2 / 8
一章 ✕✕たい
一話
しおりを挟む新学期になったばかりの春。
「アハハ!! 死ーね、死ーね!」
耳元でささやかれたその声が、俺の胸をぎゅっと締め付けた。
「なぁ、奈々絵、お前これ履けよ。こいつより似合うんじゃねぇの?」
スカートを俺の前に投げ捨て、草加は言う。
「返しなさいよ!!」
体操着のズボンを履いている佐藤が涙目でそう言ってるのを見て、少し申し訳ない気持ちになった。
ここは公立の小学校の四階の隅にある教室だ。窓にはカーテンがかかっている。故に佐藤を助けれるのなんて、せいぜい廊下にいる人間しかいない。もちろん、俺を助けられるのもだ。
それに、今は十分休みで廊下に出てる奴も少ないから、俺と佐藤は誰にも助けてもらえない。
「おい、奈々絵」
赤羽奈々絵なんて名前、大抵の奴が女だと思う。俺はこの名前も自分の容姿も嫌いだ。
女みたいに長い、七ミリくらいあるまつげ。細い小五の平均体重より十キロは軽い身体。百四十くらいの身長。本当になんでこんな気持ち悪い身体で生まれたのか。神様は最低だ。
俺は元々人付き合いが得意な方ではなくて、クラスに一週間たっても馴染めなかった。それが気にくわなかった草加達に目をつけられ、毎日いじめられている。もういじめられてから一週間は過ぎた。
「無視してんじゃねえよ、履けよ。でないと、口にスカート突っ込むぞ」
床に投げ出されているスカートを掴んで、草加は言う。
女っぽい名前と容姿だからって恐ろしすぎる脅しだ。質が悪い。
「「「「はーけ!はーけ!」」」
俺と佐藤の周りを取り囲んでいた男達が、一斉に声をあげた。草加の取り巻きだ。ざっと五人くらいはいる。
「痛っ?」
取り巻きのうちの一人が、左手で俺のズボンを引っ張る。もう片方の手でベルトを外し、ニィっと悪魔のような笑みを零した。
「アハハ!! おい蘭、流石にそれはひでぇんじゃねぇの?」
草加が声を上げて笑った。哀れみに満ちたような、ひどい笑い方だ。
「だってこれじゃあ、拉致が明かねぇだろ。お前らも手伝えよ。逃げらねぇよう、足でも踏んどけ」
「痛っ!!」
両足を掴まれ上履きを脱がされる。靴下の上から、足にカッターを刺された。踏むのと痛みが雲泥の差だ。
羞恥心と辛さと痛みでどうにかなりそうだ。思わず涙が零れる。
「うわっ、こいつ泣いてんだけど。まじ女子なんじゃねぇの?」
「草加、それじゃあ女はみんな泣き虫だと思ってるみたいに聞こえるぞ」
蘭が呆れたように言う。
「えー泣き虫っしょ。佐藤だってたかがスカートで泣いてるし」
お前らの基準が狂っていると毒づきたくなった。
ズボン脱がされそうになって泣くなって、大抵の男が無理だろ。スカートもそうだ。ノリでされたにしたって辛い。酷いにも程がある。
「草加、カッター抜け。ズボン脱がす」
足首まで刷り降ろされた俺のズボンを見ながら、蘭は言う。
「はいはい」
「痛っ!!」
抜かれた二本のカッターから、血がポタポタと垂れていた。床も俺の血でかなり赤く染まっている。
――悪魔だ。非情にもほどがある。最低だ、この二人。この光景を笑いながら見てる取り巻きの奴らも。
「じゃあ履かせちゃいますかー?」
草加の声に頷き、蘭は俺からズボンを完全に脱がせた。
スカートに俺の足を片足ずづ入れて、草加は笑う。
「やめろっ!!」
掠れた弱々しい声が漏れた。
「黙れよ。でないと、ズボン捨てるぞ」
完全に脅しだった。
「じゃ、いきまーす!」
スカートのチャックを上まで上げて、草加は俺の背中を叩いた。
「お前、マジで女子じゃん!」
本当に狂っている。
「うわっ!?」
俺は草加の手を振り払い、逃げようとした。だが、草加に足をかけられ、盛大に転んだ。
「おい、誰が逃げていいって言ったんだよ。まだ上が終わってないだろうが。黙って従えよ。そしたらその分佐藤も早く制服が着れんだから。人助けだと思って頑張れよ」
何もかも狂っている。
つまり草加は、俺と佐藤の服を取り換えようとしているのだ。
いじめにしたって限度がある。
「……あんたが、履け」
掠れた声で言う。
「は?」
俺は草加の足を掴んだ。両手で草加の足を引っ張る。机の上に座っていた草加は、床に尻餅をつく。
「痛っ!」
草加は苦痛に顔をゆがめる。
「草加! 大丈夫か。立てるか?」
蘭は片手を差し出し、草加を立ち上がらせる。その隙を見て俺は立ち上がり、廊下に飛び出した。
一つ下の階に降りて、辺りを見回す。五年二組の教室の向かい側に、空き教室があった。俺は中に人がいないのを窓を見て確認してから、そこに入った。
「はぁっ、はぁっ……」
床に座って、息を整えながらうち履きと靴下を脱いだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる