現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話

そう

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5話同居人とショッピング

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まず何が必要なのか。
それを考え始めた瞬間、悠人は思考の迷路に迷い込んでいた。

服。
生活用品。
最低限の常識。

一人暮らしの延長ではあるが、「自分以外の誰か」が生活するとなると話は別だ。
しかも相手は、常識という言葉が辞書に載っていない可能性がある。

(……誰かに相談するべきか?)

一瞬、とある人物の顔が浮かんだ。

会社の後輩――ゆき。
世話焼きで現実主義で、非常時に頼れそうな稀有な存在。

(いや、無理だ)

即座に打ち消す。

「夢で会ったサキュバスが同居してます」
そんな説明、どう転んでもアウトだ。
社会的にも。客観的にも。常識的にも。

悠人は小さくため息をついた。

「……なあ、ホル」

「なあに?」

リビングのソファで、くつろぎ始めたホルに声をかける。

「自分の荷物、取りに行けないか?」

ホルは一瞬きょとんとし、それから首を振った。

「うーん……今は無理。少なくとも、一ヶ月くらいは」

理由を聞いても、返ってくるのは曖昧な説明ばかり。
追求しても全く意味はなさそうで。

(……今月を乗り切るしかないな)

そう思うには充分だった。



近くのショッピングモールは、休日らしい賑わいを見せていた。
家族連れ、カップルや学生たち。
その人波の中で、悠人は異様な緊張を感じていた。

原因は勿論、隣にいるホルだ。

ホルはスタイルが良く、露出の多い服の上から俺のコートを羽織っている。
一応前を留めてはいるが、それでも視線を集めるのは避けられない。

(……注目されている)
そりゃあそうか、物凄い美人だしな。

「ねえ、ここすごいね」

楽しげに笑うその声に、周囲の視線が一層集まる。
俺はさりげなく一歩前に出て、視線を遮るように歩いた。

(まずは服だ)

食材や日用品は、来客用のストックで当面は事足りる。
問題は、彼女の衣類だ。

最初に入ったのは、レディースフロアにある店だった。

ホルは楽しそうにラックを見て回り、迷いなく一着を手に取る。

「これ、かわいい!」

手にしているのは、胸元が大きく開いたトップスだった。

(……予想通り)

「ホル、それは……」

「だめ?」

悪気のない問いかけ。
俺は一瞬、言葉に詰まる。

「だめ、じゃないけど……普段着としては、ちょっとな」

「そっかぁ」

あっさり戻す。
だが、次に手に取ったのも、似たようなデザインだった。

(選択基準が、それしかないのか……)

冷静を装いながらも、内心戸惑っていた。
視線を逸らし、深呼吸する。

「……ズボンも見てみないか?」

「ズボン?」

「動きやすいし、外出の時に楽だ」

理屈で攻める。
感情論は通じない。

ホルは少し考えてから、こくりと頷いた。

「じゃあ、これ」

今度はシンプルなパンツ。
露出は少ない。

(よし……!)

悠人は内心、少し安堵した。

「それ、いいと思う」

「ほんと?」

「ああ。似合うと思うぞ」

ほんの少し褒めただけなのにホルは上機嫌になったようだった。
次に選んだトップスも比較的落ち着いたもので、胸元は開いていない。

「これなら……」

悠人がそう言いかけた瞬間、ホルは首を傾げる。

「悠人、そういうの好き?」

「……え?」

不意打ちだった。

「胸元が隠れてる方が好き? それとも――」

そう言いながら、ホルは上着を半分脱ぎ、肩が覗くようにズラし、
イタズラをするような笑顔で試すような視線を向けてきた。

俺は一瞬、言葉を失い、すぐに視線を逸らした。

「……ここで買う服は生活する上で必要なものだ。好きとか嫌いとかじゃ、ない」

それが、精一杯の理性であり虚勢だった。

ホルは少し考え、それから柔らかく笑う。

「そっか。じゃあ、これにするね」

選ばれた服を手に、試着室へ向かうその背中を見送りながら、悠人は思う。

(……これは、長い戦いになるな)

理性が試される生活は、まだ始まったばかりだ。

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