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終わりの始まり
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気づくと目の前の鏡は黒く染まっていた。
これでようやく納得できた。俺の罪の原因、それはやはり俺が何も考えずに生きてきたからだ。
いろんなことを諦めたふりをして、実際はただ考えることを放棄していただけだ。
俺の罪は、そんな俺の生き方からすべて生まれたのだ。
『違う!もっとちゃんと見て!』
突如頭の中で少 女の声が響き渡った。はっとして辺を見回す。
その声の主を間違えるはずがなかった。全身を駆け巡る衝撃に思わず体が震える。
「由香……なのか?」
答えは帰って来なかった。だが、由香だと言う確信が裕翔の心を揺さぶった。
次の鏡へ向かって走るのに対した時間はかからなかった。
自分でも何故走っているのかわからない。次の鏡で由香に会える保証なんてない。仮に会えても、由香にかける言葉なんて全く思いつかない。
だが言いようのない焦燥感が裕翔を走らせ続けた。こんなに走ったのはもしかしたら村長が死んだ日以来かもしれない。
たどり着いた鏡台は特に異変がなかった。だが、直感的にわかった。この鏡が何か今までと違うということに。
裕翔は恐る恐る鏡に触れる。その鏡はまるで血の通った人間のように暖かかった。
『思い出して!』
鏡に浮かんだ文字はそれだけだった。だが、その文字には今までと比較にならないほどの意味が籠もっていた。
当たり前だ。いくら短くともその言葉に込められた感情はけして消えない。
文字が消えて、代わりに由香と海場の姿が鏡に出現する。自分が知らない秘密を見ているとすぐに理解できた。裕翔は食い入るように鏡を見る。
『それがお前の選択か?裕翔はお前を恨むだろうな』
『わかってる。でも裕翔のためだから。あなたこそいいの?』
『俺の望みは村の秩序だ。『迷宮』なんていう膿は消さなくてはいけない。人をさばくのは人だけだ。それでのみ秩序は保たれる。』
『裕翔は生き延びてくれるかしら』
『安心しろ。あいつは強い。だが、万が一の時はお前が裕翔を殺せ。裕翔が『迷宮』に囚われてほしくなければな』
『そんなことは認めない!死ぬのは……私よ』
『どちらでも構わない。要は器となる人間が資格がはく奪されるか消滅すればっ』
突如力尽きたように鏡が粉々にはじけ飛んだ。感じていたぬくもりは失われ、鏡は黒く変色していく。
異変はそれだけでは終わらない。まるで昼から夜に代わったように空が黒く染まっていく。その様子は鏡が変色していく様子とあまりに酷似していた。
何が起こっているかわからず裕翔は困惑しながらあたりを見回す。
『時間がない!急いで!』
頭の中で、また由香の言葉が響いた。裕翔ははじかれたように次の階段を駆け上がろうとする。
しかし、地震が起きたように一度大きく揺れると、階段は轟音を響かせ崩壊を始めていった。
「ここで引くわけにはいかない。何かがつかめそうなんだ!」
どこから湧いてきたのかわからないほど力が満ちるのを感じ、勢いに身を任せて崩れ行く階段に飛び込んだ。
つい先ほどまで踏み込んでいた場所が次の瞬間には跡形もなく崩れ去っている。鳴り響く轟音は思考力を鈍らせ、判断を遅らせる。
それでも裕翔は食らいつくように階段を上る。
バリンっと嫌な音がした方を見ると、向かっている場所とは異なる足場の鏡台が花火のように破片を散らせて割れていった。
この空間も終わりが近いのかもしれない。そんなことを思っていると、不意に大きな揺れがまた起こり、目の前で崩落が起こった。
上に進むには一か八か飛ぶしかない。
足に力を込める。
下を見る余裕なんてない。挑戦権は一度だけ。
失敗すれば次なんてないだろう。
「うおおぉぉぉぉ!」
裕翔は雄たけびとともに宙を舞った。
眼前に目指していた足場が迫る。高度が足りてない。
着地は不可能だ。
「諦めるか!」
精一杯手を伸ばす。
その手は何人もの人の命を奪ってきた手だった。
血でぬれた汚らわしい手だった。
成り行きに身を任せて、流されるままにふるった手だった。
しかし、今だけは違う。
自分の意志で見つけ出したい真実がある。
だからこそ、必死に伸ばすのだ。今度こそは奪うためでなく、つかみ取るためにその手をふるう。
そしてその手は、間一髪のところで足場をつかんだ。そのまま足場へとよじ登る。
目の前には、まるで待っていたかのようにまだ壊れていない鏡が立っていた。
