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第二章 シルフェリアとの別れとイリスの覚悟

59話 「竜の風」

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「さあ!皆んな!メインは風を起こす試験だけどキッチリと訓練もするよ!
各小隊!離陸態勢!離陸後は山間を旋回して緊急着陸の訓練だよ」

オオオオオーーー!!と気合いを入れる龍騎士達。

「離陸!!」
エリカの号令で先頭のテレサが飛び立つ!続けて300体の竜達も次々に離陸して行く。

フオオオオオオオ・・・・・・・・

竜達が飛んだ直後に羽風で谷間の空気が揺れる・・・・・・そして。

ゴオオオオオオオオオオオ・・・・・・・

空気が振動して、濃い密度で均衡を保っていた温かく湿った空気が竜達の航跡を辿って流れ始めた。
その一筋の空気の線に周囲に停滞していた大量の冷たい空気が流れ込み・・・

ビュウウウウウウウウウウ・・・・・・・

突風となってグリプス王国の山岳地帯の全域に強風を走らせたのだ!

「ろろろロテール陛下!!風が!風が吹きました!!」
年に数回しか感じた事がない強風に大興奮のハドソン隊長。

「ああ・・・やっと・・・やっと風が戻って来ました・・・」
ロテールも顔に風を感じて、感が極まりハラハラと涙を溢す。

やったね!試験は大成功だ!

やはり人1人の魔法が起こす風より大多数の者が起こす自然の風の方が遥かに強力だと実証された瞬間だ。
自然の力ってやっぱり凄いモノなのだな・・・

「「エリカ!!山間部からもの凄い上昇気流が来ましたわ!!」」

「よし!成功だね!!このまま上昇気流に乗って急上昇訓練を始める!」

エリカの号令で300名の龍騎士が一斉に急上昇を始める。
このド迫力な光景はグリプス王国の各村落からも見えていたと言う。

これもイリスが毎日せっせと竜達と交流して勧誘して新兵を鍛えた地道な努力が実を結んだ結果だ。
良い所は全部エリカに取られてしまったが・・・

いずれにしてもグリプス王国への計画の第1段階は成功した。
これから風の影響を受ける農作物の状態を見ながら、試行錯誤しながらの長い時間を掛けての農業改革がグリプス王国で行われるだろう。

農業は1日で成らずなのだ。

しかし、この功績でエリカは益々グリプス王国の人々に「救国の女神」と崇められる事になるのだ。

「女神エリカ様ーーーー!!」ウオオオオオオオオーーー!!!
訓練でエリカが飛ぶ度に民衆の大歓声が上がる!




「勘弁して下さい!助けて下さい!ロテール陛下!」

「ここまで来たらエリカ将爵に王位を譲った方が良いのかしら?」

ロテールは国民に対する責任感は有るが権力には全く興味は無い。
エリカに王位を譲る企みを本格的に始める。

「本当にやめて下さい!!!
あっ!!それならイリスを生贄に捧げます!!」

それに対して自分の友達をアッサリと売り飛ばそうとするエリカ。

この話しを聞いたイリスは、
「え?ラーデンブルクがあるから無理だよ?エリカがやれば良いじゃん?」
と華麗にかわしてしまう。

分かっていたがイリスも権力になんてモノには全然興味は無いのだ。

「王権なんかより食糧問題が最優先課題です!」
必死なエリカの正論に説得されてグリプス王国はロテール王のまま継続して行くのだ。

「エリカさんが女王をしてくれたら安心なのに・・・」

「私にはグリフォンを探す目的もあるから無理です!」
そうなのだ一向に捗らないグリフォンの捜索・・・彼らはどこに居るのだろうか?
まあ、儂は知ってるけどね!

これは天龍の管轄の問題なので儂には何も言えんのだよ。

エリカよ・・・自力でガンバ!

