の前に、一人の、銀髪の、美しい少女が、ふわり、と舞い降りた。
「皆さん、何をされているのですか?」
リリアだった。彼女は、この世界の、始まりを導く、最初のガイドNPCとして、そこにいた。
「……あら? あなたは、新米の、冒険者さんですね」
彼女は、カナデを見て、初めて会うかのように、しかし、その瞳の奥は、懐かしさと、愛おしさで、いっぱいに、輝いていた。

「私は、リリア。ようこそ、私たちの世界、『Aethelgard』へ」
彼女は、微笑んだ。
「あなたの、素晴らしい冒険が、ここから、始まることを、心より、お祈りしています」

カナデは、仲間たちと、顔を見合わせ、そして、笑った。
そうだ。
終わったんじゃない。
ここから、また、始まるんだ。
何度でも。

「さあ、行きましょうか」
カナデが、言う。
「俺たちの、新しい冒険へ」

五人の冒険者と、一人の女神が、輝く太陽の下、未来へと続く、果てしない道を、ゆっくりと、しかし、確かな足取りで、歩き始めた。
彼らの、そして、彼らの愛した世界の、本当の物語は、いつだって、ここから、始まるのだから。

**【ワールド・リクリエイター ~不遇職『地形師』は、サーバーごと世界を創り変える~ 最終話 / 完】**
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