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第79話:最後の観測者と最初の旅人
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奏太の、穏やかで、しかし、奇跡に満ちた日常は、静かに、時を重ねていった。
彼は、現実世界では、人々の生活を豊かにする、温かいシステムの創造者として。
そして、眠りにつく前の、束の間だけ、愛する世界の『観測者』として。
二つの世界を、彼は、等しく、愛し、見守り続けた。
『Aethelgard: Re-Genesis』の世界は、もはや、奏太一人の手を離れ、そこに生きる、神々と、人々との、共同創造によって、無限の広がりを見せていた。
ゼノの敷いた『法』の上で、メイプルの『絆』が、人々を繋ぎ、ケンの『知』が、新たな道を拓き、シオンの『物語』が、その意味を与え、リリアとエヴァの『生命』が、世界に彩りを添える。
完璧な、循環。
奏太は、その、美しく、自律した世界の姿を、ただ、微笑ましく、そして、誇らしく、見守るだけだった。
そんなある日。
奏太は、いつものように、ゴーストダイブで、世界を訪れていた。
その日は、かつて、カナデたちが、観測者との最終決戦に旅立った、『アーク・ジェネシス』の、出航記念日。
街では、ささやかながらも、温かい、記念のお祭りが開かれていた。
カナデは、誰にも気づかれることなく、その賑わいの中を、ふわり、と漂っていた。
ふと、彼は、広場の、片隅に、一人、ぽつんと座っている、一人の少年プレイヤーに、気がついた。
まだ、始めたばかりなのだろう。装備は、みすぼらしく、どうやら、パーティの仲間とはぐれてしまい、途方に暮れているようだった。
(昔の、俺みたいだな……)
カナデは、苦笑した。
自分も、最初は、独りだった。何をすればいいか分からず、ただ、地面を掘ることしかできなかった。
もし、あの時、メイプルとケンに出会わなければ。
もし、リリアに出会わなければ。
自分の物語は、始まらなかったかもしれない。
何か、してあげたい。
だが、今の自分は、観測者。世界に、直接、干渉することはできない。
もどかしい思いで、その少年を見つめていた、その時。
「――どうか、しましたか? 何か、お困りですか?」
少年の前に、一人の、黒髪の青年NPCが、すっ、と現れた。
新米ガイドの、『旅人』。
カナデの、冒険心の化身。
「あ、えっと……」少年は、戸惑いながらも、事情を話した。「仲間と、はぐれちゃって……。この先の、ダンジョンに行く約束だったのに……」
「なるほど」旅人は、にこやかに頷いた。「それなら、俺が、案内してあげましょう。近道を、知っていますから」
旅人は、少年の手を引くと、街の、裏路地へと入っていった。
そして、一見、ただの行き止まりの壁に、そっと、手を触れた。
「少し、失礼」
すると、壁が、まるで、幻だったかのように、すり抜けられる、隠し通路へと変わった。
「ええっ!?」
「さあ、こちらへ。これなら、すぐに、ダンジョンに、追いつけますよ」
その光景を、カナデは、温かい気持ちで、見守っていた。
そうだ。
自分がいなくても、もう、大丈夫なんだ。
自分の『お節介』な魂は、こうして、新しい形で、この世界に生きる、誰かの、小さな一歩を、手助けしている。
それこそが、自分が、本当に、望んでいたことなのかもしれない。
満足したカナ-デは、その場を離れ、最後に、思い出の場所である、『星降りの高原』へと、向かった。
そろそろ、ログアウトの時間だ。
高原の丘の上に、一人、腰を下ろし、降り注ぐ、光の綿毛を、眺める。
いつもの、穏やかな、最後の時間。
「……先輩」
不意に、背後から、声をかけられた。
振り返ると、そこに、あの『旅人』が、立っていた。
その手には、一輪の、勿忘草が、握られている。
