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第二章 シルフェリアとの別れとイリスの覚悟

37話 「迫り来る世界大戦の足音」その2

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「東の大陸で大規模な「硝石」の鉱脈が発見されたのじゃ」
硝石=硝酸カリウム、火薬の主要な原材料の一つだ。

「硝石?!・・・・・・・・・それはどの様な鉱物なのですか?」
さすがのイリスでも異世界の「黒色火薬」の事などは知らない。

「うむ、イリスも「榴弾砲」を見たであろう?あれの主要な原材料なのじゃ」

「うっ!アレの材料でしたか・・・それは厄介ですね」
榴弾砲の破壊を間近で直接見たイリスは渋い表情になる。

確かにあの榴弾砲の威力・・・あんな物がゴルド王国に渡ると世界的にも碌な事にならない。

絶対に侵略の切り札として使われる事だろう。

「そして妾達の見立てではゴルド王国・・・後ろに居る魔族達は榴弾砲の詳細な情報を持っていると思われる。
今まで連中が榴弾砲を実戦で使用して来なかったのは硝石が見つけられ無かったからだと思われるのじゃ」

「その彼等が探していた硝石が東の大陸で見つかってしまったと?」

「その通りじゃ。
いずれは連中にも硝石の鉱脈の事はバレるであろうが、なるべく時間を稼いでこちらの榴弾砲の数を揃えておきたいのじゃ」

「あの船に榴弾砲が搭載されていたのは、その実験だったと言う訳ですね?」

「うむ、このまま研究が進めば、いずれ口径は倍になるであろうて」

「あの威力の倍・・・ですか」
ラーデンブルクでアレの研究が続けられる事にも少し危機感を抱くイリス、研究し続けて良い物なのか?と不安になる。

しかしまだまだ新技術である榴弾砲への認識が甘いクレア達、口径が倍になると威力は2乗倍になり4倍の破壊力になるのだ。

当然、その分その威力に耐えれる合金の鉄鋼加工技術力も高度化してしまい今の技術力では不可能だろう。

ワンチャンで地龍なら作れるかも知れないが世界の治安を司る彼等がそんな危険物を作るはずが無い!

・・・・・・・・作らないよね?大丈夫だよね?!

最終的に射程約30kmの180m榴弾砲(カノン砲)がこの世界で開発されるのは技術革新が終わる200年以上も先の話しになる。

現時点では完全なオーバーテクノロジーを巡る戦いになるのだが、国家間の戦争の原因としては充分過ぎる理由になるだろう。

「しかし何で急に硝石なんて話しが浮上したのですか?」

「元々はゴブリン達が釜戸の燃料に使っていたのよ。あの辺は薪が少ないからね」

イリスの質問にはゴブリン達の事実上の指導者のホワイトが答える。

鬼族の作った街は海辺にあり背が低い木々しか生えない地域なのだ。

建設に必要な木材は何とか揃えられるが燃料としての薪を確保するのは至難の業になってしまったのだ。

ほとんどがラーデンブルクからの輸入に頼っていたのだ。

しかしある日の事、なんか知らんが室内の壁の材料に使っていた白い石が急に燃えて火事の騒ぎになった事があった。

燃えた石を調べていく内に粉々に砕くと良く燃える事が判明した。

地球の硝石は単体では燃えないのだがこの世界の硝石は構成原子が若干違うのか分からないが細かく砕くと蝋燭の様にチリチリと長時間燃えるのだ。

それからと言うもの慢性的な薪不足に悩んでいた庶民達が喜んで硝石を釜戸の燃料に使い始めたのだ。

街近郊の岩場のそこら辺に大量に転がっていた、その燃える石は化石燃料としてラーデンブルク公国へと輸出された。

それを受けてラーデンブルク公国の検閲部門の方で石に毒性は無いか?とかの検査を続けて行くと、この石が古文書にあった「黒色火薬」に使われていた硝石だったと分かったのだ。

そこから黒龍王ラザフォードの、超うら覚えの地球の火薬技術の説明が加わるとアッサリと「黒色火薬」の再現に成功してしまった・・・

「うーんと?硝石がたくさんにちょっとの硫黄を加えるんだったかな?
えーと??まだもう一つ・・・うーん??あれぇ?何だっけ?」

こんな感じな本当に超うら覚えで、もう一つの材料が分からず少し再現するのに難航したのだが、

「・・・炭を混ぜて見ませんか?何せ「黒色」なんて名前ですし」と、超大当たりを引き当ててしまう研究者達・・・・マッドサイエンストとは恐ろしい者じゃのう。

確かに硝石と硫黄を混ぜた粉末はクリーム色で黒には、ほど遠かったので色的に燃え易い黒い物をピックアップしたのだ。

「どのくらい入れる?」

「色が付く程度で良いんじゃね?」

「あっ!綺麗な黒色になりましたよ!」

「おおー!早速実験じゃな!」

「燃え広がると危ないので鉄包に入れて・・・と」

またまた鉄包に火薬を圧縮すると言う超絶大当たりを引き当てる研究者、恐る恐ると鉄包に松明の火を近づけて見ると・・・

ドッカアアアアアンンン!!!ガラガラ!ガッシャアアンン!!

鉄包から予想すらして無かった猛烈な火柱が上がり、お約束通りに研究室の屋根を吹き飛ばしてしまったのだった。

ここに硝石75%、硫黄15%、木炭10%の完璧な配合の黒色火薬が誕生したのだ。
無論この事には、すぐ緘口令が出されたのは言うまでも無い。

この研究結果にラーデンブルク公国の上層部は大混乱になった。

「何事?!」吹き飛んだ屋根を呆然と見上げるクレア。

これこれこう言う訳だと説明を受けたクレアは、
「最初から研究の申請をせんかい!」とブチ切れた!

ただ研究は随時続けられて、古文書に記載されていた80mm榴弾砲をマッドサイエンスト達が作り上げるのに1年と掛らなかったのだ。

「アレってどう言う理屈で爆発しているんですか?」
榴弾砲が出来た経緯は分かったので仕組みついて興味が沸くイリス。
既に晩餐会で話す内容では無いが参加全員が興味津々なので別に良かった。

「カチリらしいぞ?」

「カチリ?」

「うむ、カチリだそうじゃ」

どうやらラーデンブルクでは信管の事を「カチリ」と呼ぶらしい。
何でそんな名前になったかと言うと、これまたラザフォードが、「確かカチリと火花が出るはずです」とか言ったからだ。

「弾の先端に石英?だったかな?と鉄板を付けておいて弾が当たるとカチリと火花が散ってドカンとなるはずです」

こんな説明でもちゃんと信管を作ってしまったマッドサイエンスト達・・・

「足に硝石を付けて火をつければ空飛べるかな?」
そんな超不吉な事を言い始めたイリスだった・・・
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