グリプス王国にグリフォンが戻って来る日はまだ遠い。





こうしてエリカがグリプス王国で悪戦苦闘している時、ラーデンブルク公国でも大きな動きがあった。

「クレア公爵!西の大陸からの艦艇150隻がこちらへ向かって来てます!
おそらく海上封鎖を狙っていると思われます!」

「うむ、やはり来たか・・・ホワイト侯爵よ準備はどうじゃ?」

「東部沿岸部の要塞化は終わっているわ。
真魔族からの技術提供で要塞砲は250mmまで口径が上がっているから沿岸部から艦隊への砲撃は充分に可能です。
・・・・・・・・・・・・・・・・・どうします?」

「封鎖したいならやらせておけ。
但し!沿岸部まで15kmまで近づいたら問答無用で攻撃すると艦隊に警告を出せ。
北部沿岸部の様子はどうじゃ?」

「イリスの作戦が成功しているので中央大陸の反ラーデンブルクの勢力はグリプス王国で釘付け状態よ。
西の大陸と連携しての侵攻は不可能ね、でも沿岸部の要塞化は随時進めているわ」

「うむ、グリプス王国への食糧支援は最優先で行う様にイリスに伝えよ。
西の大陸のヴィグル帝国との交渉はどうか?」

「ゴルド王国は無駄にこちらに戦力を割いたから、ヴィグル帝国にチャンス到来ね。
こちらとの交渉関係無しに攻撃を開始するはずよ?
それからヴィアール共和国と交渉はしないの?」

「一応使者は送ったが何を考えてるか読めんので放置じゃな」

「じゃあ接近している艦隊撃破を最優先軍事目標に設定して動くわ」

こんな感じにラーデンブルク公国にも戦火が急速に迫って来ているのだ。
グリプス王国への支援も決して好意による無償のモノでは無い。
ラーデンブルク公国の国家戦略の一環としてグリプス王国を利用して敵勢力を分断する為に行われているのだ。

そのおかげでグリプス王国の国家危機は回避されたのでグリプス王国にとって悪い事では無いがな。




「分かりました。
龍騎士隊イリスはグリプス王国への食糧輸送を最優先で行い、上空からゴルド王国艦隊を監視します」

軍令部からの司令書を確認してイリスも本格的に動き出す。
今回も主戦場からは離れているが機動力を活かした遊撃戦を開始するのだ。

「後は・・・アレの準備ね」悪い顔をしたイリスがニヤリと笑う。

アレとは「投下型爆弾」の事だ。

エリカから地球での戦いのやり方を聞いて準備だけはしていたのだ。
材料が足りなくて実戦配備は出来ていなかったのたが・・・

食糧品の代金として鉄鉱石、砂、硫黄が大量にグリプス王国からイリスの元へ運び込まれているのだ。

硝石は沢山産出されるラーデンブルク公国だが硫黄は余り無くて火薬製造が上手く行って無かったが、棚からぼた餅で大量の硫黄が手に入っていたのだ。

投下型爆弾の鉄製容器を使った圧縮爆発試験も信管などの安全装置の開発も真魔族からの技術提供のおかげで順調に進み、今は50kg爆弾の量産体制に移行している。

実験して見たら竜達は騎乗者の龍騎士の他に200kgくらいなら背中の乗せても余裕で飛べるのだ。

「キュイキュイイイーン!!」(もっともっと乗せれるよー!!)

「そんなに無理しなくて良いからねー、疲れちゃうからね」
殺る気マンマンの竜の鼻先を撫でるイリス。

空中を飛ぶ龍騎士150名による高度1000mからの50kg爆弾約500発の爆撃・・・
あれ?これってマジでヤバくね?つーか考える事が怖いわ!イリス!

だからラーデンブルクで大人しく待っていたんかい?!
めっちゃ面白いので爆弾を真魔族にも下さい!

ふははははは!愚か者共の頭の上に爆弾の雨を降らしてくれるわ!!!
まぁ儂は、そんな事やらないけどね・・・しかしイリスは必ずやる!

龍騎士隊イリスによる世界初の艦隊への爆撃作戦が決行されるのだ。
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