「……どうして、俺のことが、ここにいるって、分かったんですか?」
カナデは、驚いて、尋ねた。
「さあ、どうしてでしょうね」旅人は、悪戯っぽく笑った。「なんとなく、ですよ。あなたが、一番、好きな場所だから」
二人の、カナデが、並んで、丘の上に座る。
奇妙で、しかし、どこまでも、自然な光景。
「……ありがとう」カナデは、静かに言った。「この世界を、楽しんでくれて」
「礼を言うのは、こっちの方ですよ」旅人も、静かに応えた。「こんな、最高に、わくわくする、遊び場を、創ってくれて」
二人の間に、言葉は、もう、なかった。
ただ、同じ、創造主の魂を持つ者同士、その想いは、確かに、通じ合っていた。
やがて、旅人は、立ち上がった。
「じゃあ、俺は、もう行きます。まだ、助けを待ってる、迷子の誰かさんが、いるかもしれないんでね」
彼は、手に持っていた、勿忘草を、カナデの足元に、そっと、置いた。
「これは、リリアさんからの、預かりものです。『いつまでも、忘れないで』、と」
旅人は、手を振ると、丘を駆け下り、再び、冒険の世界へと、旅立っていった。
カナデは、足元に置かれた、一輪の勿悠草を、そっと、拾い上げた。
花の、優しい香りが、彼の心を、満たしていく。
もう、思い残すことは、何一つない。
この世界は、完全に、自立し、そして、新しい物語を、紡ぎ始めている。
自分の、観測者としての、役目も、もう、終わりなのかもしれない。
(……ありがとう。俺の、最高の、物語)
カナデは、最後の感謝を、胸に、ログアウトのコマンドを、心の中で、唱えた。
彼の、半透明のアバターが、光の粒子となって、高原の風に、溶けていく。
それは、穏やかで、満足に満ちた、創造主の、最後の、退場だった。
風見奏太は、現実世界で、ゆっくりと、目を開けた。
窓の外は、美しい、朝焼けに染まっていた。
新しい、一日が、始まる。
もう、ゴーストダイブをすることは、ないだろう。
だが、彼の心は、不思議なほど、晴れやかだった。
彼は、立ち上がると、机に向かった。
そして、新しい、真っ白な設計書のファイルを開いた。
彼の、新しい『創造』が、今、ここから、始まるのだ。
この、現実という、もう一つの、愛おしい世界で。
彼は、現実世界では、人々の生活を豊かにする、温かいシステムの創造者として。
そして、眠りにつく前の、束の間だけ、愛する世界の『観測者』として。
二つの世界を、彼は、等しく、愛し、見守り続けた。
『Aethelgard: Re-Genesis』の世界は、もはや、奏太一人の手を離れ、そこに生きる、神々と、人々との、共同創造によって、無限の広がりを見せていた。
ゼノの敷いた『法』の上で、メイプルの『絆』が、人々を繋ぎ、ケンの『知』が、新たな道を拓き、シオンの『物語』が、その意味を与え、リリアとエヴァの『生命』が、世界に彩りを添える。
完璧な、循環。
奏太は、その、美しく、自律した世界の姿を、ただ、微笑ましく、そして、誇らしく、見守るだけだった。
そんなある日。
奏太は、いつものように、ゴーストダイブで、世界を訪れていた。
その日は、かつて、カナデたちが、観測者との最終決戦に旅立った、『アーク・ジェネシス』の、出航記念日。
街では、ささやかながらも、温かい、記念のお祭りが開かれていた。
カナデは、誰にも気づかれることなく、その賑わいの中を、ふわり、と漂っていた。
ふと、彼は、広場の、片隅に、一人、ぽつんと座っている、一人の少年プレイヤーに、気がついた。
まだ、始めたばかりなのだろう。装備は、みすぼらしく、どうやら、パーティの仲間とはぐれてしまい、途方に暮れているようだった。
(昔の、俺みたいだな……)
カナデは、苦笑した。
自分も、最初は、独りだった。何をすればいいか分からず、ただ、地面を掘ることしかできなかった。
もし、あの時、メイプルとケンに出会わなければ。
もし、リリアに出会わなければ。
自分の物語は、始まらなかったかもしれない。
何か、してあげたい。
だが、今の自分は、観測者。世界に、直接、干渉することはできない。
もどかしい思いで、その少年を見つめていた、その時。
「――どうか、しましたか? 何か、お困りですか?」
少年の前に、一人の、黒髪の青年NPCが、すっ、と現れた。
新米ガイドの、『旅人』。
カナデの、冒険心の化身。
「あ、えっと……」少年は、戸惑いながらも、事情を話した。「仲間と、はぐれちゃって……。この先の、ダンジョンに行く約束だったのに……」
「なるほど」旅人は、にこやかに頷いた。「それなら、俺が、案内してあげましょう。近道を、知っていますから」
旅人は、少年の手を引くと、街の、裏路地へと入っていった。
そして、一見、ただの行き止まりの壁に、そっと、手を触れた。
「少し、失礼」
すると、壁が、まるで、幻だったかのように、すり抜けられる、隠し通路へと変わった。
「ええっ!?」
「さあ、こちらへ。これなら、すぐに、ダンジョンに、追いつけますよ」
その光景を、カナデは、温かい気持ちで、見守っていた。
そうだ。
自分がいなくても、もう、大丈夫なんだ。
自分の『お節介』な魂は、こうして、新しい形で、この世界に生きる、誰かの、小さな一歩を、手助けしている。
それこそが、自分が、本当に、望んでいたことなのかもしれない。
満足したカナ-デは、その場を離れ、最後に、思い出の場所である、『星降りの高原』へと、向かった。
そろそろ、ログアウトの時間だ。
高原の丘の上に、一人、腰を下ろし、降り注ぐ、光の綿毛を、眺める。
いつもの、穏やかな、最後の時間。
「……先輩」
不意に、背後から、声をかけられた。
振り返ると、そこに、あの『旅人』が、立っていた。
その手には、一輪の、勿忘草が、握られている。
「……どうして、俺のことが、ここにいるって、分かったんですか?」
カナデは、驚いて、尋ねた。
「さあ、どうしてでしょうね」旅人は、悪戯っぽく笑った。「なんとなく、ですよ。あなたが、一番、好きな場所だから」
二人の、カナデが、並んで、丘の上に座る。
奇妙で、しかし、どこまでも、自然な光景。
「……ありがとう」カナデは、静かに言った。「この世界を、楽しんでくれて」
「礼を言うのは、こっちの方ですよ」旅人も、静かに応えた。「こんな、最高に、わくわくする、遊び場を、創ってくれて」
二人の間に、言葉は、もう、なかった。
ただ、同じ、創造主の魂を持つ者同士、その想いは、確かに、通じ合っていた。
やがて、旅人は、立ち上がった。
「じゃあ、俺は、もう行きます。まだ、助けを待ってる、迷子の誰かさんが、いるかもしれないんでね」
彼は、手に持っていた、勿忘草を、カナデの足元に、そっと、置いた。
「これは、リリアさんからの、預かりものです。『いつまでも、忘れないで』、と」
旅人は、手を振ると、丘を駆け下り、再び、冒険の世界へと、旅立っていった。
カナデは、足元に置かれた、一輪の勿悠草を、そっと、拾い上げた。
花の、優しい香りが、彼の心を、満たしていく。
もう、思い残すことは、何一つない。
この世界は、完全に、自立し、そして、新しい物語を、紡ぎ始めている。
自分の、観測者としての、役目も、もう、終わりなのかもしれない。
(……ありがとう。俺の、最高の、物語)
カナデは、最後の感謝を、胸に、ログアウトのコマンドを、心の中で、唱えた。
彼の、半透明のアバターが、光の粒子となって、高原の風に、溶けていく。
それは、穏やかで、満足に満ちた、創造主の、最後の、退場だった。
風見奏太は、現実世界で、ゆっくりと、目を開けた。
窓の外は、美しい、朝焼けに染まっていた。
新しい、一日が、始まる。
もう、ゴーストダイブをすることは、ないだろう。
だが、彼の心は、不思議なほど、晴れやかだった。
彼は、立ち上がると、机に向かった。
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