『思い出して!あなたが忘れさせられていたすべてを!』
鏡に文字が浮かんだ途端、波が押し寄せるように記憶があふれ裕翔はめまいとともに意識を失った。
これでようやく納得できた。俺の罪の原因、それはやはり俺が何も考えずに生きてきたからだ。
いろんなことを諦めたふりをして、実際はただ考えることを放棄していただけだ。
俺の罪は、そんな俺の生き方からすべて生まれたのだ。
『違う!もっとちゃんと見て!』
突如頭の中で少 女の声が響き渡った。はっとして辺を見回す。
その声の主を間違えるはずがなかった。全身を駆け巡る衝撃に思わず体が震える。
「由香……なのか?」
答えは帰って来なかった。だが、由香だと言う確信が裕翔の心を揺さぶった。
次の鏡へ向かって走るのに対した時間はかからなかった。
自分でも何故走っているのかわからない。次の鏡で由香に会える保証なんてない。仮に会えても、由香にかける言葉なんて全く思いつかない。
だが言いようのない焦燥感が裕翔を走らせ続けた。こんなに走ったのはもしかしたら村長が死んだ日以来かもしれない。
たどり着いた鏡台は特に異変がなかった。だが、直感的にわかった。この鏡が何か今までと違うということに。
裕翔は恐る恐る鏡に触れる。その鏡はまるで血の通った人間のように暖かかった。
『思い出して!』
鏡に浮かんだ文字はそれだけだった。だが、その文字には今までと比較にならないほどの意味が籠もっていた。
当たり前だ。いくら短くともその言葉に込められた感情はけして消えない。
文字が消えて、代わりに由香と海場の姿が鏡に出現する。自分が知らない秘密を見ているとすぐに理解できた。裕翔は食い入るように鏡を見る。
『それがお前の選択か?裕翔はお前を恨むだろうな』
『わかってる。でも裕翔のためだから。あなたこそいいの?』
『俺の望みは村の秩序だ。『迷宮』なんていう膿は消さなくてはいけない。人をさばくのは人だけだ。それでのみ秩序は保たれる。』
『裕翔は生き延びてくれるかしら』
『安心しろ。あいつは強い。だが、万が一の時はお前が裕翔を殺せ。裕翔が『迷宮』に囚われてほしくなければな』
『そんなことは認めない!死ぬのは……私よ』
『どちらでも構わない。要は器となる人間が資格がはく奪されるか消滅すればっ』
突如力尽きたように鏡が粉々にはじけ飛んだ。感じていたぬくもりは失われ、鏡は黒く変色していく。
異変はそれだけでは終わらない。まるで昼から夜に代わったように空が黒く染まっていく。その様子は鏡が変色していく様子とあまりに酷似していた。
何が起こっているかわからず裕翔は困惑しながらあたりを見回す。
『時間がない!急いで!』
頭の中で、また由香の言葉が響いた。裕翔ははじかれたように次の階段を駆け上がろうとする。
しかし、地震が起きたように一度大きく揺れると、階段は轟音を響かせ崩壊を始めていった。
「ここで引くわけにはいかない。何かがつかめそうなんだ!」
どこから湧いてきたのかわからないほど力が満ちるのを感じ、勢いに身を任せて崩れ行く階段に飛び込んだ。
つい先ほどまで踏み込んでいた場所が次の瞬間には跡形もなく崩れ去っている。鳴り響く轟音は思考力を鈍らせ、判断を遅らせる。
それでも裕翔は食らいつくように階段を上る。
バリンっと嫌な音がした方を見ると、向かっている場所とは異なる足場の鏡台が花火のように破片を散らせて割れていった。
この空間も終わりが近いのかもしれない。そんなことを思っていると、不意に大きな揺れがまた起こり、目の前で崩落が起こった。
上に進むには一か八か飛ぶしかない。
足に力を込める。
下を見る余裕なんてない。挑戦権は一度だけ。
失敗すれば次なんてないだろう。
「うおおぉぉぉぉ!」
裕翔は雄たけびとともに宙を舞った。
眼前に目指していた足場が迫る。高度が足りてない。
着地は不可能だ。
「諦めるか!」
精一杯手を伸ばす。
その手は何人もの人の命を奪ってきた手だった。
血でぬれた汚らわしい手だった。
成り行きに身を任せて、流されるままにふるった手だった。
しかし、今だけは違う。
自分の意志で見つけ出したい真実がある。
だからこそ、必死に伸ばすのだ。今度こそは奪うためでなく、つかみ取るためにその手をふるう。
そしてその手は、間一髪のところで足場をつかんだ。そのまま足場へとよじ登る。
目の前には、まるで待っていたかのようにまだ壊れていない鏡が立っていた。
『思い出して!あなたが忘れさせられていたすべてを!』
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