3 / 14
自身の罪
しおりを挟む
鏡を見つめていると、そこに文字が現れた。
『あなたは彼女を憎んでいましたか?』
読み終わると文字はふっと消え、鏡に一人の女性が浮かんだ。
スラリと長く伸びた髪が軽くまとめられ閉じられた両目も合わせて神秘的な雰囲気のある女性だった。年は自分のつ上だったから二十歳前半だ。
しかし、その割には少し老けているような印象を受ける。何も見た目という話じゃない。どことなく人生に疲れ切った雰囲気があったのだ。
「ああ、憎かった」
言いようもない苦しさを吐き出すように声が出た。彼女こそが自分の罪。彼女は自分が殺した女性だった。
鏡は急に鏡面を黒く染め何も映さなくなった。
次の鏡にいけということだろうか?
噂話程度に話は聞いていたがいざ自分が囚われてみるとどうすればいいかまるで分らない。
人の話をもっと聞くべきだったと後悔する。とはいえ、あそこで俺とまともに話をしてくれる人などほとんどいなかったが。
裕翔は軽くため息をつくとまた階段を登りだした。
強い風が吹き、伸びた髪が鬱陶しく揺れ動く。
あいつに裏切られてから髪は切っていなかった。正確に言えば髪を切る暇さえなかった。常に息をひそめて洞窟に身を隠し、おびえて過ごした夜など両手で数えられない。
その発端となったのがあいつだった。胸の奥がまたざわめき立つ。
あいつのことは最後までわからなかった。俺がこの手で殺したとき、あいつは何も言わなかった。俺を罵倒もせず、抵抗もせず、死ぬとわかっていても苦悶の表情すら見せなかった。
その疲れ切った顔に浮かんでいたのは俺に対する哀れみだったのだろう。
考え事をしているうちに次の踊り場までたどり着いた。そこにある鏡はまだ黒く濁っていない。
だいぶ階段を上ったせいか太陽が近く感じる。
流れる汗は、暑さによるものだろうか?それとも次に何を聞かれるか不安になっているのだろうか?
頭を振っていやな考えをはじき出す。
俺はもう由香を殺してしまっている。今更何を怖がることがある。
ここから出るにはいつかは向き合わなくてはならない。遅いか早いかの違いだけだ。
一度諦めをつけると胸はスッと軽くなった。きっとそれはどうにもならないことには慣れてしまったからだろう。
『あなたはなぜ人を殺したんですか?』
鏡に映ったのはまた質問だった。どんなものが来るか気を張っていたが、その理由ならばはっきりと答えられる。
目をつぶればあの日の光景が鮮明に浮かび上がった。あいつ、由香が俺を裏切った日は突然だった。
『あなたは彼女を憎んでいましたか?』
読み終わると文字はふっと消え、鏡に一人の女性が浮かんだ。
スラリと長く伸びた髪が軽くまとめられ閉じられた両目も合わせて神秘的な雰囲気のある女性だった。年は自分のつ上だったから二十歳前半だ。
しかし、その割には少し老けているような印象を受ける。何も見た目という話じゃない。どことなく人生に疲れ切った雰囲気があったのだ。
「ああ、憎かった」
言いようもない苦しさを吐き出すように声が出た。彼女こそが自分の罪。彼女は自分が殺した女性だった。
鏡は急に鏡面を黒く染め何も映さなくなった。
次の鏡にいけということだろうか?
噂話程度に話は聞いていたがいざ自分が囚われてみるとどうすればいいかまるで分らない。
人の話をもっと聞くべきだったと後悔する。とはいえ、あそこで俺とまともに話をしてくれる人などほとんどいなかったが。
裕翔は軽くため息をつくとまた階段を登りだした。
強い風が吹き、伸びた髪が鬱陶しく揺れ動く。
あいつに裏切られてから髪は切っていなかった。正確に言えば髪を切る暇さえなかった。常に息をひそめて洞窟に身を隠し、おびえて過ごした夜など両手で数えられない。
その発端となったのがあいつだった。胸の奥がまたざわめき立つ。
あいつのことは最後までわからなかった。俺がこの手で殺したとき、あいつは何も言わなかった。俺を罵倒もせず、抵抗もせず、死ぬとわかっていても苦悶の表情すら見せなかった。
その疲れ切った顔に浮かんでいたのは俺に対する哀れみだったのだろう。
考え事をしているうちに次の踊り場までたどり着いた。そこにある鏡はまだ黒く濁っていない。
だいぶ階段を上ったせいか太陽が近く感じる。
流れる汗は、暑さによるものだろうか?それとも次に何を聞かれるか不安になっているのだろうか?
頭を振っていやな考えをはじき出す。
俺はもう由香を殺してしまっている。今更何を怖がることがある。
ここから出るにはいつかは向き合わなくてはならない。遅いか早いかの違いだけだ。
一度諦めをつけると胸はスッと軽くなった。きっとそれはどうにもならないことには慣れてしまったからだろう。
『あなたはなぜ人を殺したんですか?』
鏡に映ったのはまた質問だった。どんなものが来るか気を張っていたが、その理由ならばはっきりと答えられる。
目をつぶればあの日の光景が鮮明に浮かび上がった。あいつ、由香が俺を裏切った日は突然だった。
0
あなたにおすすめの小説